2019/05/10 のログ
ご案内:「図書館」にアガサさんが現れました。
アガサ > 「……うーん、難しい、なあ」

常世学園に在る大図書館群。その内の一つに私は居た。
昼夜に関わらず一定の明りを保つ荘厳な館内は、私の独り言と頁を捲る以外の音を持たない。
机の上には様々な、低位から高位までの魔術書が堆く積まれて壁のよう。
その内で渋面でノートを広げ、彼方此方の本を広げては記述を移して付箋を貼る。
同時に、術式の在り方を想起し、各々の象徴と力がどのように作用するのかを思案する。

アガサ > 肩をぐるりと回し、背凭れを軋ませて私は天井を視た。回廊状に2階が巡らされている所為か天井が高い。
その2Fの本棚の影内から、■■さんだったもののハスキーな声が聴こえた。大丈夫、あれは、幻聴。

「………でも、テストの点ばかりとも言えないものね。やれることはやらないと」

──私の魔術は術式として口頭詠唱を使う。
魔術とは自らの魔力を燃料として世界に現象を顕すもので、その魔力を正しく稼働させるエンジンが術式。
この式は人によって様々で、中には超感覚とも言える、五感以外の感覚を用い容易く行使する人も居る。
但し利点だけでは無く、魔術の行使に術者の精神面が強く作用する為に、事と次第で暴走する危険性がある。
そういった事への対策として、身体に刺青の形で術式を刻印し制御する。術式を道具に鏤めた魔導具を用いる──等もある。
尤も魔導具の魔術は道具に因るのだから多様性は無く、今日私達が使う道具と然程変わらないんだけど。

ご案内:「図書館」にアイノさんが現れました。
アイノ > くぁ、っと欠伸を一つ噛み殺しながら、金色の髪をツインテールにした少女が一人、図書館の中をうろつく。
こちらの言語を覚えるために借りた本を返却しに来たのだけれど。

「………迷ったな。」

大きな図書館は久々だ。 んー、と少しだけ唸り声をあげて、本のタグを眺めながら歩く。
彼女の持つ超能力に関する本だったはずだが、ここにあるのは魔術ばかり。

「……もうちょっと奥かなー、っと。」

ひょい、と覗き込んで、二度見。
見知った顔が黙々と本を読んでいる姿に、ほほう、と顔をにやけさせ、すそそ、っとこっそり近くにまで寄って、隣に座ってみようとする。
さも自然にさりげなーく。

アガサ > 遠くに視える灯りを視てから視線を本へと戻す。そして本やノートを睨み、鉛筆を顎先に添えて考え込む。
高位の魔術書はそれそのものが暗号文のようなもので、読む事自体が難解で読書と言うよりはパズルに近い。
ちなみに、常世学園では魔術の適性検査は当人が望めば受ける事が出来るし、余程特別な事でも無ければ向き不向きがはっきりとする。
例えば私の性質は『停滞』。呪詛の類に強い素養を見せる一方で、他の適正が著しく低い。
魔力親和性が高くても適正が無いとなれば、それは指向性の無い魔力をただ持っているだけ。
言わば電池みたいなものでしか無いのだから、その点私は恵まれたと言えるのだけど、肝心の術式構成力が低い。
勿論、改善は試みようと2年になってから魔術学の授業は増やした。でも、それだけじゃ良くない理由が出来た。

「んー……いやいや、泣き言は言っちゃあ駄目だよね。頼ってばかりじゃダメ──」

研鑽を積まなければならない。
魔的なる術であるならば、悪夢の幻を停滞させ、平穏の呪詛を以て消滅させるくらいやってみせないといけない。
そう意気込んだ所で、私の音以外の音を聞く。大丈夫、どうせ幻聴だ。

「…………あれ?」

でも一瞥するとそこにあるのは恐ろしいもの。ではなくて後輩の姿だった。
私は目を瞬いて、一度視線を外してからもう一度視る。……間違いなく、アイノ君だった。

「アイノ君……だよね?ああ、いや忘れたとかじゃあなくて、ちょっとだけ確認」

こんな所に居るなんて彼女も魔術の勉強かな?と首を判り易く傾げて訊ねてみよう。

アイノ > 「だよねって。
 私みたいな美少女、二人といないんだから忘れようがないっしょー?」

自然に隣に座ってみたところで、驚かれるは驚かれるが、思っても見なかった驚かれ方をして、ずるりと肘が滑る。
ほらほら、私だってば、と自分の顔を指さして。
なんだかんだで図書館でも肌の露出が大きい衣装を身に着けた、白い肌の自称天才少女。

「いんや、私は私で自分の能力の研究ついで。
 ここに寄ったのは道に迷ったってだけ。

 それこそアガサ先輩も魔術の勉強?」

首を傾げて尋ね返す。

アガサ > 「あー……いや、そのね。君の形をした幻覚かもしれない。から」

凡そ図書館には似付かわしくない服装。きっと、遊園地の方が向いている。
そういった格好のアイノ君に、私は少し言葉を濁して、けれども悲壮感の無い笑みを向ける。

「能力の研究ってことは異能関係かな。そして魔術棟に迷ったと……うーん図書館群、判り辛いものね。
そして、うん。私は魔術のお勉強中だよ。なんたってそういう科目を採っているからね!
アイノ君は~……魔術の方もやっぱり天才だったりするのかい?」

堆く積まれた本を退け、ノートを閉じてからくるりと椅子ごと向きを変え、
アイノ君の質問に答え、質問を飛ばす。

アイノ > 「……本物はもっと可愛かったかもしれないって?」

相手のことはわかっている。だから、茶化すようにころころと笑ってやって、ウィンクをばっちり決めておこう。
ふふん、と笑いながら、暗くならない様に。

「…そうだな、ちょっとわかりにくいっていうか、方向感覚が狂うな。
 特に魔術書が多いからかな………。

 ………あーいや、流石にそれは無理って奴だ。
 自分の能力だけで手一杯。
 後は、こっちで暮らすために言葉ももっともっと覚えないといけないしな。」

なんて、肩を竦めて。

「アガサ先輩は次は何を覚えるとか、そういうのあるの? よくわかんないんだけどさ。」

アガサ > 「うん、勿論だとも。アイノ君は今日も可愛いようで何より。
……と、そうだね。魔術書自体にも魔力が有る物もあるそうだから、
そういうのに惑わされたり……するのかな?余りに強い代物は禁書扱いで厳重に仕舞われているそうだよ」

ああ間違いなく本物だ。
私は安心して相好を崩し、次には視線を天井に投げて思考を俯瞰させる。
魔術書が多数ある場での幻惑効果。あるのだろうか、ないのだろうか。
気にはなるけれど、それは俯瞰するだけに何処かに漂って消えていく。

「ふむふむ、アイノ君は魔術適正を持たない……と、成程成程。
私はー……何を、ではないけれど、術式構成力があまり良くないから、それを何とかしたいかなって。
理解力……というのか、アイノ君で言うならフローターボード。あれを乗りこなす力。みたいな感じかな?」

或いは自転車を補助輪が無くとも乗れるかどうか。
と私は一応の説明をして、ノートを手に取り、適当な付箋の貼られた頁を広げて彼女に見せる。
頁には大変容以前の魔術儀式、の手順が記されていて、
各々のシンボルや力をどう心象に視覚化し、擦り込むかの手順等が描かれている。
自分で言うのもなんだけれど、かなり綺麗な字の筈さ。

アイノ > 「だろー?」

むふーん、と満足げに座ったまま、足を行儀悪く組んでから、近くの本を適当に手に取って、ふむ、と眺める。

「持ってるかどうかは分かんないな。まだそっちには手を出してないから。
 やり始めたら、もしかしたらそっちにも天才的な才能があるかもしんないよ?
 なんたって私だしな。」

ケケケ、と笑いながら相手の言葉を聞く。
ふーん、と返事をしながら、ぺらりとページをめくって。
さっぱり今んとこはわからん。

「………なるほどなー。
 私の方は体系だった学問にはなってないからさ。
 どっちかっていうと、そういうのは実戦実戦実戦、ってやりながら覚えるしかない感じなんだよね。
 できるだけ自分を追い込んで、その状態で使いきれるかどうか。
 今まで使ってなかったところまで全部引っ張り出して、……っていう。

 そういうわけにもいかないのがつらいとこだよね、魔術は。」

アガサ > 「それならそれで、君に色々聞けるようにもなるから有難いよ。
アリス君は魔術、適正無いって言っていたからさ」

悪魔のように笑うアイノ君を頼もし気に視た所で、私はそういえば、と手槌を打つ。

「そういえばアイノ君の異能ってどういう系統なんだい?
聞くだに随分ハードなようだけれど……魔術は、物次第では実地で使う必要もあるよ。
例えば『標的にきちんと当てれるかどうか』なんてのは練習しないと駄目、だよね?」

それから右手を指鉄砲の形にし、アイノ君に向けてばーん、と撃つ素振りをしてみせた。

「私のもそういう魔術だから、勉強をして、練習もして、だよ。
勿論そうじゃない魔術もあるけれど、まだ無理だから今は勉強の段階。
君みたいに天才だったらよかったんだけどね~」

手槌から指鉄砲。そして最後はアイノ君の頬をつつく槍。
人差し指が不躾に後輩の頬をつんつくと触れる。

アイノ > 「ふーん、まあ期待せずに待ってろよ。
 落ち着いたらそっちも覚えて完璧だと証明するからさ。
 ………調子はいいのかい、身体は。」

ふーん、と相手の言葉を聞けば、本をぱたんと閉じる。
さっぱりわからん、と堂々と言い放ちながら、足をぷらんぷらんと揺らして。
その上で、ちょっとだけ質問をしてみる。
幻覚を口にした人を、一人にさせたくない気持ちは、ある。

「いわゆる念動力。
 使い過ぎると脳が焼けるって聞いたけど、まあ、完全に使いこなせりゃ、危険なとこもわかるだろ。
 純粋に相手をぶちのめすにゃ、都合のいい能力だろ。」

カンタンに説明をしながら、指に触れずに掌の上空でペン回し。ひゅんひゅんとペンを回しながら、こんな感じ、と見せてみる。

「逆にアガサ先輩はどんな魔術なのかね。
 魔術も幅が広すぎて、わかんないんだよなー。」

アガサ > 「…………アリス君から色々聞いてる?ううん、聞いてなくても答えが変わる訳ではないのだけど……。
調子は……前よりは大丈夫。急に暗くなったり、不意で驚かされたりは困るけれどね。
この間の大雨の時の停電は……ちょっと、困ったかな!」

軽い調子の言葉の後に、何かを選ぶように抑揚を抑えた言葉。
アイノ君が慮ってくれていると判り、私は努めて明るく言葉を返す。

「でも、ずっと引き摺って怯える訳にもいかない。少しは、ほら、友達に良い所を見せたいじゃないか──」

本心を詳らかにした所でペンが宙を舞った。
私の言葉はそこで途切れて、ペンが着地をするまで瞠目しきりで現象を見守る。

「わお……凄いなあ!って脳が焼けるって君……」

着地した後、ついでのように言われた言葉に眉を顰めるけれど、
魔術について言葉が飛ぶと私の眉はもっと渋く顰める事になる。

「んー……私の魔術は停滞の魔術。呪詛だとかお呪いだとか、そういう系統。
炎をばー!っと出したり、突風を吹かせたり、氷の刃を降らしたり、電撃を放ったり、そういうのは多分無理。
こういうのも生まれ持った性質が大きいそうで、もしかしたら私の御先祖様にそういう魔術師さんがいたのかもしれないね」

苦く笑って、積まれた本の一つを手に取りアイノ君に見せる。
そこには大変容以降の魔術。教科書のように判り易く大別された現代の魔術、が神秘性の欠片も無くロジカルに記されていた。

アイノ > 「ならいい。
 ちゃーんと、そこらへんは分かってるからな。」

後ろから、だーれだ、なんてやらなかったのはそれが理由。
相手の状況くらいは、覚えている限りでは慮るさ。

「そう、なあ。
 良いところ………良いところか。
 かといって、いいところ見せるようなとこ、さっぱり無いだろ。」

苦笑しながら、少し考える。
訓練はしたが、実戦はまだだ。

「………停滞。 はー、なるほど、じゃああんまりアガサ先輩を弄ってると大変なことになるのか。 呪いみたいな。
 ……こういうのは、持って生まれたもんなのかね。
 私も、他のがいいって言って変えられるわけでもなし。
 似てるもんなのかもね。」

数多くの魔術が大きく分けられ、…あー、これならわかるかも、なんて呟きながら眺めてみよう。

アガサ > 「勿論そうだとも。いい所を見せるような所──私の魔術を見せるような所なんて無いほうが良い。
でも、もし有ったら?その時に何も準備をしていなくて、どうしようも無くなってしまったら?
……と、思うとね。なに、準備なんてし過ぎて無駄に終わってしまったらそれでいいんだよ。
それに、私の場合なら学業として形には残るから問題無いしね」

苦笑には苦笑を、言葉にはつい熱が籠って、帳尻合わせのように言葉尻が楽観的に跳ね上がる。
学業として、ではなく親友の為に勉強をしているのだと、覚られるのは少しばかり恥ずかしい。
誤魔化すように頬をぱちぱちと叩くのは、頬が赤くなるのを誤魔化す為。

「んふふーそうだとも。私のガンドは……あ、ガンドって言うのは判り易く言うと指先からこう、ぱーんって魔術を放つものさ。
これに当たると、その箇所が長時間正座をした時みたいに痺れたりするんだぞ。
きちんと構成力を高めて放てば気絶くらいはさせれる筈……と、そうだね。変えられたらいいなって思う。
中には超感覚的に様々な魔術を使う人だとか、手足を動かす延長線上であるかのように魔術を使う人も居るそうだけど、
そういうのは特別。きっと一握りの天才くらいじゃないかな」

魔術の才能についての意見を述べて、それからすたりと立ち上がる。

「というわけで、そろそろ私は帰ろうと思うんだけど、アイノ君。折角居るんだから本を片付けるのを手伝っておくれよ」

何もタダとは言わないから、と唇を緩く曲げて後輩に魔術では無い先輩風を吹き荒らす。

アイノ > 「まあな。………それに、私とかになると、もう付き合うしかない能力だからな。
 髪の色とかそのレベル……もしかしたらそれ以上に。
 だから、やるならそれを疎ましく思うんじゃなくて、どんなときにも使えるくらいにゃしたいとは思うし。

 ………仲いいなぁ、アンタら。」

椅子を揺らしながら、ぽつりとそんなことを言う。
目の前の少女が、ここにいない少女のことを考えて動いていることは自明の理。
相手がいつもお互いのことを思って、それを考えながら原動力にもして。
羨ましいとは、思ったりもする。 口にはしないが。

「そうかー、やめろよ先輩、私のハードル上げるのは。
 手足を動かす延長線上で魔法を使いこなすまでいくと、ハードルたっかいわ。」

けけけ、と笑いながらウィンクを一つ。あくまでも自分は天才であるという主張は崩さない。
そんな褒めんなよ、なんて付け加えておこう。一握りの天才の枠にどっかと座り込む美少女、自称。

「……えー、えー。そりゃまあいいけど。
 先輩の言うことにゃー逆らえないわ。 呪われるし。
 あれだろ、膝がロックされて曲がらなくなる呪いとかかけるんだろ。」

ダルそうに立ち上がりながらも、ちゃーんと動き始める少女。
元々、アガサが帰宅する時に一緒に帰ろうとは思っていたのだ。

アガサ > 「……む、察しの良さも天才の賜物かい?──うん、仲良くありたいと思う。それには頼るばかりじゃ駄目ってものさ」

本を抱えた所でアイノ君の言葉が飛んだ。
私は後悔とこれからの意欲を含んだ言葉を、他愛の無い話であるかのように振る舞ってウィンクの一つもして見せる。

「アイノ君は天才なんだろう?だったらやってみせないと……なんてあんまり後輩を虐めるのは良くないな。
だから勿論、君が断った所で呪ったりなんかしないともーって何その限定的な呪い!?」

自分なりに、それなりに綺麗にウィンクがキマったと思ったのも束の間。
アイノ君のやけに具体的な呪いに私は吹き出して、笑ってしまう。
何か嫌な思い出でもあるのだろうか。いや、こうして話すからには愉快な思い出の方だろうか。
私は愉快な天才後輩について、暫く楽し気な思索に耽る事となる。
今はそこに這入り込む余計なものは何も無く、随分と気楽でいられたに違いない。

ご案内:「図書館」からアガサさんが去りました。
ご案内:「図書館」からアイノさんが去りました。