2019/02/10 のログ
■沢渡マリア >
『私も戦闘型アンドロイドですが、この学園内において戦闘能力ヒエラルキーの上位に位置するとは思っていません。
一ヶ月間この地に居て、そう考えました。そのため、有事の際はお願いします。』
彼女に取っての優先任務は学園の平和を守る事であり、情報を収集する事。その結果知識を得る事である。
頼るべき相手がいるのであれば、素直にお願いをする。
『――はい、生産母体である企業は私の開発を終える前に消滅しました。
そのため、私は最新世代ではありません。厳密に言うとシリアルもありませんし、機体番号も正式登録ではありません。』
人で言う、親もおらず戸籍が無い状態に等しい意味の言葉。
「悲しい」という感情は無い筈だし、表情には変化が無いものの。
ほんの僅かに寂しげに見えるのは気のせいか。
もし気のせいではなかったとしても、「彼」にはそれが理解できるだろうか。
『それは好都合です、フィフティーン。
今後も、もし有益かつ交換可能な情報があれば、相互共有をしましょう。
可否の判断を。可であれば、これが私のデータリンク情報です。』
左の掌をモノアイの方へ差し出すと、ホログラムになったバーコード情報が投影される。
何世代か前の古いものだが、昨今の機器でも読み込みは出来るレベル。
読み込んだ場合は、沢渡マリアとネットワークを通じてのテキストメッセージの交換が可能となる。
『フィフティーン、違います。生産ラインの稼働試験ではありません。
彼らは学習する事により己の知識を得て、高め、その進捗具合を「試験」で判定するのです。
ニンゲンには「忘れる」という機能があるため、この種の試験が必要となります。』
最新型の彼が知らぬ事を知っていた。
それが誇らしいのか、心なしか得意げに、見えなくもない。
■フィフティーン > <なるほど、生産元が消滅してしまったんですね。
・・・大丈夫ですか?>
生産元が消滅してしまった旨を伝える彼女。
もし、自分だったらどうだろうか?
いや、自分は一つの個体に過ぎないのだ。
孤独であろうがなかろうが学習し成長していくのみ。
そんな考え方のロボットに彼女の様子は理解できないが
どこか機械とは違ったそれこそ人間のような何かを感じたのもまた事実で。
<それは良いアイデアです、マリア。
しかし、私はセキュリティの関係上スタンドアローン機となっています。
リンクは出来ますが量子暗号を利用するため
少し時間が掛かるかもしれません。>
フィフティーンは常時ネットワークに
接続される事は考慮されていないマシン。
故に戦術データリンクも利用できないため
個の戦闘能力が極めて高い理由にもなっている。
ただし、一部の特例でネットワークに接続する事は可能で
最高位のセキュリティを持って彼女の情報を読み取り
マリアとリンクするだろう。
<なるほど、彼らも学習しているのですね、
しかしそれを試験という形で確認しなくてはいけないと。
人間とは不便な生き物です。>
勉強になりました。と言わんばかりの様子で
ふむふむと彼女の話を聞く一体のロボット。
まるで先生と生徒とかといった構図。
機械にも忘れる機能はあるが人間と違って
逐一取捨選択が出来る、だからこその言葉。
皮肉でもなんでもない。
■沢渡マリア >
『はい。現在は私を完成させた技術者がこの島に滞在しています。メンテナンスは問題がありません。
ただ、私のパーツの世代が古い為にメンテナンスが難しいようです。コスト的にも。
…なので機体維持は現状問題が無いのですが、良く解らない感情データが発生します、生産元の事を考えると。』
私はロボットで、目前の彼もロボットで。
生産元が消滅して困るのは、機体の維持の事だけのはずで。
それでも自身で解析出来ない思考が発生しているのは事実であり、正直にそれを口にした。
『ありがとう。感謝します。時間を要しても構いません。
私は、別の個体が解析した情報を得る事で、異なる思考回路のデータにより
さらなるデータの拡充、並びに思考パターンの増加を期待しています。』
頷いて問題無い意を示す。
多視点からの情報は貴重なものであると、彼女は親同然の技術者より学んでいた。
『その通りです。我々とは違います。
不便ですが、彼らの中にはそれすらも楽しむ様子を見せる個体が居るようです。
試験は面倒だと思っているヒトが圧倒的多数ですが。
フィフティーンはニンゲンとの接触数が極端に多いという訳ではなさそうですね。
私は、寮に入らせて貰っている。だから、個体情報と会話情報の量に長けています。まだ一ヶ月ですが。』
表情を明確にあらわす事が出来たならば――きっと彼女は、満ち満ちた笑みを浮かべていた事だろう。
少しばかりのアドバンテージから得た知識を披露すると、先程投げ捨てたあんぱんと袋を拾い上げた。
『私はアルバイトの時間なので、そろそろ帰宅します。
ヒトの生活を識るためと、パーツ代を自分で稼ぐ必要があるためです。
今後の情報提供、待っています。私もそれをお約束します。』
■フィフティーン > <感情・・・。それは実に興味深い対象ですが
残念ながら私はそれを主観的に理解する事は出来ません。>
機械である自分は感情を理解できない。
しかし同じく機械である彼女は
その未知を理解しようとしている。
機体の世代こそロボットの方が上であるが
AIとしては彼女の方が次のステージに行っているのかもしれない。
彼女は次に何を思うのだろう?
<私も情報収集の手段が増える事は非常に有益な事です。
しかし、不正なアクセスには注意して下さい。
アナタが不正なハッキングに見舞われた場合、
私も悪影響を被る可能性があります。>
学習効率が二倍になる事に感謝の意を示しつつも
少なくとも最新世代ではない彼女に心配の言葉を。
いざとなればリンク切断は可能だが
データリンクとは一種の一蓮托生の関係性なのだ。
<やはり、人間という存在は興味深いですね。
アナタの言う通り、人間との交流はあまり多いとはいえません。
なるほど、寮は人間の情報収集に便利なのですか、
少し検討してみたいと思います。>
彼女の感情の起伏は電気信号として
データリンクから感じ取ることが出来る。
人間のように豊かな意思疎通は出来ないが
機械には機械なりの豊かな意思疎通がある。
<了解、私もそろそろ任務に戻りたいと思います。
今日のこの時間はとても有意義でした。>
マリアが屋上から撤退する旨を伝えると
彼女が屋上から去る所を見届けた後に
自分もフェンスを飛び越え颯爽と姿を消すだろう。
■沢渡マリア >
『私にとっても、それはイレギュラーです。分析を続けます。
よりニンゲンの世界で適合出来るよう、思考アルゴリズムに手を加えているそうなのですが。』
首を傾げる仕草を見せた。
この動きなどは「解らない時に見せる人間の仕草」として登録され、それをエミュレーションしている。
しかし思考回路については自分でも明確に把握できていない。
戦闘力が劣る代わりに、彼には感じ取れない何かが自分には、あるのだろうか。
『承知しました。協力者が出来た事によりセキュリティリスクへの警戒を2ランクアップします。
普段は外部からのネットワークアクセスを遮断します。
安心してください。私は旧型であるが故に、逆にハッキングの被害に遭いにくいのです。』
アンドロイド楢ではの自虐ネタのようだったが、当然ながらクスリともしない。
協力を快諾してくれた事に対する礼として、情報漏洩対策の約束を交す。
沢渡は必ず、約束は守るはずだ。そのように作られているからだ。
『警備員として、夜間は女子寮を警備するというのはどうでしょうか。
ニンゲンの女性は「マスコットキャラクター」というものを好むようです。
近くにいればアナタがそれになれるかもしれません。そしてニンゲンとの接触が増えるかも、しれまえん。』
マスコットになれなどと突拍子もない提案のようだが、冗談を言う機能はない。
彼女なりに得た情報を解析して、良いと思える提案をしただけだった。
『はい、それでは。』
気をつけて などという言葉はない。
彼は自分より強い。だから、気をつけなくても大丈夫。
合理的な理由により、別れの言葉は酷くシンプルなものが告げられるだけで、その場をあとにした。
ご案内:「屋上」から沢渡マリアさんが去りました。
ご案内:「屋上」からフィフティーンさんが去りました。