2020/10/09 のログ
ご案内:「第一教室棟 教室」に窮戯さんが現れました。
窮戯 >  
第一教室棟に並ぶ講義室
そのうちの大講義室の一つでは毒学…所謂、薬毒に関する授業が行われていた

静まり返った講義室に、カツカツと電子チョークの音のみが響く
決して、生徒の皆が生真面目で真剣に沈黙を守っている…というわけではない

講義で扱われる題目、そして何よりこの教師の放つ"得も言えぬ威圧感"がそうさせていた

「──前回の要点はここまで、質問はないわね?」

手を下ろし、振り返る
本来ならば質問はあるかどうかを問いかけるところ、無い前提の言葉を女教諭は吐く

毒を扱う…薬学に陰陽あらば陰の部分であるだろう毒学
それを学ぶものであれば、『疑問点など即時、前回講義のうちに解消しておくのが当然である』という考えの下である

数瞬、講義室に僅かに広がったどよめきの波紋
冷たさすら感じる視線を巡らせ、小さく息を吐く

窮戯 >  
「今期から私の講義を受け始めた生徒諸君には改めて周知しておきましょう」
「私の毒学の試験を一発通過した生徒は3割に満たないわ」

テキスト代わりに卓上におかれたタブレット端末をすいっと操作すれば、
前期の試験内容とその正誤率が生徒の端末へとそれぞれ表示される
データの内容は、凄惨たるもの
女教諭の言葉通り、試験をそのまま通過できたのは僅か27%
追試も含めレポート等でギリギリ単位を得た者を含めて68%という少なさだった

「薬学を極める上で薬毒の知識は必要不可欠」
「陰陽両方を修めてはじめてスペシャリスト足り得る学問であることを自覚なさい」
「ただ単位のカサ増しのつもりでこの講義を履修登録したのなら、今からでも変更は遅くないわよ」

やや脅すような口振り
と、いっても教えるモノの都合上、当然『ふるい』にかけることは必要なのだ

──その場から退室するものがおらず、
後期にこの講義を受けている者はみな本気でそれを学びたいのだということを確認すれば、
黒い狐は満足げに微笑んだ
 

窮戯 >  
毒学
または毒性学

毒性…すなわち物質等による悪影響に関する分野である
ここで言う毒性とは、一般に毒物・毒薬と呼ばれるものに限らず、
たとえ少量ならば無害でも多量に摂取することで害となるものも含まれる

医学・薬学の一分野ではあるものの、
物質の法的規制を科学的見地から研究する重要な役割を占めている

「特にここ、常世の島では異世界からの異物質も多く見られるわ」

講義の主題を戻してゆく

「それらの未知の物質に対しては、既存の物質との類似性を以ってその毒性を研究することになる」
「つまり、まずは根幹世界における基礎知識が万全でなければ、この島での研究の第一歩目を踏むことすらできない」

更に言えば物質に限らず、放射線や紫外線などの物理的作用による更に変質の可能性をも模索する必要がある
この島における毒害の危険を回避するためにも、優秀な研究者が必要だと主張する

「──そして此処に、先日黄泉の穴から回収された特異物質の研究データがある」

端末を操作する
その物質の外観の写真、そして加熱や煮沸、放射線の検査など一部のデータがずらりと並んで表示された
物質の名称はUNKNOWNと表示され、それがまだ多くの謎を含む未知の物質であることを示している

窮戯 >  
「その物質はとあるプロセスを経ることで
 対象の遺伝情報を書き換え、別のものに変質させるという特性を持っているわ」

端末に記されている情報の一部を読み上げる
と、一人の生徒が挙手する
どうぞ、と促せば該当の生徒は立ち上がり
『その物質の特性は毒性に寄るものなのか』と疑問を投げかける

その疑問を受け取り、黒い狐は少しだけ、口の端を笑みに歪める

「此の島における物質の特性は大きく2つに分けられるわね」
「一つは物理的特性、そしてもう一つは、魔法的な特性──」
「後者であった場合、科学的見地からの立証は難しい…疑問はごもっとも」
「まさにそれこそが我々の研究が必要になるポイントよ」

物理的影響なのか、魔法的な影響なのか、それをまず立証すること
前者であったならば、その有害性等を更に細かく解き明かしてゆく
解毒、治療、その方法に至るまでを徹底的に、である

「ご覧の通りまだこの物質については表記通りのデータしか確立されていないわ」
「次回までの課題。この物質に関する貴方達それぞれの推察をレポートに纏めて提出なさい」
「フフ…情報は少ないなりに、考察のしがいはいくらもあるはずよ?」

窮戯 >  
該当物質による生物の変異性は魔法的なアプローチによるもので科学的な解明は難しい
とするならば、それを決定づける証左を導く式の想定を
そうでなければ、どういった影響によって生物の遺伝情報が破壊・変質されるのか
それを検証するための実験方法の立案
予測される結果と、それを鑑みた対症・治療などの考察

薬学だけでなく、魔術に至るまで
この島におけるあらゆる学問をきっちりと習得していなければ満足なレポートには仕上がらない案件だろう

「当然、レポートの出来は評価に直結するから。本気で臨むこと…以上よ」

ちらりと講義室の大時計に視線を送る
数秒遅れて秒針が分針と重なり、講義終了を報せるチャイムが鳴り響いた

窮戯 >  
緊張感から開放されたように、がやがやとにわかに室内は賑やかになる
今回の課題への不安や不平なども聞こえてくる中、黒い狐は愉しげにに笑う

厳しい、と評判の毒学の講義
毎回のように複雑で大変な課題の提出を求められ、試験も難解

「──前期に比べると、骨のある生徒が残ったのかしらね」

教卓の椅子へと掛け、生徒達が次々に講義室から出ていく様を眺める
履修人数は十数人、と言った程度の少なさ
前期はもう少しいたのかもしれないが、あまりのスパルタ具合に脱落したものも少なくはない

ご案内:「第一教室棟 教室」に史乃上空真咬八さんが現れました。
史乃上空真咬八 > ――ぱたむ。


「――あ?……あァ、さっきの……いや、何も見つかっている物質だけが、その作用を持っているわけじゃ無い。俺等や、誰かが持ってる異能が、似通う特性を持った物質を生成したり、もしくはそンなものを使わなくても、元来存在する物質によって過去に起こった事象。
……プロファイルしていけば、類似点からある程度解明をする為の糸が掴めるはずだ。
――提出日三日前には材料を揃えて、後は随時共有して個々の意見と考察をまとめるぞ」


講義の終了後、この大講義室の後方側で、一人の生徒を中心に、
数名の生徒が集まって何か話していた。
よくとおる声が最後にそう締めくくると、その生徒を残し、他の生徒は各々に出ていくようだった。

……隻腕の青年はそうして、掛けていた眼鏡のフレームを押さえ、
目の前のノートを鞄に放り込んだ。
――熱心に聞き、威圧感に臆することもなく、ひたすら傾聴と観察に徹していた男子生徒。

「……」

その視線が、ふっと教卓の向こうの貴女を、ちらりと見ていた。

窮戯 >  
今日の自分持ちの講義はこれで終わり
のんびりと生徒を観察していたけれど、少しずつ人もまばらになって…残ったのは彼一人

「熱心ね。善いコトだわ」

教卓へと頬杖をつき、クスクスと笑みを浮かべる黒い狐
ゆらゆらと、愉しげに黒い尻尾が揺れている

史乃上空真咬八 > 「……」

――自分くらいか。この教室に、最後まで残るのは。
自然と自分と教師の姿のみの教室。
……撫で肩に筆記用具などを入れたショルダーバッグを掛けるのには、
片腕だけでは慣れていようがある程度もたつく。

それが済んだら、席を立ち、向かうのは出口――ではなく、
そちらの方へと、教卓、黒板、貴女へ歩みを進める。

「……毒性学は、ただ薬品、ただ毒、それだけの学問じゃあありやせン。未元物質を解明することで、その物質によって精製することが出来る解明手段が、今跋扈する未知の異能や魔術というものを解き明かすカギになる。
――押さえておく価値がある」

冷静な声、波立たない在り様。
……片腕の男子生徒、褐色の肌。教師をしていれば、ある程度名は問題か、もしくは評判かで耳にも出来る。
特徴が多いその男子生徒――史乃上咬八は。

「……質問は無しにしやスから、提案を。
――先程、現在で判明している未知物質の情報、それをレポートの為の資料として、幾つか頂けたらと思うのですが」

窮戯 >  
「──咬八クン、だっけ?
 フフ…貴方の言う通り、重要な学問だけれど」

それだけに厳しく、難解で、ハードルも高い
目の前の男子生徒は、どうやら勤勉であるらしい
…で、なければ自分の講義についてくることはできないのだろうけれど

「講義中にそれぞれの端末に送信した情報が今表に出せる全て。限定的な資料だけれど、
 そこから自身の持つ知識と摺り合わせて想像力を働かせて、レポートを作成なさい?」

研究区から表に出ている情報には当然限りがある…が

「…ああ、それとも」
「──現物が欲しいかしら?」

クス、と怪しい笑みを浮かべる狐の赤い瞳は、三日月のように怪しく細められている

史乃上空真咬八 > 「重要であり、"鍵"、でしょう。
……はい、史乃上空真咬八です、"窮戯先生"」

知られていることは、ある程度彼も自覚している。それが評判か、
悪評かは人によるだろうもの。
肩を竦めながら、会釈を一つした。

――その学問が厳しく難解であること、ハードルが高いこと。
それを理由に、鍵たりえるこの学問への関心を無くすほど、
彼はやわじゃないらしい。
そして、鍵、と言い切る程の確信を、彼なりに持っている。


「――現物は結構です。生徒がみだりに、厳重な管理を必要とする物質を保有していたら、それこと"事"でしょう」

あっさりと、諦めをつけた。
あれ以上の情報がないならば、確かに現物があれば解明できることもあるだろうが、
――それによって問題が起こる可能性は、この場で断つ。
首を横に振り、その細められた目に返した視線は、随分とそっけない。

「あれ以上の資料がないのであれば承知しやした。後は各々のプロファイルと、情報収集、後は他の講義の過去のログデータを生徒同士で交換すれば十分でしょう。……それに」


「――その物質の、"第一発見者"、ないしは"第一提供者"でなければ、現物の譲渡なんて不可能でしょう。先生」

窮戯 >  
熱心かとおもいきや、簡単にその現物の提供を断った

「安全管理や倫理観が知識欲に負けていない。研究者としては…ドツボに嵌まれないタイプね」

愉しげな様子のまま、言葉を黒い狐は続ける

「別に、私の責任の下で提供するのだから構わないのだけれどね…?
 …フフフ、鋭いじゃない。
 ご明察。この物質は私が黄泉の穴で直接"仕入れて"来たの。
 …奥まで立ち入るようなことまでは、しなかったけれどね」

ゆら、ゆら…
まるで生徒反応を窺い、期待するように揺れる長尾

「貴方くらい熱心で見込みのある生徒には、特に目をかけて特別扱いしたってイイのよ?咬八クン」

史乃上空真咬八 > 「ドツボに嵌まった人間の末路は、過去例に事欠かない。
超えてはならない一線を越えた人間は、その多くが大きな代償を支払って、それでも足らずに身を亡ぼす。よく知ってやスよ」


よく知っている。
とても、多く、それを知っている。
事欠かないと吐き捨てる声は、呆れの割合がとても多い。
細められた朱い目の、何処か憂うような色彩は、
かと思えばその後に続く言葉で、その視線を貴女と結んだ。

「よくご無事でしたね。五体満足で済む場所じゃあ無いでしょう、腕っ節は、人並み以上に覚えがあるようで。

――結構ですよ、"本分じゃないンで。"
そういうのを扱える程、自分、器用じゃないスから」

これまた、あっさりと断りを挟んだ。

「……俺以外に、目に適う人材は、いらっしゃらないンスか。
俺は、卒業後は"農林水産業"を考えてるンでスが」

その見かけと熱心さ、評判、全てと噛み合わない彼の将来の希望は、
随分とつまらない具体を伴った事実が飛び出した。
農林水産業、途轍もなく地に足のついた道だ。

窮戯 >  
「まだ若いのに達観しちゃってるのねぇ…。
 そのドツボに嵌っちゃった人たちが切り開いてきた分野も沢山あるっていうのに」

身を滅ぼしながら
得てしてそういった人物が評価されてきたのは、死んで後だったりするのだが

「腕っぷしという程でもないけど、見ての通り私は"ヒト"というわけでもないし、ね」
「──目に適う人材、ねぇ…」
「結局まだまだ学生でしょう?才能が芽吹くのはきっとまだ先…」

す…と眼鏡を直す仕草
改めて、硝子越しに赤い瞳が少年を見据える

「17や18の身空で、『将来の身の振り方』まで決めている生徒なんてそうそういないわ。
 貴方みたいな生徒は、比較的"特別"な生徒、私が眼をかけるというよりも、貴方の在り方がそうさせているのよね」

にしても農家とは、今どき珍しい若者…なんてらしからぬことを考える

史乃上空真咬八 > 「……"死後に再評価される"、という枕詞が付き物では、達観せずとも、似たような感想を出す生徒も、居るでしょう」

死ぬような危なっかしい実験、調査。
そんなものに手を出した人間は確かに偉大な功績を遺したものだ。
文字通り、"遺して死んだ"という数も、比例して多いのだが。

――デリケートなのだ。"今この場所においては。"


「……えェ。ある程度、窺える」
人、ではない。人が、あれほどの威圧感を放った上であのようにふるまえるはずもない。
――そういう種族が、どういったものか。
今は、目の前の存在がきっと、"ただただ強大な何かが敢えてその立場に甘んじている"ことを推察する以上のことは、出来ないが。

「……評価されている、ということであれば、恐縮スけど。
何も、異能・魔術・新化学、多岐に渡る昨今の学問で、新たなる技術を生み出し続ける必要もない。
――一切の病原にやられることのない遺伝子改良を施された麦だとか、害虫を無力化出来る無害な農薬だとか、今生きる上で必要な物を、それらを活かしてただ"改良"することもまた、
……一種の有効活用であり、功績じゃあないでしょうか」

聞くほどつまらなさそうなことを、しかしつまらないからこそ、
それがどれほど当たり前であり、その当たり前をより便利にするか。
彼の視線は、人間としての知性より、生存を安定させる為の野性的興味の方が強いらしい。
よもや農業、麦、農薬なんてものに昨今の未知技術を運用しようというのだ。


「……言ってたでしょう。"その物質はとあるプロセスを経ることで
対象の遺伝情報を書き換え、別のものに変質させるという特性を持っている"と。
その未知の物質は、将来性が大き過ぎやスけど――もっと、"地味で便利な使い方"のほうが、現実的、でしょう?」

窮戯 >  
黒い狐は小さく笑い、その直後ぱちぱちと音を鳴らして手を叩く

「素晴らしいわね咬八くん」
「大きな変革は望まず小さな変化による利便性を求める」
「それもまた毒性学を学ぶ大きな理由になるものね」

「欲を言えば…まだ沢山時間の残されている若い内からそんなに夢よりも現実を見ちゃうのは少し勿体ないけれど」

フフ、と笑いながらゆっくりと教卓から立ち上がる
レスラーなどの大きな体躯を売りにするような人種が見てもなお、すらりとした長身
咬八を大きく見下ろすその赤い視線は、どこまでも愉快そうである

「貴方のレポート、期待してるわ。
 フフフ…無事試験も通過して欲しいものね」