2022/03/01 のログ
ご案内:「風紀委員会本庁 とある資料室」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「風紀委員会本庁 とある資料室」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■月夜見 真琴 >
青色にこんな感情を抱くようになるなんて、
この島に来るまで考えたこともなかった。
■月夜見 真琴 >
既に陽は落ちていた。
そんな時間にも明かりのついている窓が多いものだから、
庁舎内から臨む外は案外はっきりと輪郭を浮かび上がらせている。
見慣れた光景を横目に歩み、指定の資料室へ。
明かりをつけた。
足早に歩を進めながら、ポケットから鍵型のメモリを取り出す。
身廊を進み、中央のパネルに設えられたソケットにそれを差し込む。
処理は数秒もかからずに完了する。
「わざわざ手ずからやらせるのも、ペナルティのうちなのかな」
溜息をひとつ。
手応えもない。感慨は――ないとはいえないが。
もう用はない。くるりと踵を返して、元来た道を戻ろうとした――
■芥子風 菖蒲 >
風紀委員会本庁の廊下。
既に日は落ちているが秩序機構に眠りは無い。
有体に言えば夜勤族の時間である。良い子は寝る時間。
何処かの明かりのついた部署では死んだ目でパソコンを叩いていたり
報告書まとめに追われていたり大変だ。
「……なんだか久しぶりにきたような……テルミナス……?」
ここ最近目まぐるしい勢いだった。
斬奪怪盗騒ぎに諸々、入院まで重なった。
短期間の連続入院のせいか、見慣れたはずの廊下さえ何処か懐かしい。
通り過ぎる部署から聞こえるのは、またどこかの違反組織の名前なんだろうか。
相変わらずこの島はトラブルが絶えないようだ。
ある意味やりがいもあると言えばそうだが、望むようなものじゃない。
少年は顔を顰めるも首を振り、気を取り直した。
そんなこんなでようやく時間が出来たので
風紀本庁の資料室へと赴けるようになったわけだ。
とある人物を調べようとした矢先に忙しくなって忘れかけていたが
ふと思い出して夜遅くまで戻ってきたパトロール帰りだ。
「……こっち、だっけ?」
少年は何方かと言うと直感型。
当面で担当した事件以外の資料なんて目を通した事が無い。
というより、余りこういう所に出向かない比較的脳筋。
「資料室」の札を見つければキーに翳すIDカード。
風紀委員でなければ入れない仕組みだ。自動で開いたドアの先には……。
「────、──…クロエ姉さん?」
真白の君が其処に居た。
あの白い少女の姿が重なり、思わず青空は見開かれた。
けど、違う。
雰囲気も見た目も何もかも、あれは彼女じゃない。
そう、違うんだ。ゆるく首を振れば、改めて青空の双眸が相手を見やる。
「えっと、お疲れ様。アンタは初めまして……だよね?
ごめん、ちょっと色合いが知り合いに似てたから、つい……」
■月夜見 真琴 >
レンズ越しに、ゆっくりと銀星が瞬いた。
振り向いた先にいた少年のことを、自分は知っている。
青い色――
「ああ、お初にお目にかかる。
風紀委員の、」
そう言いかけて、一瞬だけ言葉がとまる。
開きかけていた唇はすぐに、
「――月夜見だ。 クロエ、というのは、同じ委員の?」
居たかな、と考えるように視線を泳がせてから、彼のほうへ歩み寄る。
自らの顎に手を添えて腰を折り、下から見上げる姿勢。
日本人の男子としては少し平均より低く見える彼よりも、自分は更に小さかった。
「やつがれはおまえのことを知っているよ。
芥子風菖蒲――佐藤四季人の事件を終わらせた。
それ以外も目覚ましい活躍ばかりの、新進気鋭の委員だと」
佐藤四季人。
《ダスクスレイ》はもういない。
資料に綴じられている情報は、《連続殺人犯の佐藤四季人》であり――
《ダスクスレイ》の忌み名は補足としてふれられている情報だった。
■芥子風 菖蒲 >
「…………」
初めて聞いた名前だけど、聞き覚えがあるような無いような。
……自分の知っている何処か無垢で儚げな白とは違う。
何というか、不思議な感じだ。こんなに真っ白なのに
なのにどうして、こんなにも妙な胸騒ぎがするんだろう。
少年は勘がいい方だが、杞憂に済むならそれでよかった。
彼女の問いかけに、ふるふると首を振る。
「違う。オレの姉さん。義理の、だけど……」
空けた扉を閉め、歩み寄る彼女を不思議そうに見やる。
青空に映る白銀はとても綺麗だと思えた。
あんまり感じた事の無い感覚だ。何と言うんだろう。
扇情的?蠱惑的?よくわからない。
まるで、自分を品定めするように見る視線に首を傾げ、ふと思う。
「なんか、久しぶりに顔を上げてないや」
別にそこまでこだわりはないけど、自分は小さい自覚がある。
結構見上げる事は多いけど、久しぶりに目線が下。
こんな感じなんだなぁ、という新発見。
悪意は一切ない純一無雑な声音で、何処となく優越感。
気にはしない。気にはしないが男の子。
ちょっと背伸びしたいお年頃。
「オレの事を?……そんなに有名人になった覚えはないけど……」
ただ、その名前を出されると少しむ、と表情が強張る。
比較的感情の起伏は少ない方だが、此ればかりは別だ。
あの事件の結末で手は尽くした。やれることはやった。
ああなってしまった以上仕方ないが、納得しているわけじゃない。
余り他人に、部外者にとやかく言われるような事じゃないからだ。
身も知らない相手だからこそ、要するに身構えている。
「新……?よくわかんないけど、オレはただ、自分の護りたいものを護ってるだけだよ。
それとも月夜見は、あの事件でオレに言いたい事でもある?」
じ、と青空は相手を見やる。
■月夜見 真琴 >
視線を横に。真っ白い髪。
色の抜け落ちた抜け殻に誰かを重ねられたのは――初めてでもなかったが。
義理の姉、というだけでも、少し込み入った事情が伺える。
そしておそらくは、しばらく会えていない――?
「そうか」
裏側はさぐれても、心当たりもなければ、探偵をやっているわけでもない。
曖昧な微笑で、人違いについてはそこで話を打ち切った。
問うべき責任も発展性もないように思えた。
「あの事件はそれなりには騒がれていたのだよ。
やつがれのような者の耳にもとどくほどに。
もうすっかり巷は多事多端の忙しさにそれを忘れているようだが――
ああいう手合を討ち取ったともなれば、名は知れる」
風紀委員会、それも鉄火場で何かを成し遂げたならば。
手を打っていない限りは、名が通るのは避けられない。
否応なく。
しかし、問い返されると、背筋を伸ばして首を傾げた。
「そうさな――」
少し考えるように視線を泳がせて。
「言いたいことがあるなら言っていい、と受け取らせてもらうが。
どちらかといえば質問だな。
あの事件のあと、周りはおまえにどう接した?
たとえば褒められただとか、どうとか――興味があるんだ。教えてほしい」
害意もなにもなく。
しかし面白がるわけでもない。
ただ静かな微笑をその貌に貼り付けたままで。
■芥子風 菖蒲 >
彼女は微笑んでいた。
人当たりの良さを醸し出すこの感じ、とても似てる。
そうだ。自分の"母親"によく似ているんだ。
人の好さにある何かの"裏"を感じずにはいられない。
ただ、母は悪意と善意の二面性。
その白雪が積もった底が見える訳でもない。
「……やつ……?……何?ヘンな名前」
世の中には一人称を自分の名前にする人はいる。
聞きなれない一人称は大体そうだ。
だからって、別にそれは彼女の名前じゃないぞ。
少年の中で、月夜見 やつがれたる人物が形成されようとしていた。
「どう、って……褒められたりはした、けど……」
結果はどうであれ、事件に終止符を打ったのは自分だ。
これ以上、斬奪怪盗によって悲しむ人は増えない。
風紀委員としてそれは褒め称えられるべき事象だろう。
「オレは納得したワケじゃない。
もっと上手くやりたかった。……というか、ヘンな奴だな。アンタ」
「そんなこと知ってどうするの?」
だからこそ少年は困惑した。
周りの評価なんて些細な事を問いただす彼女に。
そう、本当に一時の間だ。以降は彼女の言うように
時間と共にいつも通りに戻っていく。
言ってしまえば"日常的"なものなのだ。気にした事さえなかった。
「……というか、やっぱりヘンなんだな。月夜見は。
"自分の様な"って言うけど、風紀委員ならちょっと調べればわかる事だよ」
ただの自己評価と低さとは違うニュアンスに聞こえた。
少年の勘だが、ただ彼女は一風紀委員としては何かが違う気がした。
更に一歩、少年は月夜に踏み込む。
「……アンタは何者?」
青空は静かに、夜に問う。
■月夜見 真琴 >
「ふふ」
勘違いの訂正は、あえてせず。
けど、と言い淀んだ瞬間に、彼にもわかるように目を細めた。
「端的に事実だけを列挙するならこうだ。
連続強盗殺人犯を殺めた者が周囲に褒めそやされたと。
おまえの周りの――現在の風紀委員会がどういう様相なのか、
それを確かめたかっただけだよ」
穏やかな微笑は、そう構えるなよ、と緊張を解きほぐそうとして、
その喉からころころと愉快げな笑声がこぼれた。
本音を言っていないことを、あえてわかるように嘘っぽい笑顔をつくったままだ。
「"やむを得ずに斬殺"という記録は、しかし正確ではないようだな。
自分でそう申告したのか?青紙《デッド・ブルー》に?」
青い色。
胸に重たい感情が蟠る色。
人を殺した時に書かされるという、アレだ。
「うん? ああ。 やつがれはな、事件には関わらせてもらえないんだ。
どうしても一拍、おまえたちのような者より情報を手に入れるのが遅れる。
だから頼るのは己の耳と友人、噂のネットワーク――情報網。
派手な事件《ヤマ》であればあるほど、現在進行系で耳には入ってくるが」
なんと応えたものかな、とわずかに考えたのち。
「いるだろう?
"監視対象"とかいわれてる、そういう連中。
やつがれもそうだった。《嗤う妖精》、月夜見真琴。
おまえが今いる場所に、残ることを許されなかった者さ」
肩を竦めて、自嘲気味に笑った。
■芥子風 菖蒲 >
「…………」
正直彼女の言ってる事の真意は理解していない。
彼女が何を言いたいのか、その全てを理解した訳じゃない。
「けど、月夜見が思ってるほどじゃないと思う」
ただ、彼女の思うような組織になっているかは別だと思った。
確かにあの結果は最善とは言えなかった。手放しに喜べるものじゃない。
当事者である自分は良く知っている。
けど、周りがどう見てるかはともかく、一つの事件が終わった事は喜ばしい事だ。
この常世島は相変わらず問題が絶えない風紀需要真っ盛り。
自分は決して喜べないけど、喜ぶ気持ちだって理解出来るつもりだ。
だから、そう。
「──────"佐藤 四季人は、オレが殺した"」
ハッキリと言った。
言い淀む事は無く、何処までも青空は真っ直ぐで。
「オレがもっと上手くやれてれば、アイツは生きてたよ。
"やむを得なかった"ってのは、言い訳だよ」
報告の結果、周りがそのように処理した。
確かに明確な殺意を以て初めから彼を殺しに行ったわけじゃない。
犯人確保のために尽力した結果がこれだ。
あの深い青に刻まれた言葉は強ち嘘ではないが
"たられば"で言っても仕方ない。
「生きて捕まえたかったけど、オレには出来なかった。
……月夜見は、オレを責めに来たの?」
非難では無い、興味による問い掛けだ。
非難であれば甘んじて受け入れよう。
「監視対象……?風紀委員なのに、事件に関わらせてもらえないの?」
そう言えば何かの資料で見たことあるような、何だっけ。
まあいいか。監視対象と言う事は、名前通りなんだろう。
風紀委員に似つかわしくない称号。
彼女は不自由と共に、風紀に所属している。
仕事が出来ないと言うが、これは彼女の言葉を信じるなら
"させてくれない"んだろう。彼女の能力の有無はともかく
彼女を風紀の関わる事件に関わらせたくない。
なんだか、変な感じだ。
少年は非常に訝しげだ。
「月夜見 真琴……あれ?やつがれは?」
名前じゃないのか。今気づいた。
まぁ、それはともかくとして、その自嘲気味な笑みには目をぱちくり。
「……そっちとかどっちとか、今いる場所とか。
正直オレにはよくわかんないけど……心残り?みたいなのがあるの?」
■月夜見 真琴 >
黙して聞いた。
彼の言い訳を。
そして、
「おまえは敗けたのだな」
問いかけに対して、くちを開いた。
甘い声は、しかしかすれて、しぼり出すように。
「佐藤四季人に、ではない。
"犯人《ホシ》を死なせた"という事実に。
勝者のいない戦いだった。
島民の、生徒の、教師たちの――日々を暮らす無辜の人々は守られたといっていいだろう。
だが、だからなんだというのか。
どこまでも他人でしかない者たちがが立っている石垣に、
死体をひとつ埋め立てただけだというのにな。
本当に良いことをしたなら、気持ちが晴れない――なんていうことはない。
ちがうか?
ちがわないな。
佐藤四季人もそうだったはずなのだから。
死ななければ、明日を生きられたのかもしれないのだから。
間引いたんだ――いらないものを。
おまえを責めてはいない。
その気もなければ、やつがれにそんな資格もない。
ただ、この事件が"こう"終わったから、」
息を大きく吸い込み――吐いた。
肩が落ちた。
「やつがれは風紀委員会《ここ》を去ることに決めたんだ……」
灯火の吹き消えるが如くに。
心残りがあるのかと言われれば。
この事件がこう終わったから、消えたのだと応えられる。
「《嗤う妖精》は、今さっきいなくなったよ」
掌のなかで、鍵型のメモリを転がした。
握り込む。
指を立てて、にこりと嗤う。
「やつがれ――これは祖父をまねた一人称でね。
応えたのだから応えてほしいな。
どうすればよかったと考えている?
おまえはなにを間違えた?
おまえはどうすればよかったと考えているんだ?
どうして佐藤四季人を死なせてしまったのか。
それを聴かせてほしい。
幾らか疑問は解きほぐせてやれるかもしれない」
■芥子風 菖蒲 >
「……かもね」
風紀委員は決して殺人集団ではない。
そして、戦闘"だけ"の集団ではない。
犯人を捕らえ、更生の機会を与える司法そのもの。
そこに学園と言う体制を敷かれている以上
万人の生徒に須くそのチャンスはある。
それを"止む無く"潰してしまう事が無い訳じゃない。
勿論意図的に芽を摘み取る輩もいるんだろう。
風紀も一枚岩ではない。彼女の言う事は尤もではあった。
ただ、"不愉快"だ。
少年の感情の起伏は乏しい。
そんな少年だからこそ、む、と眉を顰めた。
「良い事でもないし、オレはずっとアイツの事を考えてる。
まだ答えは出ないし、何をどうすればよかったかもずーっとグルグルしてる」
「けど、だから"忘れない"事にした。
オレが殺したんだ。罪?咎?……だっけ。
アイツが"生きたい"って思った分も生きないと」
何処まで言ってもそれは結局"たられば"でしかない。
甘く、絞り出した声音はきっと"失望"なんじゃないかと思った。
彼女の問いかけに今の自分は、もしかしたらこれからも答えられないのかもしれない。
だからこそ、"進む"と決めた。
被害者<はんにん>の願いは加害者<じぶん>だけが知っている。
それを贖罪とは言わないけれど、何もしないよりはマシだから。
だから止まらない。
だからこそ、"不愉快"だ。
「……あのさ」
「別に月夜見も皆も、オレがやった事をどう思ってもいいよ。だけど」
「オレを『理由<いいわけ>』みたいに言わないでよ」
不機嫌そうに、吐き捨てた。
彼女の事を深く知るはずもない。
ただそれは彼女も同じだ。
行くも去るも彼女の自由だが、その言い草は聞き逃せなかった。