2022/05/21 のログ
ご案内:「第一教室棟 屋上」に酒匂みどりさんが現れました。
酒匂みどり > 平日昼下がりの校舎屋上。
階下では生徒達と教師達が午後の授業の真っ最中であろう。授業予定のない生徒や教師もいるだろうけど。
そのため現在の屋上には人影はない。空は晴れ渡り、初夏の青い風がひゅうひゅうと吹いている。

そんな静かな屋上に、塔屋の扉をバタンと開けて現れたるは女体育教師みどり。
身に纏うのは、上は純白のタンクトップ(いわゆるヨガウェア)、下はロングスパッツ(みどりはステテコと呼ぶ)。
トップスの裏側にはうっすら紺のインナーが透けて見えるが、これは競泳用水着だ。
みどりの得意分野は水泳。ものぐさな彼女は普段から下着がわりに水着を着けているのだ。

――かといって、陸に上がった河童そのものでもない。体育と呼べるものの概ねはそつなくこなせる。
しかしながらこの常世学園においては新任であるみどり。受け持つ体育の授業割当はまだ多くない。
そんなわけで空き時間、暇つぶしがてらに屋上へと来たわけだ。両脇にちょっとした荷物も抱えて。
右脇には巻かれたヨガマット、左脇にはハンドバックサイズのクーラーボックスと水筒、そして1冊の本。

「はぁーい、今から30分ほどこの屋上は私の貸し切りになりますよー」

無人の屋上にて、みどりはほがらかに言い放つ。その声を聴くものはいないようだが。
そして貸し切りという宣言もジョークである。事実上そうなっているだけだ。
ベンチに荷物を無造作に置くと、ヨガマットを広げてリノリウムの床に敷く。
わずかにホコリが舞うが、すぐに風に流されて消え去る。サンダルを脱ぐと、みどりはその中心に立つ。

どうやらヨガを試みるようだ。
教本はベンチに置いてあり読める状態にはないが、今日実践する内容については頭に叩き込んでいる。

ご案内:「第一教室棟 屋上」に矢那瀬陽介さんが現れました。
酒匂みどり > みどりはその外見はほぼ人間なれど、正体は妖怪、河童である。
生まれは半世紀ほど前、そしてこれまでの人生の半分以上はダム湖に沈んだ古き村落の遺構にて過ごしていた。
――よって、身についている常識のたぐいがやや古い。
人間社会に混じり始めてからは懸命に21世紀の常識を学び続けてはいるものの、アップデートしきれているとは言えない。
ヨガという南アジア由来の体操法もここ最近知ったものだ。
そして体育教師たるもの、ヨガの基本くらいは知っていないと箔が付かない。

「……ま、体操なら得意ですしー」

どちらかといえば体操や体術など、道具を使わない系統の体育を得意とするみどり。
教本をざっと読んだだけでも、それぞれの所作が持つ意味や効能について大まかに理解は及ぶ。
そして実践自体もこれが初めてではない。あと数回もルーチンをこなせば、教えられる程度には習熟できる……かも。

合成ゴム製のマットの真ん中で直立した姿勢から、ぐっと左脚を後ろに運び、右脚を直角に曲げる。
準備運動のアキレス腱伸ばしに似た体勢だが、左足首は外に曲げている。
上半身は地面と垂直を保ち、ぐっと両腕を天頂に伸ばして、掌を合わせる。
いわゆる『戦士のポーズ1』。教本どおりの姿勢を作って保ちつつ、深い呼吸を意識的に行う。
この程度なら余裕余裕。ひと呼吸ごとに、体中によい気が回っていくような感覚をおぼえる。

矢那瀬陽介 > ランチボックスの堤を片手に重く誂えられた鉄扉を開いた。
陽光の暖かさより冷たい高所特有の風が悪戯に黒髪を乱すのに片手で整えながら給水塔の上にでも登ろうかと視線を巡らせたそのとき。

「ん!?」

否応なしに目につく女教師に脚が止まる。
マットまで敷いて本格的に四肢伸ばし柔軟せし姿は

「……ヨガ?」

ぽつり、呟いて漸く脚が動き出す。食事をするために動くのではなく、その一部始終を見届けようと欄干に背を預けて。
黒瞳は凝っと相手を伺い、やがてこちらに気づいたのなら柔らかにそよがせ軽く手を打ち鳴らそう。

酒匂みどり > 「……誰かヨガって言いました?」

教本どおりの姿勢を作り、保つことに集中していたみどり。
新たに屋上に現れた青年の存在に、声をかけられ手を鳴らされるまでは気づかなかったようだ。
欄干にもたれかかる青年のほうにくるりと首を向けて正体を確認しようとはするが、作った体勢は解かない。

「屋上は私の貸し切りだったはずなんですけどねぇー。別に許可とか取ってませんけどね、ふふ。
 …………すぅぅー………………はぁぁ……………」

まだ新任のみどり、受け持った生徒についてもすべての顔を覚えきれているわけでもない。
おそらく陽介の体育授業を受け持ったことはまだないだろう。
もしかしたら陽介の方からは『やけに厳しい新任の女体育教師がいる』という噂は聞き及んでいるかもしれないが。
とはいえ学生服から生徒であることは一目瞭然のため、再び上に向き直るとヨガの呼吸に集中を戻し始める。

「ヨガですよぉー……。ええ、そこの本のとおりにやってるので、ちゃんとヨガしてると思いますよ。
 まだ勉強中ですから、あなたに教えられることはありませんが……」

すうぅ、はあぁ。1往復に何十秒もかける深呼吸の合間に、休憩がてらに言葉を放つ。
張った胸が大きく上下する。女性らしい肢体のラインはマットの上で彫像めいて固まり、震えなどはない。

「……それともあなた、ヨガに詳しかったりしますぅ?」