2022/02/10 のログ
■暁 名無 > 「……お願い?」
本に栞を挟んで閉じ、清水の言葉に自然と眉根が寄る。
人に助力を求めに来た上でのお願いとなると、尚更キナ臭いというか……
「なるほど、他言無用なわけか。
まあ内容次第によっちゃ頷くしかないな、余計な混乱、パニックを引き起こす様な事は避けたい。」
ただでさえ落第街でひと悶着発生中だ。
さらに騒ぎを重ねるとなったらとても試験どころじゃないだろう。
俺の予想は、清水の語る内容によって裏打ちされていく。
取り出された白黒写真に目を落とし、俺は更に眉間のしわを深めた。歪な……これは、ウィルス…か?
「ふむ、ふむ……よくもまあこんなの見つけたな。
まあお宅らの活動の仔細は聞かんでおくが……そう、か。
宿主が……なら、知らぬ存ぜぬは出来ないな。」
これが人間相手なら多少聞かなかったフリもするが、他の生き物であれば話は別だ。
「教えてくれ、詳細を。」
■清水千里 >
その言葉を確認するかのように、清水は頷いて話し始めた。
「このウイルスをどう発見したか、それは今のところ伏せておきましょう。
重要なのは二点。
まず、現在のところまで、人間を含む動植物への感染は起こっていません。ある特定の幻想生物のみがその宿主となり得ます。
そして、第二点。ある意味これが最も大事なのですが――」
と、清水は一旦躊躇うように言った。
「宿主は4日前に死亡しました。死因は全身多臓器不全。
病理解剖の結果、壊疽した臓器内部にはある液体が滞留していることが分かりました。
炭化水素を主成分として、微量の硫黄、窒素、酸素、金属などを含む、黒色の液体。
地球上の物質で言えばそれは――石油です」
と、清水は溜息をついた。
「このウイルスは、現在発見されている石油生成細菌などとはわけが違います。
宿主の有機体組織そのものを分解し、石油に変えてしまう。
事実、宿主の死体は48時間以内に完全に分解されました」
「我々が知りたいのはただ一点。このウイルスの分解特性が、特定の幻想生物との結びつきに起因するものなのか、それとも無差別になのか、という点です。
――この重大性がお分かりですか?」
■暁 名無 > 「――なるほどな。」
静かに清水の言葉に耳を傾けていた。
現状は特定の幻想生物にのみが宿主となり、宿主となった個体は身体の内側から石油へと分解されていく。
俄かには信じがたい話ではあるけれど、そんな“信じられないこと”が平然と顔を出すのがこの世界の常だ。
「ただ、それを調べるには複数の種類の幻想生物に敢えて感染させなきゃならないだろう?
まあ他の種に感染個体が出ていないのであれば、その過程は飛ばしても良さそうなもんだが……」
ふむ、俺は下顎を軽くつまんで考える。
疑問は多々あれど、ひとまず単刀直入に訊こう。
「事態は判った。重大性――もまあ、解った。
それで、お宅らは俺に、具体的に何をして欲しいのかな?」
状況は分かった、が俺に声が掛かった理由が分からない。
感染個体を探し出すとか、そういう事ならまだ分かるんだが。
■清水千里 >
「あくまでシミュレーション・モデルによる仮説ですが、
このウイルスは宿主を広げるには致死性が高すぎるのです。
他の個体に感染しようとしても、その前に宿主を殺してしまう。
宿主が死ねばウイルスも破壊されてしまいますから。
――われわれがこのウイルスを確保できたのは、まさに偶然なのです」
と、なぜ他の『感染個体』がいないのか、説明する。
「先生には、その幻想生物とウイルスにどのような関係があるのか、調べていただきたいのです。
つまり、『つながりがあること』を前提にした調査を。
もしそれが発見できれば――つまり分解のプロセスがあくまで特定の幻想生物の体内の特殊な環境下でのみ起き、
それが万が一人間に感染しても単なる日和見菌として働き、その生命を害さないという保証が取れれば、
我々は安心して眠れます」
と、いう。
「ついては、調査に当たり十分な額の協力金はお出しします」
■暁 名無 > 「なるほど。しかしそれは……」
生態学じゃなくて生理学の領分ではないか。
そう言いかけて言葉を飲み込む。生態学の学者が少ないのに、生理学の学者の数なんて言わずもがな。
そもそも幻想生物の取り扱い自体が既存の生物の延長上だ。
「………、わかった。
調査には協力しよう、今回の件の詳細を紙面で俺の研究室……や、今は準備室か。に届けて貰えば確認次第行動する。
ただ、協力金もだけど1つだけ条件を提示したい。良いかな?」
■清水千里 >
「すぐに届けさせましょう。
ただし、万一の危険を考えて、実際にウイルスを取り扱うときは実習区にあるわれわれ管轄の研究所を使用してください。
BSL(バイオ・セーフティー・レベル)4の設備が揃っています。先生以外の関連各分野における優秀な研究者も」
清水はそういって、暁先生の要望に応える。
「構いません。できる限りのことはしましょう。なんでしょうか?」
■暁 名無 > 「頼んだよ。
施設の利用は了解した、それはまあ当然の事と言えば当然だ。
研究者に関しても了解、正直そこまで環境整ってるなら俺の出る幕は無いんじゃないかと思うんだけど……」
研究区の人らで何とかならない?なりそうでしょ……
一介の非常勤教員を駆り出す理由が分からん。いや、幻想生物の学者だからって事だとは思うけども。
「うん、他言無用と言われたけど、助手として生徒を一人つけたい。
構わないかな?」
■清水千里 >
「……信用できる人間ですか?」
と、清水は尋ねる。
OPSEC(作戦保全)は極めて重要な事項だ。とくにこういう案件については。
「一切他言無用という条件を守れるならば。なにせこの案件は重要機密ですから。
もちろん、我々も警戒はしていますが」
暗に、通信を監視しているとでも言いたげなように。
「背景に利益背反のある人間は一切信用できません。私が先生をお誘いしたのもそういう理由からです。
おわかりかもしれませんが、石油が生成できるウイルスというのは――単に公衆衛生上の問題というだけでなく、
繊細な政治的問題でもあるのですよ」
■暁 名無 > 「もちろん。」
清水の問いに、俺は一分の躊躇いもなく頷いた。
口の固さも含め、多分俺が現状で最も信を置ける相手であることは疑いようもない。
流石にそこまで信頼してると本人に告げたら、悪い物でも食べたのか疑われそうな気はするが。
「仮に何かあった場合、全責任は俺が負うよ。
というかその手の信用問題は俺の方が難ありだと思うんだけどなあ……」
大抵金欠だし。お喋りだし。見ての通りちゃらんぽらんだし。
「分かってるさ。石油が任意に生成出来るなんて、世界のエネルギー事情が引っ繰り返るもんな。
けれど、信用は出来る。俺が保証するさ。」
■清水千里 >
「では、すぐにIDカードを用意します。
失礼ですが、その助手の方のお名前は?」
彼がかなりの信を置いているのは間違いないようだ。
清水としても人手不足の現状、そこまで言われては納得するしかない。
「折角ですが、全責任は私が負います。この案件に関する最高責任者は私ですので」
そう、きっぱりとした口調で。
■暁 名無 > 「ああいや、今すぐじゃなくても良い。
俺が推したところで本人が拒めばそれきりだし、一人で取り掛かる事になるから。
こちらで本人の意思確認をしてからIDカードを作成してもらう、で良いかな?」
ひとまず俺の分だけあれば良い。断られない自信も無いし。
お前さんの分のIDカードもあるからーとか事後報告したら凄い目で見られそうだし。
「まあ……つまり、あれだ。助手が何かした場合、俺のした事として、清水が責任を負う。
こういう図式で問題ないだろうか?無いよな?」
無い筈だ。というか本人が居ないところで責任の有無を決めてくのもちょっと心苦しいが。
まあ断られた時はその時はその時だしな……。
「とりあえずこっちからは以上。
他に何か清水の方からあれば、まあ書類にして後で送り付けといて。」
■清水千里 >
「分かりました。詳細は後で書面の形で届けさせますので、その時に。
それと、保存媒体として間違っても電子機器を使わないでください。情報漏洩防止のためです」
と、あくまで冷静にふるまう。
彼女に似合わず、どこか焦っているようにも見えた。
「では、私はこれにて。まだ他の先生方にお誘いに行かなくてはならないので」
と、書類リストを目を落としながら、呼び止められなければそのまま部屋を立ち去るだろう。
「――ああ、そうだ。一つこれだけ、言い忘れていたことがありました。」
と、扉を閉じる前に、暁先生に声をかける。
「我々が《ペトロウイルス》と呼ぶそのウイルス――宿主は幻想生物ですが、
ウイルスは違います。このウイルスは――2億年前、地球上に存在していたのです」
そういって、扉を閉じるだろう。
■暁 名無 > 「だと思ったからメールで寄越せって言わなかったんだよ。」
そういった機密情報の扱いは覚えがある。
というのも幻想生物自体がたまーに機密の塊みたいなのも居るからだ。宝石を排泄したりとかな。
「はいはい、ごくろーさん。他にも何人か声掛けるのね……」
なら尚更俺じゃなくても……まいっか。
さて、ひとまず清水からの詳細が届くまでは待機…の間に助手の件本人に確認しなきゃ…。
咄嗟に言った手前、正直頷いて貰えるか自信無いんだけどね凄く。
と、そんな事を考えていたら清水が此方へと声を投げた。
「―――は? 二億年前?」
こちらが呆気に取られてる間に、保健室の扉は閉められてしまった。
いやいやいや、どういうこった?
ご案内:「第三教室棟 保健室」から清水千里さんが去りました。
■暁 名無 > ひとまず、最後の疑問は置いといてだ。
読み掛けの冒険記を読み終えてしまおう。少しの間読む暇が無くなりそうだし。
――再び本を手に取り、ベッドに転がって有意義で怠惰な時間を過ごしたのだった。
ご案内:「第三教室棟 保健室」から暁 名無さんが去りました。