2020/06/19 のログ
ご案内:「大時計塔」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > 尖塔の先に、ふらりと女は現れた。
常世学園制服に身を包んだ……ウェーブのセミロングの女。
黒いチョーカーに黒い瞳。
薄い笑みを湛えた女は、そっと大時計塔の頂点……基本的には閉鎖されている展望室の隅で、そっと目を細めて。

静かに、歌をうたい始めた。

日ノ岡 あかね > 明るく小さな、恋の歌。
少し昔に、島の外で流行った歌。
カラオケでよく学生が歌っている曲の一つ。
それを……女は楽しそうに歌う。
遥か高い蒼天の元、高らかに。伸びやかに。
女は、歌い続ける。

ご案内:「大時計塔」に烏丸 九郎さんが現れました。
烏丸 九郎 > 展望室。風が通り、歌も響くお気に入りの場所。
そこへと通じる扉を開けば、何やら歌が聞こえる。
俺のお気に入りの場所で俺より先に歌っているやつがいる。
いい度胸だ。
異能で足音を消し、中には入れば歌の主に気づかれぬように
歌の主であろう女性との視界に入らない場所に座り…
その歌に合わせてギターを引く

日ノ岡 あかね > 歌いながら……女がふと、視線をそちらに向ける。
歌に合わせられたギターの音。
女は嬉しそうに笑みを深めてから、ギターに合わせて微かにキーを変える。
突然現れたギタリストに気に留めることもなく、即興のセッションを楽しむ。
風に合わせて、二つの和音が空に響いた。

烏丸 九郎 > 女は突如現れたギターの音に驚くことはなく
むしろ笑顔をこちらに向けて歌を続けた。
その姿に、にやりと笑みを浮かべる。
彼女の笑顔に返すように。

歌の終盤には、ギターだけでは物足りなくなったのか
コーラスなどで歌に参加する。
風の中で解けて溶けるわけでもなく音楽が島の空をかけていく。

日ノ岡 あかね > 最後のワンフレーズを空に届け……女が一礼する。
たった一人の観客。たった一人の共演者。
名も知らぬギタリストに満面の笑みを浮かべて。

「ありがと、思わぬサービスがついて嬉しくなっちゃった」

女は、猫のように目を細めた。

「私はあかね。日ノ岡あかね……アナタは?」

烏丸 九郎 > 彼女の歌声が止めば、ギターの演奏もきりのいいところ。
かき鳴らしてから演奏を止めれば、彼女に拍手を送る。

「いや、アンタの歌声良かったぜ。
俺より先に歌ってるもんだから驚かせてやろうと思ったが…
なかなか肝が座ってるな」

ピックを弦にはさみギターを抱え直す。
微笑む女が名乗るのであれば、こちらも名乗らねばなるまい。

「俺は烏丸九郎。音界の覇者となる男だ」

日ノ岡 あかね > 「ふふふ、凄い自己紹介するのね、クロウ君」

可笑しそうにあかねは笑って、展望室の窓枠に腰掛ける。
緩やかな風が、ウェーブのセミロングを軽く揺らした。

「音界の覇者の御眼鏡にかなう歌だったなら良かったわ。実は久々だったから……ちょっとだけ不安だったのよね」

悪戯がバレた子供のように笑って、口元を軽く手の甲で隠す。

烏丸 九郎 > 「凄くはねぇ、これは必然だからな」

自信ありげに笑う男。
どうやら冗談や誇張表現ではない様子。
本気で歌で世界をとる野望を持ち合わせているようだ。
窓枠の少女の隣、少し間を開けて外を眺める。いい景色だ。

「おう、なかなかいいもん持ってると思うぜ?
毎日歌ってりゃいい線いくんじゃねぇか?」

こちらもあわせてかかかと笑い、覇者らしくちょっとおどけた上から目線。

日ノ岡 あかね > 「ありがと、まぁでも、歌は気が向いたときね。あくまで趣味だから」

自信ある笑みを浮かべる九郎に穏やかな笑みを向けて、あかねは口元を緩めた。
風に揺れる髪で片手で抑えながら、九郎の顔を見て目を細める。

「昔はアイドルとか歌手になりたい……なんて思ってたこともあったんだけど……ま、今は見ての通りのしがない女子高生よ」

おどけた調子の九郎に合わせるように、茶化すようにあかねも肩を竦める。

烏丸 九郎 > 「へぇ、そりゃもったいねぇ。磨けば光るってのに。
でもま、趣味くらいでもいいかもな
歌は人間全てに許された最高の娯楽ってやつだからな」

趣味であっても歌を愛するものに変わりはない。
勿体ないとは言うものの、その言葉は穏やかな調子。
赤いメッシュの入った髪は風に煽られてボサボサになっていた。
少女の揺れるウェーブの入った髪とはえらい違いだ

「そうか。じゃ、今はなにになりてーんだ?女子高生になりたいってわけじゃねえだろ?」

外の景色から彼女の方へと視線を移した。

日ノ岡 あかね > 「女子高生になりたかったから、別にそれで満足よ?」

そういって、静かに笑う。
あかねの夜のように黒い瞳が、九郎の顔を覗き込む。
蒼天から降りる穏やかな日の光が、展望室に微かに舞う塵に反射して、星のように煌めいた。

「『この島』に来て、やっと女子高生になれたんだもの」

軽く、そうあかねは呟く。
その意味は……この常世島にいるのなら簡単に知れる事。
異界と魔術……そして、異能に塗れた、この島にいるのなら。

「アナタは……そういう苦労はしなかった方?」

そう言って、小首を傾げる。

烏丸 九郎 > 黒い瞳はまるで夜のようで、宝石のようでもある。
黒曜石だかブラックオニキスだか…まぁ、くわしくないがそんな感じのものに。
覗き込まれると吸い込まれてしまいそう。

「そうか。じゃ、新しい夢も見つけなきゃな。
夢がかなったならよ」

彼女のいうこともわかる。
異能をもつものというものは、まともに扱われなかったり、差別されたりもするし
異能を持っているという事自体が普通ではいられないもの。
いろいろな意味で『しがない高校生』ではいさせてくれないものなのだから。

「俺か?俺はそうだな…苦労なんて無いぜ。
歌があるからな」

べいんっとギターを鳴らし、笑って見せて。

日ノ岡 あかね > 「ふふ、心配してくれてありがと。優しいのね、クロウ君は……でも、大丈夫よ? 私は毎日『楽しい』から」

明るい調子であかねは笑って、九郎の頭に遠慮なく手を伸ばす。
そのまま、紅いメッシュの入ったボサボサの髪を軽く直す。
あかねの黒い瞳が、少し九郎の顔に近づいた。

「でも、苦労が無いのは……素直に、羨ましいわね」

ギターを大事そうに持っている少年。
そのギターを一瞥だけして、あかねは静かに笑った。

「ねぇ、クロウ君……これは仮の話なんだけどね」

そして、あかねは九郎の目を覗き込んだまま。

「アナタは……音楽を仮に出来なくなったら……歌をうたえなくなったら、どうする?」

そう、囁くように……呟いた。

烏丸 九郎 > 「お?おう、楽しいってならいいけどな…
人間ってのは夢に向かうもんだからよ。あんたもなんか、したいこととかできりゃいいな」

彼女の手が触れ、髪を直される。
自分のものではない他人の手が髪に触れるというのはくすぐったいもので。
だが、それ以上に近づいた顔…いや、瞳。
きれいなものだが…なんだか、その奥が見えないような気がする。

その目に写った自分は、夜闇に包まれたようにも見えて
彼女の問もあいまって不安を掻き立てるようにも思えるだろう。
だが…

「んー…そうだな……歌うさ。指がもげても足がなくても、声が出ねぇでも
俺が歌うんじゃねぇ、歌が俺だし、俺が歌なんだからよ」

言ってることはわからないかもしれないし、ふざけていると思われるかもしれない。
そもそも質問の前提を理解しているかもわからない。
だが、理解した上であっても答えは変わらなそうだ。

日ノ岡 あかね > 九郎の言葉を聞いて。

「……」

あかねの、言葉が詰まる。
微かに、瞳が揺れる。
黒い瞳が、微かに揺れて……細まって。
烏丸九郎のその言葉に。
日ノ岡あかねは。

「……そうね、きっと、そうよね」

心底嬉しそうに。
とても……楽しそうに。
あかねは……微かに頬を紅潮させて。

「そうするしか、ないわよね」

年端もいかない、幼い少女のように。

「クロウ君のその答え……私は大好きよ」

……あかねは、笑った。

「だってきっと……私もそうするもの」

そっと、身を離して。
あかねが踵を返す。

「ありがと、クロウ君。アナタと喋れてよかったわ」

ゆっくりと展望室の出入り口に向かって歩き出し。

「安心して、私もいつだって……したい事しかしないから」

そのまま、あかねは去っていく。
一度だけ、名残惜しそうに振り返って。

「またね」

一言だけ、満面の笑みでそう告げて。
あかねは、展望室をあとにした。

ご案内:「大時計塔」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
烏丸 九郎 > 底知れないと思えた瞳。
細まり、揺れたそれはそう思えるものではなかった。
夢を求める少女の…どこか儚げで決断的な光をたたえていた。

「はは、ありがとよ」

少女の言葉に笑って見せれば
はなれていく姿を見送るように窓から身を離して。

「おう、俺も、楽しかったぜ。
良い歌声も聴けたしな。ありがとよ」

大丈夫と笑顔で去っていく少女の背に声をかけた。

「さって………」

少女が姿を消せば…彼女が歌っていた場所まで歩み、もう一度ギターを掻き鳴らす。

「歌うか!!」

ご案内:「大時計塔」から烏丸 九郎さんが去りました。