2020/06/25 のログ
ご案内:「禁書庫」にレナードさんが現れました。
■レナード > 「しーあわっせはー あーるいってこーないっ」
図書委員の眼を掻い潜り、許可もなく禁書庫に潜り込む悪餓鬼が一人。
呑気なもので、鼻歌なんか歌いながらうろついている。
「だーからあーるいって ゆっくんだしー」
まるで何かを探すように、書架に眠る禁書達の背表紙を歩きながら流し見る。
そのうち、きょろきょろとまるで広く見渡すように、視界を周囲いっぱいに巡らせて。
「……今日はいつまで忍び込めるかわかんねーし。
追い出される前に、目当てのものが見つかればいいけど……」
…その眼は、黄色い虹彩に縦に長い瞳孔をしていた。
■レナード > 「いっちにっちいっぽ みーっかでさーんぽ」
そして、とある書架の前で立ち止まる。
今度は自分の身長の無さに憂う必要はなさそうだ。目線の先にあるそれを、片手でぐいと引き抜いた。
「さーんぽすすーんで にーほさーがるーっ
………さて。」
それは、小難しいことが書かれていそうな分厚い辞書だった。
鼻歌も一区切り終えて、生唾を一つ呑む。禁書の類であれば、どんな副作用があるか分かったものではないのだから。
「虎穴に入らずんばなんとやら……
僕の眼のこと、あの蛇のこと、何か手がかりになればいーけど……」
ぺらり、その場で一捲り。小難しいことは飛ばし読む。
そうしてできるだけ辺りを気にしながら、禁じられた読書タイムが始まった。
ご案内:「禁書庫」にシュルヴェステルさんが現れました。
■シュルヴェステル > 禁書庫に足音が響く。
こつ、こつ、という規則正しい革靴の足音がする。
足音の主は恐らくレナードの存在には気付いていないのだろう。
時折規則正しい足音が止まって、様子を伺いながら、奥へ。
「(……息が詰まるな)」
静かな大蔵の中で、小さく息をついてから。
分厚くて黴臭く、どこか気温すらもやや低いような印象を受けるそこで。
誰かがいるなんて少しも思っていない男が、
レナードのすぐ近くで足音を止めて、
「…………!?」
声にならない悲鳴。人がいないんじゃなかったのか。
禁書庫だぞここは。忍び込むような場所じゃない。自分も人のことは言えないが。
その姿を認めて、困惑の色を隠しきれなくなりながら。
「そ、そこで何をしている。……人間!」
パーカーのフードを被って、その下にキャップまで被った根暗そうな男が。
優雅な読書タイムを楽しんでいたレナードにびしっと指をさした。
■レナード > 「……あ。」
気づかれた。というか、本に夢中で周囲に気を配るのを怠っていた。
気づかれる前に場所を移すことならできたのに、今となっては後の祭りである。
「しーっ。静かにしろし、ここ図書館だし。」
正確には違うけど。とりあえず立てた人差し指を、自分の唇に当てるようにしながら、
自分から見ても不審な男に言葉を返した。
その際、当然そちらへと向くわけだが、蛇の様なその眼で彼を見やるわけで…
「……なんでそんなに重装備なわけ、フードの下に帽子なんて変わった趣味をしてやがるし。
おめーも、僕と同じく何か探しにきたわけ?」
■シュルヴェステル > 「……!」
確かに図書館であるな、と納得してしまった。
ジェスチャには僅かに眉を寄せながらも、小さく頷く。
「人間……か?」
向けられたその金眼に訝しむような声を小さく漏らす。
どちらかというと、人間というよりも動物じみた視線に首を傾げる。
人間の見た目から向けられるそれに、亜人かなにかか、と問おうとして。
「……それは、」
小さく口ごもってから、嫌そうな声を隠しもせずに。
「人間と、私は見た目が違っている。
人間社会で生きていくのであらば、隠したほうがよいだろう。
……探しものは、それに関わる何かか?」
そうであるなら自分と同じだが、と言外に示しながら、
目の前の少年の瞳を不躾に、赤い血色の瞳が睨みつけた。
■レナード > 「はん。見た目をいくら着飾ったところで、僕の前じゃ無意味だし。」
幾ら着飾ってようと、繕っていようと、この眼はそれらを看破してしまう。
外見と中身が異なることなんて、もう幾度経験したことか。最早、そんなことは日常茶飯事であるとばかりに落ち着いている。
「…ま、その大勢に溶け込む努力を怠らない辺りは、殊勝な心掛けって言ってやるし。」
流し読み進めていた、その分厚かった本もどうやら当てが外れていたようだ。
残りを読む労力が惜しいと、片手でぱたんと本を閉じる。
「でも、生憎と僕の目当ては、大衆と違うこれについて調べること。
……おめーの言う探し物とは、ちょっと方向が違うし。」
元あった場所に、慎重に差し込んでいく。迂闊に周りの本を刺激しても、
ここではろくなことにはならないだろうと踏んでいた。
その手が背表紙から離れて、ようやっと一安心したか安堵の心地を込めたため息を一つ。
相手もどうやら、自分をとっちめに来た警備員とかでもないようだ。
「で。おめーはその、人間社会で暮らしてくための知恵を、こんなあぶねー場所に探しにきたってーわけ?」
…再び、彼の方を見やる。今度は、ただの黒い瞳をした、人間の眼でもって。
■シュルヴェステル > 「無意味だと?
……そうか。邪視の術か。便利そうで、実に羨ましいものだな」
苦々しい表情を浮かべながら、そう皮肉を一言返すことしかできない。
人間の真似事をしながら、人間らしい生活の真似事をしている身にとって、
「そういった」類のものに出会ってこなかったのが幸運だっただけだ。
遅かれ早かれ、この島にいたのならばあってもおかしくなかった話ではある。
「……『他と同じになる』のが目的なら、
私と貴兄とで探しているものも同一かと考えたが、違うのか。
元の世界に戻る手段の一つや二つ、ここならばあってもおかしくないと思った」
不思議そうな表情を浮かべながら、埃っぽい空気に鼻をスンと鳴らす。
少しばかり咳き込んでから、本を棚に戻すレナードをじっと見る。
黒い瞳。先の眼こそなければ、ただの人間にしか見えないそれ。
「……先の。異邦の呪いかなにかかと思ったが、人間か?」
■レナード > 「………。」
人間か、という問い。少し間を置いて、彼に告げるべき言葉を選ぶ。
初対面の相手に言うことはないと一蹴することはとても容易である。が、そんな意地悪をする気分にも、今はなれなかった。
「まあ、なんというか。呪われた一族の末裔ってカンジだし。
そのせいで僕は人間の眼の他に、もう一つの眼を持ってるわけ。」
彼の姿を、改めて眺めてみる。学生服でありながら、この時期にしては厳重な装備に見えた。
「人の眼と、蛇の眼。僕の意識で切り替わるこっちの眼は、色んなものが透けて見えるし。」
彼の前で、分かりやすく瞬きを一つ。その瞬間に、先と同じ黄色い瞳に早変わりする。
まるで何もかも見透かすような、鋭い眼差しが目の前の彼を視た。
■シュルヴェステル > 「…………」
異邦の民は、語る言葉を持ち得ない。
言葉が通じているのは、この世界に転移してきたときに、
学園側の魔術師のかけた呪いのような翻訳術式のおかげでしかない。
自分の言葉では、これっぽっちもない。
「それらしいもの」へと自動的に変換されているだけ。
レナードのような苦労はしたことがない。が、その苦労を推察できないほど無神経ではなかった。
「……じゃあ、貴兄は『どちら』なんだ」
人の眼。蛇の眼。どちらに重きを置いて、どちらに帰属するものか。
初対面で聞くことではないが、異邦の民にはわからない。
わからないものを一つずつ潰すことでしか、人間を理解できない。
すこしでも「理解」を試みたのは、一瞬どちらかわからなかったからだろう。
「それは、貴兄にとって、善いものなのか。悪いものなのか。
……邪視の魔眼は、一体、何を視ている」
視られている。人間ではないことが一目で明らかにされてしまう。
目深に被ったフードの下。しっかりと下げられた黒いキャップの下。
その下にある、無理矢理に隠している肌角が、視られてしまう。
数歩下がって。警戒の色を隠しきれない瞳が、少しばかり怯えるようにレナードを見る。
■レナード > 「言ったはずだし。僕の前じゃ、いくら着込んだって丸裸同然だし。
おめーが必死になって隠している…その角でさえ、衣服を剥ぐまでもなく見れるわけ。」
その言葉に、一切の誇張はない。その眼は確かに彼の、いちばん知られたくないだろう部分を言い当てた。
警戒を強めているだろう裏で、怯えを隠し切れない瞳も、その眼は確かに看破している。
とはいえ、突き放すように彼のことを暴き続けるのは、地雷原の上でタップダンスし続けるようなもの。
いつ爆発してもおかしくはないだろう。
「先の質問に答えるなら、僕は人間……だと思うし。」
こちらは構わず、言葉を続ける。
彼のことを暴くなら、自分のことも言わなければフェアじゃないだろうし、
彼が抱いた自分への疑念を晴らすことにも繋がらない…そう考えたから。
「この眼のせいで、成長が止まってるから…まあ、まともな人間じゃないし。
僕、もう何十年もこの姿のままなんだし。」
自分の秘密をもう一つ、自らの口から明かしてみせた。
■シュルヴェステル > 「き、貴さ、……」
自分が持たない超常の力で、秘め事を白日の下に晒される。
周りに人のいない禁書庫だったのが救いだったかもしれない。
ガタ、と青年本人とは関係なく、ひとりでに書物が音を立てて揺れる。
そういうものもあると聞いている。強い感情に反応してもおかしくなかろう。
「…………、それは、」
言葉に詰まる。本来、会話など異邦の民には必要のないもの。
もし生活委員会によって身を守るためのつるぎを没収されていなければ、
1秒の躊躇いもなく抜刀していただろう、と思う。気がつけば、腰元のベルトに触れていた。
「……それを私に言う必要はないだろう。
明かしたくないことならば、黙っていればいい。
こんな薄暗がりに足を運ぶほど、誰も答えを持ち合わせなかったのだろう。
……『人間』。なぜ、それを、……私に」
レナードの思う通りに。疑念は晴れる。晴れるとも少し違うかもしれない。
それよりも、よっぽどわからないことが目の前にあり。
自分よりも身長の低い相手だ。いくさであれば負けぬはずだ。そのはずなのに。
異邦の民は、困惑の表情を浮かべ――それは、邪眼で視るまでもなく。
■レナード > 「おめーが知られたくないことを、僕のこの眼が明かしたからだし。」
誰かの知られたくないことを、この眼は看破してしまうから。そう言い放った。
彼の手が、不自然に腰元のベルトに触れていたことも見えていた。多分、そこにあるべき何かがあったなら、彼は容赦なく自分をどうにかしたのだろうか。
そこまで考えてこんな言葉を放ったつもりはなかったが、不思議と冷静でいられた。
「……ちょっと調整を違えただけで、筋骨格とか、臓物の内側とか、そんな見たくもないものまで見えてしまうわけ。
なんでも見透すのもいいことばかりじゃない、考えもんだし。」
見えないところも見えること。それは、単純にいいことばかりではないようで。
そんな言葉がぽろぽろ出てくるあたり、今までに何度も経験してきたことなのだろう。
「でも、それも含めて今は僕の身体だから。
意図せずおめーのことを暴いてしまったことは、はっきりさせるべきだと思ったわけ。」
それは、偽りのない気持ち。
謝るというのは何か違うと彼は思いつつも、見てしまった事実は、共有すべきと考えた。
蛇の眼はまっすぐに、彼の困惑した表情を捉え続けていた。