2020/10/29 のログ
■レオ >
「…僕もそう思います」
”狡い”と言うその言葉に、少し視線を落とした。
こんな言葉を言う権利が自分にあるとは思えない。
これも”我儘”だ。
自分だって…言われたら気分はよくないだろうから。
それを、使った。
使った以上、関わらなければ相手にも失礼だろう。
「…そう、ですね。
僕が見て来た方々も、死にたい…生きる事に執着しないって人は、大体そうでした」
それは、自分も同じだと思う。
今はすこし、変わってきてるのだろうけど……
根本はまだ、そこまで前向きじゃない。
今だって、荒縄で首が締まるような感覚を覚えているから。
幸せであるほど、それでいいのかと自分を責め立てる何かがいるから。
だからだろう。
この人の不安定さが気になるのは。
同族意識にも近い……何かが、あるのだろう。
「彼岸花、ですよね。
秋辺りに極東なんかでよく見かける…
それ以外は、あまり知りませんけれど」
花はそこまで詳しくはない。
見舞いの品で買う機会は何度かあったが、その詳しい生態や花言葉等は、聞いた分程しか知識がなかった。
■燈上 蛍 >
レオが蛍に触れた時も、それは拒否反応に似た何かだった。
精神的にも肉体的にも他人に触れられることに、この青年は全くと言って慣れていない。
故に燈上蛍が行うのは、台本を読んで演じる(ロール)するかのような、
表面上の交流でしか無かった。
「…彼岸花は、日本では不吉の花なんですよ。毒もあります。」
冷えた声で、青年は告げる。
レオの眼前に生成された彼岸花は、その手に取られないまま、
ぱさりとワックスがけされた綺麗な床の上に落ちた。
「別名は1000以上ありますが、葬式花、死人花、地獄花…捨て子花。
どれも良いイメージのあるような言葉ではないんです。
そんな花を生成出来る子供が生まれたとして……どうなるかなんて、分かり切った話でしょう?
自分が世界一不幸だなんて話でもなんでもなく、
今の時代では、ありふれたつまらない不幸話ですよ。」
花言葉も、別名も、その毒も、何もかも。
あの世に咲く花とすら言われるのだから、死に誘われるのは最早、自然なことでしかない。
■レオ >
「……毒、か」
落ちた彼岸花を見て、思案する。
人間の風習、というものは……意外と根深い。
そこに論理的な何かが無くても『これまでこうだったから』なんて理由で信仰されているもの、逆に迫害されるものは……あまりにも多い。
大変容で世界情勢が変化し、科学の発展速度が緩やかになって……異能と呼ばれる”法則を無視したもの”が増えた事で、そういった風潮が強まった場所は幾つもあると……何時か師匠が言っていた気がする。
この人も、そんなところの生まれなのだろう。
そして、そんな”些細な差別”が……
生まれたばかりの子供の時から続けば、人は簡単に、歪むのだと思う。
ありふれた話は、されど当人にとって、重要な出来事なのだ。
「……燈上先輩の彼岸花にも、毒があるんですか?」
■燈上 蛍 >
「…ありますよ、毒。僕が食べても僕には別に効きませんけど。」
毒は球根部分が一番多いとはいえ、そのものにも多少は含まれている。
青年が生成する彼岸花に球根は無い。花に少しばかり茎がくっついているだけ。
《大変容》で秘匿とされていた魔法、魔術が世に広まったことで、
そういった『謂れ』が意味を持ち、迫害に対して拍車をかけた所も…きっとあるのだ。
青年の生まれ生きた場所が、そういう所だったのかは、分からないが。
この青年は、それを重要視しないことで、どうにか生きて来た。
『ありふれた話』なのだから、『なんでもないことなのだ』と。
『どこにでもある話』なのだから、『自分もそうなのだ』と。
そこから目を背ける為に、己の本に対して興味を失ってしまったのだ。
「…これで満足ですか?」
■レオ >
「……」
毒がある、と聞いて、その花に視線を向けて。
「……そうですか」
その花を、そっと手に取る。
赤く、綺麗な花。
でもそれには、毒があるという。
美しさと、危険の二面を持つ花。
「確かに……ありふれた話、なんでしょうね。
でも……」
今の時代において、確かに、ありふれた話。
誰もとは言わないが、多くが同じような歪みを抱えている。
だから――――
「……僕はそれがどうでもいい話とは、思わないですよ。
だってそれは……皆同じなんですから
僕だって、燈上さんだって、変わらない。
この島で、この世界で……変わらず”ありきたりな話”ですよ。
…だから、どうでもよくないんです」
世界の危機も、個人の問題も、等しくありふれた話。
そういう世界で、生きている。
だからどれも、この世界に生きる人間にとって…変わりはしない。
毒があるという赤い彼岸花を、眺めた。
まるで自分達と、同じようだと。
■燈上 蛍 >
「………、……。」
勘弁してくれと言わんばかりに、長く息を吐き出す。
話を切り上げたい。もう読み聞かせたくない。
どうでも良いと言って欲しい。
一時の同情が一体なんの糧になるのだと。
「…どうでも良く無かったら、どうするんですか…。」
これ以上、仔細を語ったところで、
己と向き合う羽目にしかならないのだから、
燈上蛍の本から眼を背けたい青年はそう零す。
「結局のところ、死にたい理由なんてそんな所ですよ。
カウンセラーに言えば、誰だって首を縦に振るでしょう。前回の行動の理由としては。」
本を読む知識があるから、青年はこうして賢い諦め方をする。
喚いて他人に八つ当たりをするなんて馬鹿なことはしない。
■レオ >
「…世界の命運がかかってたって、その場にいなかったらそれは……ただの他人事ですよ。
個人の小さな感情だって、目の前にあるならそれは、自分以外に関われない事かもしれない。
…結局、それだけです。
…僕と燈上さんは、朧車との闘いで…それ以前から”関わってしまった”。
無かった事にはならない。
だから”関わってく”だけです。
……嫌な言い方、しちゃいましたしね」
少し苦笑して、目の前の先輩を見る。
死にたいと思う青年。
それを、ありきたりだと。
どうでもいいと、言ってのける青年。
自分もそうだ。
どうでもいいと思っている。
いや…いた、という方が正しいのかもしれない。
どうでもいいなんて、もう…思えなくなってしまった。
他人と関わったから。
関わりを、得て”しまった”から
「『死を想え』
…僕の今の、大事な人の言葉です。
どういう風に、貴方は捉えますか?」
自らが関わってきたから、受けた言葉を。
目の前の先輩に、訪ねる。
■燈上 蛍 >
「………そうですね、僕は結局、運命だの宿命だのには抗えないというだけは分かりますよ。
貴方に『哀しい思い出』を突き付けて、自分の『哀しい思い出』とも対峙しなければいけない…。」
あらかじめ決まっていることだと、そう思わなければやっていられない。
何一つ、自分が思うように行くことなんてありはしない。
これも全て脚本のうちだと、そう思わなければ。
関わりを得たいと思わない。
心をざわつかせるような関わりを得たいとは思わない。
クロロとの問答とは違う。
彼の言葉は、どこか心がざわつく。
だから。
「…『感動的な言葉ですね。』」
とんでもなく、何の抑揚も無い言葉が出てしまった。
台本の台詞を棒読みするかのような、何も見ていない瞳で。
「……………、………。」
そうして、顔を彼から逸らした。
言葉の意味が分からない程馬鹿じゃない。
分かってしまうからこそ、自分に向けられても困るのだ。
それは、レオに向けられた言葉でしかないのだから。
■レオ >
「…どうなんでしょうね。
僕は……嫌だな。
決まってたなんて言うのは。
そうだったら、僕はきっと…それを決めた神様を一生許せないです」
自分の事だけなら、そう思うのもありなんだろうけど。
多分それが決定的な違いだと分かってても、言わずにはいれない。
これが運命だというなら……
――――きっと言葉は伝わらない。
この人は、心を閉ざしている。
人の機微にそんなに敏い訳でない自分だって分かる位に。
嫌がるのが、分かっている。
そう分かってて関わるのを続けるのは……酷いんだろうな
「……」
人を変えようだなんて、おこがましい。
”我儘”だ。それも、性質の悪い。
「僕はそろそろ戻りますね。
色々、聞いてすみません。」
そう言って、軽く頭を下げて。
「……”僕は関わりますよ。”
燈上先輩のせいで怪我、してますからね」
笑みを作って、そう言い残して立ち去る。
最悪だ。
一度、弱みに付け込もうとしたら……こんなにも簡単にそれを重ねれるのか。
自分の醜さに、泥を口に含んだような吐き気を催した。
■燈上 蛍 >
去っていく彼を、鈍い光を宿した瞳で見送る。
何も言うことが出来なかった。
飲み込めない感情を冷静に抑え込むだけで、精一杯だった。
心を閉ざさなければ、何を言い出すか分からない。何をしてしまうか分からない。
こんなところに『火事を呼び込んだ』って、自分の立場を悪くするだけだから。
カミサマを許すだの許さないだの、何をどう喚いたって、変えようのないことだ。
異能は個人の資質。在り様そのもの。
だからどうしようも無い。どうしようもなく、決められていて逃げられはしない。
相手が去った所で盛大に溜息を吐き出して、燈上蛍の本を仕舞いこむ。
首の締まるような思いだった。
「……疲れた…………。」
ふいに零れた彼の本音は、誰に聞こえることも無く──。
しおりを挟んだ本の続きを読む気にも慣れないまま、休憩時間が過ぎて行った。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」からレオさんが去りました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から燈上 蛍さんが去りました。