2021/10/21 のログ
■セレネ > 「……分かりました。」
気に入っている場所だったが、こうも釘を刺されると別の場所に移さねばなるまい。
内心で舌打ちするも表面上には一切出さず、反省している色だけ醸し出す。
此方側に歩み寄り、鮮やかさを増す紅に嫌悪すら滲ませる蒼を向け。
「そうですね。私が知る限り満月の日には一切外に出ませんでしたし。」
前回の月見でも、研究室のカーテンを全て締め切った上での月見だった。
だからこそ、こうやって満月の下に晒して来た事が驚愕ではあるのだけど。
「…あれだけ嫌がって、貴方曰く二年以上満月の夜に外に出なかったというのに。
今日此処に来たのは何故ですか?
…私は月見をしろと言った訳でもないのに。」
己が太陽の下を日傘無しで歩けないのと同じように。
彼も何かしらの理由があって満月の下を歩けないだろうと思い至り、
いつからか誘いをするのをやめたのはいつだったか。
真っ直ぐ向けられる紅を視て、それに湛えられる魔力の量に一瞬息を呑み咄嗟に蒼を逸らした。
相手の魂よりも、纏う魔力が濃すぎて見失ってしまったから。
■暁 名無 > 「仕方ないだろ、例外は一人に留まったりしないんだ。
誰かが居れば、また別の誰かが来る。
そうして連鎖的にここに昇る生徒が増えれば―――そのうち間違って落ちる奴も出てくるかもしれない。
ダメだって言ってるのには、理由があるんだよ。」
暁自身も生徒の時分には散々忍び込んだことがあるので来たくなる気持ちは分かるし、転落事故に関しても自分は平気なのにと思っていた。
が、平気でない者も居るから危険だ、と言われているのだ。
もし当時の自分を真似て他の生徒が忍び込み、結果転落して命を落としていたなら、きっと悔やんでも悔やみきれなかっただろう、と暁は思う。
「……こないだ、常世渋谷で異空間に放り込まれてな。
体感3日くらい歩き通したつもりが、外では5日経ってて。無断欠勤した分の仕事片付けたら、念の為検査を受けてこいって言われて……それで、」
検査終わったら、すっかり夜だった上に満月だった、という話だった。
満月であることに気付かなかったのは、異空間に取り込まれていた間の時間経過の感覚が鈍っていたのが大きな原因である。満月は2日後くらいだと思っていたらしい。
「もうこうなったら逃げても隠れても変わらんから、いっそ久し振りに堂々と満月を見るかと思ってここに。
……別に嫌いって訳じゃ無いんだよ、こうして月見するの自体は。」
視線をセレネから、夜空の月へ。
そう話す間も、暁の周囲から魔力は消え続け、髪と瞳は煌々とした輝きすら持ち始める。
■セレネ > 「駄目だと、侵入禁止な所にわざわざ足を踏み入れてる以上、その命が事故にせよ失った場合。
それはその人個人の問題だと思いますけれど。」
己はそもそも、一般人からの価値観がズレている。
その人自身が事故にせよ命を落としたなら、それは全て『自己責任の不足』で起きた事故なのだと認識する。
それは友人知人、親友にせよ、己自身にせよ、変わらない。
保護が必要な子どもでないのなら、それは成人と変わらず、自身で責任を負わねばなるまい行動だと思うのだ。
「――。
一般人が異界に放り込まれて、且つ数日ほぼ無害というのも
…まぁ、幻想生物学の貴方だからこそというのもあるかもですが。
丈夫ですね、驚くくらい。」
流石は多少の怪我でもピンピンしている体力の持ち主というべきか。
それとも別の体力というべきか。
「……兎も角、貴方には満月の光は毒でしょう。
早めに研究室か、自分の家に戻るべきです。」
現状の彼に、若しくは彼の身体に、如何にダメージを負わせないように、様々な思考を巡らせた結果。
浮かんだのは己の知る場所に戻らせる事。
変わらず紅の輝きを宿す彼に嫌悪感を覚えながらも、そう声を掛ける。
■暁 名無 > 「責任能力が未発達な子供も居るってこと忘れんなよ……
それに遺族からしてみりゃ、入った本人より入れさせた学校側の方が文句も言いやすいしな。言われる側は堪ったもんじゃないが。
ま、忠告はしたからな。上手くやれよ。」
立場上、言わなきゃならない事は言った。後は、結局個人に委ねるのをよしとするつもりではあるようだ。
先も言った通り、セレネ自身に対する事故の心配とかはあまりしていないらしく。
「スタミナだけは、まあそれなりに自信ある方だからな。
いや、どっちかと言えば生き汚さというか……
ただ精神的にきつかった部分もあったな。3日間自分以外の生命の気配すら無かったから。」
流石にもう経験したくない、と困ったように笑いながら、静かに柵から、セレネから離れ歩き出す。
暁が通った跡を残すように、魔力の無い空間が生まれ、すぐに補うように満たされる。
「ああ、そうだな。正直そろそろ立ってるのもやっとだ。
まあでも良かった。こうして一度でもお前さんと満月を見れて。
細かいことは聞かないが、どうやら供にしなくて正解だったみたいだしな。」
今日これまでの様子から、セレネが普段と違う暁に対し何らかの思うところがあるのは見て取れた。
それならやはり、多少遠回しにはなってしまったけれど、断っていたのは間違いでは無かったのだろう、と暁は思う。
「それじゃあ、またな。
せっかくの月光浴、邪魔した詫びとして調子が戻ったら―――まあ、お茶でもするか。」
そう告げて僅かに息を上げながら弱弱しく微笑む。
バチリ、と紫電が爆ぜるような音がして、唐突に魔術が展開され、来た時同様気配も音も無く暁名無はその姿を消したのだった。
ご案内:「大時計塔」から暁 名無さんが去りました。
■セレネ > 責任能力の有無の認識も、異世界に居た己の認識の違いもあるだろう。
己の身は自身で守る。それは庇護の立場を自ら捨てた責任だ。
大人に守られるだけではいけない。己は決して守られるべき立場ではない。守られる立場ではいけない。
己は自立せねばならない。独りで生きていく術を持たねばならない。
守られてはいけない。弱い立場ではない。
強くあらねばならない。強くあるべきである。
――それは、己自身に課した呪いだ。
己自身の望みだ。
■セレネ > 常世渋谷で異空間に放り込まれたと告げた相手が、
数日怪異にも邂逅せず無事に居られたことが奇跡にも近い事なのかもしれないが。
「…意外ですね。貴方からそういった言葉が聞けるなんて。」
一度でも己と、だなんて言葉を聞けば意外そうに蒼を見開いて。
彼からこうしようああしようと、聞いた事は本当に稀だったというのに。
――ふと見た彼の姿は、いつの間にかどこにも、何もなく消え失せていて。
蒼を無表情に細めた後、小さく息を吐き出した。
■セレネ > …さて、現在此処には誰も、何も居ない。
なればと普段は隠している淡い蒼翼を背に生やして
転落防止の柵から身を乗り出し、双翼をはためかせるだろう。
そうして、残るのは淡い蒼の羽根のみ。
それも、眩い太陽の陽を受けて跡形も無く消え失せるのだ。
月は太陽には勝てない。
己の全ては、太陽によって焼かれるのだと――。
ご案内:「大時計塔」からセレネさんが去りました。