2021/12/09 のログ
ご案内:「第二教室棟 屋上」に暁 名無さんが現れました。
■暁 名無 > 三日月が浮かぶ空の下、座りなれたベンチに腰掛けて、俺は状況を整理していた。
確かに──確かに俺はこの屋上で、この時間軸の常世島に別れを告げて未来へと帰った。それは間違いない。
それが何の因果か、またこうして屋上のベンチに腰掛けて、夜空なんか眺めている。
……正直、どういうことか未だに把握はしきれていない。
「……しかも、俺が帰ってからこっちは1週間ちょいしか経ってないと来た。」
その上、未来に帰るときに失う筈だった時間渡航の代価、この時間軸に住む人々の俺に関する記憶は、……どうやら残ったままらしい。
まあ記録の方はきれいさっぱり、俺なんて元から居なかったかのように別人に置き換わっていたけれども。
「……これだから上位存在ってのは」
苦々しく呟いてみたところで、当の上位存在は本来居るべき時間、居るべき場所に在るのだろう。
もしかしたら、未来から今この瞬間、俺の事を視て嗤ってるかもしれないが。
■暁 名無 > 「こっちは俺の事なんて綺麗さっぱり、無かったことになって俺はあっちでこれまで通りに暮らしてく──筈だったろうに。」
だが現実はそうは行かなかった。
時間渡航で失われる『記憶』は未来の世界の方だった。
俺が凱旋した未来では、此方とはあべこべ、俺の記憶だけが残り、誰一人として俺の事など覚えていなかった。
それこそ十年来の友人も、誰も彼も。最初から俺なんて居なかったように生活し、そして現れた俺に胡乱な目を向けた。
「流石にアレは俺も心折れるかと思ったわあ……」
久し振りに話をする友人たちに『……ごめん、どちら様?』と異口同音に言われる経験など、出来ればもう死ぬまでごめんだ。
まあそれはともかく、俺は確かに未来に帰った。居場所なんて、無かったけれどだ。
■暁 名無 > 「──そんで、まあ誰も俺の事覚えちゃ居ねえんならってんでまた世界中ブラついてみる事にして、」
つまるところ、逃げた。
遣り場の無くなった懐かしさとか、それまでの思い出とか……そういうものから、逃げる様に彷徨った。
俺一人が記憶喪失ならともかく、俺以外の全ての人間が記憶喪失。そうなったら、異物はどう考えても俺の方。
いっそ俺の記憶も無くなっててくれれば良かったのに、そうならなかったのは、最初からそのつもりで居たのだろう。
本当に、本当に上位存在って奴は度し難い。
「で、何年くらい彷徨ったっけかな……10年くらいか。
だからええと……今この時からひぃふぅ……20年くらい未来か。」
そして当てもなく彷徨った先で、俺は転移に巻き込まれた。
中東の、紛争地域で。明日をも知れない人々に簡単な支援とかしてる最中に。
■暁 名無 > 「まあ転移する直前の記憶とかは曖昧だけども。
あの子ら、ちゃんと生き延びてんのかな……」
よくよく思い返してみると爆発音とかも聞こえた気がする。
もしかすると転移の瞬間、俺自身の身に何か起きたのかもしれないが……
まあ、今はそれを確認する術は何もない。気が付いたら転移荒野に居て、自分の目を疑った。
「で、とりあえず状況確認の為に人の居るところに行ってみたら……」
この世界の人間は、俺の事を覚えていた。
いや、どちらかと言えばその瞬間に思い出した、って方が正しいのかもしれない。
まあ、覚えていたのは暁名無としてこの世界で過ごした俺のことをであって、本来の──まあ、本来この世界に居る俺の事では無かったけれど、だ。
■暁 名無 > その後はまあ、学園の方に確認に行ったらみんな覚えてるのに俺の在籍記録は無いわ、
幻想生物学は本土から別の研究者が担当する予定になってるわ、
勝手に改造してた研究室は空き教室どころか懐かしの「幻想生物学教科準備室」として残ってるわでちょっとした騒ぎになった。
後任が居る以上、そして俺が教師をしていた記録が無い以上はすぐさま教職に戻れるわけではない、と説明されたが、まあそりゃそうだ。
「というわけで、これまた懐かしの非常勤暁先生の爆誕ですよ。
あの激務の日々が無かったことにされるのは、非常に、非ッ常~~~~~~に納得いかんけどもな。」
それでもまあ、俺を知っている人が居た、ってのはそれだけで何だか救われた気はしたんだよな。