2020/07/16 のログ
■阿須賀 冬織 > 「っ…………、それ……は……。」
今日初めて彼と目が合った。思わず息をのむ。
そのすべてを飲み込むような黒い眼差しと、"死"というたった一音の重さにだ。
確かに深刻な話であろうとは想像していた。だが、それは想像以上のものであった。
言葉が詰まる……が、そのままであれば彼はその一歩前に進んでしまうのかもしれない。
「……んなわけねーだろ! その崖は降りれないのか? 回り道はないのか? 落ちたら本当に死ぬ高さなのか?
……俺にはさ、わかんねーよ。お前の抱えていることも、その絶望もよ。
でも、お前も本当にわかってることなのか? 今まで知らなかったことなんだろ。
……もし、本当にさ、考え抜いてダメだったなら……今、……ここにはいねーだろ。
……もうちょっと……考えてみてもいいんじゃないか……。」
知り合いに、友人に、死んでほしいわけがない。そんな思いで言葉が口に出た。
自分でも何を言っているのかわからない。これではただの後回しだ。
そして、もしこの言葉を受け入れたとして見つからなければ……。
何が無責任なことは言わないだ。まったくもって無責任じゃないか。
■レナード > 「……考えないようにしてたんだし。
足踏みでも走ってる間は、考えなくて済むじゃん。
でもさ、ある拍子に立ち止まって……自分の心を覗いたら、
もう、ダメになった。」
もう、ダメなんだと、はっきり口にした。
…もしかしたら、今日ここにはいなかったかもしれないくらいに、重たい言葉だ。
彼の言う通り、頭が凝り固まっているのかもしれない。
「………さっきも言ったじゃん。生気なんて、元々なかったって。
そうでもなけりゃ、"死にたがり"なんて、言われねーし。」
今まで知らなかったこと…でも、本当はそれを知った上で自分を騙し続けていた。
…だとすれば、それは心にどれほど重くのしかかるものだったろうか。
「自分の未来が袋小路と知ってても、走り続けるにはどうすればいいと思う?
……自分で自分のことを知らんぷりし続けるしかないわけ。
でも、それに気づいちゃったから………」
■阿須賀 冬織 > 「袋小路……?」
もうダメだとはっきりと口にされる。
彼の言葉には答えられない。
どんなに綺麗な言葉を言っても彼に響くとは到底思えなかった。
ただ、彼の事情を詳しく知らないゆえに、その言葉が理解できなくてぽつりと問いかける。
■レナード > その言葉を聞く。
ああ、情報が足りないから、言葉を繋げられないんだな…そう思う。
普段であれば言わないのだけれど、こんな胡乱な思考をしているのだから、
口が滑っても仕方ない……そう考えた。
「………僕は歳を取れない。」
ぽつり、ぽつり、言葉を発し始める。
「先祖が受けた蛇の呪いで、僕は子供ができるまでずーっとこの姿のまま。
事故とか病気なら死ねるくせに、歳を取ることはなくなった。」
そうして自分の事を話す間、視線は今まで開いていた本に向けていた。
誰かに対して、朗読するように。
「……僕は異邦人だ。色んな世界を渡って、その呪いを解く方法を探し続けた。
このままじゃ、僕の未来の子孫にも呪いが受け継がれてしまう…
そんなのは、僕の代で止めたいと思った。」
それは、自叙伝の如く。
自分がここに至るまでの、遠い遠い物語で。
「…何年も、何十年も…もしかしたら、何百年も。
もう、自分の歳は覚えていない。……でも、そうしてようやく、この世界に辿りついた。」
ぺらり、ぺらり。ページをめくる音が目立つ。
「……いつからそれを考えていたのか、心の奥底で考えないようにしていたのか、もう分からないけれど。
……呪いを解いた後のことを、僕は考えることができなかった。
呪いはいつ解けるのか?
解けた後、僕の隣には誰がいるのか?
……そもそも、本当に解けるものなのか?」
そこまで言うと、ぴたりとページを捲らなくなって…
「解けるのは千年先か、万年先か、それは果ての無い生き地獄。
解けても今までの知り合いはみんな死んでる、それは行き先不明の孤独地獄。
そもそも解けるものでなければ、それは終わりのない無間地獄。」
パタン、と、本を閉じた。
「…この先は、どう転んでも地獄なわけ。」
■阿須賀 冬織 > 黙って、続きを促すように彼の言葉に耳を傾ける。
今更その言葉に驚きはしない。
不老……多くの人類が不死と共に求めてきた伝説。
そして、それを手に入れたものに降りかかるのは不幸。彼らは逆に死を望むようになる。
自分だけが世界に取り残される苦痛はきっと想像以上のものなのだろう。
彼の呪いを解く方法を探す努力はできるし、しようとは思う。が……
一番理解している彼が探しても見つからなかったのであれば、
そういったものに深い造詣があるわけでもない自分が見つけることはまずないであろう。
この学園であれば探せば他の不老不死の一人や二人は出てくるだろうが、
きっとそれは彼が望む隣にいる人物ではないのだろう。
「……悪い。俺には……最初に言ったように悩みを聞くことしかできねえ……。」
■レナード > 「もうちょっと、考えてみてもいいんじゃないか。
………僕の話を聞いてさっきそう言ったのは、おめーなんだけど。」
冷ややかに、笑う。
最初に言った言葉と、違うじゃないかと。
「だから、言ったじゃん。
知らない方がよかったって、思うことはあるわけ?って。」
■阿須賀 冬織 > 「……ああ、そうだったな。……ははは、自分で言っといて何言ってるんだろうな。
……俺も勝手にその呪いの解き方とやらについて考えさせてもらうとするよ。」
さっき言ってたこととの矛盾を突かれてばつが悪くなる。
「んあ、別にこれを知ったことについて思うことはねーよ。
寧ろ知らなかった方が後悔してるわ。」
そう言って立ち上がる。
■レナード > 「やめろ。」
それだけは、強く口にしておく。
…彼に解かれてしまったら、自分の今まで歩んできた歴史が、本当に徒労にされてしまうから。
「これは、僕の問題だし。
僕だけの問題だし。
……誰にも渡さない。」
ぼそ、ぼそ、小さな言葉で呟く様に。
立ち上がる彼を、その眼は追わなかった。
ご案内:「図書館 閲覧室」から阿須賀 冬織さんが去りました。
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