2020/07/14 のログ
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
■レナード > 「…………。」
少年は独り、試験期間中により特に人気のないそこで佇んでいた。
あの後、死に物狂いで拠点に戻り、味のしない食事と浅い睡眠をとった。
試験期間だったから、学校には来た。ただの授業だったら、サボっていたかもしれない。
しかしそんな精神状態では、散々たる結果が透けて見えるばかりだった。
……尤も、今はそんな鬱屈した未来を考える余裕もないが。
「……はぁ………」
少年は一人、ベンチに座って空を見ていた。
光の失せた眼で、何を捉えるでもなく、ただただぼんやりと。
■レナード > ここから飛び降りれば、自分の宿願はすぐ叶う―――
そう思っても、身体はそれをよしとしない…理由はすぐに分かった。
恐怖。
とてもシンプルで、分かりやすい答えだった。
「……ほんっと、お笑いだし……
僕は、自分で自分を終わらせることも、簡単にはできねーわけ……」
無駄で、無意味で、徒労を過ごしただけの日々のように思えた自分の生涯でも
ここまで時間をかけただけの気力を、自身の結末の成就に向ける自信はあった。
それでも、こんなに単純なものにさえ分かりやすく怖気づいてしまう自分がいることを知ると、
何とも小さく、弱弱しい生き物に見えてしまって。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
■レナード > 「………弱いなぁ、僕は……」
少年は、両腕で頭を抱えるようにして、自身をそう評した。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にカラスさんが現れました。
■カラス >
レナードの陰鬱な気分を写し取るかのように、
天は雲で日光を鈍く伝えるのみだった。
風の音、日本の夏の湿った空気が緩く少年を撫でる。
鈍色の景色。
そんな中、ガシャリと落下防止の金網が揺れる音がした。
バタバタと大きな羽音もする。
「わっとと……。」
屋上は少年以外誰も居なかったはずなのに、
青年の声がした。
■レナード > 「…………」
金網の軋む音。
風が撫でた後の物でもない。
誰か来たのだ。ある日ここで会った少女のように、空でも飛んで。
それを分かっていてなお、顔は自分の影を眺めたまま。
ため息が出た。
「………学生はー、試験期間中だと思ってるんだけど。」
そう一言、姿の知らない何者かに告げた。
もし学生ならば試験期間中であり、どこで何をすべきか知っているはずで、それを優先すべきではないか、と。
…暗に、こちらに近寄るなと言葉に含めている。
■カラス >
音の主は金網の外側に居た。
少年が越えられぬ場所に居た。
「え、あ………普通の生徒は、そう、なんですね。」
顔を上げない少年を金網越しに認めた。
試験期間中。部活以外で単位を取得する生徒ならば、今は教室の中のはず。
だが青年はそれに該当しない生徒だった。
朧げな日光でも、夏の太陽の元影は出来る。
少年の小さな影も、青年の翼を含んだ大きな影も。
言葉に含まれた棘よりも、その沈んだ雰囲気が気になって、
青年はその場に留まった。
■レナード > 「…………何しに来たわけ?」
普通の生徒は、と彼の言葉が聞こえた。
きっと普通じゃないのだろう、なんて、今はそんな背景を考える余地はない。
少年は告げる。姿の知らない相手に。
「………何か用があってここに来たわけ?」
言葉を続ける。
それはまるで、とぐろを巻いた蛇の威嚇。
いつでも跳びかかれるのだとして、辺りに緊張を振りまいている。
…それは、知らない相手に対する恐れでもあるわけで。
「………邪魔だったんなら、僕が出ていくけど。」
この前は、我を通そうとして余計な口論を生んだ。
無駄なことをする前に、自分から去るという選択を敢えて出す。
……癪なのだけど、仕方ない。普段の彼にはありえない言葉なのに、自分でそれに気づいていない。
■カラス >
「…え、ぁ、ちょ…っと…休憩、に。」
少年の声に灯る焔に、青年は簡単に圧倒されてしまった。
青年の方が大きいというに、精神性の世界があるなら真逆か。
それとも、レナードの今の精神的状況は、
そんな青年よりも小さくなってしまうものか。
この島にいるモノは、割と一癖も二癖もある。
大抵、軽い威嚇など踏み越えて距離を近づけて来る。
…青年はそこまでの我の強さを持ち得てはいなかった。
「邪魔とか、そんなことは、言わないです……高い場所が、好き、で。」
たどたどしく理由を言う間も、外側の金網を人間の手が掴んでいた。
■レナード > 「…………。」
高いところが好き、聞けばそれだけの理由だった。
ため息が出る。
「…………そう。
なら、居ればいいじゃん。」
自分には、関与してこない相手だろう。
そう思ったから、優しいように聞こえる言葉を投げかける。
■カラス >
少年の言葉を聞くと、金網から手を離した。
後ろに重力を引かれるが、大きな羽音と共に浮かび、
漸く屋上の内部へと青年は降り立つ。
「あの、ありがとう、えっと……。」
降り立つ時の足音は靴音では無かった。
ガリリと何か硬質なモノがコンクリートを引っ掻く音が、
レナードの陰鬱な精神に響く。
「ごめん、なさい、俺が邪魔、でしたよね…。」
遠く校舎で、朗らかな生徒の笑い声が響いた。
■レナード > 「……ああ、そうだし。」
彼のその言葉に、迷わず肯定した。
今の自分にとって、静寂が一番なのに。
それを金網の音や、鋭利なものでひっかく音で乱す見知らぬ相手が、少し憎い。
邪魔だったかと問われれば、そうではないという答えを期待するものだろう。
勿論、多少の良心があれば、余程の事がなければ人は自身を卑下する相手を強くは責められない。
…だが、現状の彼に、周りを気に掛けるほどの余裕はどこにもなかった。
何より自分のこの言葉で、彼に居座らせる余裕を与えてしまうのが嫌だった。
「よくわかってるじゃん。」
靴や、人間の素足のそれではない。そんな音がする。
……飛んできた時に察してはいたが、普通の人間ではないらしい。
そんなことを、心の片隅で考えて。
■カラス >
生きているなら、どんな時でも絶対的な1人というのはあり得ない。
だが、ヒトは時にそうやって1人になろうとする。
今は青年の最低限の音ですら、レナードの心を削るのだろう。
「…ごめんなさい。」
一度は許されはしたものの、酷く意気消沈した言葉が返って来る。
どうしようかと暫く佇むも状況は変わらず。
追い詰められた人間は、こうも狭量となってしまうのだ。
「………あの。」
それでも、遠く青年の頭に過るモノがあった。
このまま去ろうかと逡巡したが、それを留まらせた。
チキンやろーと言われながら少女を助けたあの日が。
■レナード > 「…………なに?」
言葉は、聞く。
本当に最低限ではあるが、外界への僅かな関心はあるらしい。
顔は上げないが、彼の言葉は待った。