2022/02/21 のログ
ご案内:「第一教室棟 保健室」にコピルさんが現れました。
■コピル > 平日昼下がりの保健室。当然、他の学生のほとんどは授業中の時間だ。
外からは体育の授業にいそしむ生徒たちの掛け声が聞こえてくるが、締め切られた窓に遮られ、音量は低い。
あまたの生徒が集う校内とは思えない、静謐で清潔な空間。
褐色肌の少年がひとり、白いシーツの敷かれたベッドにちょこんと腰掛けていた。
「体調不良を偽って授業からの脱出。保健の先生に断らずにベッドを使う。
………もう『2悪』も達成しちゃってますですね。今日のノルマは達成………かなぁ?」
居心地悪そうに肩をすくめ、赤い瞳できょろきょろと保健室内を見渡す少年。
その側頭部にはヤギのようにくるりとカールした1対の黒色の角をつけている。もちろん付け角ではない。
瞳の色といい肌の色といい、現代人離れしている容姿。
彼を見る者の大半は彼を『異邦人』、それも『魔族』であるとすぐ見抜くだろう。
先述のとおり、保健室には現在彼ひとり。
保健室の番人である養護教諭も不在である。急用で出払っているのか、お手洗いにでも行っているのか、それとも……。
「……先生も僕とおなじよーにサボり中なんでしょうか。だったら……怒られないで済むかなぁ?
でも、ほんとに体調不良の生徒が来たら、その人困っちゃうだろうな……うーん……」
コピルは魔族。それも血縁的に次期魔王となるべき立ち位置の『王子』だ。
もちろんその肩書は異世界であるここ『地球』では何の役にも立たない……どころか、彼にとっては重荷である。
――その恐縮しきった様子を見ても分かる通り、彼は悪事を好まないためだ。
しかし親である現魔王からは、常日頃より悪事を行うことを申し付けられている。これがなかなか大変なことだ。
「……まぁ、いまさら初級の魔術理論を習っても……って感じではありますですし。
今日のこの時間くらいならサボっても……うーん……でももし、大事な宿題とか出たりしたら……」
そんなわけで、サボりに保健室に来たはいいものの、なかなかくつろげずにいる。
■コピル > 「教室出るときは『お腹痛い』って言って来ましたけど、保健の先生に通用するですかね……?
……もうちょっとごまかし方を考えないとですね」
大きな学校の保健室である。養護教諭にせよ他の利用者にせよ、いつ誰が来てもおかしくない。
利用意図を問われたときにきちんとそつなく返答できるよう、カバーストーリーはきちんと考えておくべきだ。
「お腹が痛いって路線は変えちゃダメだから……えーと……。
きょうのお昼ごはんに食べたものが悪くなってたってことにして……うーん……。
……でも今日食べたのは食堂の定食だし、他の人が腹痛訴えてないのに僕だけってのは変ですよね……?」
誰に聞かせるでもない独り言をぶつぶつと。その声色は性徴前の少年特有のソプラノ。
『嘘』について真摯に考えると、どうしても論理の隙が自分自身で気になりすぎてしまう。
たとえその矛盾点が容易に気づけないものだとしても、一度気になりだしたことは容易に撤回できない。
「じゃあえーと、食べ過ぎたことにして……。いや、実際いつもより食べ過ぎた気がするですけど。
………あれ? なんかホントにそんな気がしてきたです……お腹、痛いような……」
そして今度は同じく考えすぎにより、マジに体調不良の気配が見えてきたようで。
ほんのり膨れたお腹をニットベスト越しにさすると、ぐるる、と内臓が鳴る音が聞こえたような気さえする。
体調が悪いのは当然気分のいいことではない。苦々しい自嘲の笑みとともに、ふぅ、とひとつため息をつくと。
「……………………まぁ、でもこれなら言い訳は立つ、かな。きっと。うん………」
ころん、とベッドに仰向けに寝転がり、石膏製の純白の天井をうつろに見上げる。
■コピル > 昼食後の膨満感は消化が進むにつれて急速にひいていく。
お腹の調子の悪さも所詮は気の所為。10分も横になっていれば、違和感は忘却の彼方へ。
かわりにやってくるのは、血糖値の高まりに伴う心地よい眠気。
「ん……ぅ………眠っちゃだめ……次の時間の授業はさすがに………サボれない………。
…………でも…………あと30分くらいだけなら…………っ……ん………」
昼下がりの睡魔に見初められた今、一度横たえた身体をベッドから起こすのは大変に困難だ。
もともと意思の弱いコピルであれば尚更。悪事を重ねるべきだという親の強制も、今このときだけは甘言だ。
「……………………すぅ………………………くぅ…………」
ほどなく、褐色少年は緋色の瞳を閉じ、静かな寝息を立て始める。
ベッドに腰掛けた状態から仰向けに寝そべったため、上履きは履いたまま、短パンから伸びる脚をリノリウムの床に垂らした状態。
掛け布団も羽織らず、あまりいい寝方とはいえない。
■コピル > キーン…コーン…カーン…コーン……。
授業の終わりと中休みの始まりを告げるベルが鳴る。校内放送の回線に乗り、静謐な保健室内にも容赦なく響く。
「……………ふあぁっ!?」
跳ね起きるコピル。すっかり1時間をサボりきってしまったわけだが、根は怠惰ではない。
次の時間の授業を逃せないことを脳の片隅に置いていた生真面目少年は午睡から脱することに成功した。
「…………はふ、はふっ………いまのって終わりの鐘ですよね、始まりの鐘じゃないですよね……?」
まぁ生真面目ではあっても聡明ではないのだが。
寝起き特有の動悸に呼吸を荒げつつ、きょろきょろと保健室内を再び見回して。
寝入ったときと同様、他の人間はいない。
「と、とにかくもう戻らないとです……!」
心身が落ち着くのを待つ暇はない。立ち上がり、保健室を出ようとする……。
……が、ベッドのシーツが乱れているのに気づくと踵を返して戻り、丁寧に布地を伸ばしてシワを取る。
さすがに今日3つ目の悪、『公共の場を汚したまま去る』ことはできなかったようで。
隣の未使用ベッドと同様にシーツが整うまで1分近くを費やした後、あらためて保健室を退出した。
「算数はまだまだ苦手ですし……授業、頑張らないと……!」
小走りで自らの割当教室へと向かっていくコピル。廊下を走るのは悪事に計上されるだろうか……?
ご案内:「第一教室棟 保健室」からコピルさんが去りました。