2020/08/20 のログ
スピーカーから響く声 > 『……では、次の質問です』
城戸 良式 > 無機質な合成音声が、面談室に響く。
遮光カーテンを閉めているので薄暗い部屋に一人、椅子に座らされて言葉を待つ。

公安委員庁舎の一角にあるその部屋で、俺は審問を受けていた。
或いは詰問。もしかしたら尋問かもしれない。
拷問でないことを願うばかりだが、スピーカーからの声が先に進まないところを見ると、
こちらの返答速度で膠着状態をどう見るか人間性反応を見る類のテストだろうかと思い声をあげる。

「どうぞ」

スピーカーから響く声 > 『問23です。
 貴方は風紀委員庁舎に緊急招集された途中の道で、
 助けを求める老婆に遭遇しました。
 老婆は貴方に向けて助けを求めますが、
 その助けに応じた場合遅刻か、或いは登庁不能になる可能性が高いです。
 その場合どうするでしょうか?』

城戸 良式 > 「周囲に人がいる場合、そちらに任せます。
 また、回避可能な雰囲気があればできるだけ回避します。
 個人的な感情よりも慣習性を優先するでしょうね。
 設問が恣意的に『遭遇』『不能になる可能性』など負の心象を抱くワードを使い、
 返答誘導してくるのは甚だ気に入らないとこですが、そんな感じです。
 助けを求められた程度では救助義務が発生するわけではないですし、
 事態は緊急招集まで求めるほど切迫している。
 なら、裏返して老婆よりも優先すべき事態に陥っていると判断していい程度に、
 俺は上の人たちを信頼していますから」

面白半分に圧を掛ける。
性格が終わっているとも言う。

スピーカーから響く声 > 『質問にのみ、回答ください。
 問24です。
 無人島に何か一つ持ち込むとしたら、何を持ち込みますか?』

城戸 良式 > 無機質な音声が、腹を立てているように聞こえるのは少し面白い。
ただ、こんな適性試験、回答で遊ぶ以外に暇をつぶせる方法がない。

無人島に持ち込むもの。

「"日常生活"ですかね」

スピーカーから響く声 > 『不可。です。
 範囲が広すぎ過ぎて単一の物と認められません』

城戸 良式 > 少し考え。

「じゃあ"寿命による安楽な死"を」

スピーカーから響く声 > 『不可。です。
 抽象的が過ぎます』

城戸 良式 > ああ言えばこう言う。
正解などなかろうに。
ナイフだの水だのいう回答以外認められないのなら、そこから外れた人間の人間性は全否定か?

「んじゃ"死"でいいです。
 どうせ単一の物資では長くもたないですし」

それに、何か持って行った一つで生きながらえている間に、
無人島に幸福な何かが訪れるとは到底思えない。
設問の時点でゲームオーバーと見た方がいい。
協力的な友人の一人でもいれば名前を挙げて内申を上げられたのかもしれないけど。

スピーカーから響く声 > 『問25です。
 線路を走るトロッコが制御不能になりました。
 このままでは前方で作業をする五人を轢死させることになります。
 貴方は線路の分岐器の丁度前にいます。
 貴方がトロッコの進路を切り替えれば五人は助かります。
 ですが切り替えた先に一人の作業員が作業をしており、
 代わりにその一名が轢死することになります。
 貴方はどうしますか?』

城戸 良式 > トロリー問題。
「多数を助けるために、少数を犠牲にするのが正しいかどうかの問題」だ。

公安委員の最初の面接のときも、この問題は問われた。
と同時に、公安委員や風紀委員にとってそれは抽象化されただけの問題や、
数学的思考、論理的思考のサンプルケースというよりは日常のなかに存在する天秤ですらある。

誰かを救うために、誰かを犠牲にしないといけない場面は。
正義や正しさを掲げている以上、かならず出てくる。
人は神様ではないのだから、他人の救うための両手はどんなに広げても二本しかない。
世界全てを救える異能を持つような者ならまだしも、何の異能も持たない自分なんかは特に意識する。

誰を救うか選ぶということは、
救わない誰かを選ぶということだ。

城戸 良式 > 多分、これが要点だろうなとも思う。

もうすでに質問時間も30分を超えているため、適正試験としては集中が切れるギリギリだ。
面接の常套質問である「無人島問題」や「遅刻問題」は全て目くらましで、
この質問こそが公安委員としての自分の資質を問うための質問であるのは、
なんとなく理解できた。

前回は、なんと答えたかなと思いながら、
少しだけ思考を巡らせて、真面目に考えてみる。
どんな結果が出たところで構わないけれど、自分の性向を知る上では真面目に答えておいた方が、
何となく面白そうな問題にも思えた。

城戸 良式 > 「場合分け、させてください」

前置きを一つ。
前回の回答は、そこまで真面目に考えていなかったから、
この前置きは初めてのものだ。少し、自分も内心の変化があったのかもしれない。

「先んじて、トロッコの分岐点の先にいる一名が自分にとって重要な人物であると知れた場合。
 或いは、五人の中に自分にとって重要な人物が要ると知れた場合は、迷わず『分岐を反対に動かします』」

それによって、重要な人物の居ない側の人間は、確実に一人は死ぬことになる。

「分岐点に自分が居たことまでを含めて個人の幸運と思えば、
 自分はその状況を構築する一つの要素でしかなくなる。
 非難は浴びるでしょうけど、判断材料に人間的な感情を含めないほど、
 人間性を捨てた計算の上で生きられているわけでもないので」

スピーカーは答えない。
正解も不正解もない問題の上に、城戸良式を計ろうとしている。

城戸 良式 > 「そして場合分けのもう一つ。
 多分現実的にはこっちの方が多いでしょうけど。
 どっちの分岐に誰がいるか分からない場合。
 または、そのどちらの分岐にもさして拘りのある対象がいない場合」

多分こっちが。
現実的な想定だ。

落第街で、スラムで、鉄火場で。
自分たち公安委員や、風紀委員が、選ばなければならない問題だ。

誰を救うことを選び、
誰を救わないことを選ぶかの問題。
正義を掲げる者に平等に降り注ぐ残酷な二択。

城戸 良式 > 「その場合。
 分岐は動かしませんね。

 『そのまま、トロッコには五人を轢き殺してもらいます』」

素直に答える。

スピーカーから響く声 > 『根拠となる、理由を回答ください』
城戸 良式 > 口を開き。
そのまま閉じた。

肩を少し脱力させて、椅子の背もたれに身体を預けた。
真面目に回答すると、疲れる問題だな。

「他人の生き死を、人がどうこうできるなんていうのは、
 どうにも……烏滸がましくないですかね」

皮肉げに言うと、思ったよりも当て擦りめいた響きになって、
少しだけ自嘲と自重を重ねた。
スピーカーはそれ以上言葉を接がないことを確認する程度に黙り、
やがてブツッと音がして別の接続に切り替わる音がした。

スピーカーから響く男の声 > 『城戸良式。
 ……回答に於ける適応係数がマイナス70を超えている。
 本部での追加面談と適正試験の再試験を命じる。
 君の公安委員適正に私個人としても疑問を感じる』

城戸 良式 > 「……了解しました」

まあ、分かっていたことだけれど。
公安委員の回答としては、いささか上の人たちを満足させるには不十分で、
いや、不適当ですらあったらしい。
合成音声に対しては大きく出られたが、実際に直接非難されると思わなかったので肩を竦めた。

面倒なことにはなったけれど、そもそもが回答態度が悪かったのだから、
自分の身から出た錆だと思うことにしよう。

ただ、それでも、少しだけ自分の回答に"仮面を被らせた"はずなのに、
それでも適正試験としては引っかかるのだから、言いかけた本心の回答を口にしたら、
果たしてどういう顔をされるのかは少しばかり気になった。

城戸 良式 > 他人の生き死を、人がどうこう出来るわけがないなんて、思っているわけがない。

少なくともこの島では死は他人から与えられるものであり、
他人から与えられるものを拒否すべきものだ。
一般の学生に風紀特権が与えられているのだから、その生殺与奪は常に誰かの手にある。
だとしたらその烏滸がましさの否定は自己の否定と同義だ。

例え異能のない自分ですら、
命を助け、
命を奪うことは、やろうと思えば容易にできる。
それも、片手で数えられるトロッコ問題のような想定では猶更だ。

大層上の人の機嫌は損ねたようだけど、
まるっきり考えてもいない"根拠"にしては、正義の筋は通っている気がする。
正義の行使者としては、己の力に過度の全能性を感じない方がいいに決まっている。

城戸 良式 > スピーカーの音声の切れた面談室で、誰にも聞かれないよう、口内で小さく呟く。

「人間の本質は、そんなところにない。
 トロッコ問題に人間性を持ち込むのならば、もっと人間の性質を深く掘り下げるべきだ。
 きっと、この轢死問題は実際に現実に起こった場合、
 すべての状況が詳らかになって図示されて、公の場に晒される。
 糾弾の的となるべくは分岐の場に居た自分になるのは明らかだけれど、
 それ以上に人間の愚かさの矛先は分岐の先に居たものの責任問題にすり替わる」

救われた者。
選ばれた者は、選ばれなかった者からすれば、不当に利を得た者に捉えられるだろう。
その時、その幸運が齎されたことを、人は責め始める。

「救われた人間は救われたことを背負わなければならない。
 助けてくれてありがとう、なんてものは何一つ犠牲がなかったときの人間の喉から出る言葉だ。
 現実は分岐で選ばれた人間の口からそんな感謝の言葉は出ない。
 出れば、自分が生きるために払われた犠牲の存在を認めて、それを『肯定しないといけない』から。
 そうなった場合人間はどういう選択に逃げ込むか、それを俺は考える。
 考える。
 いつも考えている。
 不当な利を持つ人間に対する劣等感を、どう扱うかをずっと考えている」

城戸 良式 > 「救われた人間は、分岐に居た人間を糾弾し始める。
 社会的な糾弾に相乗りすることで、自身に向く批判から逃げ出す。
 その選択に、自分の意思が乗っていないことを声高に叫ぶことで、
 己もまた被害者であると嘯くことでトロッコ問題の先に存在していた者の責任と、
 失われた命に対する罪悪感を正当化する。
 そうすることでしか逃げられない場所が、トロッコ問題におけるトロッコの先という場所だから」

心には。
気持ちには逃げ場所が必要だ。

異能を持たぬ者が異能を持つ者に。
立場を持たぬ者が立場を持つ者に。
抱く感情にも、正当な逃げ場がいつも必要とされる。
トロッコ問題におけるトロッコの先にいる存在も自分と同じただの人間ならば、
必ずこの袋小路の先に進み始めるだろう。

「そうなったとき。

 五人を相手にするよりは、
 一人を相手にした方が、始末をつけやすいからって答えたら。

 今度こそ適応係数が-100突破して、責任から逃れられますかね」

言いながら席から立つ。
いい加減。この腸の中の灼熱の怒りにも、方向性を持たせてしまったほうが楽になるかもしれない。
風紀委員にも。公安委員にも。そろそろ、便利さよりもうんざりとした気持ちの方が高まってきている。
真剣に。この先の進路について考えるべきかもしれない。

最初から、それこそ設問の段階から、回答は決まっているけれど。

城戸 良式 > 面談室のドアに片手をつきながら、ぼそりとつぶやいた。

「真剣にやるかな。
 ……テロリスト」

分岐のスイッチを押したのか、押さなかったのかは。
最後まで分からなかった。

ご案内:「委員会街」から城戸 良式さんが去りました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
風紀委員会本庁
その一室

普段は時空圧壊のレイチェル・ラムレイが執務を行っている、それほど大きくはない部屋

「──………」

その部屋の机の一つで一人、黙々と大量の書類を相手にデスクワーク
チラ、と時計を見ればもう22時過ぎ、窓の外はすっかり真っ暗だ

伊都波 凛霞 >  
部屋の他の人には先に帰ってもらって、自分だけで残業タイム

レイチェル・ラムレイ。彼女が今その席にいない、その責任の一端は自分にある
彼女の分まで仕事をこなすのは…まぁ、少女の性格を考えれば当たり前のことだろう

書類仕事は別に苦手じゃない。むしろ得意な部類だ
資料を整理して、必要ならまとめなおして、足りていない部分あれば確認して、補間して…
ちょっとしたパズルのようなもの

さすがに0時までには帰らないと、なんて思いつつ仕事をこなしていると、内線がかかってくる
…こんな時間に?と思いつつも、それに出て

「はい、×××室です──」

なんだか嫌な予感はしていたけど
遅い時間にかかってくる電話って、大体ロクな内容ではないから

伊都波 凛霞 >  
「──え…、山本くんまで!?」

思わず大きな声も出てしまう
ちょうど今、レイチェル・ラムレイの負傷に関する報告書を書き上げたばかり
更に前日の落第街における交戦の結果による神代理央の安否不明まであった

「…あ、は、はぁ…わかりました…では報告までに……はい、失礼します」

内線の受話器を置く

──…やや、事態が深刻じみている

風紀委員自体は多くいるが、いわゆるビッグネームというとそう多くはない
彼らがまとめて欠けた上で、落第街を含む一部危険地域の秩序を守ることが出来るかどうか──

「……」

素直に言えば名前の上がっている三名の安否が気掛かりだ
必死に安否確認に動きたい気持ち…しかしそれは、余計に手を足りない事態にさせるだけだ
彼らがそれを望むだろうか

「……はぁ」

大きく溜息を吐いた
世間体を気にしている場合じゃなさそうだ

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に月夜見 真琴さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
何より大事なのは、この事実を表に出さないこと
風紀委員のビッグネームが欠けたという情報が出回れば、それは犯罪の増長を招く
風紀委員の、抑止力としての側面を弱体化させてはならない

「──夜分遅くにすいません」

迷いは一瞬、即座に端末で連絡をとる
即断即決。選んだ道は、それを正解にするために必死になればいい

落第街、スラム周辺の警邏シフト
それに自分単独の時間を入れ込むことで開いた穴を埋める
当然、風紀委員に報告してある自分自身の戦力では不足だろう
故に、結果で以てそれを示すとまで、伝える──

月夜見 真琴 >  
「――進取果敢も結構だが」

ドアノブが回るとともにささやくような甘い声。
顔を覗かせたのはあまり庁舎に出入りしない白い影。
腕章もつけず、なにがしかの用事で訪れただけの。

「それでおまえまで潰れてくれるなよ。
 というのはいささか出過ぎた諫言ではあろうがね」

そして暇人に申し付けられるのは、総じて有為の人物の邪魔にならないことであり。
これくらいなら出来るだろう、という程度のことだ。
手に持っていたトレーには、淹れたてのコーヒーカップが二つ。
静かな靴音を立てて歩み寄り、彼女の手元にひとつを供した。

伊都波 凛霞 >  
「…あ」

連絡を終え、端末を手にしたまま来客に視線を向ける
温泉以来、だろうか。お久しぶり…というほどでもない

「すいません。気を使ってもらっちゃって」

苦笑しつつ、ありがとう。とコーヒーカップを手元に寄せる

「…大丈夫。現場に穴が空いた時は元気な人が穴埋めしなきゃね」

そう言って表情を笑顔へと変えて微笑んだ

月夜見 真琴 >  
「いやいや礼には及ばない。おまえに持っていけと言ったのは、
 先程までやつがれと審問(おはなし)をしてくれていた者たちだ。
 レイチェルと理央がな、拙宅に遊びに来てくれたのだ、が――」

苦笑した。アトリエに来た連中が負傷している。
あらぬ疑いに過ぎないものだが、確認はやはり必要なのだ。

「――『大丈夫』」

笑顔を見ると、その言葉を甘やかに復唱して。

「レイチェルもそう言っていたよ。
 こういろいろ続くと、その言葉こそ危ういものに聞こえてくる」

責めるわけではなく、かと言って強い気遣いをかけるわけでもなく。
立ったままカップを傾けて、室内の様子を観察する。
長居するつもりはない――というよりも長居が許されない身の上。

「英治の負傷も、先だって騒がれていた『異能殺し』の?」

視線だけを向けて。

伊都波 凛霞 >  
「大丈夫じゃない、なんて言ってもそれこそ心配させるだけでしょ?」

困ったように眉を下げて、コーヒーを口元へ
こんな状況ではそれも仕方のないのかもしれないけど

どうぞ?と空いている椅子に促してみる

「英治くんのことは報告まで。
 大怪我をしたのは間違いないみたいだけど、何があったかまではまだ」

伝えられたことをそのまま伝える
異能殺し…以前、鋼さんに一応気をつけてと伝えたけれど
そんなに精力的に動いているのだろうか。あまりそんなイメージはなかったが

月夜見 真琴 >  
「そう言ってもらえるだけの信を勝ち取っているものが、
 いま、おまえにいるのかが気がかりではある、かな」

自分がそうなろうとは言うまい。
しかし如何な《神童》とて、人間以上になることは難しいことは、弁えている。
温泉で彼女がつぶやいていた恋愛遍歴を聞いて、考えていたことだ。
レイチェルが入院している今、彼女を支えられる者が、その矜持以外にあるのか。
促されると、少し迷った。迷ったが、そっと薦められた椅子に腰を落ち着ける。

「あの英治が大怪我を――ということは下手人もただでは済んでいまいと思うが、
 あちら絡みの情報はどうにも『異能殺し』と『鉄火の支配者』の件でもちきりでな。
 大者同士がぶつかれば、必ずだれかが耳を立て、すぐにも風が吹いてくる。
 では無名の凶手の仕業か、あるいは戦いによる負傷ではない、のか」

考えていても仕方がないことだが、と天井に向けていた視線を伏せて。

「理央も、レイチェルも――聞く限りでは英治も。
 心身において何かしらの"問題"を抱えている。
 ――正直そのあたり、おまえを頼りにしようとおもっていたのだが」

凛霞であれば、という期待を、例外なく持ってしまった自分を、
少し恥じ入るようにして、肩を竦めてみせる。

伊都波 凛霞 >  
「ふふ。どちらにせよやると決めたらやるだけ、ですので」

にこりともう一度笑顔になって、今度は力強くそう伝える

「彼についてはまだ情報が少ないので…
 明日辺りになればもう少し細かい情報も入ってくるかと思いますけど」

手元のコーヒーカップを、落ち着かな下げにくるくると
どうやら話が上がればそれは当然、心配でしょうがない、といった風情

自分を頼りに、と言われれば、少し驚いたような顔

「それはちょっと、タイミングが悪かった…ですかね」

もちろん頼りにされれば、それに応えるだろう
元々、少女はそういったものを断れない性格でもある
友人の話となれば、尚更だ

月夜見 真琴 >  
「志操堅固なる心持ち、流石だな。
 では役に立たずの同輩からは、せめて"気をつけて"と」

笑顔の力に心配無用であると認め、苦笑に切り替える。
どちらにせよいま自分にやれることではない。

「理央になにかあれば動く者がいるだろう。
 あれは見ておいたほうがいいかもしれないな」

拳銃に余り良い思い出のない昨今、
間違っても自分がやるとは言わない懸念をつぶやくと。

「いいや違う、なんでもかんでも他者に頼ろうとしすぎなのさ」

自分がな、と自嘲気味に告げて。

「苦難を分け合えることが、委員会の機構である――とも考えてはいるが。
 どうしても、内側に抱え込みがちな者が、多いように思う。
 横の繋がりがいまだ希薄なのか、基盤が緩んだまま整っていないのか――ああ。
 基盤といえば、華霧」

レイチェル・ラムレイの安定に、恐らくは肝要であるかもしれない名をあげて。

「いまは拙宅に住まわせているが――あれにも些か不安がある。
 せめてレイチェルの見舞いはさせてやりたいから、
 反省文の提出の条件は勝ち取った――後日、紘汰を手続きに借りるぞ」

御厨紘汰。風紀委員。一年。博覧強記。特技と担当は書類受理と整理。
口癖は――『大丈夫』。不安が残るが、『大丈夫』なはず。

伊都波 凛霞 >  
「そんな大仰なものでもないですけどね。
 風紀委員が不安そうに仕事をしていたって誰も安心できないですから」

気をつけて、という言葉には勿論!と快く

「そう…だね。理央くんのことを心配する人は沢山いるし…
 彼の周りで、なにか悪いことが起こらなければいいけど……」

既にそれが起こったあとだ、なんてことは流石に思いもしない

「人に相談できること、できないこと。
 自分自身が向き合うべきこと、助けを借りて大丈夫なこと。
 人の抱える問題は千差万別です。
 皆がみんな、自分から手を求めてくれれば少しは楽なんですけど…」

そうもいかない
事情、誇り、見栄、遠慮…あらゆるものが阻害するのだ
それは、自分もよくわかっている

「かぎりんが?…っと、華霧さんが…?」

慌てて言い直す
レイチェルさんのことを連絡して以降、気にはなっていたけれど
自身も多忙だったため、その後を追えてはいなかった

その後に続いた言葉を聞けば、とりあえず不安は残るようではあるけれど、彼女に任せても大丈夫そうだと、胸を撫で下ろす

「了解しました。その辺りについては恙無く」

月夜見 真琴 >  
「理央が戻ってくればおまえの負担もだいぶ減るだろう――が。
 そのときにあれが余計な心労を抱えてしまうと、中々ままならない。
 そういう意味では、肝要なのはやはり基盤、か――」

カップを傾けつつ思索に耽る。耽るだけ。
考えても自分は隠遁者。アトリエに来る者の世話がせいぜい。

「同じ腕章をつけていても、正義が十人十色であるように」

そしてその腕に腕章はすでに無い。

「それでも皆に相通ずる何かはきっと在る――在って欲しい。
 どこに重きを置くかは人それぞれなれど、
 風紀委員であるならば、そう――時に手を求めることも職務である、と。
 みながそうわかってくれれば」

そうならないことが判った上での希望でもあった。
物憂げな表情はすぐに消えて。

「レイチェルの入院の報も経て、あれも相当に参っている。
 こちらで面倒を見切れるかはわからないが、
 ――どうやらおまえの大切な友人のようだ。
 ならばせめて、それは風紀委員の同輩として請け負いたいと思う。
 ありがとう、凛霞。 苦労をかけるな」

さて、と立ち上がり、カップを片付ける。
また妖精に化かされる者が――なんて、彼女に余計な風評がつくのも避けたい。

「余裕が出来たら拙宅に来てくれ。
 コーヒーは挽いてご馳走するし、俄然おまえを描きたくなった」

穏やかな微笑は、いつかそんな"余裕"ができることを祈ってのものでもある。
――恐らくは難しい話だと、多くの事実が物語っていても。

伊都波 凛霞 >  
それらの言葉に同意するように、頷きを返す
カップを片付ける様子を見ればごちそうさまでした、と笑って手元のそれを差し出そう

「困った時はお互い様──この言葉だけで大体片付いちゃいますよ」

難しいことなんて、本当は考えなくったって良い
人と人の間にあるのは、そんなシンプルなもので十分なのだ

「それはぜひ、落ち着いたらお呼ばれしようかな~。
 絵のモチーフとしてはちょっと華が足りないかもしれないけど」

謙遜するように笑って、自身も立ち上がる
もう時間も遅くなってしまった。いい加減部屋を閉めて帰らなければ明日に触る

「楽しみも出来たので、私も俄然やる気に満ちてきました」

そう言ってぐっとちからこぶをつくるぽーず。残念ながら細腕なのだが

部屋の端末と証明の電源を落とし、最後に今日は誰も座っていない、レイチェルのデスクを一瞥する
そこにその主が座る光景が早く戻ってきたら、
調子良くおどけて見せるアフロの彼が戻ってきたら
苛烈ながらも頼りになる後輩の彼が戻ってきたら

ちゃんと、戻ってこれるように、今は現場に残れる人間が意地を張ろう──
そう心に再度誓って、真琴と共に部屋を後にするのだった

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「委員会街/」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「委員会街/」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「委員会街・査問委員会」に水無月 沙羅さんが現れました。
風紀委員査問官 > 「さて、今回の事件についてだが、確認すべきことがいくつか存在する。
 水無月沙羅には風紀委員会内、同風紀委員メンバーに対する異能、及び魔術を使用した殺人未遂の疑いがかけられている。
 だが、ここに幾つか興味深い証言が上がっている。」

水無月 沙羅 > 水無月沙羅は、スラム街での山本英治に重傷を負わせた件について責任を問われ、処分を下されるべくこうして査問会にかけられている。
半円状に広がっている会場の中心に沙羅が立たされ、その周りを査問官達が囲んでいるような状況だ。

当時の映像記録の様なものはないため、主に加害者、被害者、目撃者による事件の解明、及び処分を検討することになる。

しかし、水無月沙羅自体の問題行動はこの一回に過ぎず、過去行方不明になり、その間に何をしていたかも不明な為、沙羅の暴力行為に先だって発生していた『異能殺し』の再来に関与していたのではないか、という疑いすらかけられつつある。

本来ならば除名処分の上、監視が付くか、島から追い出されるか、学生の身分を剥奪されるかという大事になりそうなものだが、そうなっていないいくつかの理由が此処には存在していた。

風紀委員査問官 > 『まず一つ、これは今回の被害者でもある山本英治の証言の中に含まれているものだ。
曰く、

 『彼女の別人格にやられた。
  彼女自身の意思じゃない。
  詳しいことは知らない。
  済んだことだし、自分は被害届は出さない。』

 とのことだ、本人が被害届を出さなければではおとがめなしで済ませていいか、とはならないので彼の言葉にさほど意味はないが。
 この文言で重要なのは『別人格』という言葉が出た点にある。
 水無月沙羅、この言葉の意味に心当たりはあるか?
 此処での発言に虚偽は許されないのは分かっているね?』

水無月 沙羅 > 「私には、その当時の記憶がないため、詳しいことは分かりません。
 山本先輩がそうだというのなら、そうなのではないでしょうか。」

この場所に少女の味方をする人物は残念ながら存在しない。
此処は彼女の処遇を決める場所ではあるが、理央や山本、沙羅にとって親しい人物はだれ一人いないからだ。
当然、親しい人物が居たとしても、彼女を庇うことが許されるわけではないのだが。

沙羅自身、自分が危うく誰かを殺める寸前だったという事実に自分を責め立てている節があり、その視線は弱弱しいものだ。
本当にこんな少女があの惨状を引き起こしたのか、と疑いたくもなる。

風紀委員査問官 > 「あくまで記憶にない、というわけか。
 いくつか報告に上がっている君の身辺調査にも、『二重人格』と言えるような痕跡は存在していない……が。
 保険医から気になるデータが上がっていてね、異能による精神網の著しい断裂が見られるとされている。
 なるほど確かに他の風紀員の話を聞いてみれば、君はかなり普段から、幼い少女然として振る舞っているらしい。
 何処かに精神的疾患があるかもしれない、という事になるわけだ。
 君にこの事件の際、責任能力が無かった『かもしれない。』という判断材料にはなりえるな。」

山本英治の証言、そして保険医からの彼女のカルテの一部提供によって、沙羅の問題点が露呈して行く。
二重人格の可能性、『沙羅自身が望んでしたことではない』という可能性が浮上する。

風紀委員査問官 > 「なるほど、其れならば確かに君を『罪』に問うことは難しくなるだろう。
 しかし、それは逆に君が制御不能な危険人物になりえるかもしれないという証明でもある。
 さて、困ったことになった。
 我々風紀委員会としてはそのような人物を、『君は悪くない、仕方ないことだから帰っていいよ』とは言えないのだ。
 それこそ、異能を使えないようにした上で、監視、あるいは拘束するべきだ、とここに居る多くの人間は思っている、訳だが。
 さて、残念なことにそうではない人間もいるらしい。」
 

ご案内:「委員会街・査問委員会」に東山 正治さんが現れました。
水無月 沙羅 > 少女は首をかしげる、目の前の、この査問会の中でおそらくは決定権を有し居るであろう人物のいう言葉をそのまま捉えるのならば。
水無月沙羅にはそれ以外の処分を下すべきと主張する一部の派閥が存在しているのだろう。
少なくともそれが唯一人、という事は考えにくい。

東山 正治 >  
「──────"異議あり"」

凛とした声が、室内に響いた。
何時からそこにいたのだろうか、開いた扉に、男はいた。
口元にへらへらと笑みを浮かべながら、周囲を、被告を見渡し、両掌を天井に向けて分かりやすい『お手上げ』ポーズ。

「いけませんねェ、風紀委員の皆さんが"私情"に流されちゃァ……同じ『法の番人』として、そんなザマじゃ心配しちゃいますよ……」

カツ、カツ。わざとらしく足音を立てて男は、室内に入ってきた。

風紀委員査問官 > 「おや、公安の東山さん、だったかね。
 このような場所にわざわざ足を運ぶとは。
 仕事熱心なことだ。
 して、意義あり、とは何が言いたいのかな?
 公安としての君の所見を述べてもらうことができる、と期待していいのだろうか。」
 
思わぬ人物の登場に会場はざわめくも、この場を取り仕切る人間の言葉が飛べばそれも静かになる。
公安と風紀、それぞれ別の立場からこの島を守る存在だが、仲には軋轢が生じることもある。
緊張した空気、とはこのことだろうか。

水無月 沙羅 > 「あなたは……?」

少女にとってもそれは予想外の訪問者であるが、この舞台においてはあくまでも処遇を待つ立場でしかない。
基本的に許可のない発言は許されない。
事の成り行きを見守る以外の選択肢は、水無月沙羅には残されていない。

少女はただただ、公安からやってきた男を見上げるほかなかった。

東山 正治 >  
「……ハハ……」

東山は思わず乾いた笑い声を漏らした。
この有様に、肩を竦めた。
査問、一体何の冗談だ。
"学級会"の間違いじゃないのか?反吐が出る。
一体彼女の何を取り立てて調べようとしていたのか
周りの連中はまともに事を調べる気があるのか。
東山は首を横に振った。

「仕事熱心ですよ。御覧の通り、寝不足でしてね。
 そろそろ休暇が欲しいもんですよ。夏休み明けのテストも作らなきゃならないし
 いやァ、教師も辛いわ。公安も辛いわァ。」

実に陽気な声だった。
その場に不釣り合いな程の声を放ち、東山は沙羅を見下ろした。

「まァ、本題に入る前にちょっといいでしょ?この子と会話して。
 勝手にするんだけどね。…ねェ、沙羅ちゃん?沙羅ちゃんだよねェ?
 理央ちゃんの"追っかけ"だっけ?まァいいや」

「所で沙羅ちゃんさァ、本当になーんにも覚えてないワケ?
 こういう場所でさァ、"嘘"吐いちゃうと自分が不利になるだけだよ?
 ホラ、おじさん元弁護士だからさ。沙羅ちゃんの証言がないと、動けないわけよ」

わかる?と小首をかしげてみせた。

水無月 沙羅 > 発言の許可を求める様に、査問官を見やる。
その彼が何も言わずに頷いたという事は、許可をするという事なのだろう。

「……事件のすべて、というわけではありません。
 覚えていることは、スラムに向かった事、その理由。
 スラムに着いてから現状を確認した上で、その場所で起きたことの推測。
 そののちに、沸き上がる感情を自覚した後から記憶は飛びます。
 詳しい推測も必要でしたら、お話しします。

 その後は、山本英治先輩が目の前で、重症、血塗れの状態で倒れていたところから記憶が再開しています。
 その後に、助けを呼んで、彼を搬送してもらいました。
 ……私が覚えていることはそれで全部です。」

目の前の質問をする"元弁護士"を自称する男性に、自分が覚えている限りの情報を開示する。
今更嘘をつく理由もない、基本的には重い処分が待っていることは覚悟の上だった。

東山 正治 >  
「ま、要するに"覚えてない"、と」

とどのつまり、そう言う事だ。
東山の薄ら笑いは口元から消えない。
東山がパチンッ、と指を鳴らせば室内の中央にホログラフモニターが浮かび上がる。

「じゃぁ、"事件当時"の事、思い出してもらうかなァ────……」

東山の囁くような声音と共に、映像が映し出された。
落第街のスラムの一角、二人の人物が向かい合っている。
"山本 英治"と"水無月 沙羅"だ。
対峙し言い合い、やがて"水無月 沙羅"が"山本 英治"を"なぶる"その瞬間。
全て、あの時の出来事が其処に収まっている。

「ま、所謂『物的証拠』って奴ですかね?
 何であるって?そりゃ、皆さん。
 公安<オレら>は諜報機関よ?そもそも、沙羅ちゃんさァ……」

「"一回、風紀の腕章捨ててどっか行ったじゃない"」

黒い双眸が、沙羅を一瞥する。

「"何してたか"知らないけどさ、何事も無かったかのように戻ってきて
 ……"張られない"方が無理ってモンじゃない?」

少なくとも1から10の経歴を見ずとも、ここ最近の彼女の行動を
情報として東山は知っている。公安委員会とは、学園の体制を揺るがしかねない存在
或いは、それにまつわりそうな人物、組織の調査をし、監視、解散する組織だ。
勿論、個人的思想は色々あれど、東山は大変"仕事熱心"だった。
大事の前の小事。細かい所から調べ上げるのが東山のやり方だ。
この場合の"小事"は即ち、彼女の事だ。
"最近の風紀委員"の事を考えれば、動くには十分な理由があった。

「特に『トゥルーバイツの一件』といい、『神代理央と殺し屋騒動』といい
 ちょっと最近ね、気になるじゃないですか。学園の体制の一つでしょ、俺等も。
 まぁ、所謂"お節介"って奴ですよ。この辺で"ビシッ"とした示し、欲しいんじゃないですか?」

「……ま、俺等が裏側でペチャクチャ言おうと、表じゃだーれも見てないっちゃそうですけどね?」

「だってコレ、言っちゃえばただの"内輪もめ"なわけですし?」

くつくつと喉を鳴らして東山は笑った。

「……で、査問官の皆さまはどうお考えなんですか?
 『かもしれない』?『二重人格』?『罪に問うのは難しいかもしれない』?
 ハハハ……"査問官"が"曖昧"じゃぁ示し、つかないですよねェ」

「『証拠』、欲しいならまだありますよ?」

東山は笑いながら査問官たちを見やった。

水無月 沙羅 > 指を鳴らされるのと同時に現れる当時の記録映像。
自分のしたことの顛末が目の前で流されてゆく。
自分の犯した罪を目の前に提示させられる。

自分がいったいどんな力で、誰を傷つけたのか。
目をそむけたくなるようなその惨劇が、目の前に映し出されている。
『見たくなかった物』はいとも簡単に、『見なくてはいけない物』に挿げ替えられた。

「これが、私ですか……?」

呆然と見続けるほかない、それが水無月沙羅の中に眠っているものだとしたら、何て危険極まりない存在なのだろうと。
自分の腕を掴んで震えを隠す。
記憶にない、では済まされない、もう見てしまった。
認識してしまった、だから何もなかったでは済まされない。
推測ではなく、確定した罪として裁かれなくてはならない。

それは彼女自身に大きくのしかかる。

「……見せてもらえますか? まだ、あるなら……みせて、いただけますか?」

けれど、それは目を背けてはならない事だ。
自分の罪から目を背け続けていては、またいつか同じことが繰り返されることだってあるかもしれない。
なら、自分は知るべきだろう。

知ることは恐ろしくもあり、処分もまた恐ろしい、下手をすればこの島にはいられなくなるだろう。
公安の彼が危惧していることは、まさに。彼女が風紀委員に大事を起こすかもしれない、という事なのだから。
大事が起こる前に対処するのは当たり前のことだ。

NPC風紀委員査問官 > 「勝手な発言は慎みたまえ!
 これは我々が君に処罰を下す場であり、君の欲求を満たすものではない!
 東山 正治! 君は彼女がこの場で暴走でもしたらどう責任を取ってくれるのかね!」

要するに、彼らが恐れているのはそういう事だ。
かの『オーバータイラント』が成す術もなく一方的に鎮圧された事実に、彼らは恐れている。
必要以上の刺激をすることによって、自分たちが同じ目にあうことを。
風紀の秩序など二の次に過ぎない、あくまでも自分達の保身。
そのための茶番劇。

面の皮がはがれるとはこのことだろうか。

東山 正治 >  
東山は静かに首を振った。

「見て、どうするワケ?」

沙羅を見やるのは淀んだ黒の双眸。
そこには何もない、何も見えない。
誰もいない、誰も信じてない果てしない黒。

「自分の事を、知りたいって奴?イイネェ、ジュブナイルのイイ一幕だ。」

パチ、パチ、ゆっくりと拍手をすれば映像は途切れる。
そして、『お手上げポーズ』

「で、言えば何でも教えてもらえると思ってるワケ?
 ひな鳥じゃないんだし、俺は教師だけどさァ、沙羅ちゃん。
 委員会の中じゃ、教師も生徒も等しく同じ立場なワケよ」

つまり此処に居るのは生徒沙羅を導く存在ではなく
公安委員会としてきている以上、そこに"教える義務"はない。

「さて……」

査問官の面々へと向き直れば、肩を竦めた。

「御覧の通り、彼女は"記憶が無い"可能性が少し傾きましたかね?
 勿論、嘘かも知れないけど、その辺はわざわざ査問会開いたんだ。
 オタク等で用意してますよね?まぁ、同時に…………」

「"彼女の危険性"を、オタク等は認めちゃってるワケだ。」

「良い所異能制御装置か、異能学会にでも放り込んで二重人格の事調べさせるのが早いんじゃないですかね?
 まぁ、それはそれとして、"やったこと"に対する罰は必要でしょうよ。謹慎処分じゃ、示しつかないですし?」

「いいとこ『補習』とかも手っ取り早いんじゃないですか?
 ま、"弁護士の一意見"程度に、どうぞ?」

東山は踵を返した。
ちょっかいを掛けに来たとは言え、元々"部外者"だ。
連中の目的はさておき、最終的には言った通り"内輪もめ"。
勝手に決めればいい。わずかながら、"査問"に期待していた東山だが
"保身"ともくれば、証拠を提出する意味は無い。
これ等は飽く迄、罪の、真実の証明である。
こんな肥溜めに捨てるには、余りにも勿体なさ過ぎる。

「ま、その辺はビシッ!と決めといてくださいよ。
 "内輪もめ"でもさ、見てる人は見てるわけだし?」

必要な分は見せた。此れ以上は必要ない。
あの程度の連中なら、ちょっと小突いてやれば無罪放免とはいくまい。
東山は沙羅を一瞥し、そのまま部屋を出ていく。


─────バイバイ、お人形さん<ジュンヌ・フィーユ>


そんな誰かの言葉を、皮肉として声に出さずに呟いた。
こんな茶番劇に付き合わされるお人形さんは、なんて憐れで健気なんでしょうか、とね。

東山 正治 >  
「…………」

しかし、あんなのも風紀委員にいるんだな、と失望してしまった。
そもそも、『こんなことで風紀委員が揺るぐもの』か。
この学園の体制を侮ってはいけない。
第一、『たかが小娘の癇癪』一つで、学園の体制が揺るぐなら
『日ノ岡あかね』の時点で、生徒会が直々に動いている。
"内輪もめ"でも少しは混乱を期待していたが、あんな連中では、何の期待も出来やしない。

「……最中ちゃんが検事だったら、100倍スリリングだったかな?
 いや、今回の場合は立場が逆か。ククク……」

児戯に付き合ってしまった事に対する後悔が早速募ってしまった。
やれやれ、今日の眠りは浅そうだな……さて、"ダシ"は何時使われるのか。
そんな事を想いながら、東山は何処かへと消えていった……。

ご案内:「委員会街・査問委員会」から東山 正治さんが去りました。