2020/09/16 のログ
■黒髪の少年 > やはり、誰もいない。
知り合いに見られていたらややこしいことになっていたに違いない。
だが、こんな時間だ。来る理由がそもそも希薄なものだろう。
「…ふう。
やっぱりここは、独りになりたいときに来るに限るし。」
一安心。それを表すように、息を吐く。
「……よし。
そろそろ、戻ろうかな。」
自分の思考に一区切りがついた、この時が塔を降りる頃合いだろう。
本当に理由を持って来る誰かと会う前に、蛇はするすると塔を降りていった。
ご案内:「大時計塔」から黒髪の少年さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」にウルトールさんが現れました。
■ウルトール > そこに聳えるは鐵の鎧。
宵闇に紛れて陰の如く、それは堂々と展望台に立っていた。
「…………。」
孔のない兜が、僅か下へ傾く。
その先にあるのは、籠手に包まれた己が掌。
握って、解いて、ぐっ、ぐっ。まるで具合を確かめているように、何度も。
その度に樹脂の柔らかくも軋むような音が、仄かに聞こえる。
「しばらくの間、放ってたから……」
ここに来たのも、独りになれるから。
流石にこの見てくれでその辺を散歩という気分にはなれなかった。
■ウルトール > 昨日ここに来た後、その足で研究所に向かった。
驚かれるかと思ったが、どこか信じていたような…そんな表情で迎えられたものだから、こちらが驚いてしまった。
確かにあの蛇が言っていたように、後片付けと称して謝罪行脚をしに来たと聞いた。
…当然、自分が原因で大迷惑をかけた事実は変わりない。
そのことを何度も、何度でも謝った。
だが意外だったのは、この兵装を全て残していたことだ。
特にこの鎧一式は自分専用として製造されたもの。他に使い道もない以上、廃棄処分が検討されていたが…
『いつか、戻ってくるだろうからねっ。』
と、謝罪行脚に来た彼が廃棄を止めたそうだ。
…それから彼の"多少の手伝い"も相俟って、定期的な整備の上、いつ戻ってきてもいいようにとの判断がなされたらしい。
「……まったく、どこまで僕の行動を読んでりゃ気が済むわけ…」
まるっきり掌の上で踊らされている気がして、悪態をつく。
だが、不思議と悪い気分にはならなかった。
■ウルトール > これを運用していた時の"彼"の声は、もう聞こえない。
今の自分に守りたい相手…守りたい正義はあるが、それは守るべき風紀ではないからだ。
この鎧にしたって、武力制圧用の装備は外してある。そういう意図も、今はない。
変声器であるとか、情報解析用のマイクロコンピュータとか…この鎧に元々備え付けられているものは動かせる。
しかし、今の自分は風紀委員ではない。だから、他人を攻撃しうる要素になるものの携行は避けたかった。
尤も、この恰好だけでも十分武力になると言われれば、反論のしようもないのだが。
「………風紀の牙、そして毒になろうとした……
それも今は、昔か………」
そうして鐵は、しばしこの場で物思いに耽る。
この鎧を着ることで、思い出すものがあるから。
■ウルトール > 「…………。」
この鎧は、確かに身を守るものにはなるだろう。
だがこんな無骨な姿で、彼女を抱きしめられようか。
ならば、今の自分には相応しくない…そう思いさえもする。
「僕はもう、風紀委員じゃない。」
そうだ、今度こそ…普通の学生になりたい。
普通に勉学に励み、普通に成長し、普通に……
そう、あの神社で、あの風紀委員の前で願ったのだから。
あまり関わることのないように、したいものだ。
できればこの、兵装にも。
「……そろそろ、戻ろうかな。」
今日は録音機能も、変声器も切ってある。
それも、単純に動きたいだけの理由で借りたものだ。有用なデータなんて得られやしない。
ならば、早いうちに返しに行かねばならない。
あまり遅くなるのも、向こうへの負担になるだろうから。
■ウルトール > 鐵が動く。
一歩一歩を、踏みしめるように。
金属の擦れる音を、あたりに響かせながら。
確かな重量のあるそれが、対して重そうにも思えない歩みで。
彼は祈る。
できることなら、もうこの鎧に袖を通すことがないように。
何故ならその時が来たということは、そういうことだから。
「………僕の正義は、ウルトールとは違うんだから。」
一言、変声器を切ったままの…彼の肉声で呟いた後、展望エリアから降りていく。
そうして大時計塔は、再び静かになった―――
ご案内:「大時計塔」からウルトールさんが去りました。