2020/08/08 のログ
ご案内:「大時計塔」にレナードさんが現れました。
■レナード > 深夜にも関わらず、少年はそこにいた。
常世島が一望できるそのスポットは、先日、風紀委員の彼女に心を慰められた場所。
…だが、今日は隣に誰もいない。
誰も来ないような時間帯を、敢えて選んだのだから。
内と外の境界たる手すりに腕を乗せ、少年はぼんやりと眠らない街の光を眺めていた。
身体は軋み、脳が歪み、痛みに喘いで、苦しみに伏す。
…そんな全身が上げた悲鳴も何とか落ち着いた。
一過性のものとはいえ、毎度起こるこれに慣れる必要があるなんて大変だな、と自嘲する。
「………でも、もうすぐだし。
もうすぐ、僕たちの活動が始まる……」
握りしめるのは、ロッカールームとして使うことになるカギ。
…ただの金属片に見えて電子情報の塊たるそれは、機密の詰まった研究所の"備品保管庫"のものでもある。
彼はじきに始まる、自分の我を貫くための長い長い水やりを前に、
決心を新たにここにやってきていた。
■レナード > 「………できることなら、会わないまま過ごせるといいな。
外道は外道のまま、僕の中で死んでくれていたらそれでいい。」
外に向けて、溜まっていた怨嗟を吐く。
どうせ、誰も聞いていないだろう。そう思ったから。
もう、生死は問わない。
ただ、善人だったという結末は、自分の中で迎えてほしくない。
だから、そういう可能性を少しでも排除しておきたい。
復讐の炎を燃やすには、分かりやすい敵がいないと回らないから。
…だが、仮面を被ってさえいれば、きっとうまく立ち振る舞えるはずだ。
あれは、そういう風にできている。
「………まだ演習レベルだけど、余計なことを考えずに済んでたし。
今度は実戦でそれを試すだけ……」
■レナード > 「………………。」
昨日は、思わぬ流れで自分の心を見られてしまったが、
今日はきっと、そんなことはないはずだろう。
昨日できなかったことを、今日するまでだ。
…少年は静かに心の牙を研ぎ、毒を注いでいる。
ご案内:「大時計塔」に園刃 華霧さんが現れました。
■園刃 華霧 >
ようやくの出所。
ようやくの外。
色々堪能したくて、あちらこちらへ行くうちに……たどり着いた。
見つけてしまった。
……腕章を、外す。
制服の上着を、脱ぐ。
静かに、歩いていく。
「……」
一息。
「……オニーサン、夜空の観察かイ?」
静かに、其の場に歩み出た。
■レナード > その言葉に、ため息がちに言葉を返す。
「………言霊って、信じる?」
彼女の方へは、向かない。その質問にも、答えない。
誰がやってきたのか、その声で分かってしまったから。
……忘れもしない。
「滅多なこと言うな、とか。縁起でもないことを言うな、とか。
…人の発する言葉には、力が宿ると言う概念だし。」
…それはきっと、先までの自分の行動に対するもの。
「……こうして遇ってしまうのもきっと、言霊のせいだし。」
自分の願いを無下に捨て去ったそれに、文句を垂れながら。
「……………。
……夜空を見るなら、僕はここには来ない。」
ようやっと、振り向いた。
黄色い眼が、暗闇に良く目立つ。
…能力は使っていない。だが、自分の中で渾沌とした感情が渦巻くのをよく感じている。
■園刃 華霧 >
「さ、テ……言霊、とカはよくわかンないけド……
言葉に何か力がアるって話なら、納得はいくカね」
それはようやく学んだこと。
だから、それがこの状況を招いたというのなら、そうなのかもしれない。
「……なるほド?
夜空を見るツもりじゃナい、と。
そレから言霊だノって話かラすれば……何か、考えテたってこと、かな?」
ばさり、と上着と腕章を其の場に落とす。
「この場合、言霊、なのか、運命、なのか。
さて、どうなんだろうね。」
肩をすくめてみせる。
■レナード > 「……そう。
ちょっとした、決意を堅めにここに来てたわけ。
…昨日は邪魔されちゃったけど。」
今日はどうか?それは、まだわからない。
「…………。」
上着と腕章が地面に落とされる様を、眼を細めて眺めている。
これ見よがしにとでも思っているのだろうか。
対して、こちらは…指定の制服を着こなしたまま。
「…どちらでもいい、でも、これを仕組んだ存在がいたとしたら。
相当な悪辣だし。」
自分と彼女が出会うことを、悪辣とまでに言い捨てながら。
その眼は、住処にやってきた天敵を見つめる蛇のように、今も彼女の動向を窺っている。
そして…
「……驚いたし。生きてたんだ?」
止めておくべきだと思ったのに、聞かないでいられない。
…まだ、冷静になり切れていないからだろうか。
■園刃 華霧 >
「悪辣、カー……
まあ、良いこトも、悪いことモ、予想外のとこカら飛んでクるかラな」
やれやれ、とため息。
さて……
「そー、ダな。生きたヨ。
生き恥サらしテるって言わレたらソうかモ。
そりゃモウ、甘んジて受け入れルしか、ナい。」
頭をボリボリとかく。
「そッチも、生きてタんだナぁ……」
なんともいえない感情がそこにはこもっていた。
安堵か、感慨か……それとも
■レナード > 「……………。
反省なんて、してほしくないんだけどさ。」
自分にとって、それが一番都合がいいから。
生き恥だろうが、何だろうが、どうか悪役のままでいてほしい。
それを直接言える気分ではないから、この言葉に丸めるしかなった。
「…………。
僕は、生き汚いだけだし。」
生き汚い。それはあの時も、今もそうだ。
今もこうして、自分が生き甲斐を得るために、彼女を悪だと断じ続けているのだから。
…彼女の籠めた何とも言えなさそうな感情に、どこか罪悪感でも覚えてしまったのか。
その視線を斜め下へ、彼女の脚が僅か入るところまで降ろした。
■園刃 華霧 >
「……反省、か。
そういワれてもナ。反省だラけだッタよ、あの時のことはネ。
オニーサンに話しかケた時も。
本気じゃイたが、きっとモっと別な話しのススメ方がアったンだろうナ。」
あの時は、事を焦りすぎていた。
自分でも、なんであんなに焦っていたのかわからないくらいに。
まずは相手をよくみる。
そんないつもの自分ができてすらいなかった。
「生き汚イ?
そンなモン、普通でしょ。
トゥルーバイツの連中だって……アタシも含めて
何かを見つけラれたラ、人生降りなイでみる気にナったンだしね」
それが普通なのだと、思い知った。
そして自分の異常性も思い知った。
「やれやれ……反省スんなって言わレてンのに、しまンないねェ。」
■レナード > 「…………。」
やめろ。
「……………。」
やめてくれ。
「………………。」
まるで改心したかのような言い方は、やめてくれ。
折角燃やし続けてきた炎が、消えてしまうじゃないか。
「…やめろ……っ…」
そんな心の内が、言葉として口から漏れ出てしまう。
■園刃 華霧 >
「…………」
ただ黙って……
悲痛な声を聞く。
「……やめても、いいけど。
何を? どうして?」
静かに聞いた。
■レナード > 「僕の前で……っ…、善人ぶるのをやめろ…ッ…!!」
何を、どうして?
彼女にそう聞かれると、もう止まらなかった。
「僕をあんな目に遭わせておいて!!
今更、今更ッ!!なんの嫌がらせで僕の前に現れた!?」
顔を上げて、黄色い眼で彼女を睨む。
…どこか、怯えているようにも見えるかもしれない。
「お前は…ッ、お前だけでも…!!
悪のままで、いればよかったのに!!」
それは、ただの望みのように。
だがそれは、他でもない自分の持っている、隠しようもない"悪辣"だ。
恨むためなら例え悪人でなかろうと悪だと断じる、そういう"悪辣"。
■園刃 華霧 >
「……ああ、そうだ。
そんな目に合わせたから……アタシは、現れた。」
怯えるように、自分を見る相手。
其の姿を静かに見つめながら言う。
「ああ、そうだ。アタシは善人ぶっている悪人かもな。
けれど、だから、アタシは……此処に来た。」
聞きたくなさそうな、そんな相手に
そして、これからやろうと思うことと矛盾するように
次の句を告げる。
「アタシは、それでも……
一人の、アタシとして……あの時の過ちに、会いに来た。
結果に、何が待っていようと……
言霊とか、運命とか、知ったこっちゃない。
これは、アタシが掴み取った出会いだ。」
■レナード > 「………っ…!」
目の前の相手は、自分の持ち得た感情を見越していた。
どこか、自分より強いなと、思ってしまうほどに。
だが、まだ話は終わっていない。
「……はっ………」
鼻で、笑う。
「………あの時の過ちに、おめーは何をしにきたわけ?
謝れば済むと思ってるわけ? 頭を下げればいいと思ってるわけ?
自分が溜飲を下げられたらそれでいいと思ってるわけ?
そんなの、とんだ自己満足だし。
許されるなんて、思うな…ッ………」
それはまるで、これ以上近づくなと警告するかのよう。
自分の意地を張りたくて、通したくて、我儘をこねてる子供のように。
■園刃 華霧 >
「……そうだね。
正直、ただ謝るっていうのは違うと想っているかな。
そもそも。
『アタシの話し方が悪かったです、ごめんなさい』なんて、
馬鹿馬鹿しいにもほどがあるだろう?」
なんのために謝るのか。
そこが定まっていないのに謝っても空虚なだけだ。
そんなもの、自分が一番知っている。
「だから、あの時できなかったこと。
できれば、オニーサンの話を聞かせてほしい。
そう思ってる。
その後のことは、それからじゃないと決まらないかな。」
そもそも、あの時、事情には踏み込まない、そんなところから始まっていた。
そこまで聞けるか、といえば無理があるかもしれない。
それでも、それを免罪符に何も聞かなかったのは自分だ。
そこから、始めるしか無い。
■レナード > 「………っ…………」
躊躇う様に、明後日の方向へと視線を向けた。
そんなこと、ふざけるな、と一蹴できただろう。
…ただ、彼女の意志をここで踏みにじることを、躊躇ってしまった。
彼女の選択を踏みにじるような、それ以上の悪には、落ちたくなかった。
「……………。」
きっと、長い時間が要っただろう。
自分の感情を抑えるので、悪だと断じて燃え上がる炎を塞ぎ込むので必死だったろうから。
それもようやっと落ち着いたのか、ぽそぽそと言葉を紡ぎ始めた。
「……なにが、聞きたいわけ………」
■園刃 華霧 >
「ん……そうだな。
言いたくないことも有るだろうから、難しいんだけど……
だから言いたいこと、言えること、全部……
っていうと、流石に大雑把すぎるかな?」
なんともいえない表情を浮かべる。
「できれば、事情、とかも聞けりゃいいんだけど。
そりゃ流石に出来すぎだ。
勿論、話す気になってくれりゃそれがいいんだけど。
そこまで高望みはできんでしょ。
だから、とにかくオニーサンのいえること、教えてほしい。
オニーサンのことを、知りたい」
それとそうだ
もう一つ肝心なこと
「それとは別に。
悪党なアタシに言いたいこと、聞きたいこともあれば聞くよ」
■レナード > 「…それを言い始めると、火が燃えるだけだから、まだいい。」
折角律したのに、ここで燃やせば元の木阿弥だ。
…まずは、彼女の知りたい自分の事情を話すことにする。
「全部言うと、余計なことまで伝わるだけだし。
……僕も昨日、自分で気づいてなかったことに気づいたから。」
きっとそれは、自分の中での懺悔だろう。
■レナード > 「……僕は、大人になりたかったんだ。」
これは、昨日気づいたことだ。
「でも、意地を張っているのが楽だったから。
自分の意見を曲げないでいるのが楽だったから。
…いつしかそうやって、反抗しながら生きるしか、僕には残っていなかった。」
自分の能力、背景、環境…そういったものはきっと余計な言葉だろう。
だから、何を思って、どう過ごしてきたか。それだけを言葉にしていく。
「自分の先祖に反抗して、自分の運命に反抗して、
…頼れる誰かなんて見つけられないまま、自分のことだけ考え続けて凝り固まって。
周りには誰もいなくなって、親も死んで、……僕には何も残らなかった。」
ああ、自分で言ってて…思った以上に空虚だな。そう、自嘲するように。
「自分の生きがいが、何かに反抗することしかないんだって気づいたときには遅かった。
僕はどうしようもないものに反抗していて、…それを続けても何も残らないことに気づいたときには、
………僕って、自分って、なんだったんだろうって、思えた。」
天上を仰ぐ。ふいに涙が出たとしても、零れ落ちないように。
「反抗できるかなんてわからない。
例え、反抗できてもその先には何もない。
隣には、誰もいない。」
ふう、と一つため息を吐いた。
「………子供のままの僕には、何にもない。」
■園刃 華霧 >
「う、ぐ……」
刺さった。思わず、呻く。
形は違うが、目の前のこの相手は……自分にどこか似ている。
ずきり、と何かが痛む音がする。
「……そう、か……それが……ああ、だから……アタシは……」
ぽつりと、つぶやく。
「なあ、オニーサン。
余計なお世話、言われ飽きた、なんて話だろうけどさ。
……それでも、さ。
オニーサンに、『居心地のいい場所』になるヒト……本当に、いない、かい?」
思案するように、たどたどしく口にする。
「アタシは……いや、そんな話、聞きたくないかもしれないけれど……
アタシは、生まれたときから何もなかった。
親も兄弟も頼れるヒトも、家も、名前も……
だから、無いものを手に入れようとして、足掻いてきた。
でも、なにをしても、足りない気がして……生きて、きたんだ。」
吐き出すように、言葉にする。
「だから、『真理』に縋ろうとして……やっと、そこで、『何か』が、つかめ、た。
なあ……オニーサン……なにか、ない……か……?
答えは、でてる、かも……しれ、ない、けど……」
思わず、胸を抑える。
ずきりずきりと、痛む。
■レナード > 「…………。」
居心地のいい場所になるヒト。
今思えば、自分から声をかければ、いたのかも、なってくれたのしれない。
でも、それは―――
「………そうなってほしいって、言えたら、よかったな。」
諦めたように、それを受け入れているかのように、小さく笑む。
「……僕の血は、生まれてくる子供にうつるから。」
…?
何故だろうか。いつもの言い回しのはずなのに、どこか。
凄まじい違和感を覚えてならない。
…でも、それは、今はいいか。
「だから、自分の運命に反抗、してたんだ。
…隣に誰もいないのは、きっと、そのせい。」
色々と悩み、それを飲み込んで、今に至っているという。
彼女に浮かべているのは、どこか悲しい笑みだった。
「………そんな自分のことを、受け入れてほしいって、
……怖くて言えなかった。」
■園刃 華霧 >
「……………」
伝えられた言葉。
手を、伸ばせないわけだ。
血が、移る?
それが、きっと言えない。言わない。
目の前の人物の一番の深淵。
それならば……アタシに、言えることは……
「――なら」
ぽつり、と言葉にする。
「なら……アタシが、つき纏ってやる。
『居心地のいい場所』、なんてものになれる気もしないし、
なれないと思う。
けれど、せめてオニーサンの受け皿くらいには、なってみるよ。
アタシは、悪党なんだろ?
反抗でもなんでも、上等だ。」
自分に思いつくのは、其の程度だった。
■レナード > 「…………。」
悪党だと思っていたのに。
彼女は、自分の受け皿になるという。
信じられなかった。
でも、生きていて、今まで生きていて一番、待ち望んでいた言葉だったかもしれない。
「………どうして……」
それを聞いて、出てきた言葉はそれだった。
疑っているわけじゃない。
「…何もない、こんな子供を……
どうして、君が…っ………」
俯きながら、問いかける。
■園刃 華霧 >
「どうして、か……
アタシ、自身……本当は、何なのか、わかんない、とこは、ある」
考えながら、考えながら
たどたどしい口調。
「罪滅ぼし……も、たぶん、ある。
ほか、は……同情……いや、違う、な。
そんな安っぽい、のとは、違う……」
上手く言葉にできない。
「アタシは……なにもない、辛さが……身にしみてるから……
それを抱えてるやつを……置いていけなかった……
たぶん、そんなところ……かな……
自己満足、かもしれないけど、な」
多分、仲間を見つけてしまったから
仲間、なんて決めつけたら失礼かもしれないが。
それでも、きっと。なんとかしたかったから。
■レナード > 「…………。」
ああ、そうか。彼女と自分は、似ているからか。
わざわざ彼女が、自分の事情を話したのは、きっとそういうことだ。
事ここに及んで、思い至った。
「……………どういう関係になるのか、分からない…けど。」
だからかもしれない。
或いは、彼女を一方的に悪だと断じていた自分ができる、罪滅ぼしかもしれない。
「いいよ。
君の言うことに……付き合っても。」
その言葉に、乗ってしまいたくなった。
■園刃 華霧 >
「そっか……ありがとな。
蹴られてもしょうがない、とは思ってた。」
かるく、頭を下げる。
これは自分が受け入れる話であり、相手に受け入れられる話だ。
なら、礼は必要だろう。
「いいんじゃない? とりあえずは、なんか『知り合い』くらいのとこで。
『友だち』とかになれるかは、まあ……わかんないけど。
なにしろ、お互いまだ名前すら知らない……だろ?」
へらり、と笑う。
少し力の抜けた笑い。
「……アタシは、園刃華霧。嘘っぽく聞こえるかもしれないけど、登録された本名だよ。
なにしろ、名前がないから必要な時に自分で思いつきでつけたからね。
なんなら、学生証をみせてもいい」
あんまり人には教えていない事情。
以前、偽名、なんて疑われたこともあった。
言われてみれば、そうだな、と思わないでもない。だから、この相手には注釈をつけた。
こんなタイミングで嘘と思われてはかなわない。
■レナード > 「蹴ろうと思ってた。」
即答。
「……でも、それをしたら、僕は本当に悪に堕ちるから。」
だから、やらなかったのだ。と。
彼女の選択を、最後まで尊重した。
「………あー……。
そっか、そうだし。名前、知らないんだっけ。」
言われてみれば、確かに。
書面上で知っていても、それは別だ。
名乗ること自体に、意味があるから。
「僕は……レナード。
レナード・ウォーダン・テスラ。長い名前だから…レナードでいいし。
おめーがそんな名前でも、学生であることも、嘘だなんて思わねーから。」
学生であることも、疑わない。
疑ってばかりでは、きっと始まらないから。
だが、こればかりは聞いておこう。
きっと…今くらいしか聞けないだろう。
「………ところでさ。
なんで、上着と腕章、脱いでるわけ?」
■園刃 華霧 >
「うん。分かってる。百も承知だ。
だからこそ、その『選択』をアタシは嬉しく思う。
それがどんな理由であってもな」
『選ぶ』。それは相手に許されたことで、自分に許されたことではない。
自分の何かが相手を動かしたわけではないとしても、相手が『選んだ』ことが重要だ。
アタシは、それに生かされている。
「レナード、か……OK、レナード。
よろしクな。
ひひ、疑わないっテんなら、ありがタいことだヨ」
軽く笑って返す。
最初が肝心なんだから、別に細心の注意くらい払っていいだろ?
なにしろ、最初の一歩で失敗したんだから。
「ン? ああ、これ?
最初に言ったデしょ。一人のアタシとシて、話スため。
トゥルーバイツでも、風紀でも、なンでモない。
園刃華霧とシて、向かい合ワないとイけないッテ。
アタシが思ったかラ。
まあ……儀式、みたいなモン?」
制服も腕章も外したのはそれだけのこと。
手に持ったままだと意味がないな、と思って捨て置いた。
いつもなら異能で収納するところなんだけれど、
異能制御を受けている今は余計な荷物はしまいたくない……
なんていう事情は、言っても意味はないので口にはしないが。
■レナード > 「……ふーん…?」
ぱち、ぱち、瞬きしながら、落ちているそれらを見やる。
上着にそれを表す何かがあったことに、気づいていなかったから。
てっきり暑かったから脱いだのかとか、とりとめのないことを考えてしまった。
「………。」
さて、最初の一歩は、それでいいだろう。
後は、自分から言わなければいけないことを、言う番だ。
…言ってしまえ。
大人になりたいなら、そういうことから、始めないと。
「……ねえ、園刃。
僕は君に、酷いことを願った。」
彼女の眼を、できるだけ見るように、言葉を繋ぐ。
どこか不安そうに焦点がずれたりはするが、それでも、必死に。
■園刃 華霧 >
目をパチクリさせる相手。
なんだか、え、どういうこと?みたいな顔。
これひょっとして……
「……あレ? ひょっトして、風紀の赤い制服トか、腕章トか……知らンかッタ?
え、マジ? なにソれ、アタシの独り相撲? え、恥ずイんだけド」
うあああああ、と呻く。
一大決心のつもりだったんだけどなあ……
「……うン?
酷いコト? 今更なにサ。
言いタいなら、言ってミ?」
別に、今更何を思われていても気にしない。
そもそも二言はない。
悪徳反抗、なんでもこいってもんだ。
■レナード > 「……今の風紀委員には、立場を利用して、弱者に手を出す悪辣がいる。
僕は、そう思ってる。」
その心は、まだ変えてない。
だが、…きっと、彼女のように背景くらいは聞いても良かったのかもしれない。
でも、今はそれが主ではないから、話を続ける。
「君と会ったあの日から、次の生きがいに選んだ反抗が…それだったから。
だから、ていのいい"悪役"に……君を選んでしまった。」
だから、今日あんなに吼えたのだ。
自分と関わることを、恐れていた。
「トゥルーバイツの顛末は知ってる。君も関わっていただろうと思っていた。
…生き死にの情報は得られなかった。だから、
僕にとってていのいい悪役のまま、死んでくれていたらいいって、思ってしまった。」
そう、つまりは…―――
「…………そう思う僕こそが、悪辣だ。
君は、そんな僕でも、良いって言ってくれるのか…?」
そう、認めてしまう。
きっと、同じ境遇の彼女の前だから。
泣きそうになってしまうのを、必死にこらえながら。
きっと、この後に彼女から続く反応は、蔑みだろうか、罵声だろうか。
そういう言葉を覚悟しているようにも見える。
■園刃 華霧 >
「ああ!」
しぼりだすように出された言葉。
それを聞いても、納得しか無かった。
「な―ンだ、そんナこと?
そりゃ、ソういうこともアるさ。
ただデさえ、あン時のアタシは、そう思わレても仕方なイとこ、あったしネ。
正直、今でもそう思ってマス、とか言わレても……うん、そうダね……ってナるし……」
さらりと、言った。
だって其の程度のこと、とっくに覚悟してる。
こんなこと言ってもらえるだけで万々歳だ。
「そモそもサ。
そウいう生き方、シてたンだろ?
そりゃ、そウもなルさ。
いや、良いか悪いかって話なラ……悪いのカもしん無いけど。
でも、これってソういう話じゃ――ないでしょ?」
前提を忘れてはいけない。
それを認めたから、受け入れると決めたのだ。
何を揺るぐこともない。
■レナード > 「…………。
……そっか……」
思った以上に、軽い反応だった。
…というよりは、なんだ今更そんなこと、と過去の話を聞いていたかのよう。
でも、きっと彼女のその言葉は…
「……それも丸めて、僕を受け入れるって……言ってるわけ……」
それに気づいてしまったから。
ぼろ、と涙が落ちる。
「…はー……なんだよ……
つくづくだめだなあ、僕は………」
それをごまかすように言葉をひねり出すけど、その声さえも濡れている。
■園刃 華霧 >
「ひひ。いーンじゃない、駄目でモ。
これカらこレから!
アタシも、自分の駄目さ加減をつい最近思い知ったバっかだシね。
いま、学習中ってトこ。」
散々やらかして、あちらこちらに迷惑をかけて。
結局今や首輪付き。
だとしても、まだ死んではいない。
まだ、生きている。
おしまいじゃない。
なら、なんとでもなる。
それを、教わった。
教師ってマジで怖いな……
■レナード > 「……そんなとこまで、一緒なんてね。
ほんと、分かんないもんだし…」
お互いに、駄目なもの同士。
…どこまで似ているんだろうか?
ここまでくると笑えてくる。
腕で、ぐしぐし。眼を拭う。
ふすんと一つ息を吐いて。
「……じゃあ、まずは、友達から…始めるし。
なんか、うまくいきそうな気がするから。」
どういう関係になっていくか、分からないけれど。
まずはそこからだろう、きっと。
■園刃 華霧 >
「まっタくだ。ほんと、なンなんだローね。
ひひ……これを仕組んだ存在がいたとしたら、相当な悪辣だな、ホント」
冗談めかせて、けらけらと笑う。
そして、相手が落ち着くのを見る。
「ん、そだネ。それデよければ……『友だち』から」
――友達、とは、特定の行為を指すものではない。単なる『居心地の良さ』の名前だ
かつてかけられた言葉が脳裏に響く。
しかし、それは自分の胸のうちにしまい……
「うン。うまくイくさ、きっと」
それだけを口にした。
■レナード > 「……あーあ…ほんと。
色々種まき、してたのにな。」
それはそれとして、やらなきゃいけないことは変わらない。
ただ、そこに、明確な敵意を向ける相手はもういないだけ。
…それでも大きなことだろう。
「………まあ、いいや。
それが、どうなるか…なんてのは、いずれ分かっていく話だし。
それに………」
改めて、彼女を見つめて。
「友だちからだとは言ったけど……そんな大風呂敷を広げたままで、もしいられると言うのなら。
きっと、"その先"も、あり得るのかな。なんて、思えた気がしたから。」
受け入れる。
なんて、そんな言葉は初めてだったから。
「……………。
…まあ、うん。うまくいくし、たぶん。」
言った後に、ちょっと照れ臭くなった。そっぽを向くように、顔を背けたりして。
いつの間にか、その眼は黒い瞳に戻っている。
…もう、ここにいる理由は、ないだろうか。
「………僕はもうじき帰ろうかなと思うんだけど。
園刃は、どーするつもりなわけ?」
■園刃 華霧 >
「……うン? 」
どうにも要領を得ない話。
更にそっぽまで向いてなんだろうか。
まあでも、先のコトなんてわからないっていうのはよく分かる。
であれば、その要領の得なさもそういうことだろう。
一人、納得した。
「ンー……いヤ、どうスるってモな……
アタシも別にもう用事とか、ナいんだけど……」
今回の遭遇は本当にただの偶然。
勿論、探していなかったわけでもない。
ただ、名前も素性も知らないような相手を、この広い島の中で見つけ出すなど
そんな夢物語、上手くいくとは思っていなかったのも確かだ。
だから、目的は果たされたのであれば、今はそれ以上することもない。
■レナード > 「……ほんとに、僕を見つけたからここに来たってわけ。」
もう用事はない。
…本当に、自分を見つけたから、ここに来たんだろう。
熱心というか、なんというか。
まあ、何もないと言うならば…
「じゃ、僕、帰るけど。
………………。
一緒に、帰る?」
これくらい、提案してもいいだろうか。
友だちなのだから。
■園刃 華霧 >
「そーダね。見つけタから、来た。
そンだけサ」
へらり、と笑う。
「ん、ああ。
帰るってンなら、わざわざ別にシなくテもいイよネ。
いいヨ。一緒に行コう」
一緒に、帰る?
其の提案に、
オーケー、と気安く返事を返した。
■レナード > 「……ん?
わざわざするって、なんのことなわけ?」
なんか引っかかった。
他に何かあったのか?と、言わんばかりの怪訝そうな表情だ。
「……やりたいことあるなら、付き合うけど?」
ここで済ませられることなら、まだ時間はある。
■園刃 華霧 >
「ああ、違う違う!
お互い帰るッテのに、わざわざバラバラに行くコトもないダロって。
そんだけダよ。
……やー、この程度でモすれ違うンだから会話ッテやっぱムズいナ!」
けらけらと笑う。
そう、其の程度のことで自分は失敗したのだ。
これは戒めなければいけない。
■レナード > 「……くふっ。」
ああ、そうか。
言われなきゃわからない自分も、大概だな。
当然のようでいて、当然でないこともあることを、分かっておかなければならないと、
自嘲交じりに小さく笑った。
「…あー、そうだし。
一緒に帰るんだから、別にバラバラに行く必要なんてないわけ。
それともなに?僕と一緒にいるの、もし見られたりしたらマズいわけ?」
どうあれ異性同士なのだから、学友に会えば茶化す言葉くらい向けられるかもしれない。
…まあ、こんなに夜も更けていたわけだから、そんな確率はないだろうが。
「それでも問題ないって言うなら、とっとと帰るし。」
■園刃 華霧 >
「べっツにー?
アタシが何してヨーが……あーイや、犯罪行為はアレだが。
アタシがスるって決めタら、ソれで良いのサ。
なーンもいわセんし、言わレてもダからどーシた、サ。」
けらけらと笑う。
ちょっと最近ワルイコトしたばっかりなので、微妙に弱気。
まあ、犯罪行為なんてそうそうするわけないし。
……ばれない程度の悪戯ならともかく。
「ダな。さっさと行くか!」
笑って歩き出す。
■レナード > 「そ。
強いね。まあ、そうでなくちゃ、僕の受け皿になんてなれないけど。」
茶化すように、小さく笑う。
中身は虚ろでいるようで、表面だけ強そうにみえるのも、きっとお互い様だから。
「足元、気を付けなよ。
…まあ、言うまでもないか。ここまで登ってきたんだし。」
笑う彼女を諫めながら、隣へついて歩きだす。
そうして共に、時計台を後にしたことだろう―――
ご案内:「大時計塔」から園刃 華霧さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からレナードさんが去りました。