2022/01/06 のログ
ご案内:「常世博物館【イベント:「地下収蔵庫整理」】」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
 地下収蔵庫整理。
 年を跨いで行われる大掃除めいた再封印処置は、滞りなく進んでいた。
 元より、その場所自体が危険な禁書庫の探索及び再封印と違い、博物館に置ける再封印はそこまでの危険は伴わない。
 とはいえ、収蔵されている物品の危険度は大差がなく、常世博物館に於いても油断はあってはならないことで、ときたま怪異が暴れだしたり封印が綻んでは、手練れの祭祀局員や監察と保護を兼ねた教師の手によって鎮圧されたりしていた。

 そんな中、封印処置においてはギリギリ素人を抜けたくらいの私が何をしていたかというと……。

「……んしょっ。……ふぅっ……」

 手を離すと、どさりと音を立ててダンボールが積み上げられる。
 陳列棚や保護ガラスケースの品には手をつけず、……やっていることといえば、荷運びの雑用。
 疲れはしないけれど、雑貨や消耗品の入った重いダンボールを抱えて長い廊下を行ったり来たりするのは、腕が攣るかと思いました……。

(……でも、大分進みました。
 これなら、予定通り終えられそうかな……?)

 見渡せば、再封印が無事終えた遺物たちが、綺麗に磨かれたガラスケースの中に眠っていた。
 進捗は上々。いくつかトラブルはあったけれど、十分に想定内。
 禁書庫に博物館にと駆り立てられまくった祭祀局の労働は、ようやく終息を見せ始めていた。

藤白 真夜 >  
 眼前に広がるその光景に、ひそやかな達成感を得ていた。
 仕事ももう残り少なく、やることはあらかた終えている。
 
 けれど、気になることはいくつか残っていた。
 陳列棚やケースに収められた遺物を眺めれば、その中にいくつかに妙な胸騒ぎを感じるものがある。

 例えば、黒ずんで干からびた麦の穂。
 解説によると、豊穣の神が齎したモノであるらしい。……パッと見ただの枯れた雑草にしか見えないんですけど……。
 けれど、目にすると胸の奥がなぜか、痛む。……これに何の意味があるかはわからなかったけれど。

 例えば、鈍く赤く黒ずんだ桂冠。
 解説によると、とある神がある神に遺したよくわからない遺物であるらしい。……つまり何もわかってないのでは……?
 それでもやはり、目にすると胸の奥の物悲しさと、瞳の奥に熱い何かを感じていた。

(……あんまり、見ないほうがいいかな……)

 以前起こした事故を忘れたわけではないから、あまり深入りはしないようにしていたけれど。
 ……博物館に眠る遺物の神秘と、自らの裡に眠る熾火めいた感情と、現実的危機感を比べて、最後のひとつが勝るだけのこと。
 私はそれらを、なるべく意識しないようにしながら歩を進めた。

 ……今日、考えるべきものは決まっていた。
 目前に、古び開かぬ鋏と、ただの棒きれのような杖と、錆びついた槍がある。
 以前、祈りを捧げた遺物について、だった。
 

藤白 真夜 >  
 解説には、古代エジプトの儀式で使われた、死者の現世との縁を断ち切る祭具……と書かれていた。
 槍や杖に至ってはあまり説明も載っていない。

(……ここの博物館、解説が結構適当では……!?)

 なんて考えてしまったけれど、ある意味それは正しいのかもしれなかった。
 説明が無くとも、ある種の答えにたどり着くものを待っているのか、あるいは……したくとも、説明出来ないのか。
 理解しすぎることが危険な遺物はいくらでもある。
 理由は違う気がしたけれど、現に目前の槍と杖に近づこうとすると、カラダがぴりぴりと嫌な予感を感じ取っていた。
 ……私のカラダには色々事情があるのでまたややこしい話になるんですけど。

 ……けれど、それでも考えられることはあった。
 そもそも、何故私が呼ばれたのか、です。
 私はたしかに、特殊な属性を秘めた祈りの真似事が出来る。
 でも、儀式や祈りを得手とする人間は祭祀局には沢山居る。

 何故、私だったのか。

(……私に考えうる属性。
 ……血。
 ……生と死。
 ……そして、命と、呪い)

 最初のものは、考えづらい。そこまで行くとただの生贄だから。
 最後のものも、難しい。確かに私は祈りに属性を載せられるけれど、その概念は私の技術では難しい。
 で、あるならば。
 生と死。
 そして、

(祭祀局員に命を司る術者なんて、それこそいくらでもいる。
 司祭や僧侶を兼ねる人、治癒術の使い手、聖なる属性を帯びたひと……)

 消去法で、答えは一つしかない。
 目前のよくわからない遺物を括る要素は、ひとつ。

 これらは、“死”を司る遺物だということ。

藤白 真夜 >  
 ようやく、考察のカタチを得た気がする。
 とはいえ、それでもまだ遠い。 
 私の知識がそんなに無いこと。
 そもそも、この世界に於いて私たちの得られる神話的、魔術的知識が正しく適応出来る保証すらないこと。
 それでも。
 ……それでも、取り残されたかのように飾られたこれらの遺物に対しての、考察。
 それが、一時とはいえ祈りを捧げたそれらに。
 “本来の使い手”足り得ない私に出来る唯一にして最期の手向けであると、思えたのだ。

 私の祈りは、人の想念へ向けたモノであったけれど、私の根本と、この祈りが出来上がる過程は、神へ向けた原初の祈りが混じったものだった。
 そして、これらの遺物に残るほんの微かな神性と、その厳かな眠り。
 本質として外れていたとしても、これらがなんらかの神と関連している可能性はあるし、そうでなければ私には到底たどり着けない。
 なら、考えるべきことは決まっていた。
  
(……槍は、……ぜ、ぜんぜんわからない……。戦神や主神は槍を持つことは多いけど、……。
 杖も、多すぎてわからない……。医療の神が持つのは知っているから死に結びつけるのは簡単、……?
 そう、問題は、……考えるべきは)

 私の目線は自然と朽ちた鋏へと向いた。
 槍や杖は考えるべきことが多すぎる。
 この中で唯一浮いているのは、鋏だ。
 仮にこれらが忘れさられ朽ちた神器――とまでいかなくとも、それに類する遺物だとして。
 鋏を持つ神話や逸話というのは、そう数多くないのではないか、と。

藤白 真夜 >  
 解説欄には、死者の現世との縁を立つ縁切りの鋏、とある。
 
 縁切りの鋏というのは、実は祀るものがごく少ない。本島にも有名な神社が一つ在るくらいで、それを司る神は居ない。
 何より、エジプトの逸話とされたそれ。
 ……しかし、エジプト神話にそのような神は、……私の知るかぎりは、存在しなかった。
 ……いえ、本当に、祭祀局の仕事のついでで知っていると便利な時があるからってちょっと勉強したくらいの知識量なのですが……。

 エジプト神話は、死と再生の神話だ。
 主神級の存在がさくっと死んでは戻ってくる。 
 古代エジプトと言えば、ミイラだ。
 あの国は、死と蘇りを信仰した。
 ――それは、私の有り様に似ていて、しかし違った。

(……エジプト神話の、死に関連する神。
 ……、…………い、いっぱい居る気がする……!
 でも、近しいのは――)

 ……オシリス。
 神話の中でバラバラになって死に、そして再生した神。
 かの神は、逸話を多く持つ。というか、神なんてどれもそう。
 しかしあの神は、属性がとにかく多い。
 あれはミイラの神であり、死の神であり、命の神であり、星座の神であり、……植物の神でもあった。

(……植物を手入れするものとしての鋏のカタチ……? ちょっと弱い……。
 鋏だなんて言われても、……ギリシャ神話の、死の運命の女神しか出てこないんですけど……!)

ご案内:「常世博物館【イベント:「地下収蔵庫整理」】」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
「くぁ……」

退屈の欠伸が漏れた。
常世博物館、地下収蔵庫。
広い広い地下を歩く少年は、実際退屈していた。
所謂大掃除を兼ねた遺物や骨とう品の整頓らしい。
一応肉体派組として風紀に派遣され、主に大物をあっとこっち持ちまわしていた。
ついでに、物理的対処が出来るならそれに参加する。
風紀委員としての補充要因だったが、退屈な原因は唯一つ。
とことん、こういったものに興味が無い。

「大変なのはわかるけど……ああ言うの、何が面白くて展示してるんだろ?」

誰が作り出したかわからない、どういうルーツかも興味は無い。
少年にとっては見た目通りの"物"にしか見えなかった。
力がある危険物。わざわざそれを、封印処理だのなんだの
そんな事をして保管しておく意味が。危ないなら、早く壊せばいいのに。

おまけに、妙な教師に因縁をつけられるし、散々だ。
今は向こう側で生徒に指示を出しているらしいけど
異能者だからってイチャモンをつけられたらたまったもんじゃない。
あの目の隈、覚えておこう。ふぅ、と溜息に近い吐息が漏れた。

「……ん」

そうこうしている内に、人込みの向こうに見えた見覚えのある後ろ姿。
ふらりと、自然と足取りは彼女の元に。

「……真夜先輩?何見てるの?」

後ろからひょっこり、声を掛けた。

藤白 真夜 >   
(いや、でも、死者の管轄という領分で言うならアヌビスも……? にしたっては鋏は……。
 エジプト神話の死後の裁判の羽と心臓を天秤で計る逸話ならもっと――)

 ……結局のところ。
 こうして現在に居る私の頭と知識で考えても、答えは出ないのかもしれなかった。
 あるいは、答えが出たとしてもそれをそうと認識出来ない。
 答え合わせの無い、クイズのようなもの。

 でも。

「……ふふ」

 そうして、答えのでない問いを考え続ける私の顔は、どこか楽しげに……朽ちた遺物たちを眺めていた――ところで後ろからかけられた声に、

「ひゃっ! す、すみませんサボりではないですーっ!」

 考えこむのに夢中になっていたせいか、反射する勢いで飛び上がっていた。

「……って、あ、菖蒲さん……?
 こ、こんにちは――でなくて、あ、あけましておめでとうございます……」
 
 恥ずかしげに髪の毛に触れてから、ぺこりとお辞儀。
 ……サボっていたと思われるのも恥ずかしいし、変に声を上げてしまったのも恥ずかしいしで、顔も赤いし縮こまった、一礼。

「これは、……えっと、『古代エジプトで使われてた祭具』……だそうです。
 すごく興味があるわけでもないんですけど、どういうものだったのかなって考えていたら面白くなってしまいまして……」

 そしてやっぱり、ひとりで考えこんでいたのもちょっと恥ずかしくて、尻すぼみに声は小さくなっていっていたりするんですが。 

芥子風 菖蒲 >  
飛び上がる勢いにぱちくりと青空が瞬き。ちょっと驚いた。

「先輩サボってたの?」

なんて、きょとりとしながら問いかける。
じー。何処となく糾弾するような眼差しだ……!

「うん、あけましておめでとうございます。
 メール、見てくれてありがとう。先輩。誤字してたけどね」

ぺこりと同じくお辞儀を返す。
対面しながら今年挨拶をするのはこれが初めてだ。
思い返せばよくわからない誤字だった。
忙しかったかのかな?と思ったけど、それ以上深く追及はしなかった。
ふぅん、と適当に相槌を打ちながらその祭具とやらに視線を移す。

「…………」

鋏とか、干からびた麦の穂とか、桂冠とか。
解説一文置かれて飾られたそれらを一通り目を通すも
少年が感じるものはどれも同じだった。
所感ではあるが、何処となく嫌な予感もする。

……それに、何処となく昔の記憶を刺激する。

生憎エジプトなんて言った事は無い。
ただ、"祀られる"という意味では同じだった。
言われるままに崇められてた偶像だったころの自分。
額を軽く掌で抑えて、首を振った。嫌な気分だ。

「……先輩は、こういうのが好きなの?」

藤白 真夜 >  
「さ、サボってはないんです、本当に……!」

 わたわたと慌てれば、何かをお願いするみたいに両手を合わせて。
 ……実際、本当にやることは終えていたんですけど、完全に自分の考えに耽っていたので何故か叱られたような気持ちになっただけであったり。

「……は、はい。ああいうのも、年賀状に入ったりするのでしょうか。
 あの日の出も凄く綺麗で――誤字が!? し、失礼しました……」

 ろくに新年のお祝いをしたこともなかったので、あれだけでちょっとした満足感のようなものを得ていたのが、……誤字をしればがっくりと顔を落としたり。
 割とそういうのを気にする系人間のくせにメールだとぽんこつになるので余計に辛いというか……。

 ……なんだか申し訳なかったりしんなりと萎んでみたりしながら、ちらりと菖蒲さんのお顔を伺えば。
 どことなく、浮かない顔に見えてしまった。その理由は、解らなかったけれど……。

「……うーん……どちらかというと、少しさびしい気持ちになるかもしれませんね。
 飾られているような、……置き去りにされているような、そんな何かに見えてしまいますから。
 だからこそ、少しでも考えてみたくなったのかもしれません」

 目前の遺物や、赤い桂冠に目をやった。
 それらと自分には、有る種の繋がりはあるのかもしれない。
 ……でも。

「……何かを祀って、祈り、願いを捧げる。
 その意味がどうであっても、人の祈りの残骸を見ているような気持ち……なのでしょうか。
 寂しくても、嫌ではない何かというか……」

 何かを信じて、そこに祈りを捧げる行為。
 何かを望む、人の想い。
 私は、それを無下には出来ないと思っていたから。

芥子風 菖蒲 >  
「大丈夫。オレもサボりって言われても問題ないから」

実際やる事はやったし、今は呼ばれていない。
おまけに嫌な教師を避けるためにちょっと遠くに行った。
実質サボりと言われても否定しないし、"休憩"も大事。
少年は比較的強かだった。

「気にしてないよ。可愛いと思ったから」

それにどことなく先輩っぽいと思った。
何というか、"抜けている"感じがそう思った。
彼女自身は自分はどう思ってるかわからないけれど
少年は結構そんな事を思っているようだ。
がっくし、しょんぼり。縮む辺りがまた妙な安心感を覚える。

「……、……そう言うもんかな」

気持ち逸り、否定の言葉が口から出かけた。
自分の中でどうしても、そう言ったものとの向き合いが出来ていない。
寂しいも何も、こんなものだってきっとただ使われるだけの"道具"だって
心の中のどこかで思わずにはいられない。
都合のいい解釈を今でもこうやってされている。
作られた時から、そういうものなんじゃないか、って懐疑的だ。

「……わからなくはないよ。よく見て来たから」

祈りの残骸。
ああ、なるほど。しっくりくる。
そうだな。嫌いだったんだ。縋る人々が、偶像に哀れにも群がる手が。
それを間近で見て、縋られてきた人間だからこそ嫌なんだろうな。
青空を細めて、小さく頷くと横目で彼女を見やった。

「オレ、昔祈られる側だったから。宗教の教祖サマ……って、言っても
 形だけだったけどね。母さんがオレをそう言う風に仕立て上げた」

「正直オレはよくわかんなかったけど、思い返すと嫌だったんだ。
 祈りの残骸……って言うのかな。ありもしないものに縋ろうとする姿が、可愛そうだったから」

「だから、こういうのに無意識にイヤな感じがするんだ」

ぽつり、ぽつり、と語る少年の素顔は、珍しく苦い。