2022/05/02 のログ
ご案内:「第一教室棟 屋上」に出雲寺 夷弦さんが現れました。
出雲寺 夷弦 > ――――四月中、出雲寺夷弦には、「暇」と呼べる時間はなかった。

『すまん!今度の部活動、新入部員を集める為の助っ人をやってくれないか!!』

……なんて、頭を下げてくる部員数の少ないある部活動の部長から頼まれたのが運の尽きだった。

運動部系ということで、実際の試合なんかや部活動で行う種目をアピールするようなちょっとしたイベントに出演した。

途端、上がったのは、彼を囲んだのは、「黄色い悲鳴」であった。

それからは引っ張りだこ。あっちの部活でチラシを配り、こっちの部活で試合を全勝、そっちの部活でイケメン執事コスプレ……いや最後のはもう、ほんと、訳が分からない。

ともあれ、そんな忙しい広報活動への協力をし続けたせいで、
顔ばかりが独り歩きしてしまい、「彼はどの部活動に所属しているのか」なんて、あちこち聞いて回る女子生徒もいるという。





「帰宅部だっつぅの……」

――昼過ぎ、屋上庭園のベンチに寝っ転がってダウンしながら、愚痴る。
涼しい風、優しい陽射しの中にあって尚、顔の疲労感は全く抜けない。

出雲寺 夷弦 > 「…………」

ぴよぴよぴよ  ぴちちち。


鳥のさえずりが聞こえる、嗚呼、午睡を貪りたい。
が、この後のことを考えると此処で寝るのはいかん。さぁ眠れ、休め、愚かな人類の怠惰を引き出すのだとばかりの心地よい空気の中にあって尚、鋼の精神で瞼を維持するもので、とんでもなく不機嫌ヅラである。

傍らの温くなったほうじ茶のペットボトルを取って、起き上がると共にキャップを緩めると、それを一気飲み。
何とも言えない、温くなったほうじ茶は、なんでこうも悲しい味がするんだろうか。
そんなどうでもいいことにさえ頭を回してしまう。

「……、はあ」

溜息。もうなんか――――割とうんざりしていた。
何故かって、それはそう。

「……凛霞と、暫く話せてねえ気がする」


……あれ、ほんと。二人でどっか出掛けたりしたのって何時以来だ?
マジでひと月、デートっぽいデートとかもなかったぞ?

「……んう"あ"あ"……っっ……」

頭を抱えて天を仰ぐ。当たり前だが、大好きで付き合ってる女の子とこんなにも長い期間、特にこれといった春らしい春の過ごし方も出来ないでいて、それはもうもどかしいに決まっている。

出雲寺 夷弦 > 「……って、唸ったところで、か」

頭から手を離し、諦めた顔で視線は彼方に。
……胸の内に溜まった、なんかこう、もやっとした不安。

自分がこうしている間、あいつはどうしていることだろう。
自分はただの学生を貫いている、これ以上何か危ないことに首を突っ込むようなことは、なるべく控えたい。

けれど……あいつは、違う。仕事がある。
自分が帰ってくる場所となってあげたいが為に、あいつとは違う世界を選んで、生きている。

あいつは俺よりきっと強い。強いが、だからといって、ずっと。

「……ずっと、あいつ、だけが」

それで、本当にいいのか?解らない。
――あいつが不安になること、凛霞にもう一度、あの思いをさせることだけは、絶対に嫌だ。
それを、自分がまた同じように戦い、駆け抜け、身を投じることになったとき、それを完全に、今度こそはないって、言い切れない。

今の自分は、不穏の種であり、火種だ。

「……、これでいいって、言い聞かせ続けて、いいのか?」

答えは出ない。出せるはずがない。

出雲寺 夷弦 > ――――鳥が囀った。

青年の不安など見向きもしない。春は変わらずそこに。


暫し、そこに青年は佇み続けた。

ご案内:「第一教室棟 屋上」から出雲寺 夷弦さんが去りました。