2020/06/17 のログ
萌良 さだめ > ううん………よし。
(頑張って見たところで、どうやっても手が届かない。
 人を呼ぶのもなんとなく申し訳ない。
 周囲を確認してから、小さく口の中で呪文を組み立てる。
 お目当ての本が書架から消えたかと思うと、自分の手元にパッと現れた。)

これくらいの物質なら転移させるのも楽なんだけどな…・
(自分がもっとも求めている術の一つ、転移術。
 人間の肉体と魂を、別の世界からそのままに移動させるとなれば その難易度たるや並外れたものである。
 ものによっては研究そのものを封印されている…いわゆる禁呪に該当するものだってあるだろう。
 手元の本の表紙をそっと撫でながら、異世界に消えた姉のことを思い出して、少ししんみりした。)

…邪魔するのも悪いな。
(脚立を降りてから周りを確認。 幸い、魔術書に関して本を借りに来ている人は今の所いないようだ。
 ちょうどよいとばかりに、脚立に腰掛けて本を開く。 自分が知っている知識を総動員すれば読めるぐらいの書物だ。
 脳に効く。 静かにページを捲る音、そしてかすかな息遣い。 静かな空間の中で、文言を頭に叩き込んでいく。)

ご案内:「図書館 閲覧室」にシャンティ・シンさんが現れました。
シャンティ・シン > 「今日は――何を、読もう……かしら……」

『シャンティは図書館の閲覧室を歩く。
 技術書の棚を抜け、魔術書の棚へ。目の前、数m先に、脚立がある。
 脚立に座って本を読む者がいる。その者は身長138cm。妖精と人間のハーフ』

「あら……? 」
『静かな空間に、ページを捲る音とかすかな息遣いだけが響く。
 シャンティは首をかしげる。』

(めずらしい、人――いいえ、妖精? がいる……みたい。
 でも……脚立……? 座る……?)
『シャンティは思考する。彼の者は何をしているのか。』

萌良 さだめ > (読書に没頭する。
 頭の中にある知識を用いて理論を解体して咀嚼するのは、上等な肉にかぶりつくかのよう。
 知識を吸収し、飲み込む。 無意識のうちにではあるが、内面にあらわれているのは”高揚”だった。
 黙々とページを手繰っている最中、ふっと顔を上げると近くに人がいた。)

あ、ああ…すまない。 脚立を使うのかな。 それとも邪魔かな。 ちょっとだけ待っててくれ…。
よ、いしょ…よし、大丈夫だな。
(自分が脚立に座って本を読んでいたことを思い出す。
 もしかして脚立を使うのかもしれないし、あるいは自分がいる場所の本を取りたいのかもしれない。
 脱いでいた靴を履き直しながら、彼女に告げる。 彼女の須臾言に”驚き”、そして、ちょっとだけ”焦った”。
 靴を履き直してから、彼女に軽く手を振って見せる。 いつでも動けるよ、 という合図のつもりだ。) 

シャンティ・シン > 『「――」シャンティの目の前の半妖精はそう、謝罪の言を述べながら靴を履き直す。』

「あぁ――違う、の……どうして、椅子があるのに――と、思って……
むしろ、邪魔――して、しまった……かしら?」
『気だるい調子で、シャンティはしゃべる。彼女のいつもの調子である。
 手を小さく振り、否定の意を示す。表情は、少し困った様子である。』

「本読み、の――邪魔は……良くない、わ?」

萌良 さだめ > ああ、椅子があるのに、てことか。 手にした本を今すぐにでも読みたくてね。
椅子まで行く時間がもったいなかったんだ。 ほら、なんていうか…。
買ったばかりのペンを早く使ってみたいとか、玩具を買ってすぐ開けたいとか、そんな気持ちだよ。
(どこかダウナーな調子の問いかけも、なんだか彼女にはすごく似合っている。
 悪戯を咎められた子供のような態度で答えながら”照れ”た。)

いや、丁度落ち着いたところなんだ。 これ以上はすぐに頭に入らない。
借りて、家でじっくり読み直すことにするよ。 
(問題ないとばかりに、首を横に振る。
 自分の頭を総動員しながらでないと読めないレベルの本だ。
 よい本と巡り会えたという”喜び”と”期待”を顕にしながら、
 ちょっとだけ困った様子の彼女に、努めて明るく答える。)
 

シャンティ・シン > 『「――」子供が悪戯を咎められたような態度だ。
 シャンティは、思考する。この者は同類だろうか。本好き、という仲間だろうか。』

「そう――そう、ね……素敵な、本……との、出会いは――とても、いい、わ。
 あなたは、本、好き――かしら?」
『シャンティは問いかける。視線は、半妖精の目線の少し下。
 一瞬、シャンティは首をかしげる。』

(あら――身長と高さが、合っていない……? ああ、高い靴、は、そういう……
 読み間違い、あるものね)

『「――」と言う。本の題名は「発展型生物転移術」。』

「『生物――転移、術』……? 珍しい、術……ね。
 それ――確か、棚の、上……だった、わ。よく、届いた、わね……?」

『あの本は――とシャンティはかつての記憶を探った。
 目の前の半妖精の身長では、脚立を使っても届かないのではないか。』

(それにしても。あぁ――くるくると……気持ちが、踊る方……
 素敵だわ……ウツクシイ……)
『話を進めながら、シャンティは思考する。』

萌良 さだめ > うん、うん…。 本は自分の持っていないあらゆる知識を授けてくれる。
もちろん、胸躍る話の類もだ。 本は大好きだ。 もしもっと時間があって、
貸出冊数に制限がないなら…ここの棚を全部借り切って読破したいぐらいだよ。
(問いかけには”大喜び”で、この棚!と両手を広げて彼女に指し示す。
 もちろん、自分の体では棚一つを指定することはできないけれど意図は汲み取ってもらえるだろう。
 ちょっとだけ不思議そうにする彼女の問いかけに、またもいたずらっぽく笑って見せた。)

うん…生物転移の勉強を、いや、研究をしているんだ。 
(彼女の口からタイトルを聞いた瞬間、ポジティブだった感情が反転する。
 ”悔恨””恐怖””悲しみ”…それらが混じり合った色が一瞬ハッキリと現れ、すぐに収まった。)

確かに背丈では届かないけどね。
あそこから…手元へ動かしたんだよ。 もちろん、本は傷つけていない。
みんなが読むものだし、なにより自分が読むんだから。
君も魔術をやるのか? もしやるなら、何を修めているのか教えてもらえると嬉しいな。
(棚の最上段を指し、次は左手を指し示す。 少しだけ”誇らしげ”な調子で答えた。
 この棚の所に来たということは、彼女も魔術の徒なのだろう。”期待”を見せて問いかける。)

シャンティ・シン > 『「――!」目の前の半妖精は両手を魔術書の棚の前で広げる。
 その手が示すのは、棚の1/3量。右前方2mから、左前方3mまで。
 シャンティは視線を動かす。』

「ふふ――そう……そう、ですね。あらゆる知識……それを、求めるのが、本読みの、本懐……
 素敵、ね……ねえ、あなた。あなた、お名前――は?」
『親近感を覚えたシャンティは、問いかける。その顔は喜びを浮かべていた。』

『「――」一瞬、目の前の半妖精の表情が固まる。
 そこには”悔恨””恐怖””悲しみ”があった。』
(あぁ――此処、だわ。この方の、輝き……もっと、味わいたい。
 いいえ、いいえ。でも、焦ってはいけないわ。ゆっくり、じっくり、味わわなければ……)

「研究――とても、大事そう……ね……? なにか、ある……の、かしら……?」
『高揚したシャンティは、気持ちを抑えながら慎重に言葉を口にする。やや頬は紅潮している。』

『「――何を修めているのか教えてもらえると嬉しいな」誇らしげにしていた半妖精はそういう。顔には期待が浮かんでいる。
 答えないのも不自然か。シャンティは思考する。』

「私――は。大したこと、ない……わ。そう、少しの……コピーと――ちょっとした、作製……
 それだけ、よ……?」

萌良 さだめ > ああ、そうだとも。 物語でも、研究書でも…。 一冊読めば一冊頭が豊かになる。
本読みといえるほどじゃないかもしれないけど、その言い方はすごく良くわかる。
もし俺が研究を完了したとしても、常になんらかの本を読んでいるのは間違いないだろうし。
俺はさだめ、萌良(もいら)さだめだ。 君は?
(彼女にはとても強い”喜び”と”興味”が見えるかもしれない。
 同じように本を読むのであろう彼女に、はしゃぎながら名乗った。
 もちろん、場所が場所なだけに控えめな声で。)

…その、ちょっと、会いたい人がいて、それで…。
(尋ねてくる彼女を無碍にするのも、という”悩み”。
 そして、 事実を口に出してしまうことへの”恐怖”。
 無意識のうちに彼女から視線をそらし、持っている本のタイトルと
 噛み合わない答えを返した。)

なるほどね、コピーと複製…物理的な干渉は大変だろうけど、
それができるってのはすごいな。
(彼女の言葉になるほど、とうなずくけれど、先程のような素直な喜びはない。
 むしろ、先程の問いかけに対する”困惑”と焦り”がかすかに滲んでいた。)

シャンティ・シン > 『「――」喜びと、興味を示す。シャンティは思考する。
 そして、人差し指を頬に当てる。』
(これも、いい……けれど。やはり、これではないわ。
 この方は、正の感情に溢れている。だから――
 この方から、もっと、もっと引き出すのはやはり負の感情。)

「私――私、は……シャンティ・シン。よろしく、お願い――します、ね?」

『「会いたい人が」さだめの視線が左に5cmずれた。シャンティは、思考する。
 目を、合わさなければ。足を一歩動かし、顔の位置を修正する。』

「あら――私の魔術。お褒め、いただくのは……嬉しい、けれど――
 興味は、別――かし、ら……?
 そう――あなたは、本読み、というよりは……研究者、かしら――?
 目的の、ために――邁進する……大事な、目的――が?
 会いたい――人…… なの、に……転移…… そう。それは――
 遠く……? 行けない、場所……?」
『シャンティは、本を読み解くのと同じ思考をする。思いついたことを問うように口にした。
 此処に踏み込むことが引き出しに通じる。シャンティはそう思考する。』

萌良 さだめ > シャンティ…うん、よろしく。
(名前を教えてもらえたのが嬉しくてはにかむ。
 満足げな表情を浮かべたところでかすかな視線のズレに気づく。
 彼女はおそらく目が悪いのだ。
 なるほど、とうなずいたが、同時に疑問も湧く。
 それなら、どうやって本のタイトルを知ったのだろう。
 おそらく異能かなにかなのだろうけれど。)

あ、ああ…うん、研究をしている。魔術のだけれど…。
そうだな、少し遠くにいて、なんとかして会いたいんだ、けど…。
(”恐怖”が更に強くなる。 具体的に探られること、そしてなにより、それを口にすることが。
 かすかに身をすくませて彼女の目を見上げ、少しだけ早口になりながら彼女の言葉に答える。
 ”焦り””畏怖”、そして”悔恨”…過去が想起されるたびに、ネガティブな…彼女好みの感情が強くなった。) 

シャンティ・シン > 『さだめは、はにかんだ表情を浮かべる。それと、わずか遅れて小さな不審の表情。』
(あら――向こうも、なにか気づいたでしょうか。
 でも、心まで見えていなければ――些末なことですね)

『シャンティは、心のなかで結論づけた。その心を支配するのは、欲望。
 あなたの気持ちをもっとよく見せて。』

(あぁ、あぁ……恐怖が、畏怖が、焦りが、たくさんの感情が混ざっていく。
 この方の表情は、今どうなっているのかしら。どこまで、歪んでいるのかしら――)

「それは――とても、辛い……ですね。 そんな、研究までして……会おう、なんて――
 大切な、人……ですか?」
(これだけの”悔恨”――普通ではないわ。きっと、きっと大切な人。
 失われるものは、大きければ大きいほど――ウツクシイ……)
『シャンティは、心に期待を込めてさだめに問う。
 もっとだ、もっと欲しい。その気持が』

萌良 さだめ > あ、え……う……。
(言葉に詰まる。 プライバシーだ、と断ち切ることもできただろう。
 けれど、今までの話術で引き出されてきた言葉はせきを切ったように止めることが出来ない。
 弱々しく、スカートを両手でぎゅっと手をにぎる。)

おねえちゃん…。
(ひどく幼い、子供じみた呼び方。 うつむきながらそれを口にした途端、
 ”愛情””苦悩””悔恨”怒り””悲嘆””疑念”…。
 幼い頃から溜め込んでいたそれが、自分の頭の中で制御出来ないぐらいに溢れ出した。
 その時を追体験するかのように”恐怖”がにじみ出て、体をこわばらせ、喉をひくつかせる。
 声にならない声が漏れ、瞳にはじわりと涙が浮かんだ。) 

シャンティ・シン > 『”愛情””苦悩””悔恨”怒り””悲嘆””疑念”そして、”恐怖”。
 ”苦””苦””怒””悲””哀””怒””苦””悲””悲”……
 さだめの表情が崩れる。瞳には涙が浮かぶ』

(ぁあ――ウツクシイ。流れる感情――なんて、なんて……素敵――)

「おねえちゃん――お姉さま、なんですね……あぁ、あぁ。それは――
 お辛い、でしょう……ね」
『シャンティは喜悦に包まれる。足を一歩、進めさだめに近づく。
 その腕を広げ、抱きしめるように寄っていく。
 獲物を、捉えるかのように』

萌良 さだめ > おねえちゃんが、穴に落ちて…あれは絶対、異世界への穴だった…!
でも、人を呼びにいって戻ってきたらなくって、でもみんな聞いてくれないし調べてくれなくて…。
(スカートを強く握りしめる。 止めなければ、と思う気持ちはあるが、
 口は勝手に動く。 まるで、今まで”我慢”していた何かをすべて吐き出すかのように。
 告解するかのように語りながらも、視線は床を向き、今にも泣きそうなぐらいに瞳を潤ませる。
 『辛かっただろう』という彼女の言葉に、はっと顔を上げる。
 自分を包容するかのように腕を広げた彼女は、目前に迫っていた。)

シャンティ、さん……?
(呆然、といった表情で彼女を見上げる。 どこか優しげな、穏やかな笑顔は慈悲深くも見える。
 自分はどうして見ず知らずの彼女にここまで離してしまったのだろう。そして、彼女はどうする気なのだろう。
 とりとめのない考えに溺れて立ち尽くしている間にも、彼女は自分を抱きしめられる距離にまで近づいていた。)

シャンティ・シン > 『「――」』
『”我慢””怒り””衝動””悲しみ””後悔””悔しみ””驚き””困惑”――
 さだめの感情が動く。目に浮かんだ涙の量は更に増える。』

「”我慢”――など……不要、です。えぇ、えぇ……
 もっと……もっと――気持ちを、出して……いい、の……ですよ?
 私は、あなたを――信じます。 異世界への、探索――それは、遠大な、研究……ですね?」
『シャンティはさだめの目前に立つ。その場でしゃがみ、広げた腕はさだめの背中側まで回す。
 その口は、優しく語りかける。顔は紅潮し、柔らかく微笑む』

萌良 さだめ > う、うう”ぅっ…っすっ、っ、ぐ、ぅっ……!おね”ぇちゃぁん……!
おねえちゃん、助けられなかったぁぁ…!
(彼女の手が背中にふれると、まるでチューブが搾り出されるかのように感情が溢れ出る。
 すすり泣き、ぽろぽろと涙をこぼしながらハグされるがままにまかせた。
 助けられたはずという”悔恨”、周囲の人が助けてくれなかった”疑念”、姉への”愛情”…
 涙と共にとめどなく溢れるそれらは、いくら吐き出してもなくならない、己を突き動かす思い以外にほかならない。)

っふ、う”っ…う、うん…。 だから、ちゃんと勉強している、つもりで…。
(慰撫するような彼女の言葉に顔を上げ、未だに涙をこぼしながら答える。
 自分を目覚めさせるような言葉が、子供めいた精神状態から少しだけ己を引き戻した。)

シャンティ・シン > 『”悲””哀””怒””怒””悲””悲””悲”――
 さだめの気持ちが次々と変わっていく。自分を責める気持ち、他者を責める気持ち、肉親を愛する気持ち――
 もっとできることはなかったか、過去を思う気持ち
 もっとできるのではないか、未来を思う気持ち』

(ウツクシイ――もっと、このウツクシイものを……)

「そう――それは、悲しい……です、ね……
 あなたは、お姉さまを――見捨てた、かの……よう……
 いいえ、いいえ……仕方の、なかった……こと、ですよ」
『シャンティの手がさだめを優しく撫でる。
 その言葉は、責めるように、守るように。どちらも含まれる言葉である。』

「えらい――です、ね。誰も、あなたを、信じない……のに……
 自分を、信じて―― 疑うこと、なく……努力、だけを」
『心の闇をつつく。心のわだかまりをつく。
 優しい言葉で包む。褒め称える。
 その手は、子供をあやすように動く』

萌良 さだめ > (優しく撫でてもらう、それだけで嬉しくて、同時に悲しさが滲み出てくる。
 時折しゃくりあげるようにしながら、おとなしく撫でてもらうに任せた。
 「見捨てた」という言葉に一瞬震えるも、縋るように彼女を見上げて何度もうなずく。)

ぼくは! …ぼくは、おねえちゃんを助けようとして、それで…。
(大人を連れてきた時には、姉が落ちた異世界への”穴”は姿を消していた。
 それをどれだけ説明してもわかってもらえない。 
 当時散々味わった苛立ちが、彼女の言葉で再び首をもたげていた。)

…信じてくれたのははかりお姉ちゃんだけだった。
みんな、信じてくれなくて、それで……。
(”絶望”と”悲しみ”…。 ただただ、誰にも信じてもらえないことを自分だけが信じ、
 動き続けるための原動力。 ぎらぎらと暗い光を放つそれらが顔を覗かせる。
 優しく、あやすように撫でてもらうたびに小さく鼻をすすった。)

シャンティ・シン > 『”絶望””悲しみ””怒り”暗い感情が揺れていく。』
(あぁ――私が、”書き手”であれば、この感情をもっと、もっと膨らませられたでしょうに。
 いいえいいえ、私は所詮、一介の読者。歪みを引き出すだけで、十分……)

「あなたは――悪くありません。悪いのは、大人たち。
 それに、世界――」
『シャンティの紡ぐ言葉は歌のようであった。
 聞くものがいれば、心地よさを感じるだろう』

(あぁ……もう、もう我慢、できない……まだ、熟成させたい、けれど)

「ふふ――さだめさん……読ませて、もらっても?」
『優しく抱きしめ、心地よい声でなだめながらも……さだめにそう問いかける。』

萌良 さだめ > 悪いのは、おとなたち…それに、せかい…。
でも、おれも大人だよ…?
(優しく撫でてもらいながら、心地よい声色で語りかけられる。
 とっても甘いはずのその言葉に、かすかに覚える”違和感”。
 大人が悪いというなら、自分だって悪いのではなかろうか。
 見た目は小さいかもしれないが、これでも成人はしているのだ。
 彼女のいう、悪い大人になってしまったのではなかろうか。
 ”不安”がじわじわと自分の中を染めていく。)

読む…。 あ、はい、どうぞ…。
(彼女の手に、そして言葉にすっかり絡め取られてしまった今では、
 疑念を抱くことも、警戒することもできない。 手元にある本についての
 問いかけかと思って、従順に同意してみせる。
 自分が彼女の読み物と化すなど、知り得るはずもないのだ。)

シャンティ・シン > 『さだめに”違和感”がわずか生じる。
 しかし、それは湧いてくる”不安”に流されていく』

(少し、干渉しすぎてしまったかしら……私は、演出家ではないのに出過ぎましたか……
 そろそろ、潮時、かもしれませんね)

「いいえ、いいえ――あなたは、大人になった、だけ。
 悪いのは、世界を作っていた……大人たち、だけ」
『あやすように、撫でる。そろそろ、感情も一定の方向に向き始めている。
 先程のような激流までは望めまい、と思考する。』

「ご協力――感謝します。さだめさん。」
(思ったより――年上……なんですね)
『さだめの情報を読む。見えたことは大半が既知だ。
 しかし、それほど落胆はない。これから先――もっと、見せてもらえばいい、と思考する。』

「さて――図書館で、泣きっぱなしも――よく、ありません、ね……
 外――出ます、か……?」

萌良 さだめ > 大人になっただけ…。
悪いのは、世界を作っていた大人たちだけ…。
(彼女の言葉を繰り返す。 ”不安”は未だに残ってはいるものの、
 あやすような手付きがそれを解きほぐしていく。
 こくん、とすなおにうなずくと、ボリュームのある髪が揺れた。)

あ、え、ええと…? あれ、俺、なにかしましたっけ…。
こちらこそ、すみません…シャンティさんにワーって言ってしまって…。
(名前を呼ばれてふっと我に返る。 感謝をされたけれど、そんな覚えはない。
 それどころか、個人的な事情を延々と話して引き止めてしまった件について
 大変申し訳無い、と反省の気持ちでいっぱいだった。)

そ、そうですねっ。この本だけ借りて外に出ましょう!
(提案に眼をごしごしと拭ってからうなずく。 出会ったときよりも仕草が若干幼くなっているのは、
 彼女の影響によるものであるが、本人は気づく素振りすらなかった。)

シャンティ・シン > 『「――」シャンティのセリフを反覆し、さだめは落ち着きを取り戻しつつあった。
 彼は素直に、うなずいてみせる。』

(やはり、潮時ですね……)
「いいえ――私などで……よければ、ふふ。いつでも――相談に、乗ります、よ……?」
『我に返った様子のさだめ。それを受けてシャンティは答える。
 ”反省”そこにある気持ち。さだめは冷静さを取り戻していた。』

「ふふ――……では、参りましょう……?」
『シャンティは、微笑んで見せる。ゆっくりと立ち上がって、先導するように歩く。
 その足取りに迷いはなかった。』

萌良 さだめ > ありがとう…じゃなくて、ありがとうございます。
なんだか、聞いてもらってばっかりで申し訳なくなっちゃったな…。
お詫びに本を奢らせてください。それなりの値段であればお支払いしますから。
(嬉しげに笑う彼女にすっかり安堵して、彼女にお礼をもちかける。
 もちろん、毎回自分の身の上を聞いてもらいたいわけではくて、感謝の気持ちだ。
 泣き顔もすっかり元に戻って、それどころかどこか明るい調子すらあるぐらいである。

 先を行くように歩く彼女の後ろについていく。 まるで、先程想起した姉と自分のようだ。
 幼い頃に一緒に歩いていたことを思い出して、少しだけ切なくなり…小さく笑った。)

シャンティ・シン > 「いいえ――十分なものは、いただき……ました、から……ふふ。
 そう――そう、ですね……お詫び――で、あれば……
 また、会っていただければ……それで――」

『楽しそうに微笑むシャンティ。
 そのシャンティの後ろから、さだめがついてくる。
 彼は切なさを感じながらも、小さな笑いを浮かべる。』

「きっと――楽しい……お話が、できる……と、思います」

萌良 さだめ > そうかな…なにか上げた覚えも…ああ、じゃあそれでお願いします!
(また会ってほしいと言われて嬉しくないわけがない。
 彼女の言葉に大はしゃぎしながら、何度もうなずいた。
 「楽しい話」ができる。 それだけで嬉しくて幸せな気持ちに満たされる。
 なにせ、彼女は『本好き』なのだし。 同好の志ほど嬉しいものはない。
 彼女が自分のことをどう思っているかなんて梅雨にも思わず、
 相好を崩しながら一緒に歩くのでした―――)

ご案内:「図書館 閲覧室」からシャンティ・シンさんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」から萌良 さだめさんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」に彩紀 心湊さんが現れました。
彩紀 心湊 > 昼休み。
適当にクロワッサンを一つだけ口に頬張って、誰も居ない図書館を独り占めにする。
自習室の左奥、所謂隅っこが彼女のベストポジションであった。

「…。(さて…と…。)」

懐から取り出すは、シスターの救済と書かれたミステリー小説。
全く検討もつかないトリックを、異能的側面から切り込んで描いていく最近発売された作品である。

彩紀 心湊 > 異能自体を題材とした物語自体、昔からよくあったものなようだが…それは"ファンタジー"のような書かれ方だった。
異能という能力自体、誰かが夢見るような力であり、手を伸ばしても手が届かないような幻想の代物だった時代。
そういった本を読んだことがある。

もっとも、現代においての異能の在り方は大変容以降大きく変わったのは語るまでもないこと。
異能学会による研究機関の成果もあって、随分と幻想的な存在というよりは身近になったものだと心湊は考えていた。
その影響というのは、やはり文学にも及ぶようで…今と昔では考え方の異なる異能の在り方に物思いに耽ていたといったところか。

「…しかしまあ……(科学とかと比べると、異能を題材にした作品ってやっぱり書きにくそうね…。)」

半分ほど読んだ辺りで、そんなことを思うのだ。

彩紀 心湊 > 「ン……くぅ…。」

軽く、背筋を伸びるように背伸びをする。
この本が面白くないとまでは言わないが、些か刺激が足りないというのは否めない。
かといって、部活動のように縛られるのも面倒でもあり、風紀委員のようにお硬い場所に身を置くのも以ての外である。
よって、このように安牌なラインに身を落ち着けるというわけだ。

「…7月は……。」

学期末テスト。
この場所もあまり使えなくなるな…と、机に伏しながら次のくつろぎ場所を考える。
勉強自体、7~8割は取れていればいいだろうという考えではあるし、帰宅部であるのもあって時間はあまりに余っているのだ。
彼女にとって勉強というものはさほど束縛されるものでもなく、どちらかというと昼休みだろうが人でごった返す自習室の有様のほうが憂鬱であった。

彩紀 心湊 > パタン、と。本を閉じる。
小さく息をつくと、その本を紙飛行機のように本棚へ向けて飛ばす。
重力を、物理法則を無視した軌道を描いて飛ばされた本は元あった場所へとゆっくりと収まった。

「…退屈、ね…。」

まあ、その原因の一端は友人らしい友人を作りもしない自分にもあるのだが…それを抜きにしてもなにもない6月は退屈そのものだ。
他の学生は何をしているのだろうと、図書館の窓から外を覗く。

もうじき終わる昼休みを前に、校舎へと戻っていく生徒たち。
それもまた、普段からこうしている身としては見慣れすぎている光景だ。

「……放課後は何を読もうか…。」

ないものねだりをしてもしょうがないと、思考を切り替えれば本棚へと向かう。
いっそ、図書委員にでも入ってしまおうかと考えたこともあるのだが…こうして好きで入り浸るのと義務で入り浸るのはだいぶ違うものだ。
本を読みたいのであって、業務をしたいわけでもない…といったところだろう。

彩紀 心湊 > 「……『異邦人から聞いた!ビックリドッキリメカ特集。』…『ああ、アダム様』……この本前に読んだな…。」

流石大図書館、なんでもある。
とはいえ、気分屋にとって、読みたい本を探すというのにはこの広さだと中々面倒ではある。
流石に哲学書などを読む気にはなれないし、専門が居すぎる本を読むというのも理解が及ばないだけであまり面白くもない。

「しかしまあ……。」

と、禁書庫の入り口へちらりと視線を向ける。
あの奥にはどんな本があるのだろう。やはり、魔術に関するものばかりなのだろうか。
そういった好奇心は割と抑えきれない。

「……ま、風紀がだまってないよね……。」

諦めたように息を付けば、適当な本を手にとって、遠くから聞こえる昼休みの終わりを告げるチャイムと共に図書館から出ていった。

ご案内:「図書館 閲覧室」から彩紀 心湊さんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」に黒藤彩子さんが現れました。
黒藤彩子 > 勉強というのは知識を拾い集めることらしい。
拾い集めるのは、好きだ。
道に綺麗な石があれば拾うし、何だかいい形の木の枝があれば拾うし、
お手頃な木彫りの熊があれば拾うし、転がりやすそうな達磨があれば拾う。
御自由にお持ち下さい的なものがあれば、何処の国かわかんない国旗を拾うし、変な形の壺だって拾う。
なんだかきらきらしている気がするからだけど、生憎と理解はあんまりもらえない。最近だと寮母さんとか。

「む~ん……」

此処は図書館の中でも一般科目関係の本が収められてる所。
前期期末試験が近いからか、ちらほらと他の人も居る中で私は、お部屋模様と違って綺麗に真っ白なノートに頬を付けて唸る。
どうも学業という物体は、私の手をすり抜けて落ちるのが得意みたい。
特に数学とか理科。まるきり未知の世界ったらない。なんでまたxだのyだのが数字の世界に来るんだろう。英語の世界に返って欲しい。
そういえば先日拾ったイイカンジの石には、何処の国かわからない言葉が彫られていたなあ。と与太思考がふんわりと浮かんで何処かへ消える。

黒藤彩子 > 「物理法則とかさあ~知らないよぉ。垂直抗力って何さ……もっと試験問題ってのはこう、ぱーっとしてさ……2択問題とかにならない?」

机に突っ伏した姿勢で長々と溜息を吐く。もしもこの溜息に色があったら白色で、細長い煙のようになったに違いない。そういうのっとおけまるな溜息。
全体の考課表で八割の〇を貰う。なんて決めてしまったからこんな事になっているんだけど、過去の自分を恨んでも意味が無い。

「実技ですっごい頑張ったら全部〇とかにならないかなあ~……ほら、異能関係の奴とか……」

異能の制御だとか、発展だとか、はたまた治療だとか、そういった事に力を入れているのならそっち方面に加点があってもいいんじゃあないか。
そうは思うも肝心要の私の異能はそんなに凄くない。大体はきらきらするだけで、頑張れば光線になったり、光の壁みたいになったりもするけれど安定しない。
これが凄く安定して使えるようになると、また話は別らしい。なんでも実践的な能力とゆーことで風紀委員とやらに入ったりも出来て、色々有利になるとは小耳に挟んでる。

ご案内:「図書館 閲覧室」に朝宮 小春さんが現れました。
朝宮 小春 > 痛い。唇がまだひりひりする。あれを薦めた生徒もそうだけどあれを最初に食べた先生を恨みます………。
そんな与太が頭の中をぐるぐると回りながらやってくる眼鏡。
ただの焼きそばにノックアウトされる一般人オブザ一般人の生物教師が図書館を歩く。

様々な本を借りて読んで、割と読書家でもある彼女は、言うまでもなく勤勉だ。
だから、魂の抜けかけたその抜け殻がどんな生徒であるかくらいは、しっかりと暗記していた。

「じゃん。」

机の向かい側からひょこ、っと顔をのぞかせる生物教師。
魂の抜けているその隙に、こっそりと机の向かい側をこそこそと隠れて。

「……がんばってる?」

手の指だけを見せるようにして、ふりふり。大人にしては子供っぽいご挨拶。

黒藤彩子 > 垂直抗力とゆーのは力の作用らしい。
よくわかんないけど重力がうんたらかんたらで、正しく積まないと崩れるとか、そういうことなのかな?
と、思うけど多分違う。脳裏に色んなもので雑然とした部屋を思い浮かべる。整理整頓への道は遠い。
しかし部屋もどうにかしなければ、追い出されかねない。文字通り問題は山積されまくり。

「仕方ない……こうなったらトントンくんとお別れを……」

トントン君とは豚の形をした蚊取り線香入れのことである。
先日ゴミ捨て場にあったので何だかいい感じに見えて拾ったニクイ奴。
けれどもお部屋で蚊取り線香を焚く事は多分無い。こうなったら必要なダメージをとして割り切りを──

「……ぬわっ。その声は……サミヤン先生!」

なんて考えていると聞き覚えのある声がして顔を上げると、視界で指が揺れている。
その正体は朝宮小春先生。学園の先生で、親しみやすくてついついあだ名をつけても許してくれるおけまるな先生だ!

「御覧の通り彩子ちゃん頑張ってますよう。でも判らないとゆーことが解りました!」
「なーのーで、サミヤン先生、今からでも理科のテストを全部2択にしませんか」

猫みたいな瞳をきらきらさせて、文字通りに異能の力で周囲にちょっと光をきらきらさせてお願いしてみるぞ!

朝宮 小春 > 「ふっふっふ、そうです。」

子供らしい様子の少女に、大人の余裕を見せるように微笑みながらよいしょ、と立ち上がって。
分からないことが分かった、という言葉に思わずよろけそうになる。

「そ、……そう?
 でもダメよ、覚えるだけなら時間をかければできるはできるんだから。
 それに、2択にするなら合格点は90点にしちゃうんだから。」
苦笑をしながら、よいしょ、と隣に座って。

「ほら、分からないところがあるなら教えてあげるから、どこからどこが分からないのか話してみて?」
とっても優しい先生。唇が痛いこと以外は今のところ完璧だ。

黒藤彩子 > きらきら作戦失敗。サミヤン先生をよろめかすだけに終わる。
そして急がば回れとどっかで聞いた言葉が脳内でぐるぐる回ってバターになって溶けて行く。
はて、なんでバターになるんだったかな?
顎に指を添えて考えて、首を左右にゆらゆら揺らして考える。成程こっちもさっぱりわかんない。

「え"ー2択で90点って難しすぎませんかあ!」

隣に先生が座るや否やに頭突きをするように凭れて抗議をBooBoo!
するとなんということだろう。ちょっと声が大きかったみたいで周囲の人が視線で私を射る始末。
すかさず借りてきた猫のように身を屈めて回避するのだ。

「うーん……ぜ、ぜんぶわからない……。とくに科学とか化学がぜーんぜん……」
「あ、生物はわかるんですよ。豚は哺乳類で熊は哺乳類でカモノハシも哺乳類だって」

あとコウモリも哺乳類。なんて寄っかかったまま溜息を吐く。
けれどもテストに出るのはもっと面倒な事柄だらけで、結局ノートは真っ白けのまま。

「やっぱりこう、得意分野?が良ければ全部オッケー!みたいなのが良いと思うんですよね」
「楽しくないことを勉強しても楽しくないわけですし、楽しいことを勉強すれば楽しいみたいな」
「サミヤン先生的にはどーおもいます?やっぱり理科が好きで好きでたまらない感じです?」

思考をあんまり勉強に向けたくない気がして、それとなく(?)話題をサミヤン先生に向けてみる。
なにせ先生なのだ。先に生きるのだから、きっと先進的な答えが貰えるのかもしれない。

朝宮 小春 > 「だから二択にはしない方がいいでしょう?
 ね、だから分かる問題……覚えられそうな問題だけでもしっかり覚えておきましょう。」
周囲の人の視線に苦笑しながら、頭突きをしてくる彩子をはいはい、と頭を抱くように受け止めてあげることのする。
ずっしりと頭の上に重い何か柔らかいものがのっかれば、これこそが重力であると理解できるかもしれない。

「………あー、難しいところよね。
 でも、実際は実験とかも丸覚えで何とかなるところもあるのよ。
 いやまあ、本当は良くないんだけれど。」

苦笑しながらも、よしよし、と撫でて。

「……んー、それはその通りだけど。
 でも、例えば私がやっている研究でも、上手いこと研究をするためには英語の文章を読まなければいけなかったり。それよりももっとマイナーな言葉を読まないといけなかったりね、するのよ。
 そんな時に私が「英語は嫌いだし理科に関係ないから」ってやっていたら、どうなっていたと思う?
 まあ、英語は今でも得意ではないんだけれどもね。

 理科は好きよ、好きで好きで、それでもなかなか分からないことばかりだけどね。」

苦笑しながら、とても穏やかな、それでいて真っ当な言葉が返ってくるだろう。

黒藤彩子 > 時々行われる小テストの点数は良くて中の下。真っ赤な数字になる事もたまにある。
反面、体育だったり動き回る方は結構いいけど、それだけじゃあ学校生活は立ち行かない。
私は、もっともっと、自分の力が煌めくだけでいいんだけど──とは、流石にサミヤン先生には言わない。
言わないけど頭突きが緩慢に続いて、次にはホールドされて重たいものが乗る。

「お、おもい……」

柔らかくて重い。サミヤン先生の胸は圧が凄かった。
何かが判りそうになって、するりと抜けると今度は髪の毛を掻き混ぜるように撫でられる。
もし、私が本当に猫だったらきっと喉だってごろごろ鳴ったんだろうなあって、瞳を細めながらそんな事を思う。

「むうん……サミヤン先生の言う事も確かに……好きな事のために肯定するってことですよね」

先日、『橘』で会ったヨキ先生の言っていた事を思い出す。
誰かの好きなら肯定できる。のは学業についても同じ事なのかしらんと撫でられながらに首を傾げる。

「先生が理科を好きになった理由って、なにかあるんですか?」

そんな事を問う。

朝宮 小春 > 悪い点数に悩んでいる生徒に対して、生徒が思っているほどに教師は困っていない。
理由? 悪いとすら思っていない生徒の方で心労がマッハだからです。
なので、ゆったりと優しく撫でてあげることにする。

するりと抜け出す少女の頭を撫でながら、相手の言葉に少しだけ悩んで。

「好きなことのために、かな。
 うん、世の中はとってもいろんなことがつながっているから、好きなことをやろうと思ったら、ちょっと好きじゃないところまではいってくることもあるのよ。

 ほら、スポーツをしたいと思っていても、細かいルールを覚えようと思ったら結構面倒だったりするでしょう?」

なんて、首を傾げる少女相手に穏やかな語り口。
相手が理由を問うのであれば、ちょっとだけ微笑みの色を変えて。

「先生のお母さんとお姉さんが、理科のすごい人だったのよ。
 追いつきたくてねー、一生懸命頑張ったんだけど、まだ全然。」

ぺろ、と舌を出して笑う。

黒藤彩子 > 「なるほど」

なるほどだった。だってサッカーはボールを蹴ったり走るのは楽しいけどオフサイドとかは面倒くさい。
バスケットボールもうっかり三歩歩いたりする。でもルールがあってこそスポーツ。ゲームだもんね。
ゆっくりと言葉を丁寧に並べて、図形にするならきっと綺麗で重力問題なんて何一つ無いサミヤン先生の言葉に頷く。

「サミヤン先生のお姉さんとお母さんが……私には先生だって十分凄く見えるけどなあ」

おどけるように舌を出す先生の事を撫でられながらにじいと視る。
誰かに物事を教えられることは凄いことだと思う。
私が誰かに出来ることなんて、なんだかいいかんじの石の形とか、それくらいだもの。

「あ、もしかしてサミヤン先生がこの島に来たのって追い付きたくて?」
「ほら、此処、異能関係ので色々すっごいじゃないですか。もしかしてすごくなれることもあるかも!」

ただ、凄い人になりたい気持ちは解るつもり。
私ももっと綺麗に輝いて、煌めいて、誰もが見上げる夏の夜の花火みたいになってみたいんだもの。
だから顔をずいと近づけて、挑むように言葉を並べてぐらぐら立たせて聞いてみちゃう。

朝宮 小春 > 「そういうこと。」

子供になるほど、と納得してもらえる瞬間は、心が少しだけ穏やかになる。
分かりやすかったでしょう、と胸を張って、ちょっとだけ大人らしさを見せつつ。

「そうね、……追いつけたらいいなとは思うけど。」

微笑む。
凄すぎて、私以外の他の人も追いつけなくて。
母親も姉も妹も、全員犯罪者になってしまって行方不明。
犯罪者一家という、ある意味誹謗中傷というよりも事実そのものに近い言葉を受け、誰も赴任したがらない場所へとやってきただけ、というのは本当のところ。

まあ、それでも何処よりも研究が進む場所でもあるのは事実なのだけれど。

「……追いつきたくないところもあるかなー。
 母さんも姉さんも、こうやって教えるのは下手だったし。
 スパルタだったし。 怖かったし。」

とほほ、と頬を緩めてぽりぽりと掻いて。

「だから、彩子ちゃんがその分凄い人になればいいかなって。」

黒藤彩子 > 「サミヤン先生なら追い付けるんじゃないかなあ。だって優しいし」

私に優しい人が報われて欲しいと思う。
私のおばあちゃんみたいな色の髪の毛を気味悪がらずに触れてくれる人の道行きが、きっと光り輝いてくれたらいいなと思う。

「むーん、でも追い付きたくもないとな……。でもでもスパルタでも、怖くっても、サミヤン先生の事を見ててくれたんですよね」
「なら、きっと大丈夫ですよう。うん、おけまるおけまる!」

興味が無い人は感情を向けてくれない。見てもくれない。
路傍の石なんて殆どの人が見てくれないのと同じだもん。
先生のお姉さんやお母さんはそうじゃないのだから、きっと大丈夫と撫でる手から脱するように胸を張る。

「えぇ~私がですかあ!それじゃあ理科、頑張らないとなあ。いい点とって、きっといつか私の好きの役にたって」
「サミヤン先生の事をこう、ビカーッ!!って照らしちゃうんです」

好きの為に肯定を。おけまるな未来の為に頑張る事がまたひとつ増えたけど、それは未来の彩子ちゃんが頑張ってくれるはず!
今は鼻息荒く元気よく答えて──また周りの人に視線で射られて身をかがめるばかり。