2020/07/02 のログ
ご案内:「禁書庫」にレナードさんが現れました。
■レナード > やってきた。
辺りの眼を掻い潜って、辺りに気配を悟られぬよう、
忍び寄る蛇の如く音を立てず、かといって慎重にもなりすぎず。
見渡す限りの禁書の山、……この中に自分の欲する目当ての書物があるという。
「……次は、何かしら情報を持ち帰りたいもんだし。」
小さな声で独り言ちる。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、目の前に広がるこれらはどれも危険であることは承知の上…思わず武者震いする。
とはいえ長時間ここにいるわけにはいかない。意を決し、散策を始めることにした。
■レナード > 「…………。」
黄色い虹彩で、辺りを見渡す。
誰もいない…その書架の向こう側も、その向こう側も。
柱の後ろだって。なんだったら、この床の下や、上階に渡る範囲まで。
今この時、自分の周りには、誰もいない。
この眼の前では調整次第で全てが透けて見える。
本の中まで透けて見えるので、読む際は解かなければならないわけだが。
「さて、確かこの辺に……」
やってきたのは、巨大な魔獣に関する書籍が眠ってると言われるとある書架。
ぱちぱちと何度か瞬きをすると、あっという間に元の黒眼に戻っていた。これなら、背表紙もしっかりと読み取れる。
「……どーれ……」
本を、ゆっくりと引きぬく。
まるで周りを刺激しないように、眠る獅子たちを起こさないように、慎重に。
そうして重めな重量が、やがて書架から離れていった。
■レナード > 「……………。」
生唾を呑む。
その書籍は、異世界に住まうという蛇の怪物たちについて調べ上げた本。
誰が記したのか定かではないが、中に記載されている彼らはどれも危険な存在らしく、
下手な好奇心を抱いた読者が探索に出かねないという理由でここにあるという。
…尤も、現存するとは、一言も書かれていないわけだが。
ぺらりと頁を捲る。目次を流し読む……目当ての名前は、既に決まっている。
「………シーサーペント……ヤマタノオロチ……オルゴイコルコイ……
どれも、違う……あれはたしか……」
そこに並ぶ様々な、名前を聞いたことさえある有名な彼らの名。
だが、お目当てのそれとは、違うものだった。
諦めずに、探すしかない。
■レナード > 「………ない……」
そうして至った結論は、たった2文字のシンプルなものだった。
目次に欲する名前はなく、似たような"バジリスク"の文字の下には全く別の名前が差し込まれていた。
表情に焦燥と疲労が浮かぶ…まさかここまで来て成果がないとはと思うと、愕然とした。
それとも、探しているあの名前は、それほど有名ではなかったのだろうか。
この本に載っていないくらいに、力のないものだったのだろうか。
そんな、後ろ向きな思考がやがて脳裏に巣くってくる。
「……ここまできたのに、骨折り損だったってわけ………」
すっかり意気消沈した声なんかあげてしまうくらいに。
大きなため息でさえ、ここでついてしまった。
もう、周りを気にする意識がおざなりになってしまったのかもしれない。
持っていても重いだけ…そろそろ戻してしまおうか、そう思ったときだった。
「…………ん…?」
最後にぱらぱらとページをめくっていて、妙なふくらみがあることに気づいた。
最初の目次しか見ていなかったから、気づけなかったのだ。
「あれ、これって…………」
こういう内容は目次に乗ることはない。なぜなら、その時点でネタ晴らしになってしまうからだ。
ただ、辞典といえるものでこういう趣向はどうなのか?と、彼は思ったことだろう。
それは、最後のページに堂々と鎮座していた…
「これって……袋とじ………?」
■レナード > 開けたい。
その袋の封を切って、中を見たい。暴きたい。中に書いてある情報を得たい。
ここまで来たのに成果もないかもしれないのに、ここで宝箱を見つけた気分にさせられる。
だが、もとはここに収められるような、禁書の類だ。
しかも、まだ誰も封を切っていない袋とじ。
暴けばそれこそ、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
蔵書を毀損することにもなるし、何より開けて何が現れるかもさっぱりわからないのだ。
「……っ…どぅ、……しよう………」
少年の額に、汗が伝う。
究極の二択を迫られて、脈が早鐘を打っていた。思わず生唾さえ呑んでしまう。
今ならだれもいない、見るなら今しかない。もしかしたら、次の機会はないかもしれない…そう囁く自分と、
本を傷つけてはいけないし、元々ここに来てはいけない…あの子とも約束したじゃないか…そう囁く自分が、
それぞれサイドから自分に語り掛けるものだから。
「…………。」
少年は、迷う。
あれから結構な時間が経つにも関わらず、辺りの警戒を怠ったまま。
とある書架の前で立ち尽くしながら、分厚い辞書の最期のページを開いたまま、そこに視点を落とし続けていた…
■レナード > 「………やめよう。」
少年は、素直に本を閉じる。
今まで苛まれていた欲望とを諸共に閉じ込めるように。
怒られるのは、あの子だろう。それは、自分の望むところではない。
多少の侵入でも何かあるのに、本の毀損はいよいよ洒落にならないはずだ。
…彼女が自分の知らない相手なら、気にせず暴いていたのだろうが、
一度知って、触れてしまった相手の事は、脳裏からどうしても離れてくれなかったから。
僅かに残った良心が、分厚い本を元の場所にゆっくりと戻す。
手から離れて、大きな仕事を終えた気分になって、一つ大き目のため息を吐いた。
「………ふぅ。
よし、帰るか………」
顔を上げる。周囲を見回す。
黄色い瞳が、辺りをくまなく見透した。
誰もいない…図書館に戻るなら、今の内だろう。
少年は足早に禁書庫から出ていく。
自分の痕跡を残さないように、慎重に。
ただ、自分の良心にずきりと残る瑕だけを抱えて。
ご案内:「禁書庫」からレナードさんが去りました。