2021/12/12 のログ
シャルトリーズ >  
「持久力強化……気力回復……ははぁ~」

むむむ、と此処に来て珍しく思案顔のシャルトリーズ。
何を思ったのか、数秒の沈黙の後に小さくぱん、と。
胸の前で軽やかに手を叩く。

「なるほど~。
 確かにそれなら、付与魔術を学ぶのは一つの解決策ですね~。
 しかし生物で無いなら『何でも』直せると来ましたか……
 それは羨ましい限りですね~。
 私、結構身の回りのものがよく壊れてしまうので~、
 そんな能力があったらとっても助かるのですが~」

困り笑顔を浮かべながら、腕組みをするシャルトリーズ。
そう、彼女の身の回りのものはよく壊れる。
多くの場合、彼女自身の手によってなのであるが……
それはまた、別のお話。


「ええ~、相談でしたらどうぞ~?
 基礎魔術や保健体育など講義科目の質問は勿論ですが~、
 今晩のおかずから明日の朝ごはん、
 恋愛相談、進路相談まで
 何でも気軽に相談できる教員を目指しておりますので~、
 気軽にかむかむ~」

ゆったりと言葉を並べた後、ふわりと宙に浮かんだかと思えば、
対面の椅子の上へとあがり、腰を下ろした。
彼女が授業中にもよく使う『フロート』の魔術である。

角鹿建悟 > 「…俺の異能は心身への負荷が思ったより積み重なるので。
ただ、仕事を妥協するのは俺自身が許せませんし…。
だから、その二つの魔術で心身の負荷を軽減できれば、と。」

思案顔からの沈黙…と、合点が行ったのか軽く手を叩くシャル先生。
理解して貰えたのか、こちらも軽く頷いて。教師は流石に話が早い。

「…ですね。直接その二つの魔術を用いるより、付与魔術でその効果を物体に付与させて持ち運ぶ方がいいかな、と。
魔術をそのまま使うと、その都度掛け直したりが必要になるので…。
だから、予め効果を付与した物を仕事中に身に付けておこう、と考えた次第です。」

と、自分の考えを改めてシャル先生へと語っていく。
少し手間が掛かるというか回り道かもしれないが、術式の掛け直しはしなくて済む。
少なくとも、仕事中は集中を切らしたくないので魔術の掛け直しは避けたいのだ。

「…そうなんですか?…先生が良ければ俺が直しますが。」

身の回りのものがよく壊れる、と困った様子で語る先生に真顔で首を傾げて。
…そういえば、ドワーフ種族は力が強いと聞いた気もするが…まさか…。

「…すいません、かなり他愛も無いというか、変な質問なんですが。
――先生は、『息抜き』をする時は何をやってたりしますか?」

ふわふわと浮かび上がった彼女――浮遊魔術だろうか?――が、対面の椅子に腰を落ち着けて。
改めて、彼女に相談したのは、先の魔術に関して――ではなかった。

(…息抜きの仕方が分からない俺からすれば、先生の意見は参考になるかもしれない。)

そう、この男――息抜きというか余暇の過ごし方が下手なのである。

シャルトリーズ >  
「ん~、なるほど~」

仕事を妥協するのは自身が許せない、と。
その言葉を聞いて、ははぁ~、と納得顔を浮かべる。

「ああ、スクロールやスペルブックのような
 利用方法を考えているのですね~。
 それは効率的といえるでしょう~!
 
 事前に物体へ魔術の効果を内包させ――
 任意のタイミングで発動させる。
 一見難しいように思えますが、原理さえ分かってしまえば
 そう複雑でもないのです。
 
 方法については、私が授業の為に作ったプリントが
 ありますので、またそれを渡しましょう~。
 解説も色々入れてありますので、
 ここの本を漁るよりも方法の理解は早いと思います~。
 実践して、身につけるのは勿論角鹿さんですので、
 どれくらいで身につくかは角鹿さん自身の頑張りによりますが~」

実際のところ、シャルトリーズにとって、
持久力強化や気力回復の効果があるスペルブックを
作成するのは容易なことである。
しかし、それを簡単に渡してしまうことを彼女はしない。

安易な解決法の提示は、生徒の成長の妨げとなり得る。
何より、目の前の相手はそういうことをすんなり受け入れる
タイプであるとは、シャルトリーズには思えなかったのである。


「おお~、それは助かりますね~! 
 この間も洗濯機が壊れてしまって~。
 あの機械、便利ですけど結構『脆い』ですよね~……」

むー、と納得いかない顔を見せるシャルトリーズだが、
それも一瞬のこと。

「息抜きですか~? 
 とにかく、その時したいことをする! ですかね~。
 
 頑張った分、自分を許してあげてます。
 仕事のこととかぜ~んぶ忘れて、したいことしてますよ~。

 私の場合はそうですね~、
 この世界を散歩することでしょうか。
 ここに来て少し経ちますが、
 まだまだ見慣れないものも多くて。
 適当に散歩していると、
 珍しいものが見れたりして新鮮で~。
 それくらいですね~。
 ……参考になるかは分かりませんが~」

シャルトリーズは再びぴん、と人差し指を立ててそう口にした。

仕事を妥協するのは許せないといったこの生徒、
余暇の時間すら気を許していないのだろうか……と、
心配に思う彼女だが、表情には出さない。
あくまで、ゆったりとした笑みのまま。

「本当に仕事をばっちりこなしたければ、余暇こそ大切にすべきだと
 思ってますよぉ~、私の場合は、ですけどね」

角鹿建悟 > そう、仕事を妥協するのは誰が許しても自分自身が許せない。
プロ意識やら誇りやらではない。単純に――自分はそれしか能が無いから。
根本にある『何かを創りたい・誰かを助けたい』という願い――それを、物を直すというカタチでせめて実現したいと。

「…ですね。一応、仕事の妨げにならないような小物程度の大きさに付与するつもりですが。

…確かに、タイミングは重要ですね。仕事時間は現場によってまちまちですから。
だから、複数というか予備の付与した物を携帯して、使い切ったら切り替える想定もしてます。

――いいんですか?俺はシャル先生の基礎魔術の授業を受けた事がありませんが。」

そもそも、魔術に関して本腰を入れたのはここ1,2年くらいだろう。
その時には、もう基礎魔術の科目を履修する時期は過ぎていたから。
ただ。彼女からの提案は渡りに船だ。ここで当ても無く探し続けるよりは効率的でもある。
少し考える間を置いてから、ゆっくりと逸らしていた視線をシャル先生へと戻して。

「…じゃあ、お言葉に甘えて。勿論、俺はシャル先生から切欠を頂くだけです。
そこから成果を出すのは俺の努力と研鑽次第ですからね…重々承知しています。」

生真面目にそう答えて軽く頭を下げる。少なくとも、彼女の申し出は素直に有り難かったから。
だから、彼女の推測は正しい――この生徒は安易な選択肢は選ばない。

「…取り敢えず、壊れた物をリストアップして頂ければ俺が直しに行きますよ。
持ってこれる物なら俺に渡して頂ければその場で直しますし。」

洗濯機を脆い、と言い切る彼女に流石に彼も察したのか、僅かに「あ…」という表情。
直ぐに何時もの無表情へと戻ったが、矢張り先生は力が強めなのだな、と確信する。

「――仕事を忘れる、ですか。…確かに、まぁそうなんですが…。」

僅かに瞬きをすれば、珍しく微妙に視線が泳いでしまう。
仕事中毒の気でもあるのか、暇さえあれば直す事に関して考えてしまう。
『次はもっと上手く直そう』だとか『ここはこうした方が効率的に直せる』だとか。
読書をするつもりが、つい建築関係や直す関連の書物を読んでしまう。
散歩をしていても、ついつい能力の効率的な使い方や応用を模索してしまう。

(……先生と話していて気付いたが、これはマズいのでは?)

何が、というか多分自分の思考が。息抜きの相談をしているのに、この調子ではそれもそうだ。
そして、先生の最後の一言が決定的だった。思わず僅かにだが目を丸くして。

「……やっぱり…そうですか。」

自分らしい息抜きの仕方が分からない。余暇の過ごし方が分からない。
あくまで彼女の意見は参考で、最終的に見つけるのは自分なのも分かっている。

そもそも、最高のパフォーマンスを出そうとするなら、心身の休息は欠かせない。

「……何か、ふと時間が空いてもどうしても直す事ばかりを考えてしまって。」

ぽつり、と。弱音みたいで情けないが…それを吐き出せるだけ以前よりはきっとマシだ。

シャルトリーズ >  
「でしたらそれこそ、紙が良いかもしれませんね。
 巻いてポケットにでも入れておけば邪魔にならないでしょう。

 ん? 授業を受けたことがないって~?
 まぁ、プリントくらいなら良いんじゃないですかね~。
 細かいことはなしなし~」

重々承知している、という言葉を聞けば
シャルトリーズは少し満足げに頷き、
壊れた物を直してくれると改めて聞けば、
喜びの表情を浮かべるのだが。

続く彼の言葉には、
なんとも言えない柔らかな表情を浮かべて返す。

「随分悩まれているのでしょう~、よく伝わってきます。
 それでは身体も心も、とっても辛いと思いますから~。
 こうして他人に話すことはとっても大事なのですよ~。
 
 逆に言えば……
 こういう風に他人に聞けるなら、きっと大丈夫です~。
 今は、余暇の過ごし方が分からなくても
 いいんじゃないですか~?
 
 周りの人たち、大切な人たちと一緒に時間を過ごしてみるのも
 良いかもですよ~。生活委員の仲間もそうですし~、
 他にも沢山の仲間や先生が居るでしょう~?
 
 焦らずそうしていけば~、自分の好きなものも
 見えてくるのではないかと思います~、多分ですけど~。
 まぁ、それくらいに緩く構えてていいと私は思ってますよ~。
 特に、余暇を過ごす時は~。
  
 だって――」

そこまで口にして、シャルトリーズはしっかりと眼前の生徒を
見据えて問いかける。

シャルトリーズ >  
 
 
「――真面目に生きられるほど、
 人生という時間は余裕のあるものだと思います~?」 
  
 
 

シャルトリーズ >  
こてん、と首を横にしてそう問いかけた後。


「さて、それでは職員室にプリントを取りに行きますかね~。
 ささっと本を戻して行くとしましょう~、いざ~」

おー、と拳を突き上げれば、
とすっと軽い音を立てて地面に降りる。

「困った時はいつでも頼ってくれればいいですから~。
 私でよければ~、応えられるだけのことは~、
 それなりに頑張らせていただきますよ~~」

そうして変わらぬゆるーい笑顔で、角鹿を見やるのだった――。

角鹿建悟 > 「…ですね。手頃なメモとか――ああ、でも万が一に備えて耐水性のある紙の方がいいかもしれないな…。」

その辺りも少し考える必要はあるが、先生の言葉通り紙なら軽くて畳めるし持ち運びには最適だ。
ともあれ、空きのある時間で彼女の壊した生活家電やら何やらを直すとしよう。
…正直、細かいものも含めて結構ありそうな気がしないでもないけど、そこは失礼なので口にはしない。

「……そういうもの、なんですか?」

ゆるーい態度と笑顔で、何でもないように気楽に語るシャル先生を見詰める。
自分はやっぱり、まだまだ昔の自分から変われていないのだと。
彼女の言葉に直ぐに理解が追い付かず、何処か呆然とした調子なのがその証左だ。

――或いは、そう難しく考えなくてもいいのに考え過ぎて自縄自縛になっているか。

今はまだ彼女の言葉を、意味では理解出来ても実際はどうなのか分からない。
誰かに相談する事をやっと覚えたばかりだ。まだまだ己は不器用に過ぎる。

参考に聞いたつもりだが、少なくとも自分にとっては――中々刺さる問い掛けをされたように思う。

だから―――女教師の視線がこちらを捉えれば、逸らす事は出来やしない。

「――――…。」

”真面目に生きられるほど、人生という時間に余裕はあるものだろうか?”

突きつけられた、彼にとって刃物に等しい問い掛けに答える言葉は無い。…”答えられない”。

角鹿建悟 > 「……あ、はい。俺も本を戻してきます。」

我に返ったように。彼にしては少し慌てて、付与魔術に関する書物を書架へと戻しに行く。

先ほど、真っ直ぐ問い掛けられた言葉。
そう、人生は長いようで短い。真面目に生き続けられる時間なんて――きっと。

「……シャル先生。俺は――やっぱり不器用みたいです。」

真面目、かどうかは分からないがそう生きていたい。
けれど、きっとそれもありかつて一度自分はとある先輩に圧し折られた。
二度と同じ事を繰り返してはいけない。――少しでも、以前よりかはマシになりたい。

「――もっと、肩の力を抜いて生きていけたらいいんですけどね。」

自嘲気味に毀れる声。それが中々出来ないから、悩んで相談して、また悩む。

「…えぇ、シャル先生の言葉は結構、今の俺には響いたので。
また、相談なりさせて貰えると……助かります。」

大きく息を吐いてから、相変わらず無表情のまま…それでもやや険は取れた目付きで。

そのまま、プリントを受け取る為に彼女と共に図書館を後にするだろうか。
きっと――今日の出会いも相談も、今の自分を少しでも変えられるようにと願いながら。

シャルトリーズ >  
「あ~、そういうのですよそういうの~。
 思いつめちゃダメですからね~?
 こう、ほら肩の力を抜いて、まずだらーんと……ほら、
 まずは形から~……ゆらゆら~っと……」

そんな話をしながら。
少しばかり彼の表情が解れたのであれば、
シャルトリーズもまた、満足げな笑みを浮かべるのであった――。

ご案内:「図書館 閲覧室」からシャルトリーズさんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」から角鹿建悟さんが去りました。