2019/02/06 のログ
鹿波 依月 > 「そ、即答……」

よく分かっていらっしゃる。
そう言わざるを得なかった。
言わなかったが。
それは彼女の小さなプライドを守る小さな小さな聖戦であった。

「ん、なるほどねえ。クールタイムは必要だかんね」

彼女にもわからない事はあるのだろう。
アンドロイド、と言う事であるが万能、と言う訳ではないのだ。
言を聞けば疲労(に似たようなものだろう)もするのだから。

「あー、えー。うん、二年だね。そうだね?」

思わず上擦り、最後は疑問形へと。
きっと悪気はないのだろう。
そう思いながら一応プリントに目を通して見るが。

「―――」

しばしの沈黙。

「えーと……ね?」

何を隠そう彼女も原告は苦手である。
いや得意なものなどほとんど無いのだが。

「うん、今そこまで。そこまででかかってるから!」

何も言われていないのにとりあえず言い訳をし始めるのであった。

沢渡マリア >  
相手の反応を見るや、ほんの少しだけ。
微かにだが表情が移ろいだ気がする。申し訳無いような、そんな。
これはきっと言ってはいけない事だったのだと理解をする。
そして、これ以上言葉を挟んではいけないだろうと気付いたため、黙っていた。

『はい、ニンゲンと同じです。適度な休息は効率化の為に必要…… …カナミ?』

沢渡の想像では<こんなもの上級生の私にかかればオチャノコサイサイよ>という
回答が来るのではないかと思っていた。
どうも、この当ては外れたらしい。

言い訳を聞けば軽蔑やその他ネガティブな感情を顔に浮かべる事も無くて。
今度は先程よりも、更に申し訳無さそう(な気がする)に眉が動いて。

『カナミ。
 すみません。 

 貴女は、成績が悪い人でしたか?』

謝罪と見せかけて、直球を投げつけて来た。

鹿波 依月 > 「大丈夫!すぐもう!で」

そこまで言いかけて。

ドス、と見えない矢印が彼女の胸に突き刺さる。
小さなプライドという名の門はその見えない攻城兵器のような鋭さと重さを併せ持つ矢印にあっさりと開門を許してしまい。
謝罪と言う名の直球は狙いを誤らずにそのプライドを開門と同時に砕き切ったのであった。

「……はい」

がっくしとソファに全体重を預け。

「正直に申しますと大変わたくしは学力的にはい。そうです。わるいひとです」

ぽつり、ぽつりと。

「イチネンセイは何とかなりましたけど現時点でタイヘンギリギリでございます」

口調が変わる程に追い詰められた精神は何とも言えない下級生が聞いても反応に非常に困る言葉の数々を紡ぎ出した。

沢渡マリア >  
< みなまで言わせるな。ニンゲンにはプライドがあるのだよ。 >

沢渡は親の代わりとなる人物からそう学んでいた。
だから、相手の口から言わせるのはいけないものだと考えたのだ。
それが徒になってしまったらしい。

顔には出ないものの、困惑しながらの思考回路が回って、回って、回って。

『…おほん』

とても不自然で、不器用で、下手くそな咳払いをした。

『カナミ、大丈夫です。一生懸命やれば、アカテンは免れる事ができるはずです。
 今は無理せずに休みましょう。

 ……では逆に カナミが得意な事は、なんですか。聞かせてください。知りたいです。』

隣のソファに腰を下ろして顔を覗き込みながら問う。
ポジティブな話題で彼女のモチベーションを上げる狙いと、
純粋に知りたいという、二つの理由からの問いかけである。

鹿波 依月 > 「そうね……アカテン、免れたいね……」

へへっ……と黄昏ながら。
何処か何時もより影が多くなったように見えないでも無い表情であった。

「ん……得意、ねえ」

彼女の咳払いで色々と察する。
彼女なりに気を使ってくれたのだろう、そう考えて。
気を持ちなおして隣に座るマリアの場所の余裕を取るためにやや横に寄りつつ。
改めてそう問われれば。
多少逡巡。
そもそもどうにかというラインぐらいでしかないものであるので、勉学関連はほぼほぼアウトとセーフのデッドラインであり、そう言う意味で言うのであれば。

「強いて言えば運動……とか?」

勿論赤点は無い、という程度の答えではあったが。
ペットボトルを手に取り軽く唇を湿らせつつ。
そう彼女へと答えた。

沢渡マリア >  
『――これはアイシュウを感じます。カナミが大人びて見えます。』

アイセンサーには検知されない感覚を、何となく感じ取っての発言。
難しい単語は憶えて間もないので、誤用も多々あるがチャレンジ精神で普段から使ってみている。

身動ぎせず、焦らせないように、視線を向けながら答えを待って。
やがて返ってきた答えを聞けば。

『運動。少し、イガイです。』

アンドロイドにも意外という感情があった。
正確には想定した回答の上位の中に無い答えだったという事だろうけれど。

『サンプルは少ないですが、カナミの行動記録から推察するに。
 あまり活発に行動している風には見えませんでした。
 寮でも行動速度が他の女子の平均速度の75%程度となっています。
 ノウあるタカはツメを隠す…ですね。』

人間観察も彼女の勉強の一つで。
休日や夜、空いてる時間では寮の談話室なんかで本を読んだりしながら
寮生の行動を記録していたようだ。

『では、戦闘行為も得意、ですか。この地に居るニンゲンは、そのタイプも多数いるようですので。』

鹿波 依月 > こんなことで大人びて見えてほしくは無かった!
そう、心で叫びながら。

図書館は静かにしなければならないのだ。

「ん、まあそらね。勉強に比べればまだ運動の方が救いがあるって程度の話」

その感覚は間違ってない、と暗に肯定しつつ。
ゆっくりとペットボトルの蓋をしてテーブルへ置いて。

「ま、そんじょそこらの一般のヒトと変わんないよ多分ね―――あはは、隠してない隠してない」

苦笑しながらぱたぱたと手を振る。
彼女がこの学園へやってきたのはひとえに異能が発見されたからで。
そしてその異能は彼女の身体的な強さにはほとんど関与しない。

「あんましキリキリ動くつもりもって……よくよく考えたらわざわざそんなトコまで見てるのね」

その点には素直に感心する。
処理速度は勿論人より遥かに早いであろうし。
何より彼女からは色々なものを見て学ぼうと言う意志を感じた。

「戦闘、ねえ」

元々ジト目だった目が少しばかりまた細められて。

「―――いやー環境と用意次第、かなあ」

あっさり表情を戻した。

沢渡マリア >  
いろいろな意味で頭の固い風紀委員も此処にいるため、
騒いだら即お縄…とはいかずとも、指導が入るところだ。騒がないのは賢明であった。

機能的には必要無い、ただの繰り返し動作としてインプットされている瞬きをしながら話を聞いて。
その内容はメモリーにしっかりとインプットされる。

『確かに、そうです。異能を所持しない一般的なニンゲンと変わらないように、見えます。
 学園内には明らかに、フツウではないと解る生徒もいますが。』

鹿波依月の言動は、異能に特化し一般的な人間と懸け離れた者とは思えない――というのが、
沢渡のこれまでの認識だった。
実際本人の口からもイメージと乖離の無い話を伺えば、その情報は更に確固たるものになる。

『はい、まだ、ベンキョウ中の身ですので。色々なヒトを、いろいろなコトを、知りたいのです。
 カナミの事も、もっと知りたいと思っています。』

相手の顔を見据えて恥ずかしげも無く告げる。
命令が故か、それとも人工知能による欲求なのかまでは、自身でも理解していないが。

『――承知しました。貴女の能力が活用出来ない環境、かつ、危機的な状況であれば、
 近くの風紀委員を呼んで下さい。必ずカナミを助けてくれるでしょう。』

自分が助けに行く、などと不確定で無責任な事は、アンドロイドは口走らなかった。


『さて。 そろそろ、警邏の時間です。私は行きます。』

プリントとノートを持ち直し、長い銀の髪を揺らしながら立ち上がる。

再度見下ろす格好となると。何か気付いたように、彼女の髪を見ていた。

鹿波 依月 > 「そうねー。ああいう手合いとはやりあいたくないよね?」

降り掛かる火の粉は払うつもりではあるがそもそもそうならないように立ち回りたいものである。

「……その顔で言われるとすっごい殺し文句だからね?」

わかっちゃいるものの、少しどきりとしながら。

「ま、私何かでよけりゃテキトーに協力したげるよ。テキトーに。あ、勉強以外でね」

慌ててそこの所はヨロシクね!と言わんばかりにそう付け足して。

「そうならないように努力はするよ。めんどーだし」

風紀委員として諸々の方とお付き合いはしたくない、そういう気持ちも込めながら。
そう、答えた。

「はいはーい。私はもーちょいゆっくりしてくよ。あ、後何だろ。多分だけどその内そのバツの場所も―――理解るようになるんじゃない?」

そう、締めくくった。
しばらくの楽しい(ちょっと心がささくれだったが)歓談もこれで終わり。

「ん?何?何か埃でもついてる?」

彼女の視線が頭の辺りにあるのに気付き、適当に髪を弄りながら。

沢渡マリア >  
『可能であれば交戦は避けたいですが、治安を乱す場合はその限りではありません。』

声の抑揚は無いが言っている言葉は強いものであり。
風紀委員である以上、それは避けて通れない。

『コロシ……? 私は、カナミを殺害するつもりは一切ありません。
 むしろ本日、保護の対象と認識しました。だから、安心して下さい。』

私が傍にいる時は、少なくとも守ってみせるという、意思表示。

『ありがとうございます。ようやく今の生活を、ニンゲンらしいと言えるラインまで
 近づける事が出来てきたと感じています。それでも助けを請う時は、来るでしょう。』

小さく頭を下げて、礼を述べる。
この程度のコミュニケーションは、問題無く身について来た。

『承知しました。サボ―――休憩を終えたら、勉強も忘れないよう。
 試験が良い結果となる事を、願っています。

 …答え、解るようになるのでしょうか。』

プリントに視線落として、ぽつんとした呟き。
今の彼女にはたどり着けない答えだけれど、いつか解る日が来るのだろうか。

ノートに挟んでそれを小脇に抱えて。
最後に一言。

『私の美的感覚はニンゲンのそれと異なり、
 経験とラーニングによる統計学的見地からの発言であるという点を含めての話ですが。

 ――きちんと手入れをすれば、カナミは、もっとキレイになると思います。
 ノウあるタカが、ツメを隠してはモッタイない。

 それでは。』

そう告げると、来た時と同じ表情、同じ歩調で休憩室を去って行った。

ご案内:「休憩室」から沢渡マリアさんが去りました。
鹿波 依月 > 彼女のその言に関してはあえて触れない。

日和る彼女にはマリアの言は輝きが強すぎるから。
故に小さく微笑んだ。

「……あ、まあ難しいよね」

その真っ直ぐな答えに小さな微笑みは笑いになって。
うん、大変好ましいな、そう少しだけ思う。

「実は結構毒舌だよねマリア……」

言いかけてた言葉はしっかりと耳に入る。
つぎはぎだらけのプライドにまたヒビが入りかけるのをどうにか持ちこたえた。
こころはつよくなっていくのだ。

「はいはい、そっちもね。精々学びましょ?」

わかるようになるのかはわからない。
本人次第だろうし、だがまあ、この調子なら多分、わかるのではないか?
などと勝手に思ったりもしているが。

「……あーまあそっちもその内?多分?」

ぽりぽりと後ろ髪をかきながら。
恐らく今日一番困った顔をもうマリアが歩き去ったであろう方向へ向ける。

そうして彼女の放課後の一日は過ぎて行った。

明日から頑張るか、という完全にダメな決意を胸に。

ご案内:「休憩室」から鹿波 依月さんが去りました。