2020/09/06 のログ
ご案内:「第二教室棟 屋上」に黒髪の少年さんが現れました。
黒髪の少年 > 逢魔時を過ぎた頃、それは現れた。
秋は天気が変わりやすい。不幸なことに曇天…いつ雨が降るか分からない。
それでも、自分の"取り戻したい"という欲求に抗うことは、できなかった。

「………。」

第二教室棟の、屋上。
自分の中でも、特別な場所の一つ。
…そう、本能が叫んでいる。

黒髪の少年 > 「………きちゃった、かあ………」

肩を竦める。
一度来てしまえば、封じた記憶も解けやすいもの。
…だからか、どうにも様々な思い出が一気に解き放たれそうで、少し怖い。
飽和した情報は、ちょっとした爆弾に他ならない。

「…………。」

何をするわけでもなく、あたりを見回すように歩いてみると、ついベンチが目について。
…それが何故か、とても懐かしいようでいて、愛しいようでいて。
不思議と去来する郷愁に駆られるように、ふらふらと近づいた。

「………なんだろう。
 ここ、色んなことがあった気がするし………。」

ベンチの傍で、見下ろすように。
座席の上を、さかさかと袖口で掃う。

黒髪の少年 > ベンチの真ん中に陣取る様に座り込んで、空を見上げる。
星も、月も、曇りに覆われて見えない。

「…………。」

少し、物思いに更けようか。
ここは出来事が多すぎた。

黒髪の少年 > 思い返す。
ここで会った人たちのことを。

ああ、そうだ。
ここで寝ていた自分を起こした代わりに、サンドイッチをくれた人がいたっけ。
年下のように見えて、女性のように見えて、門をコントロールすることに執念を燃やしていた人。
当時の自分が燃やしていた執念と似ていたから、意気投合して…
あの後、飲みに行ったっけ。飲み仲間というやつになれた。
…ああいう体験は、稀有なものだった。
その名前は、確か…―――

「……さだめ
 萌良………さだめ………っ……」

…彼は、今も自分の本懐を遂げるために、頑張っているのだろうか。
互いの本懐を知らないなりに、互いの苦労が、気持ちが、分かってしまえた間柄だから。

「…門の研究、進んでいるといいなぁ………」

黒髪の少年 > 全てを否定された気分になり、沈んだ自分の前に現れた…鳥人もいたっけ。

「……名前は聞けなかったけど、気を遣ってくれたっけ……
 名前も知らない、自分に……」

オレンジの飴を、くれた誰か。
俯き加減だったとしても、透かして見れば相手は分かる。
…少し、自信なさそうな子だったか。当時は自分の方が参っていたけども。
それでも、優しい人なんだろう。……きっと。


そういえば、もう一人いた気がする。
名前を知らない子……
名前の、聞けなかった子………


いや、まだだ。
それよりも前に、思い出すべき相手がいるだろう。
そこから、当たろう。

黒髪の少年 > 「―――ッ……!」

何故だろう、えずいてしまいそうになる。
慌てて手で口をふさいで正解だった。
どうやら"それ"を思い出そうとすると…身体が拒否するようだった。

いや、何故そんなことになる?
自分はいったい……

「……何を経験したって、いうわけ……?」

深く呼吸して、目を瞑る。
何もしていないのに高鳴る心拍を、無理矢理理性で押さえつける様に。

ご案内:「第二教室棟 屋上」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
思い出には色々なものがある。
楽しい思い出
辛い思い出
封じ込めておきたいような思い出。

けれど
どの思い出であろうと、自分のものには違いない
決してなかったことにしたくはない。

だからふと
振り返りをしたかったので
あえて、此処を選んだ……のだけれど


「……!?」

そこに……その人物は居た。
フードにローブ。
顔など見えもしないが……


「ヤ……」


たとえ誰であろうと、声を掛ける必要があると思った。

黒髪の少年 > 「……っ……!!」

声が、聞こえた。
反射的にベンチから立ってしまう。

想定していない。
彼女との邂逅は、想定していなかった。
避けるべきだったのかもしれない。
アラートを鳴らすように身体が、これ以上なく現状を拒絶しようと……

「―――~~~ッッ……!!」

歯を食いしばる、息を止める、力を入れる、目を瞑る。
…その時を覚えている身体を、その時から乖離した理性で押さえつける。

「…ふぅ、ふぅ…っ、ふぅ……はぁ………
 …………。
 ……覚えて、いるし………」

その声を聴いたことが皮切りになって、ざあと流れ込んでくる記憶の濁流。
それから何とか呑まれずに留まると、荒い呼吸を繰り返して……

「………園刃、……華霧……ッ……」

フード越しに、彼女の方を見やった。

園刃 華霧 >  
「……」

声を聞いた
顔は見えない

けれど それは
間違いもなく

寸分たがわぬ
知った人物の声

この世界から去ったと
此処から消えたと

そう聞いたはずの


「……レナード……だ、な?」

それは確かめるようで
それは祈るようで

黒髪の少年 > 「…………。」

彼女から、名を問われる。
少しの間、黙って考え事をしていた。
まだ記憶を全て読み取ったわけではない。
だが…

悪くない。ああ、彼女は悪くない。
しかし、そうだ。
間が悪かったこと、
自分の器が小さかったこと、
彼女は自分の周囲に気づいていないこと…
…きっと、それが……

ああ、だから自分は、ここに来たのか……
これがあったから、自分の心にないはずの痛みがあったのか。
腑に落ちる。

なら………話をしなければならない。
これは、自分の手で乗り越えなければならないことだ。
自分が残してしまった、"後悔"の一つだ。

「…………ああ。」

ゆっくりと、フードを取る。

ご案内:「第二教室棟 屋上」から黒髪の少年さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」にレナードさんが現れました。
レナード > 「……僕だよ、僕だし。
 僕が、レナードだ。」

彼女の知る顔が、そこにはあった。

園刃 華霧 >  
「……?」

その口調は
その声は
その顔は

確かに、間違いもなく
記憶と変わらないそれだ

ただ、言い聞かせるようなその言葉は……
妙な違和感を感じる

しかしそんなことはどうでもよかった


「……生きて、たんだな……」


目の前の少年が健在なことを確認できた
思わず、膝から崩れ落ちそうになる

それだけが気がかりだった
それだけで救われた気がした

レナード > 「………生きてるし。」

色んな人に、心配をかけた。
思い出した記憶から辿ると、きっと、彼女もその一人だ。
…あんな約束を、交わしたのだから。

「……大丈夫、僕は生きてるし……。
 死ぬわけないじゃん………
 幽霊だと思うなら、殴ったっていい、蹴ったっていい、触ったっていい…
 ……まあ、そこまで言って疑うきみじゃないと思うけど、さ。」

穏やかに、小さな笑みを浮かべながら言葉を返す。
…ああ、やっぱりだ。
どこか言葉尻が、優しくなってしまうんだな。
そんな自分が、どこか悲しい。

園刃 華霧 >  
「ああ、別に疑っちゃいないよ。
 ただ……門の向こうへ行っちまったって、レナードが……
 元気でやってるかって……それだけの話、だからさ」

門の向こうへ行く、というそれを口実に、
死に向かった可能性だってある。
二度とあえなくても確かめようもない、優しい嘘。

それが、そうでなかっただけで十分だ。


「……そっか。
 元気でやってるなら……うん。それで、アタシは、いい。」

交わした約束はあった。
それが破棄されたとしても。
それは、わからないけれどきっと自分のせい。

それを責める筋合いもないし、
その理由を問いただす気もない。

レナード > 「…………そっか。
 まあ、何も言わないで出ていったんだ。
 そう思っちゃうのも仕方ないし。」

無理もない。
本当にあれからは激動だったのだから。

「……まあ、それに。
 また、すぐに門の向こうに向かうしさ。」

でもせめて彼女には、その意思を伝えておいていい。そう思った。
またふらっと姿を消して、今のように崩れ落ちる様子は…二度も視たくはない。
ここから先は、それさえ確認できない場所に行く…という、その宣言と。

「あと………―――」

レナード > 「僕は、君を許そうと思ってる。」
レナード > いつになく穏やかな表情で、彼女にそう告げた。
……どこか、諦めたようにも見えるかもしれない。

園刃 華霧 >  
「まあ、そこはレナードにも色々あったんだろうし、な。
 ……そうか。結局、行っちまうんだな……
 それがレナードの『選択』?」

もしそうなら、自分から言うことはなにもない。
ここで、未練たらしく止めれば本当はいいのかもしれない。
けれど……それは自分には、出来ない

そう思った、が――


「……待てよ」

それだけは流せなかった。


「……レナードが、アタシを許す、許さないは、どうでもいい。
 一生アタシを赦さないでいるなら、それでも構わない。
 それは、前にも言ったよね?」

だから、その言葉自体に思うことはない。
でも

「なんだって……そんな顔で、言うんだよ……ッ!
 そんなの、人を許す人間の顔じゃ……ないだろ……!」

そんな、何かを抱えたまま赦されても、なにもありがたくない

レナード > 「……許す人の、貌に決まってんじゃん。」

表情は、変えない。
…そのまま、少し傾げるようにして。

「僕の判断を、選択を、おめーはケチつけるわけ………?
 もっと憤怒に塗れた表情の方が、
 もっと悔恨に溺れた表情の方が、
 もっと諦観に沈んだ表情の方が…よかったわけ?」

…違うはずだ。表情の問題ではない。
きっとその内側に潜むものの話を、彼女はしている。

「ちがう。これは、君を見てきた僕の結論だ。
 君の周りを見てこなかった僕が、周りを見て気づいたが故の結論だ。」

園刃 華霧 >  
「別に、ケチなんてつける気はない!」

かつて邂逅した時には一度も見せたことのない叫び
ダメだ、こんなのダメだ
だめ

「アタシのことは……どうでもいいって、いってる、だろ……
 なんで……なんで、そんなことに、なるんだよ……
 なんで、そんな……諦めてんだよ……」

ずぎり、と何処かが痛んだ


「アタシの、まわり……?
 そんなの、関係、ないだろ……」

レナード > 「……………。」

ああ…やっぱり……
瞳をゆっくり瞑る。思った通りだった……
もう、彼女に告げるべき言葉の流れが、分かってしまった。
一つ息を吐き、眼を開く。

「………きみは、僕の居場所になろうとした。
 僕には居場所がないから。」

最初に謝っておく。

「一生をかけてと言われて…僕は、嬉しかった。それでもいいと思った。
 君もまた、僕と同じ…居場所のない人だと思ってしまったから。」

僕はこれから、君を傷つけるかもしれない。

「……でも、違う。
 君には、居場所になってくれる人が、周りにいっぱいいるじゃないか。
 ………そこが、君と僕の違ったところ。
 居場所になろうとしてくれる人が居るのに、他の誰かの居場所になろうとなんて……しちゃいけない……」

それでも、これくらいは赦してくれるよね?

「だから、僕は君を赦そう。
 自分の周りを見ていなかった君を、僕は赦そう。
 僕の抱いた感情は、それに比べて……とても、脆いものだっただけなんだ。」

それを認めてしまうと、なぜか涙が零れそうになるから。
気丈に、満面の笑みで言い放つしかなかった。

園刃 華霧 >  
「なんで……だよ……」

言っていることは、わかる
わかるけれど、納得はできない

「だいたい、あのときも、いったじゃんか……
 れなーどにだって、ほかにも、だれか……
 いばしょに、なるひと、いないかって……
 いても、おかしく、ないじゃん……」


どうして
じぶんを すてて
そんな せんたくを


「れなーど ほんとうに それで へいき なの?
 それで もんのむこうで やっていけるの?」

それでも
すてるというなら

せめて
それだけでも

レナード > 「……いないよ。
 だから、僕は……門の向こうにいくんだ。
 いたら……放っておいて、行ける訳ないじゃないか……」

まだ、記憶は完全には戻らない。
…でも、それだけは認めてしまおう。
もし、自分にそういう相手がいたならば、
門の向こうで過ごす未来なんて、捨ててしまおうと。
彼女には、それを知る権利がある。

「…………わからないなあ………
 でも、でも、さ。
 もう、僕も、迷惑かけっきりのまま……この場所にいられないからさ。」

そう、一度、癇癪を起こすようにしてここから出ていった。
色んな人に迷惑をかけ、色んな人を失望させて、彼女のように……色んな人に心配をさせた。

「今ここにいる僕は、泡沫の夢みたいなものだから……」

未来はどうなるか分からない。門の向こうで、簡単に朽ち果てるかもしれない。保証はどこにもない。
でも、苦しくったって、悲しくったって、笑って前を向くしかないじゃないか。
全部、自分のやったことなんだから……
だから……

「……そんな顔しないで、華霧………」

園刃 華霧 >  
「あぁ そうか
 あたしが かんがえなし だったんだ  」

すれちがい
おもいのちがい
それも これも じぶんが
さきばしって はしって いたから

でも

「……ほんとう、に?
 れなーど、ほんとうに……さが、した……?
 あたしが もう いばしょに なれないのは しかたない、けれど……」

かれが やさしいひとなのは わかっている
さびしい ひとなのも わかっている
だから さいごまで さがせたのか
それが しんぱいで

「めいわく なんて 
 そんなの あたしだって ずっと かけてる
 だから せめて せめて」

くびを ぶんぶんと ふる
ちからを からだに こめる

「せめて、さ……
 いいたい放題……全部、言ってくれよ……」

ふらふらと
まだ力ない足取りで
それでも少年に歩み寄って
ベンチの前までいく

「なぁ、レナード……
 迷惑、なんかじゃない……
 むしろ、迷惑、かけてこその……つながり、だろ……?
 せめて、少しでも、巻き込んでくれよ……」

跪くようにしゃがみこんで
腕を広げ
抱きしめるように

レナード > 彼女に抱きしめられる。
今度は、彼女から。
…拒絶なんて、できるはずがない。
その弱弱しい彼女を、払いのける力なんて、ない。
ぽふ、ぽふ。ローブ越しに受けとめる。

「…………。
 はあ、駄目だ。嘘、つけないなあ………」

心の奥底にしまっていたかった感情さえ、
弱り切ってしまった彼女の前だと、露わにしたくなってしまうものだから。
…だから、厭になる。きっとこれが、惚れた弱みなのだろう。

「……探してないよ。」

だから、はっきり言おう。言いたい放題。

「……もし、もし。見つけてしまったら、僕の意志が…崩れてしまうのが分かってるから……」

敢えて、探していないのだと。
人と会わないように動いていたこと、人からわからないような見た目にしていたことは、このためでもあったのだと。

「………優しいなぁ……華霧は……
 きっと、僕は君のそういうところが、好きだったんだなぁ……」

そう、言うことにする。

園刃 華霧 >  
「馬鹿、おまえ……なんで……
 いや……馬鹿は、アタシか……」


探していない、と彼はいう。
自分の意志を曲げないように。
それはその選択をさせてしまった結果だ。

自分の周りに気を使って
自分を諦めてしまった選択の末の

「でも、そんなの……きっついだけだ……
 なあ……向こうに行くの、やめる……のは……
 無理かも、しれないけど……
 せめて、今だけは、全部吐き出していって、くれ……」

重ねて言った。
せめて、それだけでも全てを覚えておきたい。
頭の悪い自分でも記憶力だけは自信がある。


「……優しい、なんてこと……ない……
 アタシは、ただ……我儘な、だけ……
 ただの、『馬鹿』なんだ……」

『馬鹿』だから考えなしに
『馬鹿』だから全力で
『馬鹿』だから……

「……あぁ……本当に、アタシが悪かった……」

レナード > 「………んー……」

吐きだしてくれと、請われる。
そうして、彼女の弁を粗方聞いてから…

「……あんまり、僕の好きだった人を貶めないでほしいんだけど?」

体勢も体勢だったから。
そのまま少し距離を寄せるように耳元で、ぽそ……と囁いた。

「……いいんだし。
 僕は、そんな君が好きだったんだから。
 そのことが誤りだったなんて、思いたくない。」

できるのはきっと、自分をそうやって貶める彼女を、止めてあげられることくらいだろうか。

「……忘れないで。君らしい君だったから、惹かれた人がいたことを。」

そうやって彼女の耳元に、呪いのような、祝福のような、そんな言葉を紡ぎあげた。

「……それはそれとしてー……
 おめーもこの際なんだから、言いたいこと…全部言えばいーし?
 ……最後かもしれないからさ。」

それでもまだ、意志は曲がらない。

園刃 華霧 >  
「ぁ……う、ぐ……」

――好きだった人を貶めないでほしい

それを言われるのは、弱い
その気持を理解できていない自分に、
その気持を汚すことを赦してはいけない。

「……うん。
 それは……ごめん……」

謝るしか、ない。


「言いたいこと……か。
 アタシからは……そう、だな……」

そんなものは、ない。
ないけれど。
でも伝えるとすれば

「アタシは……さっきも言ったけど。
 レナードが、自分を捨てないで、生きててくれれば……それで、いい。
 あと、は……もう、どうしようもないけれど」

はふ、と溜息をつく。
もう、どうにもならないことだとは思う。
今更だし、自分が言っていいことでもないとは思う。
それでも、言えというのなら

園刃 華霧 >  
「アタシに、できること……ある?」

レナード > 「ま、あんまり謝るようなことでもねーし。
 …ちゃんとわかってるんなら、何も言うことないし。」

まあ、そう言うだろうと思っていたから。
重ねて言う必要はないだろうと小さく息を吐いていると…

「――――ッ……」

その言葉をトリガーにして、脳裏に過る"友人"の姿。
だめだ、あんなことがあったばかりなのに。
いや、そんなはずはない。ただの偶然、幻聴に過ぎない。
そうだ、だから……

レナード > 「……大丈夫、だし。
 僕は、独りでも……なんとか、できるし。」

レナード > 必死に繕った張り付いたような笑顔で、誤魔化しにかかるしかなかった。
嘘をつきたくない相手からの、善意しか感じられない言葉に対して、
自分を守るために嘘をつかなければならない…非情なトレードオフ。
そんな歪み切った状態で絞り出した答えは、とても…弱弱しい。

園刃 華霧 >  
相手から吐き出されたのは、弱々しい言葉。
どう聞いても、それは真実には聞こえず……
触れては欲しくない痛みも感じる。

それでも、言えと言われたのだ。
言われたのだったら


「……なぁ。
 ここにきて、嘘はなしに、しよう?
 それは……独りで、なんとかできるって感じじゃない。」


悲しげに
沈んだ声で
それでも力を込めて

「……アタシじゃ、役に立たないの、かもしれないけれど……
 それでも……さ……」

実際、自分は役立たずだった。
それがこの結果だ。

それでも
それでも、だ

レナード > 「……………。」

ああ、そうだ。
そう彼女に頼んだのは、自分だった。
…なら、ケジメはつけなきゃいけないだろう。

「………。
 ぃたかった………」

だから、言うしかないだろう。

「いたかった……もっと、いっしょにいたかった……
 ゆめでもいい、うそでもいい、いっしょにすごして、ばかなことでもりあがって…
 そんな、そんな一時が過ごせたら……どれだけよかったろう……」

嘘は言わないと、そう言われたのだから、

「……でも、そうはならなかった……
 僕が弱かった……僕の心が弱かったんだ………
 君の周りに居場所があることを、受け止められなかった僕が弱かった……」

自分を守るためについた嘘を、この場で剥ごう。

「それで全部投げ出して、全部思い出せないようにしまい込んで、逃げるようにここから去って……
 それでも胸が……ずっと痛いんだ……
 思い出せないはずの感情が、覚えてないはずの感情が、ずっとずっと痛いんだ……」

彼女にも、顛末を知る権利があるから。

「……だから、僕は戻ってきた………
 思い出だけを取り戻して、人知れず去っていくつもりだったのに……」

その場限りだ、全て言ってしまうしかない。

「……僕は、弱いから………
 僕は弱いから、この島から去るわけ………
 門の生きて居られるかなんてわからない。未来なんてわからない。
 それでも、今まで通り足掻いて…生きていくしかないし……」

自分の心が弱かったことを、自覚している今ならそう言える。
これが全てであると。

「………心の弱さは、きっと……どうしようもない………」