2021/12/19 のログ
ご案内:「大時計塔」に暁 名無さんが現れました。
■暁 名無 > 「うんしょ……こらしょ、っと。」
日もほぼほぼ沈み、西の空が僅かに朱い時間帯。
俺は背負子に石像を積み、大時計塔の階段を半べそ掻きながら登っていた。
どうしてそんな事をしているのかと言うと単純明快、石像を時計塔最上部へ運ぶためである。
何故石像を運ぶのか?そりゃあまあ、ひとつの実験というか、試験運用の為というか……
「クッソ重てえ!器材搬送用のエレベータが使えりゃこんな苦労……!」
残念なことにエレベータの使用許可取れなかったからね。
百パーセント人力で石像を運搬中である。めちゃくちゃしんどい。
■暁 名無 > 「こりゃ明日膝も腰も背中もガッタガタだな……」
多少運動向きの体躯をしてるとはいえ、普段は研究職兼教員補佐の中年がやっていい事じゃなかった。
まあこうしてぶつぶつ言いながらも何だかんだやり遂げてしまう辺り昔から何も変わってねえと思い知らされるのだけども。
はーあ、学生時代ならもうちょっと足腰強かったんだけどなあ。
真冬の寒さの中、額に浮かんだ汗を拭って俺は階段を上がる。
もう少し、もう少しと自分を奮い立たせながらも階段を踏み外さない様一段一段丁寧に上って行き―――
「ッアーーーーーっ、到着ーっ!
次来るときは意地でもエレベーター使用許可取るぞー!」
どうにか上り切った時には、空には星と月が輝いていた。
あー、そういや今日は満月……今年最後の満月だったっけ。
■暁 名無 > 「魔力が過剰になる前に戻っとかねえと、なー……」
階段を上り始める前はまだ夕暮れ時だったから、それほど意識していなかったが。
こうして日も沈み、空に星と月だけになれば少しだけ肌がざわつき始める。
月の光に呼応するかのように、空気中の魔素が活性化してるのを肌で感じ取っているからだろう。
「こっちの対策も、時間ある内に試作しとかんとな……」
周囲の魔力を意識せず吸収し体内に蓄積する体質の俺にとっては、この満月時の空気中の魔素というのは中々に厄介だ。
あっと言う間に体内に貯め置ける魔力量をオーバーしてしまう。
だから長時間月の光に届くところに居ることは避けたいが、今回はまあ……少しだけ何とか出来るアテもある。
■暁 名無 > 「う、っと……早くも酔って来た。
のんびりしてないで設置設置。よいしょーっと。」
ふわりとした軽い酩酊にも似た感覚に我に返って足早に歩を進める。
時計塔の最上部、その一角で足を止めると通行の邪魔にならないかを確認。
うん、大丈夫そう。少なくとも補修や点検の邪魔にはならない……はず。
というわけで漸くここで背負っていた石像を下ろす。いやー重かった重かった。
「……ま、必要経費ってことで。明日はゆっくりさせて貰お。」
時計塔から街並みを見下ろすように下ろした石像。
犬種シェパードを模したそれは、背中に小さな翼が一対あって凛々しく座った姿勢で鎮座している。
高さは40~50cmほど。重さは考えたくもない。いやよく運べたな俺。
■暁 名無 > 「えーと後は魔力を注ぎ込んで……と。
どこから入れるんだろ、どこでも良いのかな。
とりあえず頭か、頭からか。」
挿入口、とか書かれてる場所が無いか石像を一通り見回してみる。
そうこうしている内に俺の方が魔力過多になってしまうので、ダメ元で石像の頭に手を置くと、じんわりと手から魔力が吸い取られていく感覚が。
良かった、どうやら頭で良かったみたいだ。
「あとはこのまま待つだけ、と。
幸いほぼ無尽蔵に魔力は注げるからなー、吸収と放出の速度も丁度良いくらいだし。」
石像の頭に手を乗せたまま、俺は頭上を振り仰ぐ。
夜空に浮かぶ満月。その明るさに、わずかに目を細める。
普段ならすぐに魔力過多になってしまって屋内に引き籠るのだが、今回みたく吸収と放出が常に釣り合ってさえ居れば何とかなる。
というのは、まあ一度未来に戻ってから判明した事なのだけれども。
■暁 名無 > 「これだけ苦労したんだからなー、しっかり機能してくれたら有難いんだけど。」
しばし日頃見られない満月を眺めてから、視線を手元の石像へ向ける。
――ガーゴイル。西洋建築の聖堂などで雨樋としてしばしば見られる彫刻だ。
どうしてそんなものを持ってきたかというと、俺なりにこの時計塔への生徒の立ち入りについて考えた結果だ。
転落などの危険性から生徒の立ち入りを制限しているのであれば、
その危険性を少しでも和らげられれば少しは生徒の立ち入りにも寛容になるのではないだろうか。
「ガーゴイルには魔除けとしての側面もある。
それが日本の狛犬やその他石像系の魔物のイメージと結びついて今や守護者としての側面すら有する……からな。」
由来を紐解けば、そんな面は無かったのだが。まあそこに拘る必要はない。
今は大衆イメージに則って、この場所を訪れる生徒たちを危険から護ってくれれば御の字だ。
■暁 名無 > 「……ところで、魔力……あとどれだけ持って行きます?」
結構な量の魔力を注ぎ込んだ気がするが、一向に石像に変化は見られない。
既にちょっとした魔術師なら一人分くらいの魔力をぶち込んでる筈なんだけどなー……おっかしいなー
もしかしてバッタモン掴まされた?と、俺が疑い始めた頃。
『ウォン!!!』
「ふひゃぁ!?」
突然石像の目に光が宿り、声高に吠えた。これには流石の俺も心臓がヒュンってなる。
最低限稼働に必要な魔力は貯まった、という事なのだろうか。その割にはまだまだ魔力入りますよ、って感じで手から吸ってく感覚あるんだけど……
「ま、まあ……ええと、一旦試そうか。」
そーっとガーゴイルから手を離し、そのまま転落防止用の柵に手を掛ける。
よっ、と軽い気持ちで跳躍し柵の外へと身を翻せば、あとはそのまま自由落下―――
■暁 名無 > ―――しなかった。
俺の身体が柵を超えた辺りでコートの端が何かに引っ張られ、無理やり引き戻される。
柵の内側に戻され、尻餅をつきながらも確認すれば。コートの端をガーゴイルがしっかりと咥え込んでいた。
『ウォンウォン!!!』
そして俺の無事を確認すると、コートを放して台座へと戻る。
そのまま元通りに鎮座し、じっと微動だにしなくなった。
「……ああ、良かった。これなら転落事故とか意図的な飛び降りは防げそうだな。」
ありがとさん、とガーゴイルの頭をぽんぽんと撫でて、そのまま魔力の注入を再開する。
出来れば限界まで入れておきたい。何度もここに足を運ばない為にも。