2021/10/17 のログ
レナード > 「……いったい、何の目的で……?」

少年は思案する。
自分をつけ狙う理由は予想通りでありながら、それでも動機という辺りで疑問が残っていた。


ウルトール。
この少年がここから一度いなくなる前に、彼の歪んだ欲望と研究所の技術力によって生まれた機械兵装。
レナード専用に作られたパワードスーツでありながら、ウルトールの名で風紀委員に所属するために、着用者を隠すための蓑でもあった。

その究極的な目的は、心を持つ人間に正義は執行しきれない、という理念の下に、風紀委員の実働部隊を機械人形に置き換えることだった。
それを達成するためのマイルストーンの一つとして、電気に関する異能を持ちながら、当時の風紀委員の思想に強い疑念を持っていた彼専用に作られ、
ウルトールを中心に広がる無線ネットワークに接続された数々の無人機械人形を、暴徒鎮圧や制圧作戦に充てる実証実験を行った過去があった。
少年は、いつか受けた風紀委員への不信感から、
これの製造に加担した研究所は、予算や立場の向上、運用ノウハウの蓄積を目当てに、
各々が各々を利用するつもりで作られた、"風紀委員の牙であり、毒である"べき存在だった。

その実証実験中に、彼の心が別件で打ちのめされ、耐えきれずにこの世界から出ていくという事態になったことから、
その計画は中止にせざるを得ないという結論となったが、この機体自体は廃棄こそされていなかった。


「あれは僕が中に入らなければ動かないはずだし。
 ……それとも、何か試そうとした……?」

レナード > 画面に表示された起動ログを眺めていたが、
やがて、そんなことをしている場合ではないことを思い出す。
早く出ていかなければ、探られる。

「………今ここで、考え込んでる場合じゃねえし。」

テキストエディタの、印刷機能を利用する。
傍のコピー機から、ある程度規則的な機械音と共に数枚の紙切れが出力されるのを確認してから、
手早くウィンドウを落として、記録媒体を抜き取り、パソコンの電源を落とす。

「早くいかなきゃ………」

出力された紙を乱雑にひっつかむと、足早に図書館を後にした。
帰りは一層の注意を払うように、その眼を使って人目を避けながら…

ご案内:「図書館 閲覧室」からレナードさんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」にイェリンさんが現れました。
イェリン > 「……何かしらこれ。ヒエログリフにも似てるけど」

何の気も無しに開いた書物。
自己の術式を作る過程で参考にしたモノに似た図形。
シジルマジックの亜種、らしい。
異能の発現に対して、系統立てられた魔術の姿も多く派生して、進化した。

「文章でも文字でも無いけど、位置と向きを絡めて意味を持たせてる、って所かしら」

パラパラとめくり、今まで得られなかった他派の知見を身に刻む。
隠匿こそ魔術の美とされた頃には考えられなかった、知識の泉が山となって広がっていた。
入学の目的自体は、十分に果たせそうではあった。

「――正しく文字が読めればもっと良かったのだけれど」

ご案内:「図書館 閲覧室」に雪景勇成さんが現れました。
雪景勇成 > 大図書館群――普段、真面目に勉学に励んでいる訳でもない人間が、テスト前など必要に迫られた事態以外では訪れる事が無いだろう場所。
そこに幾つもある閲覧室の一つに、数冊の本を小脇に抱えて細長い布包みを背負った白髪の男が入ってくる。

「………あ?」

どうやら先客が居たらしい。中の様子をロクに確認しないで入室したこちらの落ち度ではあるが。
かといって、わざわざ開けた扉を閉めて別の閲覧室に移動するのも面倒臭い。
なので、「あー…悪いがちょいとお邪魔させて貰うぜ。」と、ぶっきらぼうに声を掛けつつ中へと入る。

一度、先客の姿と彼女が捲っている本の内容を何気なく見る――正直、そっち方面も男は知識が豊富とは言えないが。

「……シジルの亜種っぽいな。」

と、独り言のように呟いて。実際彼女に話しかけたというより独り言そのものだったが。

ご案内:「図書館 閲覧室」に雪景勇成さんが現れました。
イェリン > 「……こん、にちは?」

閑静な閲覧室内、声を掛けられるとも思っていなかったので疑問形になる。
自分に問い掛けられた物では無かったとはいえ、周りを見渡しても自分以外には目前の白髪の男性以外には見当たらない。
眠たげで気だるげ、ぶっきらぼうに言い放ったきりな辺り独り言なのかもしれないが。

「邪魔だなんてとんでもない、律儀なのねあなた。
……律儀ついでに貴方、これ読んでもらっても?
翻訳アプリがうまく動かないの」

ズイッと向けられるスマートホンには翻訳アプリの文字
見る者が見れば一目で分かるのだろうが、古文献。
龍虎の文字以外の文章は翻訳されたのか、むしろイェリン以外には読みづらい物になっているだろう。

雪景勇成 > 「……は?……いや、ねーよ。俺が律儀とかそれは流石に無いだろ…。」

思わずそう返す程度には意外な言葉だったらしい。まさか自分みたいなのが律儀と評されるとは。
少なくとも、男は自分を律儀だとは別に思っておらず、むしろ適当だと自認しているのだが…。

ともあれ、翻訳アプリ?と、僅かに怪訝そうにしつつも、手近な所に小脇に抱えていた書物を無造作に置いてから彼女の近くへと歩み寄り。

「……いや、殆ど翻訳されてんじゃねーか…俺が出る幕はねぇだろこれ。」

ずいっと示されたスマホの画面をざっと見る限り古文…どう見ても9割以上、つまり殆ど解読されているようだが。
ややあって、翻訳が為されていない龍虎の文字が目に留まれば、あぁこれか…と一息。

「これが『龍』…つまりドラゴン。こっちのが『虎』…タイガー…で、分かるか?」

翻訳アプリを用いているのと、その既に翻訳された部分が明らかに自分で読めない類のそれ。
それに、改めて間近で見ると日本人ではないだろう、という事で大雑把にだが意味を伝えてみる。
態度はそれこそ無愛想でぶっきらぼうだが、彼女の評した律儀、は強ち間違いでもなさそうで。

イェリン > 「そう? 他人に無関心な人も多くって、そう思ったのだけど」

現に律儀に付き合ってくれている。
異邦から来た者にとって、反応を示してくれるというだけでも感じる物は違う。
本人が適当というのであればそれが正しいのかも知れないが、その距離感自体、常世に来てから彼女にとっては初めての物だった。

「龍に、虎……ね。意味は分かるの、ありがとう。
話せるし意味は分かっても文字として読めない
っていうのは、ここや日本だとあり得ない話だったかしら」

間違ったまま読むと痛い目を見る。
文字を術式に選んだ時から避けられない。
適切な言葉を誤ると、言葉や文字は使用者に牙を剝く。

「あなたのソレは……お勉強?」

雪景勇成 > 「…俺も別に他人にそんな関心を持つタイプでもねーんだけどな…。」

何処か釈然としない、といった感じで彼女の目前で怪訝そうに唸るが、まぁいいか…と、吐息を一つ。
割と切り替えは早いのか、先の律儀云々は一先ず置いておく事にしたらしい。

「ああ、ならいいんだが…。あー…どうだろうな。
俺も真っ当に読み書き覚えたのはここ3,4年くらいだし何とも。
…つーか、日本の本土の方は知らねーが、この島だとそういう奴もちらほら居ると思うぞ。」

絶対数は少ないだろうけど彼女だけでは無い、とそんなニュアンスで告げて。
先ほどちらっと見えた書物の内容から…まぁ、面倒臭いのであれこれ考えたくは無いのだが。

「…その口ぶりからして、アンタが使う魔術は文字を媒介や基点にしてる、つー感じか?
…あぁ、これはオマケみてーなもん。近々小テストがあるんだが、そっちの予習復習は終わってる。」

と、先ほどテーブルの一角に置いた書物を軽く示して肩を竦める。
あくまで今、持って来た書物は単に何となく目を通そうかと思った程度のもので。

ご案内:「図書館 閲覧室」に雪景勇成さんが現れました。
イェリン > 「3、4年……早いのね。
鍛えてるだけじゃなくて、言葉も覚えて使えてる。
でも、私だけじゃないっていうのは気が楽ね」

実際、読み書きの習得としては早い方だろう、
必要に駆られたというのもあるかもしれないが。

「文字を媒介、と言っていいのかしら。
ルーンマジックの真似事にオリジナルの文字を使ってるのだけど、
代償に“新規に文字”を学べなくなってるの。
言語じゃなくて、文字だけが。」

自嘲するようにポーチから取り出した羊皮紙をひらひらと揺らす。
ゆらりと揺れた文字から淡い光が漏れだし、周囲を薄く照らしだす。

「おまけ、で勉強するのね。
予習に復習、もしかして優等生なのかしら。」

雪景勇成 > 「…どうだかな。正直早いか遅いかとかあんまり意識した事ねーし。
まぁ、とはいえ少数派…かは分からんが多くは無いだろうぜ。」

実際、必要に駆られたから面倒臭いが仕方なく取り組んで、気が付いたらそのレベルになっていただけだ。
なので、早いのか遅いのか、その辺りも男にはピンと来なかったりする。

「……そういう代償もあんのか。少なくともこの島でそういうのは聞いた覚えがねぇな。」

勿論、男が知らないだけで常世島にも既に彼女と似たような代償を伴う魔術体系があるのかもしれないけれど。
彼女が何処が自嘲気味にポーチから取り出した紙…いや、羊皮紙というやつか。
そこに書かれた文字から淡い光が漏れて周囲を薄ぼんやりと照らしていく。

「んな訳ねーだろ…平均くらいだよ。…そもそも勉学は別に好きじゃねーし。」

優等生、というのが何となく嫌なのか無表情を僅かに嫌そうなものに変えつつ、片手をひらひらと横に振って否定。

「…しかしまぁ…”新たな文字”を独学で生み出した代償が”新規に文字を学べない”…か。」

皮肉というか如何にも代償らしい代償と言うべきなのか。羊皮紙の文字から生じた明かりを一瞥しつつ。
彼女自身がどう折り合いを付けているかは知らないが…まぁ、他人がどうこう言うモノでもあるまい。

「……あぁ、そういや…忘れてた。学園の2年のユキカゲ・イサナリだ。…言い難ければユキとかイサナでいい。アンタは?」

あくまで偶然同席しただけのようなもので、無理に名乗りあう必要性も無い。
まぁ、逆に名乗らない必要性も無い訳で、一応自分の学年と名前は言っておこうと。

イェリン > 「それでも、一人じゃないというのは嬉しい物よ」

覚えたくないかと言われれば覚えたいという思いもあるが、
そのために一人で作り上げた魔術基盤を無に帰したくもない。

「覚えるはずだった文字と意味を、自分だけの理解できる図形に置き替えてるから、真新しさと独自性だけは保証できるわ。
せっかく用意された学術魔術がある世の中で異能相手に意地を張った結果だから、自業自得よね」

派手な事のできる文字もあれば、些細な生活の補助にしか使えないような物もある。
他人に拾われても意味を読み取れなければ悪用されようがないし、見ただけで対策される物でもない。

「好きじゃない物を人並に修められる、というのはそれこそ才能の類の物よ。私、嫌いな事さっぱり覚えられないもの。
ユキカゲ・イサナ……イサナの方が呼びやすいかしら。
私はイェリン。イェリン・オーベリソン。御覧の通りの右も左もわからない一年よ。
多分、エリンって言った方が口にはしやすいのかしら」

イサナ、イサナ……何度か独り言のように言い直しているが、少し初めの部分が巻き舌気味になってしまう。
しかし聞き取れないようなものでもないだろう。

雪景勇成 > 「…そういうもんかね…。」

俺にはよくわからねーな、とは口にはせず思うだけに留めて。
一人で長く生きてきたし、環境が環境だった。一人である事は当たり前で日常だった。
だから、そちらに慣れてしまっていて…一人じゃない嬉しさ、というのはよく分からない。

「――別に自業自得でもねーだろ。どんな形であれアンタが張った意地の結果が”ソレ”ならそういう言い方をするもんじゃねーと思うが…。」

自身の意地を自業自得、と言うのは自分自身を貶めるようなものだと。
そこまで口にしてから小さく舌打ち。他人に関心をあまり抱かないようにしておきながら余計なお世話だったか。

「…ああ、別にそれでいいぜ。極端な話、よっぽど変じゃなけりゃアンタの呼び易い呼び方でかまわねーよ。
…で、イェリン…イェリン……あー、まぁ、正直エリンの方が呼び易いから、そっちで。」

イェリンと呼べはするが、矢張りエリンの方が発音…口にし易いのは確かで。
何やら彼女…エリンがこちらの名前を何度か口にしているが、どうやら正しい発音で言おうとしているようだ。
少し最初の所が巻き舌っぽくはあるが聞き取れないレベルでもなく。

「……で、エリン。さっきからぶっちゃけ多少気になってたんだが……。」

と、一度前置きをしておいてから軽く彼女…の格好を指差して。私服?なのかもしれないが。

「……アンタの服装、何か露出度高くねーか?まぁこの島の気候的にまだその格好でもギリギリ平気そうだが。」

イェリン > 「……そういうものよ」

長らく外の世界を知らなかった。
受け継がれるべき物を受け継ぎ、それが今の世で正常に機能しない虚しさを知った。
一人で常世に来て、学ぶ事に抵抗がなかったとは言えない。
村社会の中では、常に誰かが側にいたのだから。

「そう、ね。自業自得というのは違うかしら。
後悔はしていないし、どうあれこれも私の個性だもの」

人に名前を呼ばれるというのも、久しく感じる。
相手が初めて会う人であってもやはり、悪い心地はしない。

「服装は自由、と聞いていたのだけれど。
学内ではやっぱり制服着用が義務なのかしら?」

確かに、はたから見ればかなり露出の多い服装ではある。
当のイェリン自身は私服で学内施設にいる事を咎められたとしか、
思っていないようだが。

雪景勇成 > 「………。」

こういう時にどう切り返すのがいいのやら、男にはさっぱり分からない。
少なくとも、その点では彼女と自分では環境などによる差異が有り過ぎる。

「…ならいいんだがな。自分で張った意地に後ろめたさを感じてちゃ、そもそも意地を通す意味がねーし。」

少なくとも、己の個性と言い切る異国の女はその辺りは大丈夫そうだ。
呼び方についてはどうやら無難に落ち着いたようである。

「…いや、少なくとも俺はそこにとやかく言う気はねーし、そこまで厳しい訳でもねーが。」

単純に周囲であまり見かけない露出の高さだったので、少し気になった程度だ。
冷静に観察してみれば…いや、しない方がマナーなのだろうが…まぁ職業柄だ。
気付いてはいたが彼女は身長は高めで、体型も洗練されたものを感じる。
少なくとも、魔術だけではなく何らかの武術あるいは体術を修めていると見ていいだろう。

「…まぁ、でも年頃の男子には中々刺激的な格好なんじゃねーか?多分。
俺からすりゃエリンの体型に合ってるし悪くねーとは思うが…。」

まぁ、一応この男も年頃の男子と言えばそうなのだが。
あくまでその目線は冷静で、下卑た視線とは程遠いものであった。

雪景勇成 > ともあれ、そんな感じで閲覧室にて異国の女――エリンと語らいを暫しした後。
すっかり読書の事を忘れていたのを思い出せば、今から読むのも面倒なので返却する事に決めたようで。

「…俺はそろそろ戻る。んじゃ、またなエリン――…あぁ、そうそう。」

面倒臭いし、初対面の相手にそれこそ余計なお世話だろうが、ついでだ。
ポケットから取り出した紙に何やらサラサラと書いて彼女に渡そうと。

「別にいらんと思うが、俺の連絡先。また翻訳アプリとかで翻訳できない文字あったら、知らせてくれていい。暇だったらこっちでやっとく。」

などと、無愛想ぶっきらぼうに告げれば、軽く手をひらりと振って一足先に閲覧室を後にする。

ご案内:「図書館 閲覧室」から雪景勇成さんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」にイェリンさんが現れました。
イェリン > 「好きな服が似合ってるって言ってもらえるのは素直に嬉しいわね。
でも刺激的って……空港には似たような恰好の人も居たけど、
これそんなに扇情的なのかしら」

嫌味の類ではない事は言葉が言葉の節々から伝わる。
むしろ親切心からわざわざ言ってくれているのだ。
彼の視線が下卑するような物でないとはいえ、誰もがそうとは言えないのだから。
――私服にもう少しおとなしい物を調達した方が良いのかもしれない。

「ん、もうずいぶん時間が経ってる……
ごめんなさいね、落ち着いて調べものするために来たところに
話しかけちゃったりして」

話し込むと時間というのは飛ぶように過ぎていく。
相手の予定を妨げた事に思い至り決まりの悪そうな顔をしてしょげる。

「ありがとう、あとで何か私からメッセージを送るわ。
要らないなんてとんでもない、頼れる人なんてこっちには誰もいなかったんだもの、助かるわ。
……それと、今度はちゃんと制服着てくるわね」

ぶっきらぼうに別れを告げる背中に、もう一度声を投げる。
こんな言い方をすると微妙な顔をするだろうと分かっていながら、いたずら心のままに

「親切にありがと! イサナ!」

イェリン > 教えられたアドレスに思いつく限りの言葉を翻訳アプリにかけて謝意を綴る。
案の定出来上がった流暢に形式ばった感謝を述べる隙間にトンチキな言葉の挟まる文章に続けて
深くお辞儀をする猫の背後でデカデカとThank youの文字が躍るスタンプを送る。

「律儀、親切……気だるげだったけどイイ人だったな、イサナ」

恵まれた体格に無駄のない鍛え方をしているのだろう。
見えていたのは顔と手指くらいの物だが、それだけでも武器を扱う人間特有の気配が感じ取れた。

「また会えるかしら」

日もとっくに暮れてそろそろ閉館が近いらしい。
パタリ、と自分の開いていた書物を閉じる。
不慣れな土地を頼りなく歩んできた足取りが、今は少し軽い。
一人じゃない。
イサナの言葉を反芻しながら、夜闇の中へと姿を消した。

ご案内:「図書館 閲覧室」からイェリンさんが去りました。