2020/09/20 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に黒髪の少年さんが現れました。
■黒髪の少年 > やってきた。
至って自然に、風景に溶け込むように、まるで当たり前のように。
このローブは他人の認識を濁す、幻想の衣。
フードも含めて身体を覆い隠す恰好となるので、これだけでは怪しい人相に見えるかもしれないが、
そもそもが人の記憶に残るのを避けるための呪いが込められた装束である。
ただし…それを着ているのがレナードである、という認識を持つ相手でない限り。
「………。」
実はここにはまだ来ていなかった。
しかし、ここには来た覚えがあると記憶の淵で告げているものがある。
だからきっと、思い出さなければならないことがあるはずだ。
その意志に誘われるまま、やってきたのだった。
■黒髪の少年 > ふらふらと、惑う足取りでありながら、歩む方向は一点を向く。
ここは、確か…
「……確か、この書庫に有ったのって……」
いつの間にか、とある書庫の前に辿り着いていた。
何の気なしに見上げたら、そこにあったのは…"背を高くする本"。
何故だろう。
あの本を見ると、めっちゃムカついてくるというか、なんか照れ臭く…気恥ずかしくなるというか。
本自体の内容に因縁があるというよりは、本を巡って何かあった覚えがある。
…取ってしまえば、思い出せるのだろうか。
「がっ……ん!ぐっ……、
と……っ、取れなッ…………!!」
とはいえ、それは結構高い段に収められているもので。
ぐぐーっと背伸びをするものの、高くて取れない。
つま先立ちをしても、ギリギリまで手を伸ばしても、無駄な足掻きに終わってしまう。
辺りを二度三度見回して、やはり人気がないことを確認した上で、棚を足場替わりにとも考えたが、
なけなしの良心で以てそれを阻んでは、いじらしくもその辺をうろついて。
■黒髪の少年 > 興味を示したものが手が届かない場所にあるということに、悶々とさせられている。
単純に足場を使えばよいのだが、それは自分の身長が止まっていることをまざまざと見せつけられるようで気分が悪い。
増してや自分から人に取ってくれと頼むのも、やはり自分の力でどうすることもできないことを認めるようで気が進まない。
「……足場使うのはぜってーやだし。
でもそれだと取れねーのは分かるけど……うーん。」
だからといって、諦めることは考えない。答えの出ない禅問答に、少年はドツボに嵌っていた。
「…なんか、デジャブだけど……
いや、でも……うーん……っ……」
■黒髪の少年 > 「………。」
見上げる。…そこにはやはり届かない。
どうやら、以前も同じことをした気がして仕方がない。
おそらく、こうして自分だけでは取れなかったようにも。
「僕はあの時自分の気に食わなかったことを、飲み干すことができなかった。
…これは拘りではなく、単純に……子供だっただけだし。」
辺りを見回す。
きっと、足場代わりに使える台のようなものがあるはずだ。
書架から離れ、ふらふらと探し始めた。
■黒髪の少年 > 暫く経って、彼は戻ってきた。
足場を抱えていそいそと、書架の前までやってきて。
「……よし。」
床にそれを降ろすと、はふと一息つく。
これの上に載れば、この背丈でだってあの本に手が届くはずだ。
あの時の自分には、できなかった方法で。
台に上がる。
上がった上で、少し踵を上げる。
後ろに倒れないように本棚に片手を添えて、前に体重をかけながら。
もう片方の手で、その背表紙に手をかければ…
「…………よいしょ、っと……」
するりと引き抜くことができた。
少し拍子抜けするくらいに、容易く。
■黒髪の少年 > 「……これに、間違いない……」
手に取って、その表紙を見やる。
…やっぱりムカついてきた。
ああ、そうだ。
「……アージェント・ルーフ……ッッ…」
同じような背丈のクセして、ここにあった本をかるーくジャンプ一つで取ってみせたスカした野郎(本人談)。
自分は頑張ってたけどまったく取れなかったってのに、あの男はまるで朝飯前とばかりに余裕で成し遂げやがったっけ。
思い出すだけで負けん気が沸いてきた。
「……それ、と………」
この本に纏わるのは、もう一人…
特徴的なリボンを頭に着けていた、風紀委員の少女。
「…確か、早坂……っ……」
この本を戻しに来た時に、手伝ってくれた少女の名を呟く。
苗字しか分からないのも、名前を聞けていなかったからだったはずだ。
色々とドタバタやったが、最終的にはちゃんと戻すところには戻せたっけ。
「……ふう。」
頭の中でひっかかっていたものが、また一つなくなる。
もうこの本に未練はない。足場がここにあるうちに元あった場所に戻してしまおう。
■黒髪の少年 > まだ、思い出していないことがある…
そう思えてやまなくて、図書館からは去れずにいたもので。
そんなわけで足場を戻して、本を読むスペースへとやってきた。
「………。」
不思議と、自分の体臭が気になってしまった。
汗は…それほどかいていない、はずだ。
なぜ、自分はそんなものを急に気にしたんだろうか?
誰かに会う予定もなかったはずなのに。
「………違う……」
違う。
体臭とか、香水とか…そういうものを"敢えて"避ける理由があったはずだ。
何だったか…それを思い出そうとして、ソファに座った。
■黒髪の少年 > 「…………。」
目深に被ったローブの内で、瞳をそっと細める。
じっと動かずに、心臓の音さえ僅かに聞こえてきさえしそうな静寂の中で、ただ置物のように佇んでしまえば。
その内に誰かに見られているような…そんな気配が、するようで、しないようで。
「……レイ……………」
五感の鋭敏な彼女の名前が、脳裏に過る。
そうだ、この場所で…自分は……
「~~~~っっ…!!」
思い出してきた。
とても口には出して言えないこととか、色々と。
瞬間湯沸かし器にように沸騰した感情は、その頬を真っ赤に染めるほどに鮮烈で、
まあ、なんというか、今の立場を思いかえせば……
「げふ、げふん。」
思わず立ち上がってしまいそうになって、我に還る。
数度咳ばらいをしてから、まずは座って落ち着くことにしよう。
こんなところで慌てても、ロクなことはない。
煩いと注意されるのは望むところではなかった。
■黒髪の少年 > 「……あー……、あー……っ……」
なんか、居た堪れなくなってきた。
落ち着こうとしたのに、どうにも落ち着くことができなかった。
やはり立ち上がって、辺りを二度三度往復して…
「…よし、思い出した。ここでのことは思い出した。
だからもうここに居る必要はない…ないんだし。」
独り言ちる。
まるで、自分を納得させるように。
そう言いながら、足早に図書館を後にしようと歩き始めて…
「……ないんだしー!!!」
つい、大きな声がでた。
そこに居た図書委員に抗議の咳払いをされると、申し訳なさそうに頭を下げつつ、とっとと出ていったことだろう―――
ご案内:「図書館 閲覧室」から黒髪の少年さんが去りました。