2020/08/12 のログ
吉良坂 美咲 > 「へー凄いね!
何かなくしたりしたら頼るね!」

送られてきたアドレスを開いてこんなことをしているのかと驚きつつ、そう応えて。

「あーこれ?これはねー...私異能で"浮いてる"んだー」

嘘をついた。
ついてしまった。
でも、ここで本当のことを言ったらどう思われるか分からないから。
必死にならないように、普通のことであるかのように。
嘘をついた。
笑顔で、表情を崩さずに。

修世 光奈 > 「えへへー。なんでもお任せあれー♪」

ニコニコ笑って。
見て見れば、多種多様な探し物が解決しているようだ。

「浮いてる…?あー……」

聞いてみて、一つ思い当たるところがあった。
友人にも、常に異能が出ている者がいる。
それと同じだろうかと思う。

「そっかー…大変?なのかな。歩けたりするならいいだろうけど…
何か困ったことがあったら言ってよ。私の異能はこれくらいしかできないけどね」

と言って、ぽ、ぽ、ぽ、と光球を3個ほど生み出して。
それぞれ赤青黄に色を変えて動かし始める。
相手のそれが異能なら、自分のものも知ってもらおうと。

吉良坂 美咲 > 「そんなに大変じゃないから大丈夫だよー
浮いてるだけじゃなくて移動もできるから
ほら、こんな感じで」

なんて言いながら前後左右にスライド移動して見せる。
こんな感じだから問題ないよ、と。

「へー綺麗だねー
私の異能もそんな綺麗な感じだったらよかったのになー」

自分の異能もかつては何ものにも劣らない楽しい異能だったというのに。
羨ましげに、興味深気に光の球を眺めて。
触れようかと思って手を伸ばしたがすぐに引っ込めた。
危ないかもしれない。

修世 光奈 > 「わ、ほんとだ。それならだいじょーぶだね」

スライド移動する様子を見ると、確かに移動には問題なさそうだ。
小石などを踏まなくていいかもしれない、と思いつつ。

「ええ?美咲の異能もすごいじゃない!すいーすいーって、便利そう。
あ、触っても大丈夫だよ。ただの光の球だから。熱くもないし」

と言って…30cm以内なら動かせる光の球をふい、と美咲の方へ寄せる。
青色の光球だ。
触っても、指がすり抜けるだけで特に感触などは何もない。

吉良坂 美咲 > 「うーんまあ言われてみれば便利な気もする...」

実際は非常に便利なのだが。
なぜなら、これがなければ歩けないどころか移動もままならないからだ。

触れても大丈夫と言われれば恐る恐るこちらへと寄せられた球に手を伸ばしてー

「ほんとだ何これ面白い
すり抜けるー」

おお、と驚いて僅かに興奮した様子で球に手を突っ込んだり引っこ抜いたりして遊びだして。
面白いねーと。

修世 光奈 > 「そうだよー。こけたりしないだろーし」

うんうん、と頷く。
もちろん、事情などを知らないからだが。

「えへへー。これも結構長く出せるから、見たいときはいつでも出すよー」

何て言いながら、時間を確認すると。

「わ、ごめん美咲!ちょっとこれからまた探し物の依頼こなしてこなきゃ!
また連絡するね!」

端末を見れば何らかのアラームが設定されていたようで。
ふい、とその光球が消え…にこにこしながらも、一度相手に背を向けよう

吉良坂 美咲 > 「あ、依頼?そっか依頼かあ...
また今度球見せてよっ
話してくれてありがとうね!また会おうね!」

依頼の時間、と言い出した光奈に対して忙しそうだな、もうちょっと話したいな、なんて。
話題が何かすぐに思いつくわけでもないのに、楽しくてそう思ったが、彼女にやることがある以上素直に見送るべきだろう、と満面の笑みでこちらに向いた背を見送ろうとする。

修世 光奈 > 「もっちろん。だってもう友達だし。
今日の夜にでも、また連絡するよー!」

忙しいのは確かだが。
それでも、友達をないがしろにはしない。
ぱたぱた走っていって…扉から消えるまで。
その手は大きく振られていたことは間違いなく。

依頼もあるが、友達も大事にしたい。
だから、夜になれば。
切り上げてしまった謝罪と共に…
私はこの日空いてるよ、という情報付きで…カラオケいつにする?と言った旨の連絡が届くだろう。


それは、間違いなく友達にする気安いメッセージだ。
また教師の悪口など言いながら、予定を決めていく事でしょう――

吉良坂 美咲 > 「またねー!」

扉へと消える僅かな間だが、あちらが手を振り出すのに送れずこちらも手を振って応えた。
頑張ってきてねーと、応援するような言葉も添えた。

...

扉へと消えた光奈を見送った後の屋上に残された少女一人。
手を振ることせいぜい数秒。
振り上げた腕を下ろせば笑顔とは違った申し訳なさから来る悲しい、泣き出しそうな表情になって

「友達になってくれたのに…嘘ついちゃってごめんね…」

嘘自体は、そう困るようなことでもないだろう。
それでも、友達になってくれた相手に対して嘘をついたという事実は、申し訳なさとなって、確実に美咲の心中を蝕んだ。

そんな重大な侵食でもなく。
そのうちきっと治っていくだろうが。

きっと心の中に僅かに、確かに残り続ける。
いつかちゃんと話せる日まで。


夜になって届いた連絡を見て嬉しそうに楽しそうに端末を操作している少女は友達ができた事を非常に喜んでいるようだった。
それはもう、幸せそうだった。

ご案内:「第二教室棟 屋上」から修世 光奈さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」から吉良坂 美咲さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
レナード > 屋上にあるベンチに、一人の少年が座っていた。
宵の入りからあまり時間の経っていないものの、空には星が瞬き始めている。

「…………。」

普段、自分が利用するのは第一教室棟。
第二教室棟なんて使わない。
更に言えば、別の棟の屋上だなんて、もっと。
だが、今日はここに来た。何かを思い返すように、足を向けてしまった。

「………こうして、ベンチに座ってたんだっけ。」

あまりいい思い出はない。
だが、そんな自分の苦い記憶にケリをつけたくなったから、敢えてそこにいる。

ご案内:「第二教室棟 屋上」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
自分はなんの気なしにそこに立ち寄ったはずだ。
いや……何かの予感があったのかもしれない。
目の前に、其の人物は居た。

「ヤ……レナード。元気しテる?」

苦い思い出が詰まる場所で、
苦い思い出が有る相手が
そこで待っていた。

レナード > 「……やあ、園刃。
 見ての通りだし。あの時とは違うとも。」

声を掛けられた方へと、顔を向ける。
あの時よりかなり、落ち着いた態度で。
お互いの名を呼び合う様は、もうただの他人ともいうまい。

「いつもはさ。僕、第一教室棟の方にいるんだよね。
 でも、今日はこっちに来ちゃった。」

何となく、予感めいたものがしていたのかもしれない。
そのまま、天を仰ぐように空を見上げて、言葉を繋げる。

「……ここに来たら、君が来るかな、なんて思ったわけ。
 らしくねーけど、ノせられちゃった。」

園刃 華霧 >  
「ァー……そりゃ、うン。よカった。」

あの時、友だちになる、とはいった。
だからといって、そのばかぎり、なオハナシになる可能性だってあった。
此処で今、怒鳴られたっておかしくはなかった。

ひとまずは、安心する。
けれども

「アタシが来る……って、コト、は……
 やっぱ……何か、用……? 聞くよ」

それ以外はあるまい。
やはり気が変わった?
有り得る話だ。

しかし、どうであれ自分は『続けるしかない』。

レナード > 「……まあ、なんというか。
 これ、僕の不義理だった…というか。」

彼女のした、覚悟。決意。
そういうものを、台無しにしてしまうかもしれない。
聞いてなかった、と、蔑まれるかもしれない。
…だが、言うしかない。これは自分にしかできないことだ。

「君は、僕の受け皿になる、なんて…言ってくれたっけ。
 随分な言い様だし。友達感覚の相手に向けて言うセリフじゃねーし。
 ……でも、話をしたいのは、それについてじゃない。」

見上げていた夜空から、彼女の瞳へと、顔を向ける。

「これから話すことは、僕自身のことだ。
 ……それを聞いてから、どうか、受け皿になるかどうか決めてほしい。
 あの時の決意を、うやむやにするようで……言い訳もできねーけど。」

眼を見て、話そう。
あの時も、あの時も、できなかった話を。

園刃 華霧 >  
「ン?」

不義理だった、と言われた。
とはいえ、最初に不義理をしたのはこちら。
であれば、別に今更大したことでは……

「レナード自身の、こと?」

ああ、そういえば。
あの時の彼は、なにかに憔悴して。
死を選びそうになるくらいに疲れ果てていて。
なにか、事情を抱えていたはずだ

いや、でも確かに聞いた。
反抗しつづけて、何もかも失っていったこと。

それでも、まだ足りないのだろうか?
そういえば……一つだけ、思い当たる話は有る。

「言い訳、ハ別に。そもそも、アタシから始メた不義理だロ?
 なラ、せいぜいがオアイコどまりサ。じゃ……始めて?」

ここから、何が始まろうと目をそらさない。
其の覚悟はもうきまっている。

レナード > お互いに、お互いの瞳を捉え続けていく。
二人の間で過ぎていくのは、時間と夜風だけ。

「…………。

 ねえ、園刃。」

少し合間を置いて、彼女に問う。
ただ、それは、自分の口から言うことは、本当はしたくなかったのかもしれない。
とても聞きにくかったものなのかもしれない。
…それこそ、その場の勢いに任せて滑らさない限りは。
それでも聞こう、僅か開いた口はもう塞がらない。

「僕、いくつだと思う?」

園刃 華霧 >  
「……」

いくつだと思う?

たったそれだけの問いかけ。
しかし、それは奇妙な重圧を持って襲いかかってくる。

答えはただの感想のはずだ。それもとても単純な。
それでも、口は簡単に開かない。

夏だというのに、どこか薄ら寒い風が肌を撫でる。

「……………ふつう、なラ……」

ようやく重い口を開ける。


「15.6……くラいってトコ……だけど。
 つマり……違うっテ……こと、カ?
 年上だっタんですー、敬えー……なンて、単純な話……じゃナい……よナ?」

そう、単純に見れば。
目の前の少年は、自分より下か、せいぜい同い年くらいにしか見えない。
それでも、その言い方は……違うのだろう、と簡単に想起できた。

しかし、それだってこの常世島では"よくあること"にすぎない。
問題は、その先にある。

レナード > 「………。」

彼女の回答を、黙って聞いていた。
まあ、想定内のものだ。
重要なのは、"そんな質問をわざわざしたのは何故か"を、彼女の意識に持たせること、だったわけだが。

なら、もう隠す必要はない。
自分の胸元に、掌を添えて、はっきりと。

「百から先は、覚えてない。」

そう、言い切る。
見た目の歳は、彼女の言う通りだろう。
だが、その言葉には、冗談に思えない気迫が籠っていたかもしれない。

「百十五かも、百と五十かも、…二百だったかも。
 ……僕が気づいたときには、年齢を数えることを辞めていた。」

数える必要がない。
それは、何故か?

「……僕は、不老だ。
 条件付きの、不完全な不老だ。」

それが、最も重要なことだから。
最初から最後まで、彼女の瞳を視ながら、告白する。

園刃 華霧 > 「……不老」

そこだけを繰り返す。
生きるのに忙しかった自分には、ついぞ想像もつかないその性質。

疑うつもりははじめから無い。
それでもその気迫には恐ろしいまでの説得力を感じた。

「ン……不老?  あァ……」

不老にはよくセットになる単語がある。
そう、不死、というヤツだ。
しかし、それには触れられていない。

そもそも、あの時に彼は『無意味な死が待っている』と言ったはずだ。
つまり、死は、ある。

歳はとらないが、死ぬ。
ややこしいがそういうことか。

しかし

「なルほど…… そレかラ?」

言いたいことの、想像はつく。
しかし、予断はもう許されない。
だから、あえて促す。

レナード > その続きを、促された。
だから、言葉を紡ぎ続ける。

「……ただの不老なら、諦めがついたのかもね。」

それを、敢えて不完全と言った。

「僕の不老は、僕の血を持つ子供が産まれたとき、終わる。
 ……そこから先は、人並みだ。」

色々な意見はあるだろうけど、と、前置きながら。
更に、言葉を続ける。

「自分の血に、自分の運命を定められてるようで嫌だった。他の方法で、どうにかしたいって思った。
 だから、抗って、抗って……いつの間にか、あんな風に擦り切れつくしてたんだと思う。
 あとは、あの時……話した通りさ。」

そこから先は、大時計塔で話したことに繋がる。
これが、彼が話していなかった、始まりの話。

「まだ、その方法は、見つかってない。
 見つかるかも、さっぱりわからない。」

さあ、ここまで言い切った。
…後は、彼女に改めて聞くだけだ。
もう、止まれない。

「……ねえ、園刃。

 こんな僕の、受け皿に……本当になる、つもりなの?
 年の取れない、この僕の……」

園刃 華霧 > 「あァ、そウいう。」

抗った、と聞いた。
彼が抗ったのは自分の運命。

なるほど、それなら簡単に行かないのも納得ができる。
彼が納得しないなら、永久にそれを続けるつもりだった、ということか。

それは……ああ……確かに、気の遠くなる話かもしれない。

「ァー……ンー……」

頬を掻く。
この話は、どこかで道が変われば前提も変わる。
結論がどうなるかは、また別の話。

しかし、彼の求めているのはまずは、前提が変わらない上での話。

「そウ、だな。ちっと遠周りナ、話になるケどさ。」

であれば、最初から前提の変わっていない話をこちらも話すしか無い。

「アタシは……その、なンだ。この間の、時サ。
 なに言わレるか、わかンなかッタし。
 だかラ、ァ―……たとエば。

 『僕にとってていのいい悪役のまま、死んでくれていたらいい』、
 なんて、話……あったじゃン?」

しかし、いざ話すとなるとコトバというものはなかなか難しい。
こんな、相手のいい思い出のない言葉を引っ張ってでもこないと、うまく言えない。

「あ、いヤ。蒸し返すわケじゃないヨ。悪気もない。
 ただ、ネ。そういう可能性も、考えて、居た。
 だかラ。そういウ、望みダったら……
 アタシは、生涯、レナードの悪役とシて、生きる気でイた。」

それが『つき纏う』と言葉にした意図。
それしか、考えつかなかった。

「だカら……そ、だナ。
 最初から、何だろうと。くタばるマで付き合う、つもリではいタ。
 答えにナってルか、わかンないケど……」

これが自分の大前提。
ただ、不老、は確かに予想外だった。
そうなると、死んだ後まで考えないといけないだろうか。

もしくは、気が変わる道を、友達として一緒に探すか。

レナード > 「……くたばるまでって……」

彼女のその言葉を聞いて、つい、笑ってしまう。
呆れか、何か…そういう感情が籠っていたかもしれない。

「………なにそれ。最初っから本当にそのつもりだったわけ?
 死がふたりを分かつまで、ってこと?」

自分でさえ、聞いたことはある。
だが、甲斐甲斐しく図書館にきていたのだから、
ついで程度にこちらの文化に触れることは、容易いことだった。
だから…念のために聞いておこう。

「まるで、生涯を誓う言葉だし。

 あの時は、話の流れで……正直、少し出すぎたことを言ってたのかと思ってたけど、違ったみたいだから。
 だから、聞くし。」

「ねえ、園刃。
 それ………プロポーズに聞こえるし?」

一生を尽くして、受け皿になる。
その言葉は、友人に向けるに、過大すぎるものだと。

園刃 華霧 >  
「……は?」

思わず、ぽかん、とした顔をする。
相手から飛び出したのは予想外も予想外の言葉。

ぷろぽーず

いや、言葉の意味は知っている。
知っているが、この場にふさわしい言葉ではないだろう。

「え? ア?
 え? プロポーズ?
 マジ?」

笑われてしまった。
なんだよ、なにがそんなにおかしいんだよ。

「アー……マジか。
 アー……そう、か。そう、聞こえる、カ。
 いヤ……うーン……」

しかし、確かに。
そう聞こえたのなら、相当間抜けの言葉に違いない。
そして、言われてみればそう聞こえないこともない。

思わず、頭を抱える。
なんだこれ、最初の出会いより大惨事じゃないのか?
割と真面目に決断したつもりだったんだけど。

レナード > 「……………。」

その時は、呆れた笑いだった。
でも、今は落ち着いた笑みで、彼女を見る。

「正直、言うとさ………」

唸っている彼女に向って、言葉を投げかける。
ここから先は、まだ話していないことだ。

「こんなに、人と違う性質の化け物なのに。
 こんなに、人と違う時間を生きてる怪物なのに。
 なのに、人並みの幸せなんか願っちゃったから、おかしくなったのかなって思ったくらいなのに。

 そんな僕にも、君は本気で考えてくれるから……
 全部話しても、……考えを、変えてないって言うから…」

穏やかに、言葉を続ける。
今しがた湧いてきた、自分の気持ち。

「……嬉しいって、思っちゃった。」

それはどこか暖かさすら感じる、本心からの笑み。
何故か、胸の内がぽかぽかしてきた気さえする。

「怖がってくれていい、蔑んでくれていい、…拒絶してくれていい、のに。
 そんなの、知ったことかって……僕の内に、踏み込んでくるしさ。
 ……初めてなんだ、そういうの。」

園刃 華霧 >  
うぐおお、とあまり乙女にあるまじき声で唸っていたが。
流石に相手の言葉が続けば、一旦口を閉じて真面目に話を聞く。

「……」

相手の悩みが、苦しみが伝わってくる。
その軽重は人によって違ってくるが、
結局、人間誰しもが抱えうる悩み。

自分は誰かと違う
自分は何かが違う

「ンー……ァー……いヤ。
 説教、スるつもリはないケどさ。」

よくわかる。
とてもよくわかる。

『人と違う性質の化け物』
その「思い込み」には覚えがある。

「レナードさ。前も言ったけど。
 『居心地のいい場所』になるヒト、作ってこれなかったんだろ?
 案外、手を伸ばせば……結構、他にもいるかも知れないぞ?
 アタシもさ……怖くて……手が伸ばせなかったから、わかるけどな。」

悲しいほどのすれ違い。
手を取ってもらえないと信じ込んだ自分。
受け入れてもらえないと諦めていた自分。

やはり、この少年は何処か自分に似ている。

「アタシがしたのはさ。
 案外そんなもんだぞって、気づかせただけだよ。
 ま、嬉しかったなら良かったけれど」

照れたような笑いを浮かべる。
彼が。レナードが、何かを見つけられたと言うなら、こんなに嬉しいことはない。

レナード > 「………あれ?」

きょとん、とした顔で、彼女を見る。
僅か頭を傾けて、とても不思議そうな表情だ。

「ねえ、園刃――――」

それは、まるで日常の中で繰り広げられる、よくある会話の一小節に聞こえたかもしれない。


「君は、手を伸ばさないの?」


ベンチに座る彼が、彼女に向かって、手を差しだした。

園刃 華霧 >  
「うんにゃ?」

にやり、と笑って彼の言葉を否定する。
だって自分は先達だ。

先達だからこそ、こんな馬鹿みたいなつっこみをかけたんだ。


「もちろん――」


堂々と胸を張って力強く
それでいて、当たり前のように


「手はもうとっくに、伸ばしてるさ?」


差し出された手に、自分の手を伸ばした。

レナード > 「………ばか。

 遠回しすぎるし。」

小さく笑って、きゅっ…と、その手を掴む。
そのまま腕を引くと、勢いのままにベンチから立ち、彼女を引き寄せようと。

「……僕、ここで起こったあの時のこと、まだ赦してないから。」

空いた片手は、彼女の背に回そうとする。

園刃 華霧 >  
「お、おゥ?」

手を引かれるのは少し予想外。
思わず引き寄せられてしまう。

「ァー……うー……ま、そりゃ、ソうだヨなあ……」

赦していない。

そう言われてしまった。
まあ簡単に許されるとも思っていなかったから、
それはやむを得ない。

時間をかけて、ゆっくり赦してもらうしか無いだろうな……
そんな風に考えながら、思わず頭をかく。


「……?」


そうして、頭に意識が向いているうちに
背中に手が回っていることに気づく。

レナード > 「おめーはどーにも、僕に罪の意識を持ってる気がしてならねーから。
 …こういうときは、ちゃんと罰を与えた方が本人の気も晴れるって…本で見たし。
 それに、まだあの言葉は成り立ってないってさっき聞けたから。」

ここではっきり言ってやろう。
今度は、自分から。

「……だから、一生かけて償ってほしいんだけど、いい?
 あと、僕より先に死んだりしたら、承知しないから。」
 
そう言いながら、抱きしめようとするだろう。

園刃 華霧 >  
「あぁ、まあ…… そりゃオマエ。
 レナードが、赦さないってんのに罪の意識なくてどーすんのって……」

何を当たり前のことを。
というか、お前がそう言ってるんだろう?
罪の意識なくてどうするんだ、と首をかしげ……

いや、この体勢首かしげられないな?

「だから、そう言ってるじゃんかさ。
 一生かけるって。」

だから、そういってるじゃん。
なんだろう、コイツ。
さっきから言ってることがなにかおかしいぞ。

「というか、不老なんだろ?
 流石にその前に死ぬなはきっついぞ。
 寿命延ばす方法でも探せって? なかなかキツイちゅうも……んぐ」

抱きしめられて、言葉が詰まった。

レナード > 「…………ここまでやっといてほんとに気づかないわけ。」

そのままの状態で、ため息。
まあ、いいか。それなら。

「君がどう思うかは、別でいい。
 これは僕の我儘だから。」

この際、はっきり言ってやろう。
愛も恋もまだ知らない身だけど。
本気で自分のことを考えて貰えて、嬉しかったと思った自分がいたことが、
きっと、この言葉に繋がるのかな、そう思えたから。


「……きっと、僕は、君が好きなんだ。」

園刃 華霧 >  
「あ……」

思わず、間抜けな声を上げてしまった。
そうか。
これは「そういうこと」か。

やっと、得心がいった。


「あー……そっか……」

続けた言葉は、やはり間の抜けた言葉だった。

レナード > 「…………。」

はふぅ、と、もう一度ため息。
やっぱり気づいてなかったんだな、と。
思った通りだったけれど、これは、これで。

「ばーか。」

小さな声で、そう呟いた。

園刃 華霧 >  
「あ―……え、と……考え、直さん……?
 いや、レナードが、いやとか、そういう……話じゃ、なくてさ。」

つぶやきは耳に届かず……
ただ抱きしめられたまま、困惑した声で言葉を漏らす。
言葉も思わずたどたどしくなる。

「アタシは、自分の恋やら愛やら、は……今の通り、クソ鈍い……
 っていうか、多分……よく、わかってない、その……
 なんて、いうんだ? 不良物件、だと思う、し……」

もごもごと口にする。
実際、今までずっと実感のないままで来た。

ひょっとしたら最初から、そんな感覚は持って無いのかもしれない。
それすらも、自分にはわからない。
少なくとも、今でさえ自分にそういう気持ちがあるかも測りかねている。


「まあ、そもそも、ご存知の、通りの……事故物件、だし……」


ガサツで自分勝手でいい加減。
そんな姿はよく見てきただろう。


「その……たぶん、いいこと、ないぞ……?」


思わず、本気で心配した声になってしまう。

レナード > 「特大の事故物件に住みつこうとしてたおめーが、
 今更何の冗談抜かしてやがんだし。」

いつもの調子で、彼女の言葉を一蹴する。

「言ってたじゃん、似た者同士だって。
 色々足らないのも、お互い様だし。」

彼は、周りに対して。
彼女は、自分に対して。
それぞれ、無関心だったのかもしれない。

「……でも、そのままでもいい。
 僕が、君のことを分かっていられたらいい。
 君は、僕のことを分かってくれたらいい。
 …そうやって分かり合うことから、始めりゃいーじゃん。
 二人のよくないところを、分かっていれば、それで。」

自分に非はない、なんて言わない。
悪いところを直そう、なんて言わない。
互いのことを知って、受け入れることから始めようと、そう言った。

「……それに。」

いいことなんて、ないんだろうか。

「言ったじゃん。
 ここまで僕のこと、本気で考えてくれたのは…君が初めてだったって。」

抱きしめたまま、はっきりと、言葉を繋いだ。