2020/09/18 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に燈上 蛍さんが現れました。
■燈上 蛍 >
図書館を利用する時、蛍はまず受付へ向かう。
炎の異能。
異能としては一般的なモノではある。
しかし"火"とは何がどうあれ、文化をもたらすが、
同時に文化を焼き消してしまうモノでもある。
受付に行くと頭に差している白い彼岸花を預け、
代わりに異能抑制のチョーカーを首につけてから、書架へと歩く。
これはただ周りに『自分は本を燃やしませんよ』というアピールでしかない。
別段、炎の異能者がここを利用する時に、
装着しなければいけないという訳ではない。
蛍がそうしたいからそうしている。
ただそれだけだ。
ご案内:「図書館 閲覧室」に伊伏さんが現れました。
■伊伏 >
書架の森へと入ろうとする青年の背に、声がかかった。
「それ、いつもつけてんね」
貴方に声をかけたのは、どこか眠そうな顔をした男子学生だ。
というか、実際ねこけていたのだろう。男子学生の頬に小さな赤い跡がある。
両手で本を何冊か抱えているが、そのどれもが【猫の弱点】、【狐に化かされる話】、【マンドラゴラと一緒】といった小動物の生態のものだった。
欠伸を噛み殺すものの、ハシバミ色の眼は貴方を見たままだ。
■燈上 蛍 >
マンドラゴラは小動物と見ていいのだろうか?
小説の書架へ行こうとした矢先に、声がかかる。
風紀委員の制服に腕章だけは変わらずそのままの青年は振り返る。
「? こんにちは。」
他の利用者を特に気にしたことは無く、
"それ"がどれを差す言葉なのか分からないまま相手に首を傾げた。
紅橙眼がハシバミ色の瞳を見返す。
■伊伏 >
声をかけてから気づいた。
こいつ、風紀じゃねえか。前も声かけたやつが風紀委員だったっけね。
ああ、シクってんな、最近。近寄らないようにするはずなのに。
…まあ学園内だし、あんまり気にする事ではないか。
「はい、こんちわ。律儀だねキミ」
男子学生は自分の喉をトントンと叩いた。
こちらが持つ【マンドラゴラと一緒】の表紙があなたにも、よく見える距離まで近づいて。
表紙はなんとも言い難い"無"の表情をしたおどろおどろしいマンドラゴラが、惜しみのない可愛さを見せている。
「異能制御のやつだよ。苦しくねえ?」
■燈上 蛍 >
「…いえ、慣れてますので。」
風紀委員に近づかないはずの青年が出逢う。
今日はそんな物語。そんな配役。
台本は用意された。その通りに演じるかは、役者次第。
「それに僕は、炎の異能を持った風紀委員ですから。」
別段暴発の危険性がある訳じゃない。
けれど、そういうシナリオを想定する他人だっているかもしれない。
風紀委員である以上、模範生徒で居た方が良い。
この赤い制服はそうあれと目立つのだから。
引き抜かれたマンドラゴラは、今にも動き出しそうに表紙を飾っている。
そもそもにマンドラゴラに表情というのはあるのだろうか。
人間、穴が三つあればそれを顔と認識してしまうのに。
■伊伏 >
「はー、律儀の上に真面目かよ。
俺も火は出るけど、ここじゃ1回もつけたことないな……」
風紀委員の中でも優等生かこいつと、男子学生は貴方の姿を上から下まで眺めた。
こういう制服と腕章を身に着けるような人物だ。
少なくとも、自分の異能がまったく制御できないような、よちよちのひよっこじみた存在ではあるまい。
「…それしてんの、模範ってやつ?あんま硬い言葉になると、窮屈さが増すけど。
全身から水が出るようなやつでも、"そういう意味じゃ"本の事なんか気にしてここ来て無いってのに」
正道は嫌いじゃない。優等生も。
ただ、あまりにも律儀が過ぎるのが違和感にすら見えて来る。
■燈上 蛍 >
「別に強制されるようなモノでもありません。」
常世島の技術。
もちろん本の修復技術も進歩しているだろう。
燃えたとしても、水浸しになったとしても、ある程度は復元されるだろう。
それは人間も本も同じく、
完全に何もかも失われてしまわない限りは、修復される。
「…予防線みたいなモノです。
ここまでしておけば、何かが起きた時に、疑われずに済む程度のモノですから。
何かが起きるまでは本に集中出来るじゃないですか。」
青年は静かな声で話す。
風紀委員であるのだから、何かが起きれば動かなければいけない。
けれど、自分を何かが起きる装置だと見られて本を読む邪魔をされたくない。
偏見など、どこにでも溢れている。
差別など、どこにでも溢れている。
気を付けるに越したことは無い。
■伊伏 >
「訂正、律儀でもなんでもないな」
近くの植物の棚の番号を見て、そこに【マンドラゴラと一緒】を返しに行く。
マンドラゴラの表紙は、番号通りに並べられた元の場所へ戻る瞬間、小さく蠢いた――ように見えた。
どちらだったか定かでは無い。ただ、視線で本を追ったら目についただろう。嫌な動きだった。
男子生徒はその足でまた近くに戻ってくると、貴方を見て。
「他人を信用してないだけだろ?」
違う?と横を通っていった。
すぐ近くの棚の、別の本を取り出している。
【黒水白石】と書かれた本だ。表紙から察せるのは、薬草の本らしいということ。
■燈上 蛍 >
自主的に異能抑制は装着している。
完璧な異能抑制とはいかないだろうが、
申請すれば支給されるモノだろうし、多少なりとも効果はある。
なにより目に付く。
面倒ごとに関わる委員会にいるが、
自分が面倒ごとの起点になってはどうしようもない。
「…さぁ、どうでしょうね。
どちらかというと自分も信用していないので。」
この世に完璧は有りはしない。
どんなにチェックした文章にだって誤字や脱字はあるように、
自分の異能がまだ発展途上であるのも確かだから。
小説の書架へ行き、【シンデレラ殺人事件】を手に取る。
刑事捜査系のサスペンスっぽいあらすじが裏に書かれている。
表面には硝子の靴に血痕。
■伊伏 >
自分も信用していない。
そんな言葉を聞けば、男子学生の眼が僅かに光った。
好奇心の光というよりは、もう少し汚れた"何か"に近い。
男子学生の裏の顔がほんのりと、首をもたげたのだろう。
ただ、ここは歓楽街や落第街でもない。
それを表に出すことも――ましてや相手は風紀委員だ、色気づいてはいけない。
こんなところでクソくだらないポカをするわけには、いかない。
「寂しい言葉だねえ」
フィクションの棚へと消えて行く背中に、そう投げた。
位置的には、声が届くだけだろう。そうなくてはならない。
なぜなら、男子学生は僅かに気味の悪い笑みを口元に浮かべていた。
それもほんの一瞬で消えるものだが、おおよその平穏を享受する一般学生のそれではなかったからだ。
手元にある動物の本を返しに、男子学生も動いた。
これらを元の棚に戻しに行くついでに、同じジャンルでもう少し別の本も見たい。
■燈上 蛍 >
「……慣れていますよ。」
その返事が青年に届いたかどうかは定かではない。
何に慣れているのかも明確にならない、
その台詞はただ台本を棒読みするかのように放たれるだけだった。
フィクション、ノンフィクションの本棚を歩く。
【シンデレラ殺人事件】【エレノアノート 一夜の宿帳】
【異能学者アーミル博士の一生】
ジャンルはバラバラに、目に付いたタイトルの本を手に取る。
……まだこの青年は、歪な笑みを浮かべていた彼の本に興味は無かった。
ハシバミ色の表紙に食指は動かされない。
相手から言われる台詞は、良く聞いた言葉故に。
■伊伏 >
少し間を置いて、おおよそ借りたい本に目星をつけて手に取る。
手元の本がすっかり入れ替われば、借りたものそれぞれを記してカードに収めた。
ちょうど男子学生が図書館を出る経路が、本を読む青年の近くだったのだろう。
「また"どっか"でね」と、青白い火が貴方の横顔を舐めた。
それこそ一瞬の幻のようなものだ。熱くも無ければ、そこにいつまでも残るものではない。
ただ、声だけは確かに届いたはずだ。先ほどの言葉と同じように。
ご案内:「図書館 閲覧室」から伊伏さんが去りました。
■燈上 蛍 >
火が見えた。
己の焔の色ではない色と聞こえた言葉に瞬き、本から顔を上げていた。
その瞬きに、火の色を浮かべて。
…相手の姿はもう見えなかった。
火と火は混じる。
色の違う火はやがてどんな花火を見せるのか。
それはどんな物語に成り、本におさめられるのか、今はまだ分からない。
「 」
青年の台詞は、今は書かれていなかった。
ご案内:「図書館 閲覧室」から燈上 蛍さんが去りました。