2019/02/02 のログ
ご案内:「学生通り」に清姫 藍紗さんが現れました。
清姫 藍紗 > 人混みはあまり、好きではない。
ざわめきもそうだし、肌が触れ合うのもあまり好まないし、ぶつかった時に相手を怪我させてしまうのもあまり気分はよくない。
だから、少し人が減った遅い時間に一人、帰宅することの方が多いのだが。

艶めく黒髪を揺らしながら、少しだけ速足で学生通りを歩く女生徒が一人。
女生徒、というよりは女と現した方が的確な大きな身長と大人びた雰囲気。
人を寄せ付けぬような冷たい目をしながら、道を急ぎ………

「……ぅ。」

その足が、じわりと鈍くなる。
体温が次第に下がっていく感覚。壁を容易く蹴破れる足に、鉛が注入されていくような。

寒さに極めて弱い彼女は、速足から普通の速度に。
そして何か物思いに耽るような速度へと変わって、学生通りの端を歩き続ける。
………寒い。

ご案内:「学生通り」にヘンリーさんが現れました。
ヘンリー > 定期考査前だというのに、男は勉強もせずに学生街をフラフラと歩いていた。
見知った顔の女生徒が通りかかればひら、と片手を挙げてみたり、話掛けに行ってみたり。
そして、彼女に声を掛けたのもその一環だったのかもしれない。

ぐい、と、歩くペースが遅くなる少女の肩に優しく触れる。

「……大丈夫? 具合でも悪い? 保健委員に連絡、入れようか」

ひどく心配そうな顔をして、長く伸びた尻尾のような金髪を揺らす。
長身の彼女と変わらない――ほんの少しだけ高い背丈の男が、顔を覗き込む。

「具合、悪いんならムリしないほうがいいよ。……背負おうか?」

幾つもの質問が投げかけられる。
ストレートの黒髪の下に覗く瞳の様子を窺って、大型犬のような男が彼女に尋ねる。

清姫 藍紗 > 肩に触れられれば、すい、と視線を向ける。
見る人が見れば冷たく、教師陣ですら言葉に詰まることもあるその瞳が相手を射貫く。
無自覚。

「……具合は、良くはないけれど。今から帰るところだから。」

大丈夫、とは言えない。
このペースで歩いていけば、まず間違いなく途中で遭難する。
顔を覗き込まれれば、視線をふい、と横に向けて、周囲を軽く見まわし。
恥ずかしくもあるのだが、元々肌が白く、なおかつ体温低下で更に白いため、全く普段と変わらなかった。

「背負う。」

相手の言葉を一言だけ反復して。……少しだけ吹き出した。

「………言われたことが無かった言葉ね。それこそ無茶しない。
 じゃあ、………そうね。」

少しだけ考え込みながら、ポケットから小銭を取り出して、氷のように冷たくなった手で渡そうとしつつ。
道の反対側にある自販機を見やる。 

「暖かい飲み物が欲しいわ。 貴方のチョイスで構わない。」

道幅程度の距離だが、それもしんどいのだ。それは言わないけど。

ヘンリー > ありゃ、こりゃ嫌われちゃったか。男がその視線を向けられて第一に思ったのはそれだった。
冷ややかで、細剣のように人を見据えるその視線。だが、男は生憎とそういう視線には耐性があった。
異能でもなんでもない。それは、ナンパ男が自然に獲得してしまうものだった。
だから、男は気にしない。気にせず、彼女の口が紡ぐ言葉を待って。

「無茶じゃあないさ。それこそオレ、結構鍛えてるんだぜ。
 こういうときに女の子の一人や二人、背負えなかったら男が廃る、って――」

「飲み物。飲み物ね。待ってて」

両手で、包み込むようにして小銭を受け取る。
セクハラと言われてしまえばそうです。としか言いようがないが。
小銭を落とさないように、という建前で。体温の高い両手がひやりとした手を包んだ。
すぐに小銭を受け取れば、手を離す。歩幅の大きい男の一歩であれば、距離は大したことはない。
ガコン、と音を鳴らして落ちてくるコンソメスープ。具合が悪いのであれば、と、粒入りのコーンスープより、というチョイス。

「ほい。家、どのあたり? 歩いて帰るのしんどかったら、学生交通呼ぶけど」

学生交通。車を好む生徒たちの起こした部活動。本土で言うタクシー。
温かい缶のスープを頬にちょっぴり触れさせて。はい、と手渡す。

清姫 藍紗 > 手を包み込まれるが、特に気にした素振りは見せない。というよりずいぶんと暖かかったものだから、少しだけありがたかった。

「背負うねぇ。………背負ったことは何度かあるけど。」

嫌な顔せずに自販機に向かう男の背中を見ながら、不思議なものね、と呟いて。
戻ってきた相手から暖かい缶を、ほんのちょっと震える指で受け取れば、……男がしたように、自分の頬に触れさせて。
……ようやく表情に微笑みがちゃんと戻る。

「……助かるわ。どうにもこの寒さは慣れないものね。
 いいのよ、あまり他の人の運転する車には乗りたくないものだから。
 ………まあ、どうしようも無くなったら呼ぶけれど。」

……その上で、ありがとう、と小さく付け加えて……まだ、缶は両手で握って頬にあてたまま。

「…古書店街ね。大丈夫よ、こう見えて頑丈だから。」

ヘンリー > 「そっか」

男からすれば、女性になにかを頼まれれば、その時点で断る理由はない。
美人が自分を頼ってくれた。であれば。であるのなら、それは自分のやるべきことの優先順位一位であることに違いない。
当たり前のことを当たり前にしただけ。だから行動のどれもが特別ではない。

「おねーさん、手、冷たかったもんなあ。あっためてあげようか。
 それなら古書店街まで付き合うぜ。具合の悪そうな女の子をほったらかしにはできねーし。
 美人さん、名前は? オレはヘンリ。ヘンリー・ローエンシュタイン。ヘンリって呼んでよ」

されどその行動に礼を言われれば、男は照れ隠しのように冗談を言ってみせた。
今度は意図的に。オレの手、いま空いてるよ、なんて笑って。

「ま、いくら頑丈でもさ。女の子なんだから自分には甘いくらいがちょうどいいと思うぜ。
 女の子はお砂糖とスパイスと――なんだったかな。それでできてるんだから」

軽口に隠した「ムリすんな」の言葉は軽やかに。
清姫の微笑を眺めれば、いいもん見た、と胸中に潜める。イイ顔すんじゃん、なんて独り言ちて。

清姫 藍紗 > 「大丈夫だって言ってるのに。 調子のいい人。」

そっと両手で握った缶から手を放して、額を指先でつん、と突いてやる。
デコピンしたら大変なことになった記憶。つんつん程度。

「清姫藍紗"きよひめ あいしゃ"。清姫でいいわ。
 ヘンリね、調子のいいヘンリ。」

缶を受け取った時のほっとした微笑みではなく、少しだけクールさを取り戻した微笑のまま、もう一度額をつんつくする。
余裕がある時は大人の顔に戻るらしい。

「それは後輩にでも言ってあげなさいな。 今の私はコンソメスープ10割の女だから。
 ………付き合わせるのも悪いわ。貴方は家はどこなのよ。」

ヘンリー > 冷たい指先――ほんのりと熱をもった指先が、額を小突く。
軽く笑って。肩を竦めて、何のことやらといった表情を浮かべてみせる。

「キヨヒメね。オーケイ。覚えた。忘れない。
 コンソメスープに盗られるくらいならもっと別のにしておけばよかったかな。よかったな。
 これで調子がいいなら、オレはきっと調子の悪いときは1秒たりとも存在してないさ」

愛らしいとも違う。言うのであれば、綺麗と表現するのがきっと正しいのだろう。
艶のある黒髪。艶やかな仕草とモデルのような整った四肢。
頭の上から下まで、味わうように――軽薄さで覆い隠したまま、存分に堪能すれば小さく咳をして。

「んなこと言ったらオレ、あと2ヶ月は誰にもこういうこと、言えなくなっちゃうぜ。
 死活問題になるのは困るし、オレが今一緒に歩いてんのはキヨヒメだからなあ。
 悪いとか思うなよ。趣味なんだ。オレは――そう。歓楽街のほうだからさ。
 用事もないし、オレが付き合いたい、って思ったんだけど。……付き合わせてくれない?」

「ああ! 気持ち悪いとかなら、手前とかまででも全然いいぜ。
 キヨヒメが具合が悪くなかったら、家まで遊びに行っても? なんて言ってたんだけどさ」

子犬のように。首を傾げて、自分でも自分がいまどんな顔をしているのかをわかった上で。
この男は、清姫に笑いかける。オレがキミにお願いしてるんだけどさ、なんて言って。

清姫 藍紗 > 「貴方って人は。」

それだけ呟きながら、少しだけ肩をすくめる。
缶からスープを少しだけ身体に入れれば、じんわりと暖かさが芯に入って。
相手が自分を見つめていることは気にせずに、目を閉じて白い呼気を漏らし。

「本当に調子がいい、人。」

缶から手を放して、相手の長い金髪の端を摘まめば、くい、とかるーく下に引っ張ってやる。
ふふん、と少しだけ微笑みを浮かべて。

「いいわ、家まで送ってもらって茶の一つも出さないわけにもいかないもの。
 実際まあ、………調子は悪かったけれど、温まれば元に戻ると思うし。」

視線や指先よりは、言葉は冷たくはない。
家に入ることもあっさり許容を示して、片目だけ閉じてウィンク一つ。

ヘンリー > 「それは『次』までとっとくよ。
 あんだけ歩き方までゆっくりになるくらいしんどかったんだろ。
 どこの馬の骨かも知れない男を接待するよりも、ヒーターの前で暖まったほうが絶対にいい。
 それに、オレの主義が許さないのさ。女の子とのデートは、お互い本調子じゃないとな」

引っ張られるがままに、横目で先程よりもいくらか元気そうな清姫の顔を眺める。
微笑み。笑顔。輝くもの。男にとって、最も重要視しているもの。女性の笑顔。
ちょっとだけ満足気に息を吐いて、また肩を竦める。

「こっちでいいんだよね? 古書店街って。
 寮とかに住んでるわけじゃないんだな。ってことは、もしかしてバイトは本屋さん?
 なんか、似合う気がするな。エプロンつけて、古い本に囲まれてるの。
 あんま本とかは読まねんだけど。……オススメとかある? あ、ていうかそもそも合ってる?」

矢継ぎ早にする質問。
恐らくの自分の記憶を遡って、片手で数えても余裕があるほどしか行ったことのない古書店街に向けて歩き始める。
さりげなく彼女よりも内側を歩いて。彼女にすれ違う学生がぶつかったりしないように、半ば無意識的な癖で。

清姫 藍紗 > 「………気にするものでもないわよ、私はそういう感じなの。
 本調子じゃない日が360日くらいかしら。 だからここに来たようなもの。」

相手の言葉に答えながら、先ほどよりは足取りもはっきりする。
前を向いて歩いていれば、先ほどまでと同じく冷たい、そっけない雰囲気になってしまうけれど。

「バイトというより、店長よ、店長。 事情があって閉店した店の跡地に住むことになっただけ。
 ………何もせずにいるより、何か仕事をしていた方がいろいろと都合がいいもの。趣味のようなものね。
 いろいろあって、古い本や古いアンティークを見ることが多かった、ってだけだけれど。」

よく喋るのを疎ましく思うかと言えば、実はそうでもない。
誰かと歩くと大体無言になるので、有難いくらい。それが表情や態度に出ないのだけれど。

「……あ、こっちよ。」

ちょい、と相手の服の裾を摘まんで、こっち、と道案内。
やっぱりしばらく経てば冷えてくるのか、変わらず肌は白く、指は冷たいままで。