2020/07/03 のログ
■アージェント・ルーフ > 「ん……ん!?」
急に発せられた図書館らしからぬ大きな声にふとノートから目を離し、周りの景色を見る。
するとどうだろう、目の前の人影―いや、確か…レナード君が分厚い教科書と共に自分の目の前にやってきた。当然ながら、驚嘆の声を出す。
(あれ、さっきもいた…っけ…あぁ)
ボクがここに来た時のことを思い出しながらも、彼との邂逅碌を心の中で読み進めていく。
恐らく、自分と同等の位置に立とうとしているのだろうか。
何れにせよ、また前回の様な勘違いが発生する可能性があるとボクの第六感が耳元で囁く。
「や……やぁ、何時かぶりだね~…」
無視は相手の心へと油を注ぐ行為と同等だろう、額に汗を流しながらも微笑みながら挨拶を述べる。
■レナード > 「あぁ、久しぶりだし。元気そうでなによりだし?
こんなとこで勉強を始めるもんだから、僕もやりたくなったわけ。」
初手皮肉だ。
ここまで自分に気づかずよくこんなとこで勉強おっぱじめる気になったなと。
最初が肝心なのだ。ナメられてはいけない…少し威圧するくらいが丁度いいだろう。
だが、彼の邪魔をするつもりはない。
寧ろ、正面衝突によってどちらが強いか白黒はっきりさせるまでありうるだろうか。
だから、自分も勉強する気になったのである。
「………で。
おめーは、今回どこまで狙ってるワケ?」
これを聴けば、当然満点を目指してやる…と言うだろう。
だが、もしかしたら別の回答を聴けるかもしれない。そうすれば儲けものだ。
自分がそれ以上を取ればいいだけの話なのだから。
教科書を適当に開き、ノートに適当にものを書きながら、言葉のジャブを撃ってみた。
■アージェント・ルーフ > 「あはは、そうだったのか~」
相手の返答を聞き、自分の行動が糸を絡ませるような行為だったのだと改めて実感する。異能の制御が出来ずに綺麗な垂直跳びを見せてしまった事をまだ根に持っているのだろう。現に今、異能制御についての本を片手に持ち、勉学を図っている所である程に忘れたい事件でもあった。
内心頭を抱えている間に目標を聞かれる。
「今回は中の上の位置の現状維持かなぁ…、何しろ、上位陣との間に大きな壁があるみたいでね~」
と、相手が頭脳での下剋上を図っている事には気づかず、ありのままの現状を話す
■レナード > 「中の上……上位陣………
へぇ………」
あまり彼の素性は知らない。全体的に進んでいるクラスなのか、そうでないのかも。
ただ、今の情報は有用だった。少なくとも、クラス内では派閥があるようだ。
彼自身、その口ぶりでは赤点回避する前提ではありそうだ。
これは困った、そうなると自分は本気を出さなくてはならなくなる。
「……へ、へぇ。
なかなか、やるじゃん…………」
これは心からの誉め言葉ではない。
この手のものに限っては、単純な誉め言葉よりは悔しがるくらいの方が本音で褒めていることが怏々としてある。
ともかく、奴にいい気分だけはさせまいと、教科書に視線を落とした。
やばい。適当にひっつかんできたから、何かいてるかよくわかんない。
■アージェント・ルーフ > …恐らく、またライバル視されたのだろう。自分の今の現状を復唱される。頭の中でまたこじれた関係にありつけてしまった自分にポカポカと擬音の入るような喝を入れた後、頭を少し抱える。
願うなら、願う事ならばボクの手元の教科書の題名を見てくれと祈ったが。彼は後ろから炎…イメージ的には雷のオーラを出しながら目元を教科書に落としている。
(また変な勘違いさせちゃったなぁ…ん?)
相手も勉強に取り組んだことだし、こちらも勉強を始めようとも考えた矢先、彼の手元のノートの文字が目に入る。彼が書いているのは、教科書の内容、上位陣でも分からないレベルの物である、ボクでも内容が分からない…そして、彼の鉛筆が空を切っているあたり…そういうことなのだろう、
「…ねぇ、その本の内容って…」
掛ける言葉がすぐに見つからず、尻すぼみになってしまう。
■レナード > 「………。」
すぱぁん。辺りに僅か風が走る勢いで、教科書を閉じた。
下手にこの中身を読まれ、ましてや自分がさっぱりわからない内容を、もし目の前で解説などされようものなら、
勉強云々の前におつむの出来の違いを白日の下に晒される気がして。
いや、待て。これは考えすぎではないか。
何か数えるわけではないが、まず落ち着くことにする。深呼吸を一つ。
そして、彼に問いかけるのだ。
「……この本の内容が、何なわけ……?」
悟られてはいけない。
さっぱりわからん本を持ってきてそれっぽく振る舞ってました、だなんて。
なお、そんなの既に気づかれていることを、彼はまだ知らない。
■アージェント・ルーフ > 彼が無言で閉じた教科書の風で、前髪が揺れたような気がした。
同時に後ろから、動揺の2文字のオーラがどっと溢れてきている。
そんな様子に、どんな言葉を掛けたものか…いや、心を抉らぬ為にここはそっと無言で…
と思っていたらさっきの言葉の意図を聞かれた。心の中で先ほど喝を入れていたボクを更にもう一人のボクが睨む。その眼には『なんて事をしてくれたんだ』という意が込められているように。
「…いや、ボクでも内容が分からない物だったから大丈夫かなぁって、
…あと書いていたノート、閉じれてないよ…」
今ここに現存する、よく分からない題名の教科書、それと共に机の上に鎮座する教科書のどこかを書き写したであろうノートを見ては、素直に心配せざるを得なかった。
■レナード > 「…………。」
世の中には、二兎を追うものは一兎も得ずという言葉があるという。
同時に二つのことをしようとしても、うまくいかないことをいう諺らしい。
実によく出来てるな、と思った。
自分の腕が4本もない限り、教科書とノートの両方を閉じることなんて、どうあがいても失敗するだからだ。
……と、そんなどうでもいいことを考えていないと、自分の失敗で脳みそが潰れそうだった。
こうして、そのまま教科書の内容を模写しただけのなんの価値もないノートは、
目の前の彼の届くところとなったのだが、今度はそのノートをゆっくりと閉じる。
辺りに風は起きなかった。
「ま……まあ? おめーが分からねーのも無理はねーし。
とりあえず、今日のところは僕は引き上げるし。」
自分も分からない、とはおくびにも出さない。
ともかく、今日は得物が悪すぎた。急ごしらえにしてとても戦えるものではなかったのだ。
ここは大人しく退くことにする。
ここで勉強しなくてはならない理由はないし、少なくとも彼の成績は中の上…それを超えるくらいに自分を追い込むのは、どこでもできる。
最低限、情報は得た。引き揚げたって問題ないだろう。
「…それじゃ、僕は失礼するし。」
最後に射貫く様にじろりと眼差しを向けて。
教科書とノート…ほとんど使ってもない筆記用具を片手に、書架の中へと消えていったのだった。
ご案内:「図書館 閲覧室」からレナードさんが去りました。
■アージェント・ルーフ > 彼がノートを閉じたものの、ボクの前髪が突風に晒される事はなかった。
また、知れずに心を抉ったかもしれないボクはちょっとだけあたふたする。
が、その心配はない様で、それどころか闘志に油が注がれている様にも感じられる。元気な子で何よりだと思いながらもフォローの言葉を探すも、もう既に帰る準備を済ませ、本棚の奥に歩きながらも早足で去っていく様子が見られた。
「あっ…えっと…お疲れ様?」
時間にして数分と言う刹那の事であったが、彼にとっては永遠の時を過ごしているような気分だったのだろう。ボクはこの事で彼が気に病まない様願いながらも、そんなこじれた関係を作り出した異能の制御についての勉強を教訓の如く進めることにした。
ご案内:「図書館 閲覧室」からアージェント・ルーフさんが去りました。