2020/08/06 のログ
ご案内:「大時計塔」にレナードさんが現れました。
■レナード > 大時計塔の、その天辺。
常世島を見渡せるその位置で、ぼんやりと夜風に当たっていた。
夜も更けている。警備を含め……誰も来ることもないだろうか。
■レナード > 「……………。」
昨日、あの男に遇った。
無視してやろうか、或いは適当にいなしてやろうかと思っていたのに、
つい奴の相談に乗り出してしまう自分は、何ともお人よしだ。
…まあ、それはいい。
あの男は心が擦り切れているそうだ。
曰く、13の世界とやらを救う代償に自分という存在を忘れさせてきたらしい。
つまり、自分を犠牲に周りを救ってきたらしい。
それが抜けないまま、ここに至っているという。
…要領を得ない話だが、そこは目を瞑る。
常世という世界の坩堝なのだから、どういう経歴を背負っていようがそこにツッコミを入れるのは野暮だろう。
かくいう自分も、不老の体質でもう百を超える齢であることを語っても、何人が信じるかどうか。
「……まあ、それは僕だって、同じ話なわけだし。」
■レナード > 「…………。」
……あの男と話していると、無性に腹が立った。
あんな状態で、自分に悪辣を働いたのかと。
いや、そもそもあれは、悪辣だったのか?
自分の欲のために他人を消費すること。まあ、よくある話だ。
多少なりとも持ちつ持たれつ、そういう側面はあるだろう。
…だが、それが、己が立場を利用したものだったと、本当にそう言えたのだろうか。
あれはどちらかといえば、"そうせざるを得ない事情"の上に、たまたま乗っていただけに見えた。
風紀委員だろうと、そうでなかろうと、あの男は同じことをしたのだろう。
その上で、少しでも他人との繋がりを得ようとした結果が、風紀委員という立場だっただけかもしれない。
…そう感じるくらい、誰かと共に生きることに、あの男は不器用に思えてしまった。
「……そうなるくらいなら、英雄なんて目指さなきゃいいのに。
なんで英雄になりたいのか、あの男自身…分かってないのかな。」
■レナード > 「…………。」
……違う。
自分は、あんな悪役を欲しているわけじゃなかった。
もっと我欲に富み、風紀委員という立場から悪魔的に他人を利用するような、
そういう明確な敵が欲しかっただけなのに。
結局、あの男は空回っていただけだった。
あれを敵とみなすには、あまりにも、あまりにも惨いことだろう。
…あんなのを叩きのめしても、後味が悪いだけだ。
興味がなかったフリをしていたのに、あんまりだ。
自分が斃そうと考えていた相手が、あんな…あんな……
「……っ………」
頭を二度、三度左右に振る。
彼に対する憐みに似たそれを、頭の中から払う様に。
「………もしかしたら、もしかしたら…
逆だったのかもしれないし、なぁ……」
心の在り方が、逆。見ている方向が、逆。
彼の在り方は、自分のそれと比べて、こう思えてしまった。
…少し歯車が狂えば、自分が彼になっていたかもしれないことも。
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
■水無月 沙羅 > 最近この場所にはお客さんが多い。
頻繁に利用している私が言うのも少しおかしいかもしれないが、そう感じるのだから仕方ない。
私がこの場所に来る理由はいくつかあるが、夜の時間になって尚現れるのは大概、星を見に来たか、何かに思い悩んでいるかの二択。
さて、何やら独り言をつぶやいている少年は何を想うのか。
扉越しに聞こえた声に尊吾ことを考えながら足を踏み出した。
「なにが逆なんですか?」
謹慎とはいえ、何があってもいいように腕章をしながらとりあえず一歩。
質問することから始めてみることにしよう。
■レナード > 「………。」
背後から、声を掛けられる。
意外だ。こんな時間にも、自分と同じように夜風にでも当たりに来た生徒がいたなんて。
…心の声は必要以上に漏れていないはず、だから。
自分はただ、堂々としていればいい。
「…僕と、"ある知り合い"の、考え方…かな。」
簡潔にそれだけ答えながら、振り向く。
「こんな時間に大時計塔なんて、危ないし?
星でも見に来たわけ……?」
自分とあまり変わらない身長の、彼女。
腕に目立つその腕章を見つけると、つい、眼を細めてしまう。
それに悟られないよう、視界は顔の辺りをキープしようか。
■水無月 沙羅 > 「考え方が逆……ですか。 良くある話です。
私にも身に覚えがありますよ。」
腰の後ろに両手を組むようにまわして、軽い足取りで少年の隣へ。
少しだけ距離は明けてあるけれど。
此処に来る時だけは少し足が軽い。
星空が、お月様が、ほんの少し重力を軽くしてくれるから。
それは私の幻想でしかないのだけれど。
「大丈夫ですよ。 これでも腕に自信はありますから。
心配してくれるんですね?」
くすり、と笑う。
「ここ、私がよく星を見に来るんですよ。」
特に少年を見つめるわけでもなく。
星空を見上げる。
今日も星がきれいに瞬いている。
■レナード > 「…ま、ね。
星をよく見に来るって言うくらい、沢山来てるんなら…杞憂でよかったし。」
自分が彼女を心配しているのは、本当。
ただ、見下ろせる位置の、すぐ隣に足取り軽くやってくるくらいだから、
それが本当に杞憂で済んだのは、よかったことだ。
改めて、外へと身体を向け直す。
「…まーここは、この常世島で一番天に近いから、分からなくもないし。」
対して自分は見下ろした。
文明の光が、あちらこちら、ぼんやりと光を湛えている。
「……僕は、青垣山から見る星空の方が好きかな。
街の光に影響されないから、かなり綺麗に映るし。」
街を見つめながら、ぽそりと吐露する。
この街は眠らない。どこかで灯が消えても、どこかは点いたまま。
だから、文明から離れた場所で見る、満天の星空が好きだった。