2021/11/15 のログ
ご案内:「第一教室棟 保健室」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
「えーと……これは、こっちで……まとめて置いちゃって大丈夫かな……」
両手にダンボールを抱えて、ぱたぱたと保健室を出たり入ったり。
中に入ったかと思えば、荷解きのように薬品や包帯を規定の場所に詰め込んで。
今度はぱたぱたと足音を立てて廊下まで出ていって、何処からともなく物資の詰まったダンボールを運び込み。
(……ちょっと多くないかな……?
こっちには直接支援が来るとか、そういう話ではなかったはずだけれど)
生徒の福祉や医療物資に余裕が出来たとかどこかから資金が回ったとかで、どさっと買い込まれた薬品、備品。
いわばその棚卸しのようなコトをいつの間にか任されてしまっていたのでした。
「……でも、良いことですよねっ。
怪我とか、そういうこと。少ないほうが良いに決まってるのだし。
……よいしょっ」
そう言っては、またダンボールを持ち上げて保健室へ。
軽いランニングくらいの運動量になっている気がしますが、私は体力自慢なのでこの程度はへっちゃらなのです!
「――?」
――そう、思っていたつもりなのですが。
視界が暗く揺らいで、地面がナナメに横たわって。
頭の中から、地面の底に吸い込まれて行くような、感覚。
(……あ。これ、)
気づいたら、目前に迫るリノリウムの壁であり、床。
(倒れる。……せめて、荷物を、上に、――)
どさり。
ダンボールを抱え込んだまま、仰向けに倒れ込んで。
「あー……」
なんて、気の抜けた声が、ダンボールの下から。
■藤白 真夜 >
倒れ込んでいるのに、視界はぐるぐる。
脳みそがかき回されたような、気持ち。
意識は痛いくらいにハッキリしていて。
冷め切った瞳が、天井を見つめている。
思考は何一つカタチを得られないのに。
(あー……。
これ、貧血だー……)
私の中身は、倒れ伏す私を見下ろすように、冷静に判断出来ていた。
「……んあー……」
勿論、それは中身だけ。
何か声を出そうとしてみたものの、なんか情けない悶え声が出ただけ。
(……こんなの久しぶりだなぁ……。
燃えるの、久しぶりだったもんね)
物理的な私はろくに機能出来ないのに、頭の中身は嫌に回って。
だからこそ、余計に気持ち悪くなった。
「あ゛―……」
だからって、ゾンビみたいな声までダサなくても。
ご案内:「第一教室棟 保健室」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■藤白 真夜 >
視界が、紅く染まる。
眼球を潤すために、液体が湧き出ていた。
これは、涙のようで血液だった。
痛みや恐怖で泣いた記憶が、私からは遠く離れていたから。
こんな、独り無様にコケた程度で泣く精神は残っていない。
瞳に溜まった紅いモノが、独りでに浮かび上がる。
まるで、無重力の液体のように――宇宙飛行士が涙したように。
(異能は、使えるんですよね)
やはり、頭の中身の私は正しい考えを導き出していた。
血液は足りている。
異能に滞りも無い。
そも、貧血とは血液の多寡で起きる症状ではない。
ごぽり。
空に浮かんだ血の涙が、珠のように弾けて。それぞれが、一回り大きなしずくになった。
私の貌の上に浮かぶ雫が、天使のわっかみたいに並んだ瞬間。
ばぢり。
と音を立てて薄れていく。
でもそれは薄れただけで、霧のように細かくなっただけ。
霞のような紅い霧は、重力を思い出したかのように、また私に降り注いだ。
(……。
血液補充も、意味無いんですよね~。
……無理したつもり、なかったんですけど……)
■芥子風 菖蒲 >
風紀委員と言う現場職だからって、別に学業をサボる訳じゃない。
寧ろ、本業は学生だ。学業位ちゃんと受ける。
まぁ、出席数が少ないけどそこは風紀の仕事で補えている。
「ふわ……」
廊下を歩く少年はぼんやりあくび一つ。
久しぶりに授業を聞くと眠かった。
なんだっけ、数学と異能の……まぁいいか。
少年が考えるを止めると同時に、何か大きな音がする。
「ん……」
足を止めて見やれば、丁度隣には保健室。
何だろう、と思って扉を開けば下敷きになってる女子生徒が一人。
見覚えがある。そうだ、確か何時か助けた女子生徒だ。
結局医療施設に運び込んだ後、見舞いに顔一つ出せてはいなかった。
「あれ、あの時の。どうしたの?転んだ?」
てくてくと少年が歩み寄れば、首を傾げて見下ろした。
見事に段ボール布団だ。そう言う趣味か治療法?
赤い視界を見下ろす青空が、ぱちくりと瞬きする。
「なんだか血……それもヘンな出方してるけど、怪我でもした?」
とりあえず段ボールでもどかそうかな。
よいしょ、と適当に持ち上げようとした。
■藤白 真夜 >
「あ゛ー……」
……いや。
やっぱり、何処かおかしいのかもしれない。
靄がかった赤い視界に、青いモノが混じっていた。
いや、青い血もあるかもしれない。光の加減とか。
そういえば、お肉の焼き方にブルーという生焼けの頼み方があったな、なんて変なことを連想して、
「――あーっ!?」
声が出た。
ダンボールは動かされるままに。中身が割れていませんように。
「あー、……あー。
あの時の、……おかた。
大変、お世話に、なりまして、お礼をと……っ」
せめてお辞儀をと、なんとか立ち上がろうとして、べぢゃり。無理。
やはり仰向けに倒れ込んだまま、青い瞳を見つめる。
「あの時は、ありがとうございました……!」
倒れたまま、お辞儀っぽい動きをする。具体的にいうと腹筋のトレーニングみたいに。
「少し、貧血で倒れてしまいまして……。
放っておいたら、治ると思います。はい。
……私は、大丈夫なので」
なんて、倒れ込んだまま力無い笑みを。
浮き上がった血は、するりと溶け込むように、その笑顔にもぐりこんで、掻き消えた。
■芥子風 菖蒲 >
「……何?」
びくっ。急に大きな声が出たものだからびっくりした。
思わず段ボールを落としそうになった。おっとっと。
危ない危ない。しっかり抱えられたそれは中身は無事だ。
少しばかり訝しげな声を上げ乍ら、段ボールを床に置いた。
「お世話?…は、そんなに世話した覚えはないけどなぁ……。
まぁ、助けた事なら気にしないで。オレは仕事をしただけだから」
「寧ろ、怪我の方は平気?」
少なくとも重傷と言える程の傷は所感で負っていたはずだ。
そもそもこちらは仕事の場に立ち会っただけであり、後の事は人任せだ。
少年に言わせれば礼を言うなら、それこそ医者に言うべきだと思う。
「貧血……」
何だか腹筋みたいな動きしてる。
お辞儀って言うよりなんか、芋虫みたいだ。
まるで溶け込むように笑顔に消えた血液。
ただの怪我ではなさそうだ。
「ソレ、異能?」
ただの出血のようには見えない。
少なくとも、出た血液が肉体に戻る病状なんて聞いたことも無い。
勘、と言うよりは異能一口にしても何となく違和感を感じる。
それはそれとして、女性を床に寝かしておくのも忍びない。
何気なく近づけばそのまましゃがみ込み、抵抗無ければ肩を担ぐ形で立ち上がろうとするだろう。
■藤白 真夜 >
「い、いえっ、あれは大変なお世話です……!
命の恩人と言ってもいいぐらいでして……っ」
ぺらぺらと口だけははきはきと動き出して、やや興奮気味に感謝を伝えようと。
裏腹に、やはりカラダは動かない。
「……本当に、見事な一太刀でした」
倒れ伏したまま、思い出すように瞳を閉じて、……小さく微笑みを。
「……あ。あーっ、そ、そうですっ。
すみません、そういう異能でして……。怪我とか、色々大丈夫なんです。
……あっ」
肩を取られても、抵抗は一切せずされるにまかせていた。
というか、する力が入らない。少し、恥ずかしく、申し訳無さそうに顔を伏せるだけで。
脱力しきっているせいか、女の体は重く、……血の気が無いのか、冷たい。
「あっ、ありがとうございます……っ。
や、やっぱりお世話になっているというか、助けられてばかりで申し訳ないというか……っ」
けれど、頬は淡く火照っていた。
申し訳無さと、恥ずかしさと、人のぬくもりによって。
■芥子風 菖蒲 >
「皆を護るのがオレの仕事だから、当然の事だよ。
それが出来なきゃ、風紀をやってる意味なんてないんだ。オレは」
風紀に身を置くからこそ、率先して矢面に立つ。
誰かが悲しむから、誰かが傷つくなら剣をとる。
それが一番自分に出来る事なんだ。だから、"恩人"なんてものは少年にとって大袈裟だ。
出来る事を、しなければいけないことをした。
少年にとって、彼女がそこまで感謝する事は無いのだ。
「ん、そうかな?……まぁ、ありがとう」
けど、褒められるのは悪くない。
少しだけ照れくさそうに頬を掻いた。
視線もちょっとだけ、横にずれる。
「血を操る、とか?よくわかんないけど、体は大丈夫なの?」
人によっては異能に生かされていたり、苦しめられていたりする。
実際に目にしたわけではない。噂程度だ。
ただ、あんなふうに血が出ているのは、普通ではない気がした。
青空が横目で、じぃと少女に訪ねてくる。
「いいよ。人を助けるのがオレの仕事だし。とりあえず、ベットでいい?
……あー、そうだ。オレ、芥子風 菖蒲(けしかぜ あやめ)。一年生。アンタは?」
そう言えば、名乗ってすらいなかったの思い出した。
とりあえず名乗り、名を訪ねる。
素気なく、感情起伏が乏しい少年だが、確かに人としての温もりはその身に宿していた。
「……ていうか、冷たいし重いなぁ。本当に大丈夫なの?」
……ちょっとデリカシーはないけど。
■藤白 真夜 >
「……ふう……」
またしても恩人の手を借りて、ベッドに埋もれるように横たわる。
体は安堵するように重く沈んでいた。海の底にたどり着いた沈没船のよう。
「おっ、重くてすみませんーっ!?」
……でもやっぱり、また腹筋みたいに寝転んだままぺこりと頭を下げる。位置的には上がってるんですけど。……運動、してるんだけどなあ……。代謝、悪いのかなあ……お肉のことなんて、考えるんじゃなかった……。
内面でごっそり落ち込みつつ、こほんと咳払いをひとつ。
そうだった。恩人の名前を尋ねないわけには、いかなかったのだ。
少年の名前を聞いて。驚くほど、納得してしまった。
あの一振りに、ぴったりな綺麗ななまえ。
「……はい。私は三年の藤白 真夜と言います」
改めて。
いもむしみたいなお辞儀運動をするよりかは、せめてもの感謝の意を表すように、胸に手を載せて。
「ありがとうございます、菖蒲さん。
あなたの当然に、私は救われたんですよ。
それがあなたの意味になれたのなら、これ以上嬉しいことはありません」
顔色は少し悪かったけれど。
心からの感謝と、穏やかな笑顔を浮かべて。
「……二回も助けられてしまいましたし、ね?」
■芥子風 菖蒲 >
触った感じ(って言うのもヘンだけど)体に変な感じはしなかった。
それこそ冷たいだけ。生きている温もり、と言うと失礼かもしれないけど
何となくその冷たさに、底知れない違和感を感じてしまう。
けど、横になる姿は全然普通……いや、顔色が悪い。
何方かと言うと病人。そんな印象を受けてしまう。
……なんかまた変な動きしてるけど、それは彼女の特徴と少年は覚えておいた。
「先輩なんだ。じゃぁ、宜しく。真夜先輩」
如何やら自分よりも先輩だったらしい。
実はそうは見えないとちょっと思ったけど、穏やかな雰囲気。
確かに、"お姉さん"といった雰囲気は年上っぽい。
うん、と少年は頷くとじぃ、と血の様に赤い瞳を青空が覗き込む。
「別に二回どころか、何回でも助けるんだけどさ」
それが役割だから。
それよりも、と彼女の体調の事が気になる。
「そんな事より、顔色悪いけど……本当に大丈夫?
何か風邪とか、と言うかどこか打ったりしてない?体、冷たかったし」
以上の事を踏まえても、心配せずにはいられない。
先程も段ボールの下敷きになって全く動けていなかったし
もしかしたらやはり、体に異常があるんじゃないだろうか。
少年はぐい、と上半身をベットに乗り込むように瞳を、顔色を伺う。
こういったことに遠慮がないんだろう。
息もかかるし、少し動けば互いの鼻先を掠めてしまいそうだ。
■藤白 真夜 >
「せ、先輩と言われる程の者でも無いんですけど……。
此処だと、あんまり学年を気にしてもと思って――、」
言葉は途中で途切れる。
それこそ目の前に、青い瞳が覗き込んでいたから。
「ん゛ッ」
(ち、近い~~~!近いですーっ!)
まさに恩人と言ったばかりのひとにそんなことを言うわけにも行かず、やっぱり変な声を上げながら息詰まることしか出来ないんですけどっ。
……けど。
届く息は、か細い。肌は冷たさを感じるほどに白く染み入っていた。
「……本当に、大丈夫なんです。
あのとき。腕、平気だったでしょう?
私、体だけは頑丈なので」
どこか困ったように、笑う。
本当は、近くて助かっていた。声は囁くように、力なく。間近でないと届かなかったから。
「お願いが、あるのです。
……少しだけ、手を取って、くれませんか」
菖蒲さんに手を伸ばそうとして、ぽとりとベッドに落ちた。
もう、あなたを見つめる瞳に恥じらいは無い。
ただ、懇願と……申し訳無さが滲む。
「……あ。
臨終とかじゃ、ありませんからね?」
冗談を言う元気はあったけれど。
力のない笑いを浮かべる間も、あなたを見つめる瞳は、今にも閉じてしまいそうに揺らいでいた。
■芥子風 菖蒲 >
「…………」
じぃー。時折ぱちくり、瞬きするけどずっと青空が見ている。
赤く、何処か淀んだ両の瞳。血の様に赤くて、底が見えない。
不安とかを感じる訳じゃない。ただ、何処となく放っておけない感じはした。
医者じゃないんだ、見ても触っても、彼女のことが分かる訳じゃない。
「……まぁ、本人が大丈夫って言うならいいけど……」
だから、本人が言うなら大丈夫と自分を納得させる。けど。
「腕が平気でも、痛かったりしないの?痛覚とかさ。
そう言うのなくても、嫌なものは嫌だから、大丈夫じゃないでしょ」
そう言えばあの時腕が再生していたような。
よく分からない現象だけど、如何やらあれが異能らしい。
再生系、或いは血液に関係する異能なんだろうか。
それはさておき、だからと言って"大丈夫"とは違う。
傷は治っても、傷を負えば痛いし、きっと不快だ。
少年は、それが大丈夫じゃない事を知っている。
「別にそう言うのは無理しなくていいと思う。
受け止めてくれる人に言うべきことだよ」
弱音は弱さじゃない。
それを受け止めてくれる人がいるから、前を向くことが出来る。
「手?オレが?いいけど……物騒な事は言わないでね」
言われるままに、落ちた手を掴んだ。
暖かな少年の、普通の人の手。
今にも眠そうな、閉じてしまいそうな一深から目を離さずに。
「眠いの?」
と、静かに尋ねた。
■藤白 真夜 >
「ああ――ありがとう、ございます」
菖蒲さんの手に、すがるようにてのひらを乗せる。
……別に、誰かとのつながりが欲しかったとか、そういうものじゃない。やっぱり、私の精神はそんなところを通り越していた。もっと深いどこかに。
手首は、脈が近い。
胸と首の次に効率よく、血液を感じられる場所だから。
私は、容れ物だ。
私のほとんどは血液で出来上がっていて、それが異能だった。
いくらでも捏ね上げて。
いくらでも注ぎ足して。
いくらでも使い回せた。
でもそれは、ひとと違う。
ひとはひとでしか無いのに、私は注ぐ側であり容れ物になってしまった。
温かい血が流れるのが人間であるべきはずなのに、私自身が……淀んだ血の流れる器そのものになりかけていた。
だから、齟齬が出る。
本来真っ当に流れるべき中身が、無いから。
どうにかして、それを補わないといけなかった。
それは他者の血であり。
それは他者の命であり。
それは、もっと温かい……他の、なにか。
彼の手を握る。弱々しく。冷たい指先で。
――ああ。コレを直接口にできれば、どれだけそれは――
「いいえ」
ほんの少しだけ、繋いだ手にぬくもりが戻る。それはただ体温が移っただけかも、しれなかったけれど。
「私の弱音は、私で受け止めることにしているんです。
……ちょっと、恥ずかしいからというのもありますけどっ。
私、嫌だったり、辛かったりすると、その分、頑張ろうと思えるんです。
……なんででしょうね? あなたのように、他人の分まで背負おうとする優しい方が居るからかも、しれませんけれど。
私は、わがままで、弱いから。
私の弱さも、苦しみも、……全部、自分のモノが良い」
確かに、このてのひらから受け取ったモノが、あるから。
手を取ってくれた菖蒲さんを見つめ返す瞳は、眠そうに……けれど、嬉しそうに細められていた。日の照り返す青空を見つめるように。
「……、」
そのまま、瞳を閉じる。今度こそ、取り落とすような真似はせず、ゆっくりとまた手を胸元に戻して。
大切ななにかを、胸に注ぎ込むように。
ぷつりと、糸が切れたかのように、眠りに落ちる。
違和感は、正しい意味でもうありえない。それは、文字通り死体のように見えるはずだから。
でも、かすかに微笑む口元と、少しずつ戻りつつある体の熱が、それを否定する。
その胸中には、確かにまた立ち上がるためのモノが注がれたから。