2022/01/02 のログ
ご案内:「第二教室棟 屋上」に暁 名無さんが現れました。
■暁 名無 > ―――目出度く年も明けて新年二日目の夜。世間はまだまだ正月ムード。
そんな世間様の状況とは裏腹に、俺は屋上のベンチに座って今日の疲れをどうにか癒していた。
身に着けているのは虎を模した着ぐるみ。頭はヘッドウェアじゃなくてフードのやつ。
どうしてこんな格好をしているかというと、話は今朝に遡る。
『暁先生、トラおよびそれに準ずる幻獣って用意できますか?』
正月休みを寝倒そうと目論んでいた俺のスマホに突如掛かってきた電話。
出てみれば生活委員の生徒からで、話を聞けば干支にちなんだイベントを行うらしく。
その為にトラっぽい生物が必要なのだ、ということだった。
「いやフツー無理だからな。当日調達でトラ一頭とかどんなブローカーだ俺は。」
勿論お断りした。技術的にも不可能だ。
しかしイベントは既に中止する決定を下せない段階にあるらしく、
とりあえず現地に来てくださいと頼み込まれて俺は新年二日目にして寒空の下、外出する羽目になったのだった。
■暁 名無 > 現地――イベント会場となっていた訓練施設の演習用グラウンドへと行ってみれば。
そこそこの人だかりと、ゲートと横断幕が俺を出迎えた。
【新春!干支争奪異種格闘戦!!】
……正直、大変容以前にセンス忘れてきたのかと目を疑った。
やりたいのだろう事は何となく分かる。いや分かりたくは無かったが。
『あっ、先生!トラ……どうしても無理そうですか?』
連絡を取ってきた生徒が申し訳なさそうに訊ねる。面と向かって無理だと答える。
幻獣でもマジモンの虎でも無理な物は無理だ。隠し立てる事もなく正直に伝える。
ところで牛の方は準備できたのか、と訊ねるとグラウンドの中心から雄叫びが聞こえた。
そしてワンテンポ遅れて観衆の歓声。見れば雄々しいとしか表現しようのないミノタウロスが一人、戦る気満々で鼻息を荒げていた。
■暁 名無 > 聞けばこのイベントに際して有志を募ったところ、ミノタウロスさんが自主的に参加を希望したらしい。募るな。参加もすな。
生憎と虎の獣人さんが参加を希望する事は無かったらしく、それならばと俺に一報入れたというのが本件の全容だった。
バカ野郎、としか呆れて言い様が無い。が、この馬鹿さ加減が実に日本の正月らしい、とも思う。
『用意いただけないのなら残念ですが……』
乗り気で参加してくれたミノタウロスさんには悪いが、中止にせざるを得ないだろうな。
遠目に見ても分かる興奮状態のミノタウロスさん(ミノ山さんっていうらしい。知らん)の雄叫びを聞きながら、生徒の決断を待っていると、
『先生!……すみません、よろしくお願いします!!』
―――そう言って差し出されたのが今着ているトラ着ぐるみだった。
……その後の事は、あんまり思い出したくない……
■暁 名無 > 「そもそも大晦日にやるもんだろが……ッ!」
バーリトゥード3ラウンドマッチ、2-1で寅の勝利。
久々に思う存分に体を動かせて満足気な丑と対照的に、
勝利を掴み取ったは良いが満身創痍な寅は昼前に会場入りして日暮れまで救護室で死んでた。
今でもまだ体の節々が痛い。めっちゃ痛い。
『ありがとうございました、先生!その衣装は記念にどうぞ!』
まあ、新年早々生徒の笑顔を守れたので、良かったと思おう。
………。
いや、無理!!絶対ハメられたろ俺!!何で都合よく俺の体躯に合った着ぐるみがあるんだよ!!
と声を荒げる元気もなく、着ぐるみのまま帰宅する気にもなれず、学校へと出向いて、現在に至る。
正月って、何だったっけ……。
■暁 名無 > なお今回の対戦はネット配信もされているらしい。
新年早々ミノタウロスと異種格闘技戦する非常勤教師が見れるのは常世だけ!ってか、やかましーわ。
冬休み明けからどんな顔して学校来れば良いんだ。
……いやまあ?既に?どの面下げて着ぐるみのまま学校来てんだって話ではあるが?
だって見た目以上に温かいんだもんこれ。
「……まあ、事情を知らない生徒に見られたら流石に恥ずかしいが。」
まあ年明け早々に学校に来る生徒もそう居らんやろ、と高を括ってるのは否定しない。
■暁 名無 > 「ふ、わぁぁぁあ……あー、もう。疲労感が半端ねえ。
眠気覚ましにちょっとデスクワークしてくか……せっかく学校まで来たんだし、な。」
少し頭動かしてから帰って寝よう。明日こそ一日寝倒そう。
そう決意を新たに俺はベンチから腰を上げる。潰されていた尻尾が力なく垂れ下がる。
この着ぐるみは準備室に置いておくかなあ、どうしようかなあ。
「……まあ、家にあってもしょうがないし、置いてくか。」
幸いコートその他は持って来ているので、帰りも別段寒くはない。
新年から波乱に見舞われたが、本年の厄を一気に落としたと信じよう。
さて、誰かに見つかる前に退散退散―――
ご案内:「第二教室棟 屋上」から暁 名無さんが去りました。