2020/08/23 のログ
ご案内:「公安委員会・査問室」に城戸 良式さんが現れました。
■城戸 良式 > 灯りのない、人の居ない査問室。
――丁寧に。
懐から出した"辞表"を、テーブルに置いた。
同僚にも、友人にも、誰にも相談せずに決めたことだったが、
裏で話を通してこんな形ばかりの書類を用いずに、すでに自分の公安委員会の籍は抹消されていた。
支給されていた携帯端末をその横に並べ置いたところで、その端末が僅かに震える。
表に返したところ、そこには上長の名前があった。
どこから聞きつけたのかは知らないが、最後の最後まで部下思いの人だと思う。
数秒だけ迷い、端末の通話を押して耳に当てる。
息を吸い、言葉を放つと、自分でも驚くほどに温度のない声が出た。
「……はい、城戸です。
どうも。お世話になりました」
■城戸 良式 > 『……何故だ』
挨拶を飛ばし、疑問の声が端末から聞こえてくる。
それほどに、自分が公安委員会を辞することはこの上長には衝撃的だったのだろう。
ただ、それでも自分の査定の結果は上長の耳にも届いているはずだ。
ここ数回の、公安委員としての資質を見極める質疑応答で、
自分が……城戸良式の性向の向き不向きは、彼にも伝わっているはずだ。
それは、自分がこの委員会を辞するに足る結果であるとも知っているだろうに、
そのうえでの何故の問いかけはやはり、論理的なものじゃなく感情的なものなのだろう。
「……すみません。
決めたことなので。
いや、決まっていたことですかね」
『……そうか。
……すまないな。君の導に、なってやれなくて』
声は、諦めを大いに含んでいた。
やはり理屈としては上長にとっても、分かっていたことでもあったのだろう。
俺は静かに笑うと、端末を少し傾けて、査問室の椅子に座った。
「もう、お互い、関係のない人間になりますけど……。
別れのご挨拶として、聞いてもらえますか。
それで、納得されるかはわからないですし、長い自分語りになってしまうかもしれませんが。
どうにも、きっとこのまま俺が去ることに、最後に電話を掛けてくるような人に、
……悪い後味を残したくないので」
背もたれに、身体を預ける。
査問室のパイプ椅子は硬く、最後まで仲良くしてはくれないようだった。
■城戸 良式 > 少しだけ。
少しだけ、やはり苛立ちが言葉に乗った。
「……自分の中に、正義なんて存在しないことに気づいたんですよ。
正義を背負い、公安の名を冠して。数年働いてみましたけど。
一つたりとも、自分の中に正義を愛するといった心がないことに気づきました。
それどころじゃなくてですね。
俺は、自分より優れているやつを見ると、腹が立つんですよ。
羨ましくて、恨めしくて、貶めてやりたくなる。
爪を立てて、傷を残して、汚してやりたくなる。
それを見て、克己の気持ちなんて起きません。
ただただ、優れているやつの立つ場所が、己の立つ場所でないことが殺してやりたいくらい恨めしくなる。
そいつが持っている全ての地位が、名誉が、名声が、技能が。
顔の皮を全部剥いでもまだ足りないくらいに、どうしようもなく欲しくて欲しくて堪らなくなる。
そいつがちやほやされていればされているほど、腹が立つんですよ。
そして同時に、持っていない自分が酷く惨めになる。
自分だって何も持ち合わせていないやつよりは随分に優れているという中途半端な自負が、
足りないという数値的な事実を浮き彫りにして、不足を際立たせる。
その差は上を見れば見るほどに明確で、明白で、そして絶望的なものだ。
まるで最初から存在して決められているかのように全然縮まることはない。
持ち合わせていないこと自体が罪であり罰であるかのように、
持っていないことは努力や研鑽なんかでけして埋められないことが事実であるかのように、
永遠にそこにあり続けて、俺に劣等感を植え付けてくる。
その正しさに、特に正義というレッテルが貼られている場所では、それがさらに顕著になる。
正しいから強いんじゃなくて、強いから正しいんじゃないかという疑念が、
足りていない自分の不足に徒に爪を立てていく感覚から、もう逃げ出したいんですよ」
■城戸 良式 > 「同時に、自分より劣っているやつを見ても反吐が出るんですよ。
弱い相手を、救ってやりたいなんて思わない。
ただただこんなことも出来ないのかと刃を突き立ててやりたくなる。
自分ですら可能なことをできない存在がのうのうと息をしていることに耐えられない。
無垢で、純粋であっても生存が許されないほどに劣っているやつらからの視線が、
俺の矮小な自尊心に静かな安らぎを与えることにも、耐えられないんですよ。
その賞賛も、多くはもっと優れた者に向けられることの方が圧倒的に多いですけどね。
空が飛べないやつより、空が飛べるやつの方が多く人を救える。
人外の膂力を持つ者の方が、非力な者よりもたくさん感謝される。
たくさんの無異能者を相手にしても、それをすら蹂躙できる異能者のほうが、祝福される世界だ。
真面目な研鑽では追いつけないほどの格差を与えられて、
非現実的な効果を世界に与えうる異能者の隣で、
おこぼれに預かるようにそいつらが救いきれなかった誰かを救うことに、
ただ単に意味を感じなくなったんですよ。
そして、そいつらが過剰に賞賛されている様を爪を齧ることで耐えるような毎日にも、
もう耐えられないっていうだけなんです。
1000人を同時に救える正義を成せるやつの隣で、必死になって1人救ったところで、
その非力なやつは1人にしか感謝されないのは、余りにも不公平じゃないですか。
しかもそれは、研鑽や修練の上に存在しているものでは圧倒的になくて、
異能という後発的に与えられた選別の上に存在している。
だとしたら、そんな理不尽で不平等な出来レースの上で正義を背負って少数を救うことに、
外側から見たときの意義はあっても、主観としての俺はどこに救いを求めればいいんですかね。
慰めみたいな言葉を掛けられることを、ありがたいと思いながら、
大きく輝く光のたもとで、物乞いのように這いつくばってその少ない賞賛にありつかないといけないのは、
あまりにも惨めがすぎませんか」
■城戸 良式 > 「だから、最初から俺には正義の味方なんて無理だったんですよ。
正義そのものを愛す狂信も、
他者を過剰に慈しむ想いも、
己を犠牲にすることに歓びを感じる自己犠牲心も、
身を焦がすほどに存在する『優れている者』や『可能な者』への嫉妬や憎悪に比べれば吹けば飛ぶようなものだ。
毎日毎日自分の限界に向き合いながら、これが正しいんだと錯覚するように自分を騙し欺き、
本当に欲しい己が得ることができず他人が簡単に得ているように見える、
羨望の対象にある者に送られる賞賛から目をそらし、生きていくことの辛さに、耐えられない。
だからもう。
体験してみて、向いていないことからは、手を引くことにしたって言うだけです。
俺には、正義の味方の素養がなかった。
心が、精神が、最初からここに籍を置くにふさわしい者ではなかった。
弱さを弱さとして受け取ることも、それを強さに変えていくような器用さもない、
多分、どこにでも存在する、普通の人間なんだと思うから、手を引くんです。
自分には、ここの居心地は、余りにも悪すぎた。
だから……俺は、正義の名前を冠すのは辞めることにしたんです。
やりがいも、意義も、もう何も存在しないことを認めてやりたくなったから」
言葉を紡いでみて初めて、やはり自分の中に存在する強い"苛立ち"を意識する羽目になった。
己の中に存在する、この世界への道理に対する感情の中で、
一番強いものが"怒り"であると、認めざるを得ない。
理不尽で、曖昧で、暴力的で、排他的で、内向的で、ぐずぐずに腐った秩序そのものへの、
強い強い強い強い強い怒りが、握った拳をわずかにわななかせる。
この心の在り様を、なんと呼べばいいのだろう。なんと認めてやればいいのだろう。
"正義でない"ことを認めるのだとすれば、正義でないものを、なんと呼べば慰みになるのだろう。
在野に下り、公安委員でなくなり、何者でもなくなった後に己に価値を見出すとすれば、
城戸良式は、なんと呼ばれるべきなんだろうか。
「俺はだから。
……正義の味方が、嫌いなんですよ。多分。
俺には、最後まで理解ができないものだったから」
『………』
端末に。
静かに言葉を告げる。
端末の上長は、俺の言葉を最後まで無言で聞いていた。
ご案内:「公安委員会・査問室」から城戸 良式さんが去りました。
ご案内:「委員会街」に持流 童男さんが現れました。
■持流 童男 > 少女とともに一緒に来たはいいが、戸籍の取り方がわかない・・!
異邦人だからさっぱりだ・・!!
すっげぇ悩むぞ・・!風紀委員は・・・いまいろいろ忙しそうだ・・!
ていうか僕が風紀委員だ・・!でも取り方がわからない!!
そう言って委員会街をぐるぐるぐるぐるしている。少女ははぁとため息をついてる
■持流 童男 > 「おじさん風紀委員なのに戸籍の取り方わからないんだザーコ」
ぐふぅ!!とクリティカルヒットする
うぬぬおおとしょんぼりしながら
戸籍の取り方のマニュアルを見る・・・
・ ・ ・
ぱるぷんて!頭が爆発しそうだ!!
■持流 童男 > 「くそ・・!わからせてやる・・!!」
と言ってから理解しようとする!!
知恵熱で暴走しそうだ!!
だが理解しようとするが、まだまだ時間がかかりそうだ。
■持流 童男 > 「ここがこうで・・これがこうで・・・」
と言ってる間に後ろから女の子が
「おじさんーこことここをこうしたらとれると思うよ」
と女の子が提案してきた
まさかと思い、戸籍を取りに行ったら普通にできた。
「・・・すげぇなお主!?!ありがとう!これでおぬしも正規学生でござるよ!」
と少女にお礼を言う
そして少女と一緒に夕方の帰路につく。
少女の顔は笑顔だ。
ご案内:「委員会街」から持流 童男さんが去りました。