2022/01/07 のログ
ご案内:「禁書庫【イベント:「禁書庫蔵書整理」】」に角鹿建悟さんが現れました。
角鹿建悟 > ――禁書庫。本来ならいち生活委員の自分とは中々に縁遠い場所である。
今まで立ち入った事は無いし、そもそも立ち入ろうとするだけの理由も無かったのだが。

…が、何故だか他言無用という念押しをされて図書委員会から直々に呼び出された。
魔術に関しては人並みか、特定方面に多少知識が明るい程度…禁書の類は流石に疎いのだが。

(――そもそも、俺の得意分野と禁書庫の蔵書整理に何の関係が?…と、思ったら…。)

目の前には、ページが破れたり、または散逸したのか不自然に切り取られた書物の山。
どれもこれもピンからキリまであれど、禁書指定の書物ばかりである。
これだけの量をお目に掛かるのは初見だが、その状態を見て何故自分が呼ばれたのかを理解する。

『――と、いう訳で生活委員会の角鹿建悟君。君にはここにある書物の『修繕』をお願いしたい。』

禁書の蔵書整理を担当する、図書委員の一人からそう声を掛けられてそちらを一瞥する。
…再び禁書の山へと視線を戻す。流石に禁書の類を修繕した経験は無いが――…

『…君なら出来るのだろう?自我や意思はあれど生物”ではない”ならば、君の能力の対象内の筈だ。』

「……何で名指しでわざわざ呼ばれたのかと思ったが、成程…修繕には最適な人選という判断か。」

緩く吐息を零す。禁書を修繕出来るかどうかと言えば――『出来る』。
まだ直した事は無いが、この力との付き合いは長い…感覚で分かるのだ。

角鹿建悟 > 「――分かった。何処までやれるかは分からないが、『直す』仕事なら俺に断る理由は無い。」

そんな、何処か素っ気無いくらいに簡素な承諾も相手は事前に分かっていたのだろう。

『では、よろしく頼むよ『直し屋』君。…一応、そこに詰まれた禁書が暴走した場合の対応策もきちんと備えている。
…君は安心してただ、直してくれればそれでいい。』

薄ら笑いを浮かべて、その図書委員は立ち去る――いや、別の場所のフォローに向かったのだろう。

さて、一人残された男だが改めて何かしら『破損』している禁書の山を眺めて。
特に怖気付いた、という訳ではなく…初めて直す分野なので観察をしているのだ。

(…禁書や魔導書の類がほぼ素人に近い俺に、これらの具体的な危険性は見抜けない。
…一番の懸念は、完全に直した場合即座に俺に害を為して来る可能性だが…。)

「――考えても仕方が無いな。俺は俺の仕事をするだけだ。」

即座に思考を切り替える。両手に能力の発動を示す時計盤のようなモノが浮かび上がり――
更に、男の背後にもう一つ巨大な時計盤が音も無く静かに現れて鎮座する。

「――対象設定。…遡行領域限定展開。――連結開始(コネクト・オン)。
――逆巻き時計は斯くやあらん。」

両手の甲の部分にそれぞれ展開された二つの時計盤の長針と短針が、途端に反時計回りに高速で回転し始める。

角鹿建悟 > (――っ…やっぱり『構造』をきちんと把握しないと、骨が折れそうだな…だが…。)

僅かに顔を顰めつつ、時計盤の針の回転に合わせて目の前の禁書の山の破損している箇所が徐々に”巻き戻って”元の状態へと戻っていく。
…本来なら、対象物の構造をきちんと把握・精査した上で直す手順が常套だ。
…が。破損したとはいえ仮にも禁書の類ならば、構造を理解しようとした瞬間を”狙われる”。

(魔術的防御なんて俺には無いからな…構造を理解しようとすれば、それは即ち『中身を読む』事に繋がる。)

魔術に対しての防衛手段に乏しい己では、下手すれば脳を瞬間的に焼き切られても大袈裟ではない。
仕方ないので、構造を理解する手順は意図的に省略して、純粋な遡行による修復を用いている。

…だが、初めて直す類な上に構造を把握していないので加減が難しい。
よって、何時もより余計に気力や体力を消費する羽目になってしまうのだ。
既に、額や頬には薄っすらと汗が滲んでいるがここで集中を切らすとそれも危険だ。

それでも、確実に修繕は出来ているという事は己の能力は禁書や魔導書にも有効という証明だろう。

角鹿建悟 > 一先ず、自分の能力の適用範囲を改めて再認識出来たのは僥倖ではある。
…とはいえ、気を抜いたら危険な事に変わりは無い。図書委員が口にしていた防衛策、とやらも…

(――あっちの方が専門家みたいなものだから、宛てにはしたいものだが)

かといって、それに頼りきりになるよりも自分で出来る範囲で注意を払うのが第一。
感覚的にはやっとこさ3分の1程度が完了。…ザッと確認した限り修繕に問題は無い。
――生物(ヒト)は治せないがそれ以外なら直せる。その業を改めて垣間見る。

既にこの段階で汗が滝のように流れ落ち、喉の渇きや若干の眩暈が起こっている。
必要な手順を簡略化し、強引に直しているようなものだ。
普通に直す仕事ならまずそんな事はしないのだが、この手の類となれば話は別である。

『――あぁ、そうそう。そこの禁書の山の修繕が済んだら、あっちの方もお願いしたい。』

(……人が割と必死でやっている時に追い討ちは止めて欲しいんだが…。)

と、珍しくげんなりした目付きをしつつも、声を掛けてきた図書委員を一瞥した後に再び作業に集中する。

角鹿建悟 > …今更だが、体よく利用されているだけではなかろうか?
と、そんな思考が一瞬過ぎるが――まぁ、些細な事だろう。
直すと決めた。だから直す。捻じ曲がっても圧し折られてもその頑固さは消えない。

3分の2が終了して、この時点で複数の仕事を請け負った時と同等の疲労感。
…だが、弱音は見せず吐かず黙々と、ただ作業を進めていくのみだ。

時計盤の針の動きは更に早くなり、背後に浮かび上がる一際大きな時計盤の針もゆっくりと逆巻く。
急激に修復速度が上がる――三重遡行領域により、修繕の速度を一気に引き上げる。

能力の操作に更に神経を尖らせるが、あまり長引くと禁書の類の場合は危険と判断。

「――逆流(フィードバック)…9割遮断(シャットアウト)。」

あちらからの構造情報の流入を遮断する。完全に遮断するとそれはそれできついので一部は残す。
頭痛に似た感覚に苛まれながらも、瞳はしっかりと禁書の山を見据えて最後の一片まで残らず確実に直す。

「………停止(フリーズ)。」

呟けばピタリ、と忙しなく動いていた針の動きが一斉に止まる。
まだ能力は展開したまま、禁書の山を1分ほど凝視していたが――ゆっくりと息を吐いて。
能力を解除すると同時に、両手の甲と背後に浮かび上がっていた時計盤が消えていく。

角鹿建悟 > 「……成程…これはきついな…。」

汗でびっしょりの顔を軽く服の袖口で無造作に拭って呟く。
喉もカラカラで疲労感や倦怠感も中々に激しい。
僅かに眩暈や頭痛もするが、幸いにしてぶっ倒れるほどではなく。

『おや、終わったようだね――ご苦労様。…さて、その様子だときつそうだがもう止めておくかい?』

と、先程の図書委員が薄ら笑いと共に何時の間にか傍に佇んでおり。
そちらを一瞥してから、緩く肩を竦めて「少し休めばまだ行ける。」と、ぶっきらぼうに答える。

(…とはいえ、あと一度か二度が限界だな…直す感覚は掴めてきたが。)

図書委員が綺麗に修繕された禁書の山を見て、僅かに感嘆の声を上げるのを他人事のように眺めつつ。