2022/01/14 のログ
ご案内:「常世博物館」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■芥子風 菖蒲 >
『拝啓、看護師さんや先生へ。ちょっと用事があるので出かけます。ごめんなさい』
……そんな子供だましの置手紙を病室において抜け出してきた。
恐らく今頃常世総合病院は大慌てかもしれない。
「これ、帰ったらヤバいだろうなぁ……」
大目玉は覚悟している。
それでも、今のうちにやっておきたいことがあった。
常世博物館。前の蔵整理の時に偶然目にしたあれを。
廊下を歩くたびに、全身に激痛が走る。
よくわからないけど、骨も筋肉もずたぼろだったらしい。
正直、あの後の事はよく憶えていない。
ダスクスレイと死闘を繰り広げ、戦闘の内に意識が途絶えた。
確かに"死"を覚悟したあの時"何か"が力を貸してくれたのは覚えている。
それが誰なのかはわからない。ただ、懐かしい感じがした。
「……っ……」
歯を食いしばり、文字通り足を引きずる。
今はそんな事気にしている場合じゃない。
息を切らし、脂汗をにじませてやってきたのは中央館。
そこに展示されている二つの錆びた『杖』と『鋏』だ。
「……?あれ……?」
なんか一つ足りない。
「まぁいいか」
お目当てのものは、残っていた。
『鋏』を青空が見据えている。
■芥子風 菖蒲 >
あの時見た時のまま、随分と錆びた『鋏』だ。
最初見た時はどれも嫌な感じがした。
それは祭具だから、昔の記憶に関連付けそうなものだったからだ。
けど、今は違う。
「…………」
……これはもっと悍ましいものだ。
少年は静かに錆びた『鋏』を見つめる。
武芸者の端くれでもある以上
そんな錆びたものが武器としての役割を果たせない事が
理解出来るはずなのに、こんなものが在っても十分危険だと直感が告げる。
こんなものを良くおいておけるな、なんて改めて思った。
それは恐らく、他の展示品もそうなのかもしれない。
「……ここって案外ヤバいのか?」
そう考えると、此処は危険物の宝物庫なのかも。
まぁ今はどうだっていい。それよりもこれだ。
今のままでは恐らくダスクスレイに"勝てない"。
あの時も、全部生き残ったのは自分に"何かあった"からだ。
言い換えれば『運が良かった』だけに過ぎない。
これでは何れ殺される。冗談じゃない。
まだ死ぬ理由なんてない。何処までも足掻いてやる。
その為には、『力』が足りない。
「……もっと力を……」
だから、コイツが"必要"だ。
どんな手段でもいい。皆を護る為の力が欲しい。
その為なら何だってしてやる。
少年は目を見開き、錆びた『鋏』を握り締めた。
■NPC >
『──────死を憂懼する九天の子』
『汝、死を慈しむ事なかれ』
■芥子風 菖蒲 >
「……!?」
不意に激痛が頭部を襲った。
脳みそに直接鉄棒をねじ込まれたような衝撃。
誰かが自分に、語り掛けてくる。
誰だ、コイツは。もしかして、この『鋏』か。
「っ……何……?……"死"……?」
突き刺さった鉄棒から、直接何かが注ぎ込まれるような感覚だ。
元々全身の痛みが破裂的に襲い掛かる。
歯を食いしばっても、ずるりと膝から崩れ落ちてしまった。
「はぁー……っ!はぁー……っ!」
息が乱れる。心臓が早鐘を打つ。
心臓が飛び出してしまいそうな、言い知れぬ不安感。
頭の中に刷り込まれていく価値観は"此の世"のものじゃない。
極楽浄土を説く宗教の更に向こう。
涅槃よりも深く暗い死の概念。
生者足ればこその恐怖だと言うのに、今自分は"それを受け入れようとしている"。
「っ……!」
錆びた刃の切っ先が、自分に向いた。
膝を突き、天を仰ぎ、刃を己に向ける姿。
さながら神へと己を捧げる供物のようだ。
貫かれるだけじゃすまない。これに切られたらただじゃすまない。
それでも何故、それがこんなにも"甘美"にも感じるのか。
誰かにもこれを共有したいと思ってしまうのか。
少年は─────。
■芥子風 菖蒲 >
「っ…────"違う"……!」
右目に青い炎が灯る。
全身を包む、淡い青空の光。
寸前の所で少年はそれを拒絶するように振り上げた。
震える腕が錆びた『鋏』を支え続けた。
尚も関係なく、『鋏』が呼びかける。
■『死の定め』 >
『九天の子、汝天翔ける死病成りて甘美を示せ』
呼びかけざるは仄暗い威光也。
死を相容れんとする哀れな人の子に囁く真道。
受け入れてこそ所有者に相応しき。
■芥子風 菖蒲 >
「かん……?何……?」
言っている事が分からない。
だけど、コイツの思い通りにはならない。
『死の価値観』なんて"どうでもいい"。
だけど向こうはお構いなしに言ってくる。
耳元でちょきちょきと、囁いてくる。
気づけばそれ以外の音も聞こえない、景色も見えない。
何も見えない、涅槃の底。だからこそ、言ってやる。
■芥子風 菖蒲 > 「────それを決めるのはお前じゃないんだよ」
■芥子風 菖蒲 >
人の指示を仰いできた。
自分で決めれない事は全て誰かに任せてきた。
あの時の、教祖だったころの自分と何一つ変わらない。
けど今は"違う"。
自分の意思で、危険を承知で、護りたいものを護る為に此処にいる。
お前の『価値観』なんて"どうでもいい"。
向こうからすれば身勝手極まりない。そう、ワガママだ。
そんな無理難題を通しに来ている。
気づけば体の震えは止まり、自然とゆっくり立ち上がる。
未だに振り上げた"恐怖"を手に、少年は……。
「……けど、お前もこのまま錆びついてるのもイヤだろ?
お前の言う"死"とかどうとか、興味は無い。オレは生きる」
「────だけど、約束してやる」
「オレがお前を自由にしてやる。お前の思い通りになるかは別だけど
お前がオレが"不要"だと思うなら、何時でもお前が"殺して見せろ"」
「……だから……」
■芥子風 菖蒲 > 「────────もっとよこせ、お前の『力』を」
■芥子風 菖蒲 > ────────……少年は、力いっぱい床に『鋏』を叩きつけた。
■芥子風 菖蒲 >
大きな破裂音が耳を劈く。
同時に錆がはじけ飛び、大きな刃がそこにはあった。
「……ありがとう」
はにかむ少年の口元。
許し続けた少年は、相容れぬ在り方さえ"許した"。
二律背反、綱渡りの契約。けど、それでも構わない。
とってを強く握り締め、一呼吸。振り抜くように薙いで見せれば
じゃきん、と大きな切断音と共に周囲の暗闇を斬り払った。
確かにこの手に感じる。
危険で仄暗い力が、今この"手中"にある事を。
「……!」
刹那、大きく両鋏が開いた。
見開いた少年の両目、青空は紅に染まる。
夕暮れに血を垂らしたような、仄暗い赤い光。
全身を包む青空は逢魔時、"死"を連想させる色に変わる。
「ふ…っ!」
開いた刃を突き出し、閉じる。
虚空を切り裂いた『鋏』を軸に、続けざまに飛び上がり床に叩きつけた。
初めからその使い方を知っているように『鋏』と踊るように
周囲の仮想敵を斬り払うように刃を振り回し……。
「こう…だな……!」
接合部が音を立てて外れると"二対の刃"へと変形した。
躊躇なくそれを投げれば空を切りブーメランのように周囲を旋回。
少年の手元に戻ってくれば再度接合する。
「うん、結構使える」
これならいける。
確かな確信手元にあった。
そして背後にあった暖簾と柱が音を立てて崩れた。
「……あ」
やっちゃったんだぁ……。
■芥子風 菖蒲 >
「……どうしよ」
どうしたもこうしたもない。
立派な器物破壊である。流石に調子に乗った。
でもなんか『鋏(コイツ)』のせいでもあるし
一緒に謝ってもらおうかな……。
「……あ!」
気づいたら手元にない。
コイツ、寝やがったな。
何となくわかるぞ。でもしょうがない、疲れてたんだろうな。
仕方ない。こういう時はこっそり……。
「いっ……!?」
……とはいかない。
思い出したかのように全身の激痛がぶり返す。
幾ら回復力が高くても完治してないんだから当然だ。
程なくしてやってきた職員にどやされるは怒られるわ緊急搬送されるわ。
おまけに病院先で怒られて警備厳重にされるし
始末書書かされるし、散々だ。
力の代償は、思ったより大きかった……。
ベッドの上で、少年はしみじみ思うのだった。
ご案内:「常世博物館」から芥子風 菖蒲さんが去りました。