2019/02/02 のログ
ご案内:「禁書庫」に暁 名無さんが現れました。
暁 名無 > 消灯後の金書庫に、一筋の光が奔る。
俺こと暁名無の持つ懐中電灯の光が、遅れてその光を追う。
そこそこ長身の俺の背丈を優に超える高さの書架が左右に立ち並ぶ中を縫う様に歩いては足を止めて溜息を零し、

「……やーっぱりさ、俺の仕事じゃなくねぇ?これ。」
         
かれこれ一時間は禁書庫に居る為、煙草も喫えないで積もり積もったイライラを隠そうともせずに独り言として吐き捨てる。
図書館、ましてや禁書庫なんてよっぽどの事が無ければ足を運ばない俺が、どうして懐中電灯一つで歩き回っているのかといえば、

単に、その“よっぽどの事”があったからだ。
生徒が持ち込んだ幻想生物が逸走、禁書庫に逃げ込んだ。
そんな報告が俺へと送られて来たのが、一時間半前。休日出勤を終えて帰ろうとした俺は、そのまま此処に拘束されている。

暁 名無 > 逃げた幻想動物は“サラマンダー”
最近では小型種がペットとして生徒たちの間でも人気とは聞いていたし、まあ扱いを間違えば火だるまになる程度なので危険度も……低い方だとは思う。
が、それがよりによって図書館に、ましてや禁書庫に逃げ込んだとあれば一大事だ。
学生寮が燃えるのと、禁書庫が燃えるのとではワケが違い過ぎる。

「ったく、うちの受講生徒なら反省文一年間書かせるとこだっつの。」

試験も近付いているというのに頭が痛い。
ここはさっさと迷える火蜥蜴を捕まえて、帰ってゆったり休日の予定を立てよう。

……そう思ったのが一時間前。今ではすっかり俺も迷える子羊である。
てか広くねえかこの禁書庫……

ご案内:「禁書庫」に玖弥瑞さんが現れました。
玖弥瑞 > 書架の谷間の向こう。暗がりの中から、1つの影が暁の方へと近づいてくる。
シルエットは小柄な人型……だが、遠目にみてもどこか違和感がある。
頭頂には獣のごとき三角の耳がピンと立ち、腰の辺りにも大きく長い尻尾がゆらゆらと揺蕩っている。
もし懐中電灯の明かりを向けるなら、容姿の詳細が明るみに出るよりも先に、鼻にかけた大きな丸眼鏡がキラリと光ることだろう。
足音はほとんどない。忍び足が上手いのか、それともよほどに身体が軽いのか。

「…………」

幻想生物サラマンダー……ではない。新任の情報技術教諭である。
かかる脱走事件の噂を『聞きつけ』、先に入った暁を補助する任を受けて追って入ってきたのだ。
まぁ実際のところは閉架や幻想生物をその目で見てみたくて、半ば無理やりねじ込んだんだけれど。
そして、近づいてくる際には特にサポートである旨なども話さず、静かに歩み寄ってくる。
暁から見ればかなり怪しい存在だろう。

暁 名無 > そもそも今でもこの中に居るのだろうか。
疑問が頭の隅にポップアップする。疑問というか、半ば願望に近いそれをしっしっと追いやって。

「……うん?」

ざわり、と周囲の空気が変わった事を感じ取る。
新しい入室者が現れたことを、本棚の中の住人達が察したのだろう。木の葉の擦れる様な囁き声に俺は辺りを見回して、

「……あら。何だ何だ、こんな時間こんな場所に。利用者……じゃあないわな。」

だいぶ特徴的な姿は職員室で見た覚えがある。
……ええと、名前は何て言ったっけか……。

「……温水先生、でしたっけ?」

いや、違う。そんな気弱な男性俳優みたいな名前じゃなかった。

玖弥瑞 > 「ふふっ。玖弥瑞、くみずじゃ。呼びにくい名前じゃったかの、すまんの」

つかつかと、長身の男のすぐ足元まで歩み寄り、まっすぐに見上げる。青い瞳はうっとりと伏せられ、どこか眠たげ。
そして間違った名前を呼ばれれば、溌剌とした少女の声で訂正する。
その声色は抑揚強く、どこか芝居がかっていて、まるでプロ一歩手前の女性声優に充てがわれたような……。
ここまで近づくと、ほのかな沈香の香りが少女から漂う。まるで寺の境内にでもいるような雰囲気。

「お主が暁教諭じゃったな。うむ、情報で見た通りじゃ。よろしゅーな。
 ずいぶん長い時間禁書閉架に居るらしいんで、応援に来たのじゃ。
 まー、妾じゃさしたる助けにもならんじゃろが、生き物を追い詰めるならば1人より2人のほうがよかろ?」

にこり、と目が柔和に細められ、まるで日本人形のごときアルカイックスマイルをつくる。

「さらまんだーとやらも見てみたいからの。
 かつて《あそこ》で対峙したあやつと《本物》が、どれほど違うものなのか……情報だけではわからぬこともある。
 ……さぁ、行こうじゃないか、暁教諭」

そう言うと、返答も聞かず歩みを進め、暁の隣を通って向こうへと行こうとするが。
すぐに止まり、振り返る。どっちに行くつもりだったのじゃ? とでも聞きたげに。