2020/12/23 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」にリタ・ラルケさんが現れました。
■『年とったカシワの木のさいごの夢』 >
“うたえ、高らかに、世の人よ。
ハレルヤ。主は生まれたまいぬ。
このよろこびぞ、たぐいなし。
ハレルヤ、ハレルヤ。”――
■リタ・ラルケ >
「――"なつかしい讃美歌は、空にひびきわたりました。船の上の人たちは、みんな、この歌をうたい、お祈りをしたおかげで、魂が高められたように感じました。ちょうど、クリスマスの前夜に、年とったカシワの木が、さいごの、いちばん美しい夢のなかで、高められていったようにです。"」
読んでいた童話の本をぱたりと閉じて――須臾の後、ため息。なるほど物語としてはいい話なのだが、かといって自分が求めていたものかと思えば、違う。
「むえー」
と、脇に脱いだコートと『クリスマス』だとか『聖夜』だとかの本なんかが積まれた机に突っ伏して、そんな意味のない言葉を発する。
「……クリスマス、ねえ」
親友と、クリスマス――正確にはそれよりもあとの日なのだが――に出かける約束をして、何も知らないままではどうかと思い、情報を得ようと図書館に来たまではいいものの。
「……違うんだよなあ。サンタがどうっていうのは、もう知ってるんだよなあ」
クリスマスが、はたしてどういう日なのかは知れた。だけれど自分が知りたいのはそういうことではなくて。そもクリスマスというのは何をするのか、何をしたらいいのかということであって。
いや、何をするのかというのは知れたは知れたのか。問題は、それが概ね「伝統的な家族との過ごしかた」というものであって、現代、それも友達同士での過ごしかたが全く知れないということであって。
いよいよどうしたものかと、頭を抱えているところである。
■リタ・ラルケ >
ついぞ、クリスマス――否、そもイベントごととか行事とか、ましてや友達と出かけることもなかったような人間である。こちらに来てからは友人と呼べる人間も、それこそ遊びの約束をするような親友もできたけれど。
それでも未だ、人付き合いだとかそういうものにはとんと疎い自分がいる。
「……どうしよっかなー……」
ある意味、幸せなことではある。戦いしか能のなかったような自分が、こうして他人のために、それも遊ぶことについて悩むというのは、少し前までは想像すらしていなかったことである。
しかしまあ、こちらはこちらで厄介なもので。
そも見たことすらないものをどうにかしようというのだから、結局のところこうなってしまうのは必然だったのだろうか。
誰か他人に相談しようにも、そも相談できるような知り合いがこの辺りにはおらず。
というかそもそも、人すら疎らである。
結局自分は、こうして机に伏せって意味のない唸り声を小さく上げ続ける置き物と化していた。
■リタ・ラルケ >
「――んぇ」
一瞬、寝ていた。変な声が出た。
行き詰って机に臥せって、そうしていつのまにか寝てしまったらしい。
「……考えなきゃなあ」
そうは言うけれど、そう思って行き詰っているからこそ置き物と化していたのだが。
だけれどこうしていても仕方ないと、積まれた本を書架に戻そうと席を立つ。
「……クリスマス、クリスマス……かあ」
何度そう繰り返したところで、はたして何かいい案が出るかと言われれば否であり。
そしてだからこそ、ここまで泥沼と化しているのだろうが。
■リタ・ラルケ >
「……だめか。わからないや」
――結局、それからいい案が出ることはなく。
机には先ほどまでと違う本が積まれこそすれど、そのどれもが求めているものとはほんの少しずれていた。
結果として、徒にクリスマスの伝統的な知識だけが増えていったことになる。
「あー……やだなー……」
ここまでして、何もいい案が浮かばない自分に対して、言う。
人付き合いの経験値の少なさが、ここにきて重く重くのしかかる形となっていた。
「……外、歩いてみよっかなー……」
本の上で得られる知識に限界を感じたならば、あとは足で情報を得るべきか。少なくとも、ここでこうして置き物になっているよりはいいかもしれない。
とりあえず、この積まれた本を書架に戻しに、再び席を立つ。
■リタ・ラルケ >
そうして、書架に本をすべて戻して、いざ帰ろうと――そう思った刹那。
ふと視界の隅に、一つの本を捉えた。
「……これは」
その本を見て、少しばかり考える間があった。
「……」
予定変更。少なくとも、何も指針がないまま外に出ることはなくなった。
その本と、それから関連しそうないくつかの本を手に取って。
「えっと……貸出カウンター……」
両手にいくつかの本を抱えて、自分はその場を離れる。
ここを訪れたことがなんとか無駄になることはなかったと、そう少しだけ安心しながら。
ご案内:「図書館 閲覧室」からリタ・ラルケさんが去りました。