2021/12/21 のログ
■東山 正治 >
ある日本当にそれは突然起きた事だ。
絵空事だった連中が全て現実になった。
実際に昏迷した世界は、今やそれを"多様性"として受け入れている。
勿論、個人の話をすれば皆が皆でない。
人間も異邦人も、どちらも腹の中では排他的な連中だっている。
東山もその一人だ。未だ現実(アクム)は受け入れられない。
「…………」
ふぅ、と溜息の様に口から紫煙が立ち上る。
混迷したのは世界だけじゃない。
当然だが世界を律してきた"法律"でさえ意図も容易く崩壊した。
どんな形であれ、世界はそれらの異物を受け入れ始めている。
だからこそ、"法律"もそれらに合わせて改善しなければならない。
「(……何が改善だよ)」
そんな"建前"に反吐が出る。
法律とは縛るものではない。秩序を、そしてそこに暮らす人々を"護る"ものだ。
勿論法律自体にも限界はある。所詮は人間の考えたものだ。
だからこそ、人間は今迄積み重ねてきた。
間違いの上に安寧を。しかし、砂の城よりも脆くそれは崩れ去った。
それ自体に東山は文句はない。
問題は、踏み荒らした連中だ。
「…………」
知っている。今の隣人たちがどんなものか。
職員室の隣にもうるさくて馬鹿なおチビちゃんがいる。
そう、思えば人間と何ら変わりない。
彼等も間違え、積み重ね、そして成長する。
だから
「……くっ」
『気持ちが悪い』
思わず苦い笑みが漏れた。
郷に入れば、とも言わない。
ただ、"法律"が"安定"するまで待ってくれればよかった。
自分たちが踏み荒らしたものだというのに、今や我が物顔で隣人がいる。
それが、たまらなく気持ち悪い。
紫煙を吐き出しながらカツ、カツ、とわざとらしく足音を立てて東山が動く。
足音とは、"存在感"を出す為のもの。
■東山 正治 >
「真夜ちゃんさァ……ダメじゃないのォ、片付けて汚しちゃ、さ?」
厭味ったらしく背中から生徒に話しかける東山。
そのニヤけた口角に吐き出す煙、一切相手の事など考慮しない。
「別にいいよ?ケガしてんなら下がっても。あんま周りの邪魔して迷惑すんのも本意じゃないでしょ?」
「"貧血"で倒れられても困るしねェ~?」
東山は公安委員会だ。
目の前の生徒がどういった異能かあらかた知っている。
それを知ってなおかける言葉がこれだ。
東山は、この世を混迷に陥れた幻想も嫌悪している。
それと同等に、"異能者"さえも嫌っていた。
■藤白 真夜 >
「……す、すみません、東山先生……」
ひ~っ……!改めてお顔を確認して、しかも東山先生だった……!思わずぺこりと頭が下がる。
あんまり詳しくこの人のことを知っているわけじゃない。
ただ、“厳しい”人だとだけ。
「――」
だから、驚いた。
これはたぶん、皮肉だ。あるいは、私が倒れていたのを何かで知っていたのかもしれない。
でもそれは、私の異能を知らないと出てこない言葉だ。
この人は、私みたいな影の薄い生徒の名前も異能も知っているということ。
その動機がどのようなものであったとしても。
生徒を知る教師というのは、私にとって嫌なものではなかったから。
「……ご心配ありがとうございます」
今度は謝罪ではなく、感謝でまず頭を下げた。
……ちょっと緊張してるけど、浮かべた表情は、嫌なものではなかったはず。
「は、はい……やっぱり、専門の方とは、練度が違ってしまうんですけど。
私はお手伝いですから、自分の出来る範囲でだけ、自分のやれることをやろうと思います。
……手伝いに来て周りの方を心配させては、本末転倒ですしね」
困ったように笑う。
私ひとりなら暴走程度無責任になんとかなると思えてしまうけど、今は違う。
儀式も、失敗というわけではなかった。こと他人に迷惑をかける可能性に置いて、私は病的な自信がある。
■東山 正治 >
「……くっ」
思わず、苦笑が深まった。
"ご心配ありがとうございます"。だと。
こんな露骨な物言いに嫌味一つ、いや、これ自体が嫌味かもしれない。
肩をくつくつと揺らしながら笑っていた。
「いやいや、こう見えて教師だからな」
東山は全てが嫌いだった。
目に見える光景も、目の前の女も、何もかも。
だが、"公私は分ける"。自身が教師と言う自覚がある。
嫌味も反吐も幾らでも吐き出すし、人に嫌われようが構わない。
ただ、教師と言う職務を放棄するほどに愚かでは無い。
そこに一定の愛情があるかは、さておき。
「くく、そりゃそうだ。おたくが専門家より上なら
今頃おまんま食えちゃいねェさ。なァ、真夜ちゃん」
「俺は良いと思うよ?自分の事がわからねェバカよりは好感が持てる」
弁えている、謙虚である。
身の振りを知らない阿呆よりは丁度良い。
彼女の場合は東山的には"異端寄り"。
誰もがこういった謙虚さを持っていれば東山も今頃は、なんて思わずには言われない。
生徒の隣でも遠慮なく煙草を吸う東山。
そんな二人の前に運ばれてきたのは、真っ赤なツボ。
光沢を放つ真紅は魔性の輝き。素人目でも美しく、湾曲した姿。
曰く、中に悪魔の住まうツボ。
悪魔の血を吸いツボは輝き、悪魔は苦しみから逃れる為もがいているという。
その証拠に、コトコトと小刻みにツボは揺れている。
まさに封印が解けようとしているようだ。祭祀局の連中も、術式の準備をし始めた。
東山は顎でツボを指した。
「ほら、仕事だってさ。真夜ちゃん」
■藤白 真夜 >
「……??」
そんな笑いを漏らす教師の姿に私はというと固まっていた。
ここで一緒に笑うのはどう見ても失礼ですし……。……いやもしかしたらもう失礼をしてしまったのでは……。
でも、この人に叱られるのならそれはそれで良い気がした。
公安委員会にありながら、どこか掴めない言動の彼に歪なものは感じた。
けれど、……この学園に、果たして生徒が何人いるだろう。
それぞれ、どのような異能を持つのだろう。
それは、おびただしい数に上がるはず。
その中から、私のような――ある意味悪目立ちしているかもしれないけれど――日陰者を知っているだけでも、このひとは私の中で確かに“教師”だった。
……果たして、私は自分のことを理解出来ているんだろうか。
謙虚であることはそうだったかもしれない。
けれどそれは、周りに迷惑をかける怯えでもあった。自信の無さと、献身の混ぜ合わさったもの。
いつもなら、こういう任務ですら嫌がったかもしれない。けど、他の誰かが危険に晒される可能性があるなら、私が立つべきだと、そう――、
自らの内に耽ける考えは、タバコの香りに横切られて終わった。
タバコの香りは、嫌いじゃない。むしろ、先程こぼした血の臭いが薄まるようで、有り難くさえあった。
……どうしよう。
教師の前でタバコの香りが好きというのは、ちょっと不味い気がする。しかも東山先生に……。
ただ、二人の間に漂う煙を気にもせず眺めて――、
赤い、ソレに目を見開いた。
(……コレ、は――)
「は、はいっ」
考え込みそうになるのを、東山先生の声と術式を構える人たちに我に返る。
壺の前に立つ。
握った何かを注ぎ込むかのような片手を壺の――悪魔の唇のような――その上に翳した。
その、色合いにだろうか。あるいは、飢え切ったであろうナカミに?
私は――私と同じ何かを見た気がする。
……でも、構わない。
周りで封印の準備は出来ている。私がどうあれ――いや、どうにかなったほうが、封印は都合がよく行くはずだ。
ぼちゃり。
握った手から、血が溢れる。てのひらがぱっくりと裂けていた。
粘性のある赤い水が、悪魔の心臓めいた壺に、注がれる。
それこそ、常人なら“貧血”が起きそうな量を、顔色ひとつ変えずに。
――持っていって、かまわない。
悪を封ずるための犠牲なら、私はいくらでも払えるのだから。
■東山 正治 >
「──────……」
東山はただ、黙って彼女たちの動向を隣で見守る。
常世学園の自治は基本生徒たちに委ねられている。
教師は飽く迄その"補助"だ。生徒たちの自主性。
彼女たちの自立性がこの島の小さくて歪な社会を作り出している。
それは此処でも変わらない。
面倒だとかそう言う理由じゃない。
凡そは"必要ない"理由も大きい。
異能にしろ魔術にしろ、力とは少年少女たちにも
"出来てしまう"と思わせ、実現させてしまうものだ。
子どもだからという訳では無い。"過ぎたるは及ばざるが如し"。
「(……よくやるよ、ホント)」
教育する側の人間とは言え、最早それ等の異物は『才覚』
程度にしか認知されず、『異端』と取られない若者の感性に嫌気が差している。
『凶器』を『凶器』であると教えるのは当然教師だ。
だが、その『凶器』に忌避感を覚えれる人間がどれだけいるのか。
彼女たちは、果たして──────……。
術式で封じられる悪魔が暴れている。
ツボに吸われた分を取り返そうと、今か今かと飛び出そうとしている。
命の輝きはかくも美しいと言うらしい。
祭祀局の言霊が悪魔を沈め、抑えつけ、贄のように一滴滴れば…。
音を立てずに、ツボは止まった。
「……ハァ」
東山の溜息と共に、ツボから悪魔の手が飛び出した。
■東山 正治 >
乾ききった干からびた腕。それは、真夜の血を吸いみるみる内に潤っていく。
血に飢える災厄とも言える鋭い爪先。アクシデントに悲鳴を上げる生徒たち。
血の掌が、渇きを潤すものを掴もうと"していた"。
だが、それさえも叶わない。
パキ、パキ、パキ。空気が"凍える"。
干からびた悪魔の腕が暴れる前に、その腕が白く、冷たく凍っていく。
「『塞翁の本<ブックオブメーカー>』」
東山の手に握られた悪魔への悪法。
東山が此処に呼ばれたもう一つの理由は、こういった"不測自体への対処力"だ。
その異能は『異端に対して絶大な威力を発揮する』からこそ、役に立つ。
「『物体違法占拠』及び『無断現界未遂』により……」
「『密華霧冷<ニブルヘイム>』の刑に処す────」
この悪法に添えられた誰かの異能。
絶対零度の冷気は"不幸にも潤った"事によって、悪魔の腕さえ氷結させていた。
「ほら、驚かずちゃっちゃちゃとやる。真夜ちゃん」
「後宜しく」
東山の一声により、うろたえた生徒達は再びその御言葉を唱え始めた。
苦悶するかのように、冷気に抗うかのように腕にヒビを入れてまで抵抗する悪魔。
生徒は守った。後は生徒たちの仕事だ。自分の出る幕ではない。
■藤白 真夜 >
(コレは、危ない)
一目見て、そう思った。
祭祀局員なら十二分にやるかもしれない。
あるいは、公安に所属する東山先生も緊急事態に備えるべくここにいるのかもしれない。
けれど。
どうなるにせよ、矢面には私が立つべきだ。
そう思って、私はここに来たのだから。
何よりも――
ソレは間違いなく、私を求める。
血の逸話と共に、真っ赤なその壺は――血に飢えているはずだから。
私の異能は、醜い。
見た目も、臭いも、嫌悪を抱くものだ。
異能を振るえばそれらは文字通り凶器になり、“効率よく”人の命を刈り取れるだろう。
でも。
その凶器じみた異能で、人の役に立ち……誰かの犠牲の肩代わりになれるのなら。
私は何一つ怖がる必要はない――!
私はまず、悪魔に喰らいつかれるだろう。
私の血は悪魔にとって魅惑の美酒であるはずだった。
ならば、それを離そうとはしない。そのまま、出血を刃にし繋ぎ止め、その間に封印を完了させるまで時間稼ぎが――、
そんな考えは、白く凍りついた悪魔の腕の前に、どこかに行ってしまった。
「――あっ、は、はい!」
“壺の中”だなんていう曖昧な場所から、コチラへと現界した時点で、もはや封印術式への対抗力は失われていた。
伸ばした手も、凍りついてもはや動くことはない。
……それでも、私はその壺に血をこぼし続けた。
それは、悪魔にとっての美酒であると同時に。
身を縛る契約の毒を孕んでいる。
「我が血肉、我が祈り、我が願いを捧げ乞う。
――飢えを満たし、安らかなる眠りを――
ただ一時、汝が苦しみを我に分け与え給え……」
両手をあわせて祈りのカタチを。
祈る両手の中から、未だに血は零れ落ちていた。
赤い光が、壺の中へと滴っていく。
凍りついてなお暴れていた悪魔の腕は、ゆっくりと疲れはてたかのように動きを止め――
ぷつり、と封印の術式が真っ白な光を放った。
いまや、悪魔の姿は此処には無い。
壺はさぞや腹を満たして、満足気な赤い輝きを増すことだろう。
再封印はここに完了した。
■藤白 真夜 >
「……あっ、ありがとうございました、先生!」
ぺこりと頭を下げる。……なんだか頭を下げてばかりな気がしたけど、このひとにはそれで丁度いいくらいな気がする。
私は、実はあんまり“先生”と呼ばない。必ず名前をつける。
その言葉は、私にとってすでに特定の個人のものであったから。
でも、今このとき。東山先生は、紛うこと無く私の先生でもあったのだ。
■東山 正治 >
こうして、"生徒達の活躍"で危険物は再び展示品へと相成った。
尤も、"事故"を考慮すれば表に顔を出す事は無いだろう。
は、と呆れたように煙を吐き出せば肩を竦めた。
「……真夜ちゃんさァ。まァ、改めてお前等に言っといてやる」
何処か呆れるように、愉快そうに東山は両手を広げる。
「俺は、お前等が嫌いだ」
異能者であるお前等が。
異邦人であるお前等が
此の世界を享受するお前等が。
"多様性"等と嘯くお前等が。
何もかもが、嘘っぱちだ。
静まり返る生徒達を、楽しげに見やる東山。
「けどな、俺は"教師"だ。お前等の事がどんだけ嫌いでも
尻拭いは幾らでもしてやるし、相談位には乗ってやるさ」
「別に俺はお前等に嫌われようがなーんにも思わねェ。
精々、"嫌いな教師"には目を付けられないように、な?」
東山は教師だ。
現状を排他的に見ても、異能者を毛嫌いしても
それ自体を投げだす程腐った人間ではない。
だから東山は常世学園にいる。この学園の秩序を
校則(ルール)を護る為に陰に身を顰める。
自らの悪意(ホンネ)を押し殺し、時折漏らし
何処まで生徒たちの前にいることで、"存在感"を出すいやがらせ。
ささやかな、復讐だ。
「ほらほら、こんなんじゃ何時まで経っても終わんないよォ?次行くよ次」
パンパン、と手を叩いて生徒たちに発破をかける。
カツカツ、とわざとらしく建てる足音はしっかりと"存在感"を出していく。
再び周囲が喧騒に包まれる時に、東山は真夜とするりとすれ違う。
「真夜ちゃんさァ……俺は生との事情にケチつける気はないけどさ」
「──────"薬"は程々に、な?」
喧騒に消えてしまいそうな囁き。ハッタリだ。
実際に何を買っているか、何を使っているのかまでは知らない。
ただそれに関係する事に揺れればそれでいい。
本人が意識していようといまいと関係ない。
公安委員会は何時でも見ている。
どの組織が、誰が、何時"外道"に堕ちるのか。
何時でも深淵から覗いている。
その瞬間をとらえた時どうなるかは───────……。
東山の冷たい目線は、今日の作業がひと段落するまで皆を見ていただろう。
ご案内:「常世博物館【イベント:「地下収蔵庫整理」】」から東山 正治さんが去りました。
■藤白 真夜 >
「……」
私は正直自分のことは嫌いだし、好いてくれる人が居るとも思わないし、その必要性も資格も、何も無いと思っている。
だから、そう言われることは嫌ではなかったけど……少し、驚いた。
人に面と向かって嫌いと言われることは、そうあることでないはずだから。
人を嫌いだと言うことは、……私には、難しいことだと思った。
例えば陰口を叩くだとか……そういうカタチにするのは、簡単だ。
人に、真っ向から嫌いだと言えること。しかも、こんなに楽しそうに。
もしかしたらそれは、ただ東山先生が……いわゆる、嫌な人だからなのかもしれない。
でも、私にはどうしてもそうは見えなかったのだ。
東山 正治は私たちを嫌いだし、でもお前たちの教師でもあるのだと。
それは……どこまで、まっすぐな生き方をしているからではないのだろうか、と。
「はい、東山先生。私の至らぬ失敗の、……帳尻合わせを、ありがとうございました」
もう一度、ぺこりと頭を下げる。それはやっぱり、感謝のそれだ。
「……私は……東山先生のこと、嫌いではありませんよ?」
それも、本音だった。
薄く微笑んで、顔を上げる。
……嫌味ではないつもりだったけれど。
私は本当に、自分が嫌いだから……他の人を嫌いになるのはハードルが高いのだった。
私を助けるようなひとを、嫌いになれるはずもないんですもの。
■藤白 真夜 >
「……え?」
すれ違う間。
その言葉に振り向いたけれど、東山先生の“檄”に慌てた生徒たちに囲われその姿は見えなかった。
今も、私にやらなくてはいけないことがあると向こうから呼ばれていた。
……擬似的な生贄と祈りを要求する呪物がちょっと多すぎるような……。
言葉の意味は、噛み砕かないと私には届かなかった。
薬は数年前には嫌というほど打たれたけど……そういう話じゃないはず。
……確かに、製薬会社に通っている。でもそれは――、
あるいは。
“公安”からの忠告という意味だろうか。
――ああ。
それは、すごく。
「……ありがとうございます、東山先生」
今度こそ、私は静かに微笑んだ。
貴方のようなひとが。
自ら嫌われることを選び、その上で存在感を放つ。
見せつけるような苛烈な正義。……いや、もはや偏執的な……正しく在れという、一種の狂気。
貴方達のような方が居るから、“私達”は道を誤らない。
“贖罪”が。
“先生”が私に与えてくれた意味を、真っ当するまで。
一度違えた道を、二度と踏み外すわけにはいかないのだから。
ご案内:「常世博物館【イベント:「地下収蔵庫整理」】」から藤白 真夜さんが去りました。
ご案内:「常世博物館【イベント:「地下収蔵庫整理」】」に藤白 真夜さんが現れました。
ご案内:「常世博物館【イベント:「地下収蔵庫整理」】」から藤白 真夜さんが去りました。