2021/11/16 のログ
芥子風 菖蒲 >  
自らの手を離れていく彼女の手。
それは違うと彼女は言う。
少年は静かにそれを聞いて、ただ真っ直ぐ彼女の事を見ていて。

「よくわかんないけど……それを支えるのはダメな事なの?」

自分のものを自分のもののままにしたいという彼女の気持ち。
ワガママなのは、自分だって理解している。
だけど、それはあんまりにもか細くて、儚くて、か弱く見えてしまう。
吹けば消えてしまう空前の灯火。
そうやって生きてきたのだろうか。わからない。
推し量るには、少年は余りにも物を知らな過ぎた。
だけど。

「…………」

静かに、静かに眠りに落ちた頬に手を添える。
きっとそれは死体の様に冷たいんだろう。
けど、冷たい彼女に少しでも熱を分け与えるように、少年は手を添え続けた。
それこそ何処となく機械的で、幼稚なやり方だったかもしれない。
けど、これしか思いつかなかった。

「別に、温めて欲しいなら言えばいいのに」

自分の熱位、温もり位幾らでも分けてあげられる。
頑張る人が、何の報いも得られないなんてこと自体が間違っている。
自分に出来る事なら何だってする。その為に、風紀に来たんだ。
だから、だから。

「……おやすみ、先輩」

決してそれを"死体"なんて思わない。
彼女の目が覚めるまで、少年はその熱を注ぎ続ける。
それが何時になるかは知らないけど、長いのであれば、そう。
その上半身がベットに崩れ落ち、体を預けるように寝ていただろう。

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ご案内:「第一教室棟 保健室」から芥子風 菖蒲さんが去りました。