2020/08/08 のログ
ご案内:「委員会街 風紀委員前」に修世 光奈さんが現れました。
修世 光奈 > 「ありがとう、ございました」

風紀委員会の入り口まで送ってくれた委員に頭を下げる。
先日、色々とあり…一日近くここに保護されていた。

誰も彼も気を使ってくれていることが伝わってくる態度。
ゆっくり休めたおかげで大分気持ちも落ち着いたが…思い出す度にまだ少し喉の奥が酸っぱくなってくる

「はぁ……」

ふと近くの壁か柵に凭れ、依頼を確認すれば…どっさり、と言っていいほど溜まっており。
中には、心配するような声も。
そうか、自分は…これを始めてから一日たりとも休んだことは無かったのか、とそれを見てぼんやり想う。

「………どうしろって…………」

そのまま、委員会の入り口を見つめる。
まるで、誰かが出てくるのを待っているかのように。
そんなこと、あるはずがないのに。

修世 光奈 > 「………………、……。…あの後、どうなったのかな」

ぽつりとつぶやく。
そんなこと、教えてもらえるはずがない。
…風紀委員に入るのを目標にするという手段もあるが。
それは、できない。

追いつくことは望まれていない。
同じ視点から見ても、もう見てはもらえないだろう。
なら、どうすればいいのか。
ただ、離れられるだけなら、まだよかった
けれど―――

(あああああああ、もう!、あんなこと言って、そのまま行くなんて…!
その後話もできないし…、ううう――――――――!)

あの時、意識が落ちる寸前に入ってきた言葉。
落ち着いてくれば…忘れたい光景よりも、それが光奈の思考を乱す。

風紀委員の前で頭を抱えて悶える女子。
完全に怪しい人だった。

修世 光奈 > 「……はぁ」

ひとしきり悶えた後は、ため息ばかりが出る。
休息の他には…簡単な事情聴取と注意を受けただけだから、女子寮に戻ってもいいし、学生通りで買い物をしてもいい。
気晴らしに依頼をこなすのも当然ありだろう。
けれど、足が一向に歩く動作をしてくれない。
いつもは元気よく、自分を前に進ませてくれるのに。

「………どうしたらいいのかな…」

か、と小石を蹴って、転がって止まるそれを見て、またため息。
入口はそこにあるのに、出てしまった後はそれが酷く遠く思えた。

修世 光奈 > 「…………。」

ばーか、と。
口だけ動かす。
それで少し、気が晴れたような、そんな錯覚。

「ばーか」

今度は少し声に出して。
自分と、誰かに向けた言葉。
眼をやっても、頭の中でどれだけ『誰か』の行動を予測し、探そうとしても
今は、霧がかかったようにはっきりとしない。
これもまたいつもなら。
頭の中に自然に、どうするべきかが浮かんでくるのに。

それは、今の彼女には…会ったところでどうしようもないことを指しているのか。

ご案内:「委員会街 風紀委員前」に園刃華霧さんが現れました。
園刃華霧 >  
「慰安旅行っテ……いや、思ったヨりノンビリしテんのナ……
 っていうカ、首輪付き、普通にいかせちゃっテいいンかねえ……」

本庁でそんなお知らせを見て、思わず笑う。
まあ、参加していいならいいよねと想いながら外に出てみれば……

あれ、見知った顔。

というか、なんだこれ。なにか記憶にあるようなないような……

「光にゃん……?」

修世 光奈 > 奇しくも、初めて会った時と同じような状態だ。
あの時も、同じ男関係だったが。
ぼんやりとした光奈の視界に、相手の姿が映る

「!、キリちゃん!、えーと、出れたんだ…!よかったーー!」

悩みは一度置いておく。
消えるわけではないが、今は素直に喜びを伝えたい。
聞いた事情が事情とはいえ…外に出られるのはいい事だと思えた。

理由を与えられた足は、ゆっくりと相手に近づいていこう。

園刃華霧 >  
「うん、よーヤくね。
 ……はハ、まあ生憎と、首輪付き、だケどサ」

へらっと笑って首のチョーカーをとんとん、と叩いてみせる。


「 ……で、光にゃんは、こンなとこでナにしテんのさ?
 また、探しモノ?」

いつもの調子で問いかけた

修世 光奈 > 「そっか…。……んー、でも、そのーあれだよ!
留置所に会いに行くのも色々ほら、書類とかあったし…そういうの無しに会えるようになったのは、やっぱりうれしい!」

そのチョーカーが何なのかはわからない。
けれど首輪というなら、何かしら…位置追跡などができるものなのだろうと予想して。
それでも、こうして外で会えるのは嬉しいと。
ただ…

「あ、あー…あはは。実は私も、さっきまで風紀委員の中に居て…。
今からどうしよかなって悩んでたところ。キリちゃんは?」

見張られているということは真面目にお仕事とかしないといけないのだろうかと心配して。
曇っていた顔は、何とか隠す。

園刃華霧 >  
「ほンとネー、というカ、この間はほんとありがとネ。
 あンなとこ入るの、勇気要ったでショ?」

へらりへらりと笑って返す。
本当に、ただの普通の学生が留置所にいく、なんてそりゃ大変だろう。
それでも、彼女は来てくれた。
こんなに嬉しいことはない。

「ン、風紀の、中……?」

なにか用事があったのだろうか。
それに、隠してはいるが、どこか顔が暗い気がする。
あまりいい用事だったとは思えない。
であれば

「アー、別に『ワルイコトするなよ?』ってダケだかラ、
 特にいまンとこ用事はないヨ。へーきへーき。
 なンなら、約束通り、パフェ奢りにいってモいいシ」

どう?と軽いノリで聞き返した。
ごく普通の会話として。

修世 光奈 > 「いいよー、そんなの。むしろ知らないままの方がヤだったし」

と、軽く笑う。笑えた。
流石に…一日ゆっくり、言ってしまえば甘やかされて休ませてもらったから体力も気力も回復はしている。

「あーうん。ちょっと用事でさ。
おー!パフェ行く?いいよー!
えっとねー…やっぱりDXじゃなくて期間限定の夏フルーツもりもりパフェがいいかなー」

留置所の中で交わした約束。
それを忘れたわけではもちろん、ない。
ことさらに大げさに喜ぶのは。ただ…『気を逸らせる出来事』が欲しかったのかもしれない。

(…ごめん、キリちゃん)

そんな罪悪感を抱えつつ、ぷるぷると頭を振って。

「じゃあ今から行こう!あっついしねー」

いつの間にか少し汗もかいていた。
だから、甘くて冷たいパフェを目指して歩き出そう。

園刃華霧 >  
「うォッ、DXじゃナくてそっチ!? 狙ってクるねー……やルな、光にゃん。
 ま、約束、ダかンねー。いいヨいいよ。
 せっかくダし、アタシがDX食べレばいいカなー」

けたけたと笑う。
楽しく楽しく笑う。

「そーダね。あっついあっツい。」

笑いながらついて歩きだし。

「ナー、光にゃん。仕事は、順調?
 アタシ、こンなで逆に割と暇ダから、手伝えルよ?」

何気なく言葉にした。

修世 光奈 > 「えへへー。奢りだからねー」

せっかくだから、と。
笑いながら、学生通りへと進んでいこう。
二人して、熱気に文句を言いながら。


「…。…仕事…って程じゃないよ。私のは、ただの趣味。
なんだか、風紀委員の人に良く手伝ってもらう気がするなあ」

中華風の少年にも手伝ってもらったし、それに――

「あー、でも…、順調にいってない依頼もあるから…また手伝ってもらおうかな
……今日は、ちょっと、おやすみだけど。…パフェ奢ってもらう日だしね!」

せっかくの特異な能力も…心が動かなければ働かないのか。
何だか今日は、探し物ができる気がしなかった。
明るく…下手なごまかしを続けつつ、学生通りにあるお店に入り。
丁度開いていた対面の2人テーブルに案内されよう。

園刃華霧 >  
「まったク、光にゃんには敵わンなー。」

ゆったりと……というより、だいぶ傍若無人に席に付き。
あっ、みたいな顔を店員にされる。
持ってこられたのは本日の特別メニューやら特殊メニュー。

……うん、普段大食いしてると変なところで接待されるな?

「マ……たマには、オヤスミもいーンんじゃナい?
 人間、疲れタときは休まナいとサ。
 ついデに、疲労回復にハ、甘いものが一番、ダよね?」

けらけら、と笑う。
そして、遠慮なく注文を始める。
もちろん、噂のDXと期間限定の夏フルーツもりもりパフェ
そして

「ついデに、飲み物とか他にも追加デなんか頼むー?」

聞いてみた。

修世 光奈 > 「?」

何だか店員さんがキリちゃんを見て妙な表情をしていたような
とは思うものの、まさか大食いで有名とは知らず。

「うん。そうそう。
甘いもの食べると幸せになるしねー!
あ、いいの?じゃあ……トロピカルジュースかな?」

力強く肯定。
つい、力が入りすぎてしまうが。
二つのパフェと一緒にこれもまた期間限定のミックスジュース的なモノを指さして。
徹底的に奢ってもらうつもりのようだ。

注文を終えれば、にこにこと…楽しみであることを示すように笑顔を浮かべている。

園刃華霧 >  
「いーヨ、いーよ。今日は全部アタシの奢り。
 色々と、あッタしねえ」

なにがあった、とはいわない。色々。そう色々だ。
どうせ毎度散財してるんだから、今更光にゃん一人分で困るようなことはない。
それに……ひとまずはにこにこしている相手を見れば十分な対価だ。

……さて

「ン―……
 光にゃん、さっき趣味っていってタけどサー。
 前も、結構ガんばッテたじゃン?
 落第街まで入っタってサ。結構凄いコとだヨ、それ。
 やっぱ、たダノ趣味じゃなくて……特別、なンじゃナい?」

パフェがくるまでは時間がかかる。
微妙に持て余す間を考えて、出会いを思い出しながらきいてみた 

修世 光奈 > じゃあお言葉に甘えて、なんて少し大仰に言ってから。
先にトロピカルジュースがやってくる。

「……………」

グラスに入った南国風の黄色いジュース。
それにストローを差して、ちゅぅ、と吸い。

「……特別な理由なんて、無いんだ。びっくりした?
…昔から、異能が出る前から探し物が得意で。
お父さんとか、お母さんの失くしたものを見つけてあげたら…喜ばれるのが嬉しかった。
そういう、感謝が嬉しくて…ずっと、続けてきた…かな」

何か、特別なエピソードがあるわけではない。
小さなころからの…成功体験、自尊心の充足の積み重ね。
しかし、だからこそ…休む、というのは初めてで。
そう言った意味では特別ともいえる。

「キリちゃんこそ…、そういえば、どうして風紀委員に?
……その、危ないこととか、多くない?」

過った嫌な記憶を振り払いながら。
逆に質問を返してみる。

園刃華霧 >  
「……」

光にゃんのトロピカルジュースが運ばれてくる。
そしてついでに、アタシの目の前にはコーヒーフロート(ジョッキ)がおかれていった。
……あれ、頼んだっけ? まあいいや。

コーヒーに浮いたバニラアイスを突く。

「いヤー……理由、あルじゃん?
 『喜ばれるのが嬉しい』。十分じゃナい。
 しカモ、何。だいぶ昔かラやってンの? やばクない、その継続力。
 なンだっけ……えーっト、アレ。ケーゾクは、力なり、だっけ?
 そーゆーノ」

ちょっと行儀悪く、スプーンで指す。
いや、マジでマジで。
アタシだったら絶対続かない。


「で、アタシ? アタシかー……んー……
 ンー……」

どうしたものかなあ……とちょっと思案。

「それガ一番楽、ダったカら……
 いヤ、単位とか貰えルしね。」

これは本当。
ただし、事実の全てではない。

修世 光奈 > 店員が『これくらいは必要でしょう?』みたいな表情をしているが、それは置いておいて
飲み物を飲みながら、話を続ける。
喉は、すっかり潤った。

「あ、あー…そう、かな?…だって、ありがとう、って嬉しいし…
大事なものとかさ、失くしたら…やっぱり…悲しいって思うから」

少し照れ照れ。
ストローでトロピカルをかき回す。
自分では大したことはしていない、と思っている様子。
この島が非常に特異なのもあるかもしれないが。

「……それって、さ」

単位が取れるというのはわかる。
島のために活動すれば何かしら良い事があるのがこの島だ。
ただ、楽、というのはわからない。
だって。

「……留置所で…また話す、って言ってた話と、関係ある?」


―――あの赤い光景は



楽だとは、とても思えなかったから。

園刃華霧 >  
「あンねー、光にゃん。
 そウいう、なンでもナさそーナことッテ、けっこー大事ヨ?
 ま……意外と本人ハ、わっかンないモンだけどサー」

そういう『当たり前』はロクデナシには眩しくて。
だから、それは守らなければいけない、と思う。
トモダチ、なら尚更だ。

だからつい、遠ざけようとする。
だから……

「ァー……」

頭をかく。
うーん、鋭い。
誤魔化されちゃくれないか。
せめて今日は、避けようと思ったんだけどなあ……

「ン……まあ、ソウだね」

そこまで読まれて誤魔化しても無意味だ。
なので、正直に白状する。

修世 光奈 > 「大事にしたいから、さ…。色々、聞きたいんだ。
うじうじしてるのって、やっぱり…似合わないなって」

当たっちゃったかー、と。
留置所での会話と、今の楽、という言葉の違和感。
そこから考えた当てずっぽうだ。
もちろん、色々な事情があって本当に"楽"だという可能性もあったから。
その時は、素直に謝るつもりだったけれど。

「…大丈夫だよ、キリちゃん。
………一日…今日で二日…かな?…ゆっくりして、気づいたんだ
…隠されてる方が、辛いって。私ももやもやするし。
……トモダチなら、悩みとか…昔話とか…、聞くぐらいはするでしょ、普通」

お返しとばかりにぴ、と軽く指を差す。
乗り越えたわけではない。
トロピカルジュースが赤色でなくて本当に良かったと思うほどには、心にダメージは残ったままだ。
けれど。

「私が勝手に、言っただけだから。今日はヤって言うなら全然大丈夫だよ。
…でも、言ったでしょ、私結構根性あるんだって。……、大丈夫。…友達、だよ」

大丈夫、と自分に言い聞かせるように繰り返す。
にかりと笑顔を見せて。

園刃華霧 >  
「やーレやれ、敵わンねえ、光にゃんには」

困ったような笑いを浮かべる。
フロートのバニラアイスにスプーンを突き刺して、豪快に持ち上げて口に入れた。

「ンぐ……ンッ!?
 ……ふう」

アイスを飲み込み……
その間に、一瞬だけ、頬を抑える。

そのあと、何事もなかったのように目の前の相手を見つめた。

「無理……シなくテ、いーンだヨ?
 アタシの昔、なンてイツでも聞けンだからサ?
 それデモ……聞きたいッテんなら、話すけド。」

相手の作ったような笑顔を複雑な顔で見る。
気持ちは尊重したい。
それでも……と思ってしまうのは多分、自分のわがまま。 

修世 光奈 > 「……あはは。伊達に色々探してないからね」

うわ、と…アイスを丸ごと飲み込む姿に驚くも
喉を詰まらせないなら、飲み込むまでじっと見ている。
こんな食べ方するんだ、なんて友人の事を一つ知れた。

「…やっぱり、わかる?
…じゃあ、交換しよ。
キリちゃんの後で…昔話じゃないけど…私の悩みも、聞いてほしい。
それで、無理じゃなくなる…と思うから」

抱え過ぎても、これ以上は辛い。
だから、共有したい。
キリちゃんが持っている重さと、今自分が抱えている重さを。
そんなわがままを、返していく。

園刃華霧 >  
「オッケー、じゃあ交換ダ。
 まずは、アタシかラな。」

これは……やっぱり意外と強情だ。
であれば、もう自分は大人しく巻かれるしか無い。

「ン―……ってモ、話長くナっちゃうカらサ。
 ある程度は、大雑把にナるよ?
 そンな長く無いったッテ人生振り返るワケだシさー。」

へら、と笑ってまずはリラックスさせる。

「えーット、まズ。いわユる落第街。"学生街"の"外"。
 知ってるヨね、大体"どういう所"か。」

一つ一つ、確認するようにゆっくりと言葉にする。
相手が噛み砕けるように、飲み込めるように。

「アタシは、ソコの生まレ。
 いヤ、正確には"気づいた"ら"そこにいた"ンだけドさ。」

丁寧に丁寧に。
間違いのないように、ズレのないように。

「まア、少なクとも、記憶のあル中には
 親も、兄弟も、頼れる人も、家も……
 何にも、無かっタ」

そこで、一旦、息をつく。
相手の様子をうかがう。

修世 光奈 > 「うん。それでいいよ」

こく、と頷く。
もう、友人と…大きな隠し事は無しにしたい。
不可能だとわかっていても、それが願いだ。

「…………」

大体は、知っているから、また頷く。
口を挟むところではないと思ったから。

「気づいたら…、…それに、誰も…って…どういう…」

状況なの、と。
微かにすら、親兄弟の記憶がない…というのはどういうことなのか。
これもまた、すぐには理解できない。

「…そこから…?えっと、その…あの辺って危ないみたいだし。
どうやって…」

生きてきたのか。
それが当然気になる。
ショックを受けていない、とは言えないが。
光奈の様子はまだ、真剣。
狼狽や、酷い混乱は見えない。

園刃華霧 >  
「正直、わカんナい。
 物心、っていうノ? うン。
 それガつく頃にハ、アタシの周りニは何もなかッタの。
 親が死ンだのか、単に捨てらレたのカ。そレも、わかンない。」

肩をすくめてみせる。
とはいえもはや、昔のことだ。
真相はもう、わからないだろう。

「で、ウん。だかラ。
 色々やッタ。万引、強盗、不法侵入……
 泥水もすスった。残飯も漁っタ。
 瓦礫の下に住んだ……まあ、色々、ネ?」

疑問に答えていく。
そろそろ想像が追いつかなくなる頃かな……
知らなければ知らなくていいような、生き方だ。

「まあ、ソんなある時。 違反部活の取締がアってネ。
 アタシは、先回りシてソイツらボコって取締の風紀委員にいッタのさ。
 『アタシをそこに入れろ』って」

だいぶ端折ってはいる。
いるけれど、概ねの筋書きはそんな所。
一応、話は通っている……はずだ。

「だカら、アタシは『風紀入り』シた。
 ついデに……はは、光にゃん、最初疑ってタけどサ。
 アタシの名前。『園刃華霧』。
 こいつも、"その時つけた"本名なノ」

そういえば、真面目に聞かれたのは初めてだった。
まあ、まさに『そのばかぎり』でつけたんだ。
疑われても仕方がない。

修世 光奈 > 「………」

正直なところ、親が居ないというところから。
光奈は想像しようとしても難しいところはあった。
父親と母親を居ないものとして考えるのは、難しい。

「……いろ、いろ…」

犯罪。
そういうことをしなければ、生きてこられなかった目の前の友人。
そうしてでも、生きてくれた方がよかったのは当然。
相手がそうしなければ、こうして話すこともできなかったのだから。
ただ、やはり…明確に、想像はできなかった。

しかし、その話にショックは受けたものの。
目の前にあるのは穏やかな光景だ。
幾分か、受け止めやすい。

「よく、その、入れた…ね…」

そんな感想しか出てこない自分にまた少し落ち込むが。
力があれば、いいのだろうか。
風紀委員への印象がまた変わっていく。

「それでも…。キリちゃんの、名前だよ
名前が無いとあだ名も付けられなかったし」

緊張した表情ながら、少し柔らかく微笑み。

「ね…。聞きにくい事、聞いても、いい…?
あ、答えなくても、いいんだけど…えっと…」

もしかすると、更に暗い話になる。
けれど…これだけは、確かめたかった
これから聞くことのためにも。

「人を、殺した事って…ある?」

園刃華霧 >  
「……けーべつ、スる?
 この間のとハまた違う。アタシは確かに、立派な犯罪者ダ。」

我ながら意地の悪い聞き方だな、と思いながら聞く。
もし、そう思うのなら……それなら、それで仕方ない。
つい、そう思ってしまう。

「ン……その時のアタシは良く知らナかったンだけどサ。
 風紀の……っていうか、多分学園の決まりにネ。
 『正規の学生じゃない学生を"発見"したら"保護"する』って、言うの、アるのサ。
 ま、今じゃだいぶ見向きモされナくなってルけど。
 だカら、アタシはどッチかってート"派手なパフォーマンス"で"発見"してもラったって辺りかナ?」

本当に。
後で知って驚いたものだった。
それならあんな回りくどいこともしなくて済んだのに。

まったく無駄な苦労をしたものだ。

「あんがトね。
 思いつきデつけタとはイえ、これでも気に入ってンだ、この名前。」

へらり、と笑う。
適当に、そのばかぎりで、つけたとしても。
それは、自分でつけた、自分の名前。
自分だけのもの、だ。

そして、最後の疑問。

「……」

人を殺したことがあるか

なるほど、もっともな疑問だ。

「……さっきの決まりナ? こう、書いてアるんダ。
 『殺人などに手を染めていなければ、正規学生へと昇格される』って、ネ?」

だから、端的に答えた。

修世 光奈 > 「……。…そんな決まり、あったんだ」

一度、軽蔑するかの答えは保留し。
全ては把握しているはずもない学園の決まりの事を聞く。
確かにそれなら…その状況の相手が保護されるのは当然だろうと納得できる。
現に今、嘘をついているとは思えない相手が目の前に居るのがその証拠となるから。

「響きがなんだか、可愛いもんね。」

相手に合わせて、またにこり。
想ったことが、ようやく言葉に出せてきた。
更に聞くのは、学園の決まりの続き。
それを聞いて、一瞬光奈の動きが止まる

「……そ、っか。……そうなんだ」

少しうつむいて、呟く。
よかった、と。
何が変わるわけでもないけれど。
少なくとも…風紀委員は全員『そう』ではなかった。

「ありがと、キリちゃん。話してくれて
…で、えーと、軽蔑するかどうか…だよね」

また悩む。
ただ、今度は…先日とは違う。

「軽蔑…するのが、難しいかなって思うの。
だって、私から見たキリちゃん、とっても明るいし可愛いし…。
……正直、えと、想像するしかないけど…何もわからずに…危ないところで生きていくって…すごい事…だと思うから
だから、ちょっと、無理かな」

何とも、自分ながら甘い…と言われるかもしれない。
とっくに時効だろうとはいえ、犯罪者…前科者、には変わりないだろう。
更に、留置所に入れられるようなこともしている。

けれど、話を聞いてくれたり、一緒に怒ってくれたり。
今日にいたっては、探し物の手伝いをしてくれると提案してくれる相手のことはどうにも軽蔑などできない。
にへへ、と笑い…丁度、二人のパフェが届くだろうか。

園刃華霧 >  
「まー、そりゃ知らンよね。
 そモそも落第街の人間は"居ない"コトになってル、"二級学生"ってヤツでね。
 光にゃんが、そんなこと知っテるほうが逆にオドロキ、にナっちまう。
 ……あれ、これひょっとシて喋っちゃ駄目なヤつだったカ?」

コーヒーをぐいっと一口。
それから、にへら、と笑う。
言葉の割には緊張感はなかった。

「はハ……ありがトね。
 でモ、こンなロクデナシな生き方、知らなクていいンだよ本当は、サ。
 想像も、つかなキャ、つカない方が幸せダよ。」

それでも……軽蔑はしない、と言われれば……
笑いは消え、逆にやや自嘲気味に口にする。
事件中に一時、昔の生活に戻り、留置所を経験し。
改めて……この、なんでもない時の素晴らしさを噛み締めていた。

「ン、で……」

DXパフェのクリームを豪快にスプーンに乗せる。

「質問、他になければ……光にゃん。
 光にゃんの、悩み、教えてヨ。
 交換、でしょ?」

山盛りクリームを乗せたまま、相手を指し問う。
そう、これが本日の本題。
アタシにとっては、だけれど。きっと向こうにとっても。

修世 光奈 > 「二級学生…。……さあ?…でも、もう知っちゃったから遅いよー」

あはは、と笑い返す。
からかうように、聞いてしまったから仕方ないと。
言いふらすようなことは当然しないが、確かに知らなくていいことなのかも。
けれど、友人が話してくれたことが嬉しい。

「ね。また今度、遊びに行こうよ。
渋谷に新しい服屋さんも、できたみたいだしさ。ゲームセンターとかでもいいし」

なんでもない日常。
自分にとっては当たり前のそれを。
たっぷり、味わってほしいとそう思う。
軽蔑何て、とんでもない

「………あーうん。そう、だよね。私自身の事じゃ…えっと、無いんだけど…」

言ってから。
あれ、これフリに思われるのでは、と思うのだけれど。
実際に、自分以外の話なのだからこれは真実だ
んぐ、と一口。小さくパフェに含まれるスイカシャーベットを口に入れて嚥下してから
少し…どうしても、声音が暗くなってしまう。

「キッド…の、ことなんだけど。……ちょっと、どうしたらいいのか、わからないことが…あってさ」

ぽつ、ぽつ。
時折詰まりながら話していく。

仕事をする"現場"を見てしまった事だけだが、酷く息が荒くなる。

一応、彼の本名と、過去については伏せておいたが…状況を伝えることくらいはできるか。
それから―――

「……色々、あったんだけど…。……キッドがね。…風紀委員しながら、最後は、死ぬつもり…みたいなの。
…キッドも、その…友達、だから。止められなくても、そんなこと、ヤだから…怒るよって言ったの
けど、それも…届かなかった…のかな。もう会えない、みたいなこと言われて。休んでるときも、会えなくて。
…キリちゃんは、キッドの事…どれくらい知ってる?」

支離滅裂。
纏まった言葉ではない。
気持ちだけが先走った言葉たち。
なるべく、その時のことを思い出さないように。
それでも、僅かに身体を震わせながら…言葉を続けていく。

園刃華霧 >  
「アーあー、もー敵わナいなー。
 うン、遊びにいこう、ナ。
 って、服? あー……いヤ、うン……そだ、ネ」

着の身着のまま着たきり雀。
常に雑に着崩した制服か、まれに海に行った時に水着を着たくらい。
ファッションセンス、というか感覚は絶滅状態だ。
ちょっと視線を外しつつ、しかし同意はする。

「ふぅん? 光にゃんじゃ、ナい?」

もぐり、と山盛りクリームを口にする。
脳に糖分を回せ。
これは多分、厄介な……
……頬に、また痛みが走る。

「キッド……」

其の名が出れば、ああ、デート、とかぬかしてたなあのガキ。
まさか、光にゃんを泣かすような狼藉を……?
なんて、少し軽く考えていた。

考えてみれば、そんな程度でこんな重い口調に、重い切出しになるはずがないのに。
気を抜いて話を聞き終わり……

「ッ あのクソガキ、あの、クソ馬鹿……ッ
 人のツラ叩いトいて……テメェは……ソレ、かヨ……ッ」

ガタリッ

思わず席を立つ。
しかし、眼の前の友人を見下ろして冷静になる。
ゆったりと座り直した。

「……アタシだッテ、あンまり知らなイよ。残念だけど。
 知ってるのは……アイツが手前勝手ナ、クソガキだッテこと、ダけだ」

イラッとした顔。
いつものヘラヘラした顔とは違う。

修世 光奈 > 遊びの約束を取り付けられた。
しかも、新しくできた…と言ってもいい友達と、だ。
それは…たとえどんなことになっても、かけがえのない時間となるだろう。

そして、今度は光奈の番。
少し歪む視界を何持ち直して
"怒ってくれた"友人に何とか笑いかける

「ありがと、キリちゃん。…元はと言えば、私がふらふら着いていったのが悪いと言えば悪いし。
…そっか。……えっと、簡単に言うと、ね。もう、止まれないんだって。
全部の悪い人を裁いて、……こ、…殺し、て。…自分を、殺すまで」

知らないなら、詳しく話すこともまた難しい。
あそこで聞いたことをどれだけ話していいか、判断が付かないから。
だから、彼の目的だけを…もしかすると知っているかもしれないが、教えて
殺して、と口に出す時に、闊達な声が揺れる。
それだけの、光景を見てしまったから。

「私、キッドにさ…。先輩って呼ばれたことがあって。
嬉しかった。からかわれるばっかりだったけど、そう呼ぶくらいには…話せる相手になれたんだって。仲良くなれたんだって。
……でも、無理だった。…頑張ったんだけど…キッドにかける言葉…もっといい言葉があったはず、なのに…探せなかった」

彼を救う言葉を、行動を。
一時ではなく、ずっと、救いたかったけれど。
ほんの一瞬しか、光は見せてあげられなかった。

「っ、ご、ごめん。……えと、こんなこと、聞かれて…困る、のはわかるんだけど…ん、ぐ…。ぅ…
私…どうしたら、いいかなぁ…」

あふれ出た涙を慌てて拭い。
はぐ、はぐ、とパフェを食べ進める。
それから、問われるのは…行き詰った少女の言葉。
見捨てるなら簡単だけれど、そうすれば友人が一人…自分を殺すまで、身を削り続けてしまう。
パフェを飲み込んだ後、またぽろりと、涙がこぼれた。

こんな話をしてごめんなさい、という感情と。
先日の状況が思い起こされた故の感情が混ざり合った、涙

園刃華霧 >  
「………」

とんとんとんとん、と組んだ腕で指が肘を打つ。
……あのクソガキ……
黙っててやろうと思ったけれど、もういいな?
そんだけやらかしておいて、一人逃げようなんて許さない。

アタシはしつこいんだ。


「……光にゃん。 アタシも、あのクソガキにつけられる薬って言われると
 すぐには思いつかない。
 馬鹿につける薬ってのはね。」

いらいらを隠そうとせず、口にする。

「ただ……アイツは……アイツは、留置所の、アタシの部屋まできてアタシをぶん殴ってこうぬかしやがった。

 『ちゃんと相談したんですか?相談した上で、"あれ"なんですか……!?』

 ってな。其の上で……

 『僕みたいにならなくてよかった……って言うのは、自惚れ過ぎですかね……?』

 だとさ。」

明らかに普段と違う口調の、それ。
キッドを知っているものなら、嘘としか思えない言葉遣い。
きっと、奴が秘密にしておきたいこと。
知ったことか、全部ぶちまけてやる。

「呆れたクソ野郎だ。
 悲劇のヒロイン振りやがって!
 光にゃん……アタシは頭悪いし、犯罪だってやらかすロクデナシだ。
 だから、真っ当なアドバイス、なんてできない……」

それでも泣き崩れる相手を見つめて、言葉にする。

「それでも、あのクソ野郎を、まだ止めたいって思うなら……
 アタシから言えるのは、たった一つだけ。
 すごく、シンプルで……馬鹿馬鹿しい答え。
 その割にものすごく難しいことだし、正解かって言われたらまったくわからない。
 それでも、いい?」
 

修世 光奈 > 「うん…………」

そうだと、思う。
少なくとも光奈の考えでは、もうどうしようもない。
馬鹿だと彼を罵る声に、気持ちも少し落ち着いて。
しかし

「………なぐ、って…っ、て…大丈夫…?、………で、でも…、その、口調、で……」

殴った、という言葉には…驚きと怒りを見せ。
口調については…明らかに"知っている"反応を光奈は見せる。
その優しい口調は、彼が煙草を咥えていない時の。
ジェレミアとしての、口調。
その状態で言った言葉なら、真実だと、思える。
お互いにとって、秘密は秘密ではなかった。

けれど…あの口調こそが彼なのだと、更に確信を得る。

「……うん…。…………シンプルで、ばかばか、しい…」

ぐず、としゃくりあげ。
また涙をぬぐってから、顔をあげる。

「うん……、いい。…だって、キリちゃんが…友達の、私に言ってくれる、ことだもん
だから…どんな、ことだって、聞くよ」

鼻面と目元が少し赤く。
けれど。
このままでは、いられない。
見捨てられるならこんな…答えの見えない相談何てしない。
何かしたいから、でもわからないから、相談するのだ。

き、と姿勢を正して。しっかりと、聞こう。

園刃華霧 >  
「アイツは

 『お互い好きだから、大事だからって、ぶつかり合うの遠慮して
  ……絆とか、そういうのを大事にすると余計に、それが"壊れる"のが怖いから……』

 なんて、絆語った上で、
 
 『それしか、知らない』

 なんて、今の自分を認めてる悲劇ぶったアホだ。」

ああ、本当にムカつく。
そんなムカつく馬鹿に覚えがあるから尚更ムカつく。

やっぱり一発かえさせてもらうからな。

「だから、アホを止めるには、こっちも馬鹿になんなきゃいけない。
 アタシから出せるアドバイスはこんなもの。」

園刃華霧 >  
『知るか馬鹿! アタシが気に入らないから、死ぬなって言ってんだよ!』 
 

園刃華霧 >  
「ってぶん殴ってやる……それだけ。
 でも、これって……アイツの全部を背負っていかなきゃいけないかもしれない。
 恨みも怒りも悲しみも……だから、すごく……大変なことだ。
 それに、これで止まる、なんて保証はアタシにも出来ない。
 でも、馬鹿を止めるんだったらソレくらい馬鹿になんないと、駄目なんだ。」

それは、別の形で馬鹿をしていた自分たちを止められた一つの手段。
同じ論法が通じるかなど分かるわけもない。
でも、諦めたら結局同じだ。

修世 光奈 > 「………」

徹底的に、怒ってくれるから。
逆に、光奈の方が少し落ち着くことができる。
ここまで、怒ってくれると…嬉しくもなってきて。
やっぱり、軽蔑はできそうもない。
そして、アドバイスはといえば…

「馬鹿に、なる……」

保証ができないことなんてわかっている。
人と人との関わり合いに絶対なんてない。

「そ、っか」

「そう、だよね」

あはは、と少し笑いが漏れる。

「結局、何言ったって、そうなんだ。
私はキッドに死んでほしくない。それを伝えるしか、ないよね」

彼の過去を聞いた。
彼の覚悟を聞いた。
…それに、囚われすぎていたのかも、しれない。

「…パンチ、鍛えとかないとね!キッド、ムキムキだから。
生半可なパンチじゃ、効かなさそうだし」

確実なんて言えないが。
少しだけ、心は軽くなった。
パフェを食べる手が進む…。甘さも大分わかりやすくなってきた。

園刃華霧 >  
いい切れば、少し怒りも落ち着く。
眉が少し緩む。
手に入った力も緩む。

「……そう、そうなんだよ。
 結局、自分のぶつけ合いなんだ。
 ……」

そこまでいって、少しだけ思案する。
……言ったほうが、いいか。

「アタシが『願い』をかけたのはさ。
 アタシが、世の中を拗ねて『自分にはもうなにもない』って思い込んだからさ。
 光にゃんとか、色んなトモダチ、いたのにね。
 で、やめたのも……トモダチが、自分が、自分たちが居るって、止めてくれたからさ。
 思いっきり、下らない子供の喧嘩もしたよ。
 『人の気も知らないで』とかさ、言っちゃったりね。」

自分の恥を晒す。
本当に恥ずかしい。

「ああいう馬鹿は、本気でぶつかってやんないとわかんない頑固者の大馬鹿なんだよ。
 だから……アタシも手伝うけど。
 光にゃん……思いっきりぶん殴ってやって。
 そうそう、思いっきり鍛えて全力でね」

にしし、と笑ってみせた。

修世 光奈 > 「………恥ずかしく、なんて…
私にも、…小さいだろうけど、叶えたい願いはできた…から」

人一人を救うのは、願わなければ到底光奈には叶えられない。
方法があるなら、何でもしていきたい。

「…キッドから見たら…友達で、先輩だからね、私。
その分、しっかり怒る、って決めたの、ちょっと忘れてたかも」

自分で言った事なのに。
その決意が揺らいでいた。

「格闘技の本とか探そうかな。…うん。やっぱり、話してよかった」

そして、探す気力も湧いてくる。
自分で抱え込むよりも…少しでも人に話した方が気持ちは楽になる。
抱え続けると、やはり…潰れて、しまうのだ。
にしし、と笑う相手に柔らかに口角を上げて。

「十分、その時も本気だったけど…今度はもっとまっすぐ、伝えてみる。
ありがとう、キリちゃん。パフェ食べよっか!」

自分の想いを、もっと純粋に。
ワガママを押し通すこと。
相手がワガママをぶつけてくるなら、こっちもそれに対抗しないと、と。
どうなるかは、わからない。
けれど…何がしたいか、が定まるだけで、楽になるものだ。

園刃華霧 >  
「ま、しょうガない。
 キマってる馬鹿相手には気後レするコトもアるさ。
 アタシのトモダチも、最初はそーダッた。
 覚悟って、決めるノ大変サ」

述懐する。
覚悟が決まっている相手に必要なのは相応の覚悟。
しかし、それを瞬時に固められるやつなんてどれだけ居るだろうか。

「ン、そウだね。
 パフェ、食べよ。
 崩れっちマう」

山盛りフルーツにスプーンを挿し込んで
がばり、と豪快にすくい取った。

修世 光奈 > 「……正直、怖かった。殺されるんじゃないかって」

少し、ひきつった笑みで。
本当に、怖い思いはした。
しかし…それでも。あの後輩は、放っておけない

「せめて、殴るくらいの覚悟は、持っていく。
それくらい、しないとね」

きゅ、と軽く手を握る。
細い、力のなさそうな指と腕。
けれど…そうしてやる、とやる気が満ちる。

「こっちも食べる?爽やかでおいしーよ。…あ。でも早く食べないと…なんだっけ、旅行があるんだっけ…?」

後に残るのは、パフェとジュース。
そういえば、と風紀委員会の中で見かけた告知を眼にしたのか、時間を気にしている様子

園刃華霧 >  
「あの馬鹿は馬鹿でも……光にゃんに引き金引くような馬鹿じゃ、ないよ。
 だから、うん。しっかり」

頑張って、とはいえない。
だから、半端な言葉で応じる。

「お、いいネー。
 と、ああ、旅行?マ―、まだちょい時間あるカらパフェ食べるくらいへーきへーき
 んじゃ、あ~ん」

こちらからスプーンを差し出し。
こちらも口を開けたり。

修世 光奈 > 「……うん。そっか。じゃあたべていこー♪」

すっかり、いつもの調子だ。
まだまだ心に重さを抱えてはいるが。
今は、ただ、このなんでもない時間を楽しもう

「んぐ。はい、あーん♪」

などと。
そんなほほえましい光景を広げながら。
ゆったりと、時間は過ぎていきました。

ご案内:「委員会街 風紀委員前」から修世 光奈さんが去りました。
ご案内:「委員会街 風紀委員前」から園刃華霧さんが去りました。
ご案内:「委員会街 風紀委員本庁舎前」にレナードさんが現れました。
レナード > 風紀委員本庁のエントランス前に立つ、独りの少年。
その建屋をぼんやりと眺めている。

「…………。」

この時を待っていた。
自分が学園で、或いは個人で親交を持ちそうな面々が、全て出払っているこの時を。
ここで、万が一にでも遇ってしまったら、何をしにきたか話を聞かれてしまったら、
色々と根回しが面倒なことになってしまう。
そういうスキは、見せてはならない。

聞けば慰安旅行に出かけているらしい。呑気なものだ。
尤も、そんなタイミングを狙っていた自分も、物騒に映るだろうか。
……どちらにせよ、"風紀委員としての自分"は、
彼らと親交を深められるような"運用"はしないだろう。
それこそ、機械のように成果を出さねば、自分がこれからやろうとすることの意味がないのだから。

レナード > 「……はー。
 昨日ので完全にやられちゃったけど、やらなきゃいけないことには変わりないし。」

昨日の大時計台。
あの場所で、自分が復讐の炎を向けていた相手と邂逅した。

自分を陥れたこと。
まがい物でも望みをぶら下げ、取り上げられ、価値がないと断じられたこと。
そのまま死に直結するような出来事に、巻き込まれそうになったこと。
それらに対して、直接詫びを入れられることは、あの場では結局なかった。
でも……


<けれど、せめてオニーサンの受け皿くらいには、なってみるよ。>


「………そんなこと言われて、何も思わないわけ……ないじゃん……」

ため息を吐く。
復讐の炎は、消えていない。
だが、それを向ける明確な相手は、もう居なかった。

レナード > 「…………だけれども、僕は、やらなければならない。」

目を細める。
それは、元から決めていたことなのだから。

ここに来た目的は、風紀委員の備品貸与と、配属先の上司への最初で最後の対面でのやりとりだ。
基本的に、出動は研究所から、上司や同僚とのやり取りは必要に応じてメールで行う予定になっている。
…"レナード"が噛んでいることは、風紀委員内でも一部を除いて秘匿される。そういう風に根回しはした。
研究所が介入していることで、技術的な情報の流出を防ぐためと尤もらしい理由をつけているからだ。
自分が活動する上で使う装備のほとんどは、新進気鋭の有志団体が日夜研究してきた科学技術の結晶だ。
上層部などの一部を除いて、それが詳らかになることは望まれない。

尤も彼の活動については、その装備を使用したことによる実践データの収集など、
純粋な風紀治安維持活動のみに用いられるわけでもないのだが。

「今、この場に彼女がいないのが幸いしたし。
 ……それなら僕は、止まらなくて済む。」

ご案内:「委員会街 風紀委員本庁舎前」に幌川 最中さんが現れました。
幌川 最中 >  
「止めたほうがいい感じ?」

間の抜けた調子で、アロハを着込んだ男が声を掛けた。
謹慎明け。風紀委員会の腕章を返してもらいにやってきたものの、
どうにも雰囲気の重苦しい――ここでは堅苦しいと区別する――少年の姿に。

いまからこの風紀委員本庁を爆破します! だなんて言われたら、
そりゃあ止めなければいけないのだが。恐らくそういうわけではないのだろうが。

「用事は済んでる? それともまだ?
 まだなんだったら、用件ある委員言ってもらえれば声掛けてくるけども」

肩を軽く竦めながら、何も知らないアロハの男が。
風紀のふの字もない不真面目な(不真面目には“ふ”の字はあるが)男が問う。

「いやあ、入りにくいよね。
 この庁舎。真面目~って感じでさ。俺も今絶賛入りにくいんだけどね」

ほら、君見つけちゃったからさ……と。
ちょっと見なかったふりするには……ちょっと……ちょっとね……と。

レナード > 「」
レナード > 「……うっそだろ……
 主要な委員は全員出払ってるって聞いたのに……」

これには絶句せざるを得ない。
風紀委員どころか歓楽街を主要拠点にしてそうなおっさんが、
やれ自分の庭で何してんのと言わんばかりにこちらに近づいてきたのだから。
明らかに、出頭命令を受けて来たとかそういう風にしか見えない、が、
…わざわざ気さくに声をかけてきたのだ。
それも、用件ある委員は誰かと、コネがあることを暗に示すくらいに。

「………まあ、その、なんだし。
 決意を新たに、構えてたとこだから…うん。用事はこれから。」

嘘は吐かない。こういう手合いほど、恐ろしいくらいに本音を見抜いてくる。
油断はしない。

「お兄さんは、なに?
 出頭でもしにきたわけ?入りにくいって言うくらい、ここには来てるみたいだけど。」

自分のことは、喋らない。そう徹するしかなかった。
早いところ行くところへ行って、用件を済ませてくるべきだが……

幌川 最中 >  
「あ、温泉だっけ~?
 いやあ、羨ましいなあ。俺あれ行きたかったんだよ。
 スゲー行きたかったんだけど、ほら、……ないじゃん? 権利……」

悲しそうな顔でアロハシャツの袖をつまんでみせる。
風紀委員の腕章が本来あるべきその袖は自由気ままに風に吹かれている。
現状無職。風紀委員としては風紀委員会に扱ってもらえない人間。
一般生徒と言えればある程度は救いがあったが、どちらかというと7:3で無職だ。

「主要な委員に会いたくないってことね。はいはい。
 ……まあそれじゃあ今日で正解正解。俺もちょうど職なしだしね。
 なに、好きなコでも追いかけて風紀入りしました~とか?
 それとも気になるあのコの平和を守るのは俺だ~とか、そういうやつ?」

無遠慮にそう言って笑う。
警戒されていることなど気付いていない。
男の中では、どうやら面白い新入委員という程度の認識らしい。

「俺はね、…………」

慣れた役職を名乗ろうとして、剥奪された生徒手帳を想う。
現状、自分は身分も職も名前もこの風紀委員会に預かられているようなもの。
難しい表情をしてから、軽く顎髭に触れる。

「……通りすがりの正義の味方、かな……。
 幌川って言うんだけどね。まあ、話すと風紀との関わりは長くなるんだけど……」

査問会の話とか言えないよなあ、と思いながら濁す。
あとあんまり新しい風紀委員に謹慎明け一発目ですとかいいたくないし。
少年の行動をなぞるかのようにそうして曖昧な返事をしてから。男も、同じ行動に出た。

「少年は? なに? テロでも起こしに来たわけじゃないんでしょ?」

レナード > 「………幌川。
 もしかして、謹慎中?」

腕に腕章がない。行きたかったが権利がないのだと、彼は言う。
…温泉を目当てに風紀委員になろうなんて胡乱な脳をしているやつはいないだろう。
つまり、元々権利はあったが、何らかの理由で今はそれがないという人物。
そうすれば、彼のコネがあることにも理解が及ぶ。

「正義の味方なのに、謹慎中なわけ。
 ほんと、なにしたんだか。」

ヒーローを自称する、風紀委員なら一人知っている。
だが、この飄々とした男性からは、決して油断してはならないと、
自分の中の蛇が警鐘を鳴らしているものだから。
彼から視線が離れてくれない。

「……僕が行くのは、風紀委員庁舎の中だけど。
 まあ、ちょっとお話して、貰うもの貰ったらさっさと出てくつもりなわけ。」

それも、事実。
だが、具体的にどこの部署だとかは、明かさない。

「おめーの言うようなテロとかじゃ、ねーし。
 自分の意地を通すために、僕は風紀委員になりにきたんだから。」

…まあ、行きつく先は、静かなテロかもしれないが。
そんな話をしても、余計な蟠りを作るだけだ。
彼を見上げながら、そう話した。
自分を新しい風紀委員だと思っているのなら、それも間違いではないから。
彼の話には、合わせておく。

幌川 最中 >  
「そりゃあ、『悪いこと』したからなあ」

相も変わらず軽い調子でそう言って、笑う。
どうやら大体というか10割くらいの理解をされているのだと分かれば、
「アハハハ」と大声で笑って、勝手に満足そうに頷いてから。

「悪いことだけはするんじゃあないぞ、少年。
 『ええ~俺は別に悪くないと思うんですけお~!』とか言っても許してもらえんから。
 あ、中。じゃあ一緒に行こっか。俺もね……一人だと入りにくいから。
 ほら、風紀委員の初仕事だと思って。不審者引っ提げていけば周りもよくしてくれるから」

何したんだかと言われれば、本当のことを言うならば、
大体「別に何もしてないのに壊れた……」なのだが、それはそれとして。
警戒されていることになんか気付きやしない。男は鈍感である。

「へえ。ってことはまだ書類書いたくらいの塩梅か。
 もしかしたら俺が教育係かもしらんな~。元生徒指導部、現無職の幌川最中をよろしく」

風紀委員会生徒指導部。
新人風紀委員の教育なども担当する部署であり、基本的に。
『隠すことのない』委員の教育は概ね彼の知るところであるのだが、
目の前の彼が『どう』なのかは『今』はわからない。
結果論的に後から知れるのかもしれないが、現状自分の目には普通の男子学生にしか見えない。

「へええ~~~。
 俺もうちょっと聞いていい? ウザかったら言ってね。
 多分面接のときに何十回聞かれてると思うんだけどさ、君は」

ほんの少しの間。
わざとらしく間を外してから、へらりと笑って。

「『何』守るために風紀入ろうと思った感じ?」

レナード > 「……まだ委員じゃないんだけど。
 私人逮捕って、認められてたんだっけ……?」

成り行き上というか、そういう流れというか。
一緒に行くことが狙われている気がして、やはり、油断ならない。
仕方ないから少しずつ歩きながら、彼に話をする。

「……………。
 へえ、教育係………」

確かに部署配属ともなれば研修や教育を通じて、委員としての知識や考え方を学ぶものだろう。
だが自分の"運用"は、きっと、もう少し違う形となるのだろうか。
その辺りの話も、今度詰めて連絡しなければ……心の内に、そう留めておく。

「…………。」

そうしたら、いきなり面談が始まった。まるで、自分を試すように。
思わず足を止めた。この問題は、危険だ。
何十回もしたはずだと言われた以上は、答えないという選択は、できないから。

自分ならどう答えるだろうか。少し思案する。
…いや、違う。それは、自分の答えではあるが、"答えるべき答え"ではない。
この答えは、そっと心の内にしまった。


きっと、"彼"なら……
…眼を瞑って、瞳を開いて。少し息を吐いて、言葉を紡ぐ。

「風紀を守るために、風紀委員に入る。
 それ以上でも、それ以下でもない。」

これが、"風紀委員としての自分"の答えだ。

幌川 最中 >  
「だめで~~~す。認めませ~~~~ん。
 ……って言えたらいいんだけど俺が少年を突如殴りつける暴漢に変わったら認めま~す」

私人逮捕の原則をしれっと呟きながら、本庁舎へと歩む。
風紀委員でなくとも、誤認逮捕の恐れのない現行犯逮捕の場合のみ許される行為。
突如少年を殴りつける暴漢に変わったら彼よりも先に本庁から委員がやってきそうなものだが。

「新人教育みたいなの、結構大変なわけよ。
 この世界のこと知ってるやつもいれば知らんやつもいればでね。
 新人に新人教育の愚痴言うのは幌川さん本日のしまったその1なんだけどさ」

世間話の延長線。
幌川は、新人と出会うたびに毎度これを聞いている。
「何」を? 「誰」を? 「どうして」? と。最初に錨を下ろしておけば、その船は流されない。
……と思っているのだが、実際にはそんなこともないので自己満足であるとわかっているが。

しばらくの沈黙を、幌川は笑顔のままでいた。
「真面目ちゃん」は、「答え」のある質問だと捉えることが多い。
「正義漢」は、「思うまま」に意図など知ったものかと答えることが多い。
幌川式性格診断。二択でしかわからないが、彼はその中でも前者であるなと結論付けて。

「オーイエスナイスグッド。もうバッチリ風紀委員の風格だねえ。
 そうそう。風紀委員は自分の風紀を守れないとか悪口言われまくってるからね。
 風紀を『守る』ために手段を選ばない、って感じで俺はいいと思うんだけど……」

小首を傾ぐ。あれ、そういえば、と。

「風紀を守るために風紀委員に入る少年の名前は?」