2020/11/27 のログ
ご案内:「大時計塔」に夢莉さんが現れました。
夢莉 >  
少し、風に当たりたかった。
ここ最近は正直気の滅入る事が多かった。
昔の恋人が出て来て、同僚が死にかけて、自分の娘の友人をひっ捕らえた。
どれもこれも、頭が痛い出来事。

だからだろうか‥‥こうして高い所から島を見てたかった。
デカい島を、掌に収まるほどの景色にしたかった。
ただ、それだけ。

「……ん」

ただ、そこには先客がいた。
女……いや、何となく”似た雰囲気”があるから分かる、男か。
最近ここ来ると、大体人に会う気がすんな。
まぁ別にいいけど。

「……よぅ、一応立ち入り禁止だぜ、ここ」

どうせ分かってて入ってんだろうけど、一応。
勿論こっちも分かってて入ってる訳なんだが。

ユラ > 「んん?」

もごもご、ミルクティーを口の中で転がしながら目線を送った。
ごっくんと飲み下し、ほふっと一息。

「えっ、そうなの?
結構人が居ること多いんだけど。
今日ようやく一番乗りしたって思ったくらいに」

予想に反して立ち入り禁止を知らなかったらしい。
そんなはずは、みたいな顔になった。

夢莉 >  
「…なんだ、世間知らずのガキかよ」

はぁ、とため息をついて。
ま……表の立ち入り禁止の札も随分寂れてきてるし、知らずにたむろしてる奴も多いか。

「だったら今度から気を付けて入んな。
 風紀に見つかったらお叱り受けるぜ?

 …ま、オレは風紀じゃねえから知ったこっちゃねえけど」

そう言いながら、煙草の箱を取り出して一本口に咥えて火をつける。
ここで煙草を吸いながら見る景色は結構好きだ。
煙と島が混ざって、どっちも掌に収まりそうにも、掌からすり抜けそうにも見えて。
モノの尺度が朧気になる。

「―――――フゥー……

 …で?何してんだ、こんな所で。
 考え事でもしに来たか?
 ま……何か考えるには丁度いいしな、静かで」

手すりによりかかり、雑談程度に話しかける。
人がいんなら、口でも開いてた方が幾分マシだ。
何もしねぇとヤな事考るかもしんねえ。
んなモン、クソの役にも立たねえってのに。

ユラ > 「んー……まあ、怒られたら怒られたで。
そもそも外側から入ってるから、注意書きとかあっても見たことないし」

外壁伝いに飛んで登ってきた弊害である。
煙草の煙が近くを通り、すんすんと鼻を鳴らした。

「オレは星を見に来てた。
星を見てたら考え事もしちゃったけど。
ここは光が遠いから、星も月もよく見える」

すんすんすん、鼻を鳴らして煙を吸いながら話を続ける。
ちょっと気に入ったらしい。

夢莉 >  
煙草から漂う、紅茶と香辛料の入ったような甘めの香り。
少し独特だけど色香にも似た、鼻腔を刺激する香りが仄かに漂う。

「ふぅん…」

煙草を吸いながら、空を見る。
そういや、ここで星を見るなんてした事なかったな。

「ニーナもここでよく見るっつってたな……沙羅も、か。
 ……確かによく見えそーだ」

空はまだ日が沈み切っておらず、しかし薄暗くなってきたからかぽつぽつと星が煌めいてきている。
本格的に暗くなったら、もっと見えんだろうな。
こいつが言った通り、良い眺めになりそうだ。

……あいつらもこうして星を眺めたんだろうな。
娘と、娘の友達の事を少し思った。
星の好きな子供達だ。

「オレは……ま、気晴らしだ。
 こっから下を眺めんのが好きでな。
 何もかもがちっさく見えて、少し安心しやがる。

 ま……疲れた時の休憩所ってトコだな。
 ここなら煙草幾ら吸っても怒られねぇし」

ユラ > 「……やっぱり色んな人が来てるんじゃん……
ホントにここ立ち入り禁止……?」

信憑性が無くなってきた。

「ふーん……あーでも、ちょっとわかるかも。
高いとこから見てると、周りが小さくなったように感じる。
自分のイヤなとこから、ちょっとだけ目を離してもいい気がして」

多分同じようなことを考えてるんだろうな、と相手を見上げた。
甘いミルクティーの味と、似たような甘さの副流煙の香りを交互に味わう。
ちょっと気分が良さそうだ。

夢莉 >  
「どうせ見回り来る訳でもねぇ。
 犯罪が起きる訳でもねえしな……ま、カタチだけってこった」

高い所は危ないからなんて言われても、どうせこの島の連中は割と高い所から落ちても問題ねぇヤツで溢れてやがる。
死亡事故でも起きれば別だろうが、起きてねぇし。

「ま…そういうこった。
 クソみてぇな足元見てると、少し離れたくなってな……
 ちっちぇー景色眺めりゃ、オレもちっちぇー存在だって思うだろ。

 そうすりゃ、オレん中のヤな事も全部ちっちぇー事に思えてくら」

よくある逃避の仕方。
そうやって悩みの重さを少し軽くして、さっさと消化する。
重荷になったモンをそのままにして潰れりゃ、生きてけねぇ。
そういう生き方だったから、そういう解消の仕方を覚えた。

「……で?
 何考えてたんだ?
 景色のつまみに聞かせてくれよ、込み入った話じゃねぇならさ
 悩みは吐き出すに限るぜ」

雑談に興じてれば、すこしだけ気分がノッて。
知りもしない相手だが、一時の付き合いだから軽く話せるモンもある。

知ってる相手だと、どうにも気を使うし。

ユラ > 「……イヤなこと忘れたいときに、同じこと考えてたってことだな……
似たもの同士かもね、オレたち」

くぴくぴと最後のミルクティーを飲み干した。
悩みの質は違うかもしれないけれど、生き方は近いのかもしれない。

「んー……大人になったら、何をするのかなって考えてた。
オレややれることって……まあ、ほとんどが親とか兄とか、親族の人がやってることの真似ばっかりだから。
オレにしか出来ない、オレがやるべきこと、オレがやりたいことって何なのかなって」

改めて言葉にしてみて、こんな話面白いのかなと悩んだ。
どうだろうかと相手の顔を見る。

「……いや、やっぱつまらないよね、この話」

やめとこうかな、みたいな顔になった。

夢莉 >  
「かもな」

少しだけ笑い、煙草の灰を落とす。
人間、忘れるのも大事だ。
一々覚えて引き摺って、そればっかじゃ苦しみ続けちまう。
全部とは言わないが、悪い事なら忘れた方がマシな時だってあるさ。

それが出来なくて、迷惑かけたヤツを知ってる。

「んな事ねぇよ。
 それに、景色のつまみだっつったろ?
 そんな面白い話なんざハナから期待しちゃいねぇからな。


 にしても、自分しかできねぇこと、ねぇ………


 ねーんじゃねぇの?そんなの」

再び煙草の煙を吸って、吐きながら。
悩みに対して酷く軽い言葉だが、思った事をそのまま言った。
同情したり親身になるのは、身内のする事だ。
オレはこいつの身内じゃねぇ。

「何億人今地球に人間がいると思ってんだ。
 そん中でオンリーワンなんて、ほぼほぼ無理だろ。
 所詮は全員誰かしらの猿真似、自分しかできねぇ事…なんて、もうこの世にゃ殆どねぇだろ。
 少なくとも、オレはそう思ってるね」

世の中を探せば、どっかしらに自分そっくりな奴が3人はいるとかいう言葉もある。
裏を返せば、自分は唯一じゃねぇって事だ。
大衆の中の、模様の一つ。
それが何色だろうと、ほぼほぼ同じような色はどこかしらに存在する。
自分だけの……なんてのは、多分、ねぇ。

「それに……他が出来る事が悪い事でも、ねぇだろ。
 誰でもできる事もそうはねぇんだから」

でも、赤は青にはならない。
その色は、同じような色があっても、別の色ではない。
そこは変わらないから、自分の色味を使ってくしかねぇんじゃねぇか。
何でもなんて、結局ムリなんだ。

ユラ > 「……そうなのかな……」

誰にも出来なさそうなことをしている人が居る。
それを知ってしまっている。

「やりたいと思ったことは、大体周りの誰かがプロの実力を持っててさ。
好きなことは、親から教わったことばかりで。
オレが出来ることは、誰かがもっと上に居ることばかりだ」

それは少しずつ歪んでしまった自己評価。

「なんだろう……自分にしか出来ないことっていうか……大人になったらというよりも……
そう。オレは何のために生まれて、何をするために生きてるのか、みたいな」

ちょっとずつ話が壮大になってきた。
けれど悩みはあまりに深い。
誰にも出来ないことを望んでしまった少年が、深く深く沈んでしまっている。

「……まあキミの言う通りなのかもしれないけどね。
誰かと同じことだとしても、自分の出来ることをやるべきなのかもしれない」

夢莉 >  
「…なんか、めちゃくちゃネガティブだなオマエ」

少しうわっという顔をした。

「上見りゃ上がいんのは当たり前だろ。
 上がいない奴なんて、世界中に一握りだ。

 …ま、確かに異能やら魔術やらがポンポン現れて、それこそコイツくらいしかできねぇって力持ってる奴もよく見るけどな」

異能の島って呼ばれる常世島じゃ、それが顕著で。
「自分にしかできない」と思い込んでる奴はごまんといる。

…あぁ、ウチのクビになった後輩もそんなクチだったか。

「…それにな、自分にしかできねぇってのも考えもんだぜ?
 お前がダメになった時、じゃあ誰が代わりすんだよ。
 できねぇだろ?

 そんなの、負担にしかなりゃしねぇ」

自分じゃないと駄目なら、自分がやらなきゃその責任は全部自分が負うって事だ。
そうなったら、出来ない時は?
そいつが背負っていく事になる。
完璧に出来るならまだしも……そんな風に出来る奴はそんなにいねぇ。

「だが、まぁ…そだな。

 強いて言うなら‥‥…”ここに居る”のはオマエだけだろ。
 今自分が居る場所には、自分しか居られねぇ。
 
 そこに居ない誰かが幾らオマエよりずっと物事上手くできようと、いねぇならその場じゃオマエなんかよりずっと役立たずだ。
 だから、今いる場所、は大事にしな。
 そこが多分唯一、お前だけのモンで、そこでやれる事がお前しかできねぇ事…じゃねぇの?」

少し、悩んでいる様子の相手を見た。
女みてぇなツラ。
クヨクヨ悩んでっと余計にそれが強調される。
ま……オレも人の事言えるツラでもねぇが。

ユラ > 「ええー……いくらなんでも言いすぎじゃない……?」

そこまで煽られるとは思わなかった。しかも引かれた。

「うーん……それもそうか……
オレにしか出来ないってことを、誰かに期待することもできないのはめんどくさいな……」

つまり、それを背負っている兄とか父とかはやっぱりイカれ野郎どもなわけだと。
んー、と頭をひねりながら、続きの話を聞く。

「……すげーいいこと言われた気がする。
でも言われてみると確かになー……
この学園都市に……いや、オレがこの場に居る限りはオレが一番って感じの考え方か……」

なんとなく腑に落ちた……ような気がする。
少しだけ反芻してから、再び相手を見上げる。
この人も似たような悩みを持ったことがあるのだろうか。

夢莉 >  
「言いすぎじゃねぇだろ。
 ま、悩む気持ちは分からなくもねーけどな」

悩まない人間なんて真正のアホか、悩む気がない奴かだ。
普通は悩む。
くだらねぇ事でさんざん悩む。
ガキなら殊更当然だ。

「フツーの事だろ。
 考えてみりゃフツーなんだ、こんな事はよ。
 でも変に難しく考えて、割と頭ん中から抜け落ちる。
 隣の芝は青いって羨んで、自分の足元をおろそかにすんだ。

 そんなアホは大勢見てきてら」

つい、最近も。
そんな事でバカやった奴を見た。
そのバカが結構な大ごとで、そしてバカやった奴はほっとけない奴で。
それで結構参ったりもしたが。

「―――だから結局、自分の場所見るしかねぇんだよ。
 そうすりゃその内何か……見えるモンも出てくんだろ。


 ……っと」

そう言ってると、煙草が随分と短くなってきていた。
火を消して、色々うるせぇから仕方なしに持つようにしてきた携帯灰皿を取り出し、吸い殻を捨てて二本目を取り出そうとすれば……中身は空。

しまったな……買い忘れてた。

「ま、思春期らしく悩むのも悪い事じゃねぇだろ。
 悩めるのは余裕あるときだけだからな。

 人生のセンパイからのありがたーい言葉だ、頭の片隅にでも入れときな」

このまま星を見ようかとも思ったが、煙草がねぇんじゃ仕方ねぇ。
買いに行くために降りるか…と、目の前の見ず知らずのガキに背を向ける。

 

ユラ > 「うーん……どうだろ。普通が何なのか、オレにはわからない。
でも……誰にも出来ないであろうことを出来る家族が居るのは、多分キミの言う『普通』じゃないんだろうなとは思う」

隣の芝生の青さではなく、隣の大木の巨大さに圧倒されていたのだ。
彼がそこまで考えたかどうかはわからないけれど。
相手が煙草切れみたいだが、あいにく煙草は持っていなかった。

「人生の先輩って、多分オレとキミで年あんま変わらないでしょ。
まあでも、ちょっとすっきりした。ありがとう」

手をふりふり、その背中を見送る。
一人になったら荷物を片付けて、そこから飛び降りて帰ることでしょう。

夢莉 >  
「潜った修羅場がちげぇんだよ、修羅場が。
 ま……こっちも気晴らし程度にはなったよ」

他人の話を聞いて、自分の考えを言うと、自分が悩んでた事の答えがふと浮かんだりもする。

そうだ、オレにできる事は、オレがいる場所で出来る事だ。
それが変わるなんて事はねぇ。
オレがいる場所で、やれることやりゃいい。

……とりあえず、あのガキンチョの社会復帰が当面のやること、か。
苦労はしそうだけどな。

「じゃあな、またどっかで会うかもな、小せぇ島だし」

少し笑って、手をひらひらとしながら。
そのまま去ってゆくだろう……

ご案内:「大時計塔」から夢莉さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からユラさんが去りました。