2020/06/21 のログ
■小金井 陽 > 「んー、あー、うん。すっげぇ好きなんスね、べた惚れ具合が言葉の端々のグラニュー糖っぷりから伝わってくるッス。」
しかも使われてる砂糖は最上級で10tトラックでも足りないときたもので。
こりゃ止まらんと諦めて、ついてきてくれる恩義もあって長時間の砂糖拷問に耐える姿勢…
「そうッス。試食に付き合ってくれた女生徒の後輩ちゃんなんスけど、その子もうまそうに食ってくれるから作りがいたっぷりだったッスね!
……あと、人の努力や研鑽に敬意を払える子だって思ったッス。信頼していいんじゃないスかね。」
群千鳥睡蓮に対する陽の印象を、朗らかに笑って伝える。
「あー、顧問ッスか。今の所それがまったく当て無いんスよねぇ…りおっちに相談かなぁ…」
頭をかりかりかきながら、その問題についても悩みだす。そう、まだまだ問題は山積しているのだ。
もっともっと、経験を積まなくてはいけない。…この小さな古ぼけた洋菓子店の、尊敬する老人のためにも。
「……うっへぇ………」
あまりにダダ甘い右ストレートにくらくら…
すでにグロッキー気味だが、年の差恋愛にガチハマりセンパイ(誤解)の甘味濁流に押し流され、半ば意識を手放しながら生返事を重ね…地獄タイムは続くのだった…!!!
ご案内:「学生通り」から小金井 陽さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から雪城涼子さんが去りました。
ご案内:「学生通り」にディカル・Grdさんが現れました。
■ディカル・Grd > 学生街、その大通りは人口密度が他よりも高く感じる。
学園からの帰りの学生も多い。
太陽も真っ赤な西日になるには少し早い。
男はいつものように派手なアロハシャツ。
CharmPoint(個性)は友好的な交流に役立つと考えていたが、
奇抜な格好はかえって避けられるだけではないかと先日、優しい教員が教えてくれた。
故に、今日は学生服を買おうと考えてきた。
祖国には、スーツ以外の場に馴染むための礼服が必要だと頼み込んだ。
そしてやって来たのが、学生服や学園組織の制服を主に扱う専門の服屋。
店内は簡素な作りで外が見える窓際に制服を着たトルソー。
幾つかの試着用の制服に受付に試着室件採寸室といった接客スペースは小さくまとまった感じだ。
「すみません、制服を夏用と冬用をそれぞれ三着ずつPlease(ください)」
どうにもお店は繁盛しているようで忙しそうだ。
実際に目にはしてないが、歓楽街の奥の方では風紀委員会が物騒な相手に大立ち回りのスーパーヒーローだという噂で事件解決に服を失った男性風紀委員もいたらしいから、
そういうところで需要というのは学園組織専門にやっている服屋にはあるのかも知れない、とディカル・グラッドピードは考えた。
■ディカル・Grd > 「普通の学生服ですね」
慣れた様子で店員のオバチャンがこちらに反応して答えた。
「普通……?」
ああ、委員会によっては専用の制服があるから制服だけでは違う可能性がある訳か。
きっと、何度かそういう曖昧な対応で発注ミスなどがあったのではないかと想像を膨らませるには少し間があれば至れた。
「私としては、個性的なFree(自由な)格好の方が好きですガ、学生なら学生らしい制服がいいみたいなので、普通の学生服でOKです」
苦笑いしながら、そう告げるとオバチャンは男のことを一度上からしたまで見た。
「……ふーん、でもいいのかい?別に校則で私服がダメな訳でもないのに」
「私は、この学園都市を勉強しに来ているので、この都市のStudents(学生たち)と仲良くしていきたいんですヨ」
そうオバチャンの問に答えれば、なんだか優しい瞳で見られた気がした。
■ディカル・Grd > 「この都市では服屋というのも大変そうですネ」
話題を変えようというのと、ちょっとした好奇心からWork(仕事)について聞いてみることにした。
「大変っちゃ大変だね。でも要は慣れだよ。羽がある奴も来るしデカイ尻尾がある奴もいる。腕の本数も足の本数も実は人間と異なる相手にも服を用意してやってくれと、まあ、上から依頼が来ることもあるからね。ま、人間向けの普通の服がやっぱ一番作り慣れてるから楽だけどね」
ほう、とやはり異邦人向けの服というのもしっかり用意し衣食住を整えているのか。
未だ異邦人街には足は伸ばしたことはない。そのうち見て回るのもいい経験になるかも知れない。
「はいよ、やっぱ海外の人はサイズが大きいね」
「Thanks(ありがとう)、いつ頃出来そうかな?」
笑顔で採寸にも体格を褒められた事にも礼をして受取日時の確認をする。
「ちょっと急ぎの仕事があるから、そうだね七日後には出来てるよ」
時期でもない急な依頼にしては早い方かなと予定を考える。
そこにオバチャンは呟くように続けた。
「制服もいいとは思うけど、自分の好きな服も大切にね」
余計なお世話か、とオバチャンは笑っていた。
■ディカル・Grd > 店を出て、走る路面バス、帰宅する学生服姿の彼ら彼女らを見る。
先程のオバチャンの言葉の意味を考えている。
もしかすると、歳離れた彼らにGenerationGap(世代違い)を感じるのが怖くてアロハから逃げようとしていたのではないか。
私にとってのアロハシャツとはなんだ。
答えは未だ見えない。
この日のアロハシャツは街の風に揺れる。
ご案内:「学生通り」からディカル・Grdさんが去りました。
ご案内:「学生通り」に修世 光奈さんが現れました。
■修世 光奈 > 『ああ、そんなところに落してたのか。
いや、お金は大して入ってなかったんだけど…、やっぱり不安でね…。ありがとう。光奈ちゃん』
「いいですって、そんなに大したことしてませんからー。あ、でも、今度新作のケーキ出来たら真っ先に教えてください!」
学園への登校などに使われるこの大きな道。
その通りに面した喫茶店の入り口で、喫茶店のマスターと、女学生がにこやかに話をしている。
探し物が得意、ということで通っている彼女に、マスターが財布の探し物を依頼したのだ。
警察に届け出るよりも楽で、早く、確実性も高い…そんな風に信用されている彼女は、見事にその役目を果たした。
幸い、誰にも拾われておらず、公園の…見つかりにくい陰に落ちていただけだったからこそ、何のトラブルも無く。
そして、見つけられた報酬は、この店の美味しいケーキの情報だ。
これは、支払われ次第、友達と共有しなきゃ、なんて思いながら、手を振ってその場を後にする。
(さてと、後は……、思い出のコインと、カレシからのプレゼント…、と)
ぽちぽちと携帯電話を操作して、ロックを解除。
そこに記録した『依頼表』を眺める。
彼女への依頼は、金銭的な報酬はほぼいらない。
精々が、スイーツを奢ったりする程度で、彼女は満足する。
だからこそ、様々な人…時には先生などからも依頼は舞い込んできていて。
優先順位を決めることはしないが、気分によって選んだ方が彼女の場合成功率は上がる。
だからこそ、ふんふん、と頷きながら、次はどれにしようかな、と…携帯を注視しながら、ゆったりと大通りを歩いている。
ご案内:「学生通り」にキッドさんが現れました。
■キッド > 少女が大通りを歩いていると、少しばかり鼻腔を煙の臭いで擽られるかもしれない。
煙の先にいたのは長身の男だった。
黒いキャップを目深に被り、咥え煙草のにやけ面。
ベルトに添えたホルスターに銀色の大型拳銃を添えてやや穏やかさに欠ける。
悠然とした態度のまま、少女へと近づけば軽く片手を上げて会釈する。
「やぁ、どうも。彼氏からのメールでも確認してるのかい?」
陽気な声音から冗談交じりのご挨拶だ。
■修世 光奈 > 「?」
ここは、学生が多く通る場所だ。
別に禁止されているわけではないが、なんとなく喫煙をする人は少ないイメージがある。
そこに香ってくる煙草の香り。
ふと、そちらに視線を向ければ威圧感を感じてしまう対格差の男。
「あはは、残念ながら、カレシは居ないんですよー。こうやって寂しく一人歩きです」
普通なら怯みそうなものだが、そちらに向き直って、にこりと笑いかける
「おにーさんこそ、何かご用ですか?、探し物なら、ちょっと時間かかりますけどがんばりますよ」
相手が自分のことを知っているかはわからないが、相談である可能性を考慮して話を続ける。
■キッド > 男は静かに煙を吐く。
少女にかからないように、吐く時はゆったり上向きだ。
最低限のマナーはあるようだが、学生の前で煙草を消さない辺り素行は悪そうに見えるかもしれない。
煙特有の煙たさはあるが、特有の悪臭はしない。
「おっと、コイツは失礼。それなら差し詰め、俺が白馬の王子様って所かな?」
おまけに軽薄な発言が目立つ。
本気と思えない下手なナンパ文句一つ並べて、ヘッ、と鼻で笑い飛ばした。
「なぁに、アンタがさっき走り回ってるのが目に入ったもんでね。ちょいとばかし、目をつけさせてもらったのさ。」
「確か奴さんは……喫茶店のマスター、探し物は……財布、だったかな?」
なんと、少女の先ほどのやり取りを見ていたようだ。
ふ、と男は怪しげに笑っている。
「そんなアンタに折り入って頼みがある。」
マナー悪く、煙草の灰を公園の地面に落とし、キャップの奥の眼光が少女を見据える。
「────まだ、何か探し物が残ってるなら猫の手一つ、借りてかねぇかい?」
……要するに手伝わせてくれ、と言っているようだ。
■修世 光奈 > 「えー、わたしがお姫様なら、煙草を吸う王子さまはヤだなー」
軽口に合わせて、少女もまた、強くはない拒絶の言葉を。
合わせてクスリと笑い…ただ、拳銃を持っているのを今更ながらに見つけ、少し内心ではぎょっとする。
「目って…やーだー、ほんとにナンパですか?もっとかわいい子、いくらでもいるでしょー」
この学園にはモデルと見紛う人も多い。
冗談をまた返しつつ、話を聞く。
どうやら結構前から聞かれていたようだ。
「ストーカーはお断りなんですけど…えっとー…猫の手ってことは、手伝い、ですか?」
ただ、その後に出てきた言葉には首を傾げる。
自分は特に大きな報酬などは貰っていないし、手伝っても…普通の人の観点から考えれば疲れるだけだ。
多少の達成感はあるだろうが…
「うーん、どうしてか聞いていいですか?だって私、別にお金とかもらってませんし。
あ、ごめんなさい。わたし、修世 光奈(シュウセ コウナ)です。おにーさんのお名前は?」
どうなるにしても、名前は聞いておいた方がいいだろうと、先に自己紹介を。
それと合わせて、急に手伝う、などと言ってきた相手の理由を聞こう。
■キッド > 「ハハッ、コイツは失礼。生憎、コイツと俺は切っても切れない相棒なんでね。我慢してくれ。」
指で挟んで煙草を離せば、くつくつと喉を鳴らして笑っている。
冗談めかし言ったが、強ち間違いではない自嘲だ。
白い煙を口から、吐き出し、すぐに咥え直した。
「確かに女は星の数ほどいるが……アンタ程輝く女はいないだろうな?」
ああ言えばこう言ってくる。
口の減らなさだけは凄まじい。
自身のジーンズのポケットから取り出したるは、警察手帳めいたものだ。
それが開くと、そこには学生証めいたものが挟まれている。
その上には大きく「風紀委員『刑事課』」の文字が書かれている。
「御覧の通り、こう言うものでね。理由だけ言えば、"点数稼ぎ"さ。」
歯に衣着せぬ物言いだ。
ハッキリと善意ではない事を口にする。
「いやね、此の前ちょいと同僚の……白衣の天使様を怒らせちまって
見ての通りの"ろくでなし"なモンでね。一つ御機嫌取りに善行を、って所さ。」
ふふん、と得意げに宣ってみせた。
神経は大分ずぶとそうだ。
「俺はキッド。"ろくでなし"のクソガキ、キッドさ。宜しくな?コウナよ。それとも、お姫様って呼んだ方がいいかい?」
■修世 光奈 > 「ま、別に禁止されてないですし、私がヤってだけですから」
本気で怒っている様子はやはりない。
必要だというのなら、別に至近で吸われても特に何も言わないだろう。
「あ、あはは、やだなー困っちゃう…、って、風紀委員?」
軽くそんなことを言われると、どう反応していいやらわからず、微妙な表情を浮かべていると。
相手が差し出してきたのは風紀委員の証だ。
学校に在籍しているならよく目にするそれを見て、へー、と声をあげる。
「あー…なるほど、そういう。
私も、人のためにー、とかそういう目的じゃなくて、自分が好き、ってだけですから、別にいいですよ、キッドさん
…あと、お姫様は…流石になれないので、コウナでいいです」
相手の身長から、まさか年下とは思っておらず。
丁寧に接しつつ、付いてくることを了承する。
「じゃあ、"くそがき"キッドさん。えっとー…そうだなあ…人が欲しいっていうと…
飼いネコ探しかな。動物は得意ですか?」
モノではなく、動物は…逃げ回ったりするため、中々一人で捕まえるのが難しいこともある。
そんな依頼も、彼女の端末には記録されており、画像を呼び出して、愛らしい茶色の猫の画像を見せる。
「いつもは1日でお散歩は帰ってくるのに、3日経っても帰ってこないらしいです。
探す範囲は、あっちの公園を中心に、この街ぜんぶ。これでも、ついてきます?」
試すように、下から見上げる。
普通なら、点数稼ぎと言っても労力に割に合わないと呆れられそうな以来だが…
■キッド > 「ソイツは悪いな、我慢してくれ。副流煙はしない"特別性"だから安心しな。」
実際少し煙たい以外は害のない煙草だ。
そもそも、煙草の形をした別物なわけだが
その内容をうっかり口にする程ドジでも無く
そこまで口の悪い男ではなかった。
なので、男は悪びれた様子も見せずしれっと言ってのける。
「話が早くて助かるねぇ、プリンセス。そんじゃぁ、今日一日は貸し切りってね。」
コイツは儲けものだ。
男は内心ほくそ笑んでいた。
少女の善行を"軽く見ている"表れだ。
「ああ、猛獣退治は得意だぜ?」
ホルスターの拳銃をトントン、と指先で叩いた。
だが、見せられたのは猛獣とは程遠い可愛らしい猫ちゃん。
おまけに捜索範囲を聞けば、露骨に面倒くさそうに口元が一文字。
「ソイツは災難だったな。まぁ、三日も帰ってこなきゃ、犬の餌だろ。」
男は確かに"ろくでなし"だった。
「……で、差し当たって何処から探します?ボス。」
だが、"半端者"ではないらしい。
露骨に面倒くさそうなため息交じりだが
最期まで付き合うつもりはあるようだ。
■修世 光奈 > 「へぇー、まあ、この街ですからね」
大変容以降、色々なことが変わった場所だ。
少女の知らない煙草が生まれていてもなんら不思議ではない。
だから、特別性と言われたその煙草に対して特に追及することも無く。
「次プリンセスって言ったら、風紀委員なのに煙草を吸ってたって学園に報告しますよ?」
少し照れたように口を尖らせて。
この様子だと、風紀委員も認めてはいるのだろうが。
「そういうこといわないでください。飼い主さんは、帰ってくるって信じてるんですし。後、拳銃は使っちゃだめですよ?
じゃあまずは公園を探してから、そこから西に。その辺に前、行った時…魚料理のお店のゴミに猫が集まっているのを見たので…そこにいるかもしれません」
軽く注意と目標を示してから、さ、と歩き出す。
その足取りは軽く、早い。
「"善行"、報告したいんでしょう?それなら、飼い主さんに渡す役は、キッドさんにやってもらいますから。
今のうちに、ナンパする用じゃないふつーの笑顔、練習しておいてくださいよ?」
ボス、と言われるとまた微妙に嫌そうな顔をしつつ、先を歩きながらそんなことを。
感謝されたい、とも強く思わない彼女としては、手柄…を全て相手に渡すつもりであり。
近くの公園までたどり着けば、くるりと振り返る。
「そんなに大きくない公園ですけど、ベンチの下、木の上、生け垣の根元。
その辺を探してください」
と言って自分は、スカートを翻し、たた、と駆け出していく。
公園は、確かに大きくはないものの草木は植えられ、ベンチも遊具もいくつかあり。
猫が隠れられそうなところはたくさんある。
その内の一つ、ベンチの陰を確認するため、スカートを抑えつつ、光奈はしゃがみこみ。
見つからなければ、また次の物陰へ…と繰り返していく。
■キッド > 「そうそう、こんな街だからな……。」
白い煙を吐き出した。
「コイツは失礼、"プリンセス"。……おっと。」
非常にわざとらしく肩を竦めた。
口だけは減らない男だ。
同時に、この煙草が認可される事を多少は察しが良ければわかるかもしれない。
「そうかな?棺桶の準備をさせとくのも、大事な報告だと思うがね。此の島じゃぁ、火葬が主流だったか?」
平気で悪意を口にするのは、男の悪い所だ。
本人も自覚してるのかしてないのか
壊れた蛇口のように漏れていく。
ある意味表裏が無いとも言えるが、ろくでなしの名の通り、悪印象ばかり溢れている。
実際、その方が面倒がないと思っている節もあり
そう言う意味では本当にタチの悪い男だ。
「そう言う役割こそ、アンタみたいな可愛い子ちゃんがやるべきだと思うがね?
俺はこのままでも色男に見えないか?」
やれやれ、と重い足取りのまま少女の後ろに追従する。
実にマイペースな足取りだが、少女を見失う事は無くしっかりついてくる。
「了解だ、ボス。」
ともかく、仕事となれば真面目に取り組むとしよう。
キャップの奥で、鋭い眼光が見開かれる。
途端、男の景色だけ広大に、鮮明に、ゆったりと流れていく。
"鷹の目"とも言える狩人の瞳。
景色にありとあらゆる一挙一動を見逃さない異能だ。
ベンチの下、木の上、生け垣の根元。
言われた個所を順次に、しっかりと網膜に焼き付け凝視する。
さて、お目当ての猫ちゃんがいれば、楽に済む仕事だが……。
■修世 光奈 > 「…なーんで、キッドさんみたいな人が、風紀委員やってるんですか…
普通、逆に真っ先に捕まりそうですけど」
止まらない呼び名に、はぁ、とため息を。
こういった"趣味"のためか、人の事情に無暗に顔を突っ込みすぎることはしない。
探し物について、必要のない事まで聞いてしまえば、それは重りになる。
だからこそ…何かあるな、とはわかっているものの、それ以上はやはり口を出さず。
今のところ、無体に乱暴を働くようなことはされていないから、逃げはしないが。
どうにも言動が、まともではない。
というか、良心、と呼ばれるべきものが少ない様な気もする。
自分が間違っているのだろうか、という気さえしてくる。
「さぁ。葬儀については詳しくないので。
それに、死んでると思って探すより、生きていると思って探す方が身が入るでしょ?
…後、確かにかっこいいですけど、マイナスポイントが多すぎです」
あくまで光奈基準ではある。
こんな悪そうな男が好き!と言う趣味もあるにはあるのだろうが。
光奈からしてみれば、ただの口の悪い男だ。
「…あれ、探してるのかな…何かの異能?、…ほんと―に探してるんですかー?」
雰囲気から、真面目に探しているということはわかるのだが。
どうにも外から見ていると突っ立っているようにしか見えない。
なので、不安になりながら声をかけつつ、自分も異能を発動。
昼間でも陰になりやすい場所に光を当て、良く探すが。
結局、公園では猫は見つからない。
汚れた白猫や、真黒な野良猫はいたが…写真の猫とは全く違う。
「……うん。じゃあ、予定通り。
次は西の路地を探していきましょう。時間は大丈夫ですか?キッドさん」
一通り公園を探し終われば合流し。
まだまだ、この"善行"が続きそうなことを告げよう。
■キッド > 「…………。」
その問いに答える事は無かった。
黙って、白い煙を吐き出した。
答えられるだけのものを
"キッドは"持ってはいないのだ。
恐らく、答えられるだろうものは
立ち上る白い煙と共に、空しく消え行くのみだ。
「早く終わるなら、俺はどっちでもいいさ。
……ヘッ、別に人に好かれようと思っちゃいないんでね。」
何処まで本気かは分からない。
だが、其方の感じるように良心の欠如は著しい。
或いは、その見えない目元のように何かを隠しているのか。
男の言葉は軽く、捻くれ、その真意は文字通り煙に巻かれていた。
「──────……。」
とは言え、本当に根っからの"ろくでなし"ではなさそうだ。
少女の言葉に答えないほどじっくりと集中している。
細かな景色の挙動、猫の動き、色、艶。
脳裏に刻まれているあの姿と照らし合わせるも、一致しない。
……ここはハズレか。
そう思えば、瞬きと共に異能が解除された。
「……チッ。」
舌打ち。少しばかり、頭がくらりと揺れた。
異能の反動で、目が少しばかり重い。
我ながら不便な体だ。
内心悪態をつきながら、目元を手で抑えた。
「はいはい、大丈夫ですよ。こう見えて、時間は売れる程残ってるんでね。
どうだい?今なら三食奢り、ベットインまで付いてるぜ?」
ちゃんと最後までやる気はあるらしい。
変わらない軽口で答えた。
■修世 光奈 > 「でも、目的は善行、でしょう?
それなら、キッドさんがやはり渡すべきです。
善意がないとしても…その時に怪しまれると、善行と判断されないかもしれませんよ?」
生きていることを疑いもしない口調で話を続けながら。
結局は、猫を受け取った人がどう思うか、だ。
態度が悪ければ…もしかするとこの男に攫われた、などと勘違いされる可能性も考慮してそんな忠告を。
「やっぱり、生き物は難しいな…」
彼女の特性と、能力が合わさっても。
何でもかんでも確実に見つかるというわけではない。
他人よりは見つかる確率が高くなる、というだけだ。
だからこそ、動き回る生き物は少し難しい。
男への問いかけに返事がなければ、それはそれで眉を顰めるが。
元々は、自分一人で受けた依頼だ。
万が一、さぼっていたとしても構わないと。
ただ…ふと振り返った時に揺れた頭を偶然見れば。
何かをしていたことは確かだ、と判断して、怒りはしない。
「…そーんなえっちに見えますか?、はぁ…次に誰か、別の風紀委員に会ったら、セクハラされたーって言いますからね。
三食おごりは、うけとってもいーですけど」
そして…じとーとした目線で見上げながら合流し、次に足を向けるのは薄暗い路地裏。
廃棄された食材の匂いなどが漂うそこに、光奈は躊躇なく入っていく。
そうして、探していると。
ふと。彼女の特性…直感が、ぴん、と働く。
視線を巡らせれば、そこには…探している猫が、歩きながらも前足を少し引きずっている姿が。
しかし、視線に気づくとその猫は、たた、と逃げ出してしまい…
「…!、キッドさん!追いかけます!私は左の路地から回り込みますから、キッドさんはこのまま追いかけて、捕まえれそうなら捕まえてください!
この先で道は繋がってますので、そこで合流しましょう」
鋭い指示を飛ばして、すぐに少女は駆け出す。
相手は、手負いで飼われているとはいえ俊敏な猫だ。
少女と合流するまでに捕まえれるかは、男の能力次第だ。
■キッド > 「…………。」
ばつが悪そうに、キャップの位置を直す。
目深に、目元は見られないように。
「別にいいんだよ、俺がどう見られようと興味はねぇ。
こっちはポイントが稼げりゃそれでいいのさ。
……だか、アンタの"手柄"まで奪うワケにゃいかねぇな。」
そう言う所はキッチリしているようだ。
他人に自分がどう見られようと興味もないし
平気で、惜しげなく軽口と共に悪意を吐き出す。
だが、どんなことで在れやった事には結果を残し
そこに生まれる報酬は受け取るべき人間が受け取るべきだ。
特に、こんな"クソガキ"が貰っても一善にもならないと
自分自身がよく知っていた。
「それに、ある程度見つけたら見切りをつけて帰るさ。
報告は、アンタ一人でやってくれ。
それこそ、アンタまで"怪しまれる"と困るしな?」
なんて、鼻で笑い飛ばしながら言ってのけた。
そう言う自覚があるのに直す気は無い。
性質の悪さが骨髄迄染みついている。
「フ、ああ。年下好きには打って付けだろうさ。
生憎、俺の趣味じゃないがね。……っと。」
暗喩に起伏の無さを指摘している。
とんでもねぇ奴だ。
だが、鋭い指示を受ければニヤリと口角を上げた。
「ヘッ、そっちこそヘマするなよ!」
強く頷けば、真っ直ぐに駆けだした。
伊達に犯罪者を取り締まるために血の滲むような訓練はしていた。
俊敏な猫にも肉薄する勢いで、地面を蹴り飛ばし見失わないようにしっかり後ろを追いかけている。
「…………。」
男は異能の関係上"目利き"には自信がある。
一つだけ気がかりだとすれば、引きずっていた前足か。
見失わない事も重要だが、再び自らの異能を発動した。
"良からぬアクシデント"が起きてもいいように、"用心"としてだ。
■修世 光奈 > 頑なに顔を隠す相手に、む、と口を尖らせ。
「だから…あーもう。捕まえたら、その辺はしっかり話しましょう」
善行を積みたいというから…報告については、自分は付き添い程度にして置こうと思ったのだけれど。
どうにも、話がかみ合っていない…というより、考え方が違いすぎる感覚。
それを伝えるためには、時間が必要であり。
更に今は依頼をこなす途中だ。
話はあとでゆっくりしようと、また猫を探し始め…
(…後で絶対ひっぱたく!)
自分の気にしている胸部について揶揄われれば、そんな決意をしつつ自分も走り出す。
路地を一本外れ、出口の方へと先回り。
途中、別れ道もあるにはあるが、そちらは完全に行き止まりだ。
猫ですら飛び越えられないであろう高い壁の行き止まりのため、思考には入れなくていい。
あの速度なら、光奈が出口についてすぐに合流できる計算だったが。
キッドの方に、アクシデントが起こる。
『お?こいつまだ元気じゃん。まだまだ虐められるな…!』
『へへ、どうせこんな野良、誰もきにしねーだろうし』
『俺の異能も役立っただろ?、大体こいつの場所わかるからな』
光奈が考えから除いていた行き止まりにたむろしていたらしい、不良学生が3人、そこから出てくる。
どうやら、この異能が多い街で、追跡系の異能を使って猫を執拗に追い回していたらしい。
それぞれ、武装は特にないが…、その3人に驚き、更に後ろから追いかけられているため、どうしようか迷って立ち止まった猫の前足は『軽く焼けている』
光奈も、中々来ない猫とキッドにしびれを切らして、すぐに来るだろう。
けれど、その時までは、この状況をどうするかはキッドに委ねられる。
■キッド > 思ったよりも裏路地は入り組んでいたが、迷う程じゃない。
息切れ一つせず、白い煙が軌道を描く。
ペースを上げて、このまま徐々に猫との距離を詰めていく。
それはそれとして、気になるのはやはりあの前足。
(……自然に出来るような怪我じゃあねぇな。)
焼けた前足。
ああ見えて野良でも飼い猫でも、不用意に焼かれるような馬鹿はそうそういない。
だったら何故、という疑問はすぐに解決した。
「…………。」
思わず自分も足を止めた。
猫が選ばないような道にたむろしていたのか
何処からともなく沸いて出てきた三人の不良学生。
猫の驚いた様子から見ても、彼等が絡んでいるのは明白だ。
男の心に、どす黒い感情が燃え広がる。
クズが、と胸中に吐き捨てた。
己の"正義"を執行するために、右手のホルスターへと手を伸ばし────…。
≪──拳銃は使っちゃだめですよ?≫
「……チッ。」
こんな時に、彼女の言葉が脳裏を過った。
全身を支配するはずだった黒い炎も、いやに静かに鎮火していく。
我ながらどうして、律儀なものだ。
彼女が来る前に銃弾三発で片が付く事情だというのに。
"あんな連中を生かしておいていいはずもないのに"。
だが、怒りに支配される前に、彼女のおかげでクールに離れた。
ふぅ、とため息とともに白い煙を吐き出し、口角を吊り上げる。
そうだ、此処はクールに決めるとするか。
男は一歩、踏み出した。
「よぉ、そこのお三方。中々イイ趣味してるみたいだな?
もっと盛り上がる為の"オモチャ"を貸してやるよ。」
気さくに、何時ものように不良三人へと話しかける。
ホルスターの拳銃を軽く指で小突き、"オモチャ"と示した。
が、男が懐から取り出したのは小さな、本当に小さな玉だ。
それをピン、と指先で不良生徒たちへと弾いた。
「────お前等には、お似合いのな?」
弧を描き飛んでいくそれは、突如バンッ!!と裏路地中に響き渡る程大きな破裂音を放って弾けた。
一瞬の閃光が裏路地を支配する。
携帯用の閃光玉、「フラッシュ・バン」だ。
音で怯ませ、一瞬とはいえ強烈な光は、直視してしまえば人間の視力を奪うには十分すぎる代物だ。
キッドは目深に被ったキャップのおかげで、閃光を直視する事は無い。
目論見通り成功すれば、そのまま一気に駆け抜けて猫を抱えて逃げる算段だ。
ついでにやってきた光奈も何も言わずに腕を掴んで、一目散に逃げるだろう。
■修世 光奈 > そんな事態になっているとは露知らない光奈が焦れ始めた頃。
『あー?、何、邪魔するの?丸焦げにしてやろーかー?』
『お財布出してくれたら、お前も玩具にせずに見逃すよ?』
などと。
矛先をキッドにも向けて、にやにやと不良は笑う。
上背もキッドほどはあり、喧嘩で鍛えてはいるし、異能もあるのだろうが。
相手が何を持っているか、までは気が回らなかったらしい。
ころん、と転がった閃光玉。
それをつい、3人は注視してしまい。
そして、閃光が破裂する。
猫も、不良たちも、その閃光で一瞬動きが止まり。
特に注視していた不良たちは、目を一時的に奪われ、その場に縫い付けられる。
『前が見えねえ!くっそ、なんだこれ、目が…!』
という声が路地裏に響き…多少手などは振り回されるが、逃走の障害とはならない程度だ。
そして、キッドが走りだせばすぐに、焦れた光奈が丁度路地裏に入ってきて―――
「わ、え?なに?、あ、猫!良かった、みつかった――――、」
見つかったんだ、とも言えなかった。
急に腕を引っ張られ、バランスを崩しつつもなんとかついていく。
「ちょ、ちょ、ちょっと、何?なんなのー!?」
わあきゃあ、と騒ぎながら、けれど振り払うという思考はすぐには浮かばず。
不良たちを振り切れる…キッドが止まるまで、ついていく。
■キッド > 「ハハハハハッ!!」
大笑いだ。まさに"してやったり"と言わんばかりに満足げだ。
悪党共の惑う姿はいつ見ても気分が良い。
状況についてこれない少女を差し置いて、とにかく走り続けた。
経験上、ああ言う連中はしつこい。
おまけに、猫を虐めてた連中からして、此方の位置も特定されかねない。
成るべく遠くに、遠くに。
とにかく走り続けた。
裏路地を抜けて、何処ぞともわからない道なりで漸く足を止める。
「ふぅ……とりあえずは、って所か。急に走って悪かったな。」
流石のキッドも少し息切れだ。
煙草をペッ、と足元に吐き出して、足で踏みつぶした。
マナーは悪い。ゆっくりと呼吸を整える。
「ほれ、困った子猫ちゃんだ。受け取りな。
だが、ちょいと悪い連中に絡まれたみたいでな。
前足を怪我してるみてぇだ。」
抱き抱えた猫を、少女へずいっと差し出した。
■修世 光奈 > 「なんで笑ってるのー!?」
もうわけもわからない。
とりあえず嫌な雰囲気はしないから、腕を引かれるまま、しばらく走り、ようやく止まる。
「い、いや、はふ、別に、いーけど…、……さっきから、風紀委員なのにポイ捨てしてる方が気になる、けど…」
光奈も、息を整えるため、はぁはぁ、と膝に手を置いて荒く息を吐く。
整え終わるのは、キッドよりは遅い。
「ふぅ……あ、うん。……怪我…、でも、よかった。
ちゃんと生きてる…、後は、飼い主に連絡して、病院かな…」
怪我をしているせいか、大人しめの猫を抱きかかえ。
安心した息を吐く。
「…でも、一緒にだよ、キッドさん。
…捕まえたのは、キッドさんでしょ。しっかり届けなきゃ」
ね?と首を傾げてずい、と近づく。
もしかするとこのまま、どこかに行ってしまうのではないかと。
自分が捕まえたのならまだしも、今回捕まえたのはキッドだ。
どれだけ口が悪かろうと、態度が悪かろうと…それは確かだからこそ、一緒に依頼人のもとへ行こうと提案する。
■キッド > 「人は楽しければ笑うさ。アンタだってそうだろう?」
得意げに語れば、懐から新たな煙草を取り出し咥えた。
口元を手で覆い、ジッポライターで火をつけた。
火をつけても匂いはしない。
また、周囲が少し煙たくなる程度だ。
「ちょいと遅れたら本当に棺桶を用意するハメになってたろうに。
アンタは幸運の女神様か何かかもな?」
相変わらず軽口は減らない。
だけど、何処となく素直
と言うよりも、キャップの奥では穏やかな視線が猫と少女を見ていた。
ずい、と寄られるとフ、と鼻で笑い飛ばして踵を返す。
「生憎、"コイツ"が手放せない以上一緒にゃぁいけないね。
妙な誤解を招いて、アンタの評判が下がったら大変だ。」
猫の前足は軽く焼けている。
それこと、煙草一つ押し付ければ同じような痕が出来るだろう。
見せつけるように、煙草を指でとっては左右に見せつけるように振ってみせた。
「それに……"野暮用"が出来ちまったみたいでね。美味しい所は、アンタにやるよ。
これでお互い、余計な虫がいなくなって清々するワケだ。」
あの不良三人組が追いかけてこないとも限らない。
だったら、尚の事彼女を巻き込むわけにはいかない。
白い煙を吐き出し、煙草を咥え直した。
何処となく寂れた背中を向けたまま、吐き出した減らず口は
相手を突き放す為のものだった。
■修世 光奈 > 「ふ、ぅ。それは、そうですけど」
煙たくはなるが、やはり普通と違って…喉に刺さるような副流煙の感覚はしない。
息を整え終われば、しっかりと相手を見て。
相変わらず、そのキャップの奥は見通せないが。
「……こんな時だけ、ふつーの事言うの、ずるくないですか」
確かに、何の理由か、猫の前足は火傷が付いている。
このままではキッドの言う通りになる。
む、と複雑な表情をして。
「…名前は、覚えてもらえましたよね。
わたし、よく色々探してますから、また見かけたら、声かけてください。
今日の、私の趣味を手伝ってくれたお礼もしたいですし、依頼人さんからのお礼も伝えますから。
……それに、風紀委員会にも。…手伝ってもらった、って言っておきます」
清々なんてしない、と態度で告げる。
野暮用と言う相手を止めることはできないが。
事後報告と、『また』話をしたい、という意思を伝えて。
「…だから、まずは、言葉だけですけど。
…ありがとうございます。キッドさん」
背中を向ければ、その背中に、暖かい言葉を向ける。
去っていくなら止めはしないが、深く、感謝の意思を込めて頭を下げたままだろう。
■キッド > 「フ、ろくでなしのクソガキに、アンタ何を期待してるんだい?
何を報告するも、好きにしな。悪評でも、有名になればいい気分だからな。」
そう、ろくでなしの糞餓鬼<キッド>だ。
見ての通りの風体と言動。
肩身の狭さは今更だ。
きっと、それは彼女の善意だろう。
それすら素直に受け止められず、捻くれた返事を返した。
今に自分は"ろくでなし"だからだ。
「ま、また気が向いたらちょっかいかけてやるさ。
……とにかく、この辺からは暫く離れておくんだな。
アンタ、探し物をするのはいいが、"余計な事"には足を踏み込まないようにした方が良いぜ?」
それこそ、今回は偶然自分がかち合ったからこそ切り抜けるのは簡単だった。
もし、お互いの立場が逆だったら、もっと面倒な事になっていたのは間違いない。
彼女の優しさに触れて、せめてもの、心ばかりの忠告だ。
尤も、言い方も嫌味っぽい辺り当てつけっぽく聞こえるかもしれないが。
そして、背を向けたまま男は歩き始める。
『ありがとう』に対して、ろくに返事もしないまま去っていった。
せめてもの会釈と言わんばかりに、軽く右手だけは上げただろう。
ろくでなしの黒い背中は、結局何も語らないばかりだ。
ご案内:「学生通り」からキッドさんが去りました。
ご案内:「学生通り」から修世 光奈さんが去りました。
ご案内:「学生通り」にイヴェットさんが現れました。
■イヴェット > 「では、いただきます~。」
学生街の小さなカフェ。
特に強い人気があるわけでも、かと言って寂れているわけでもない。
しかし、一部の食に通じた学生たちは、この店を隠れた名店と呼ぶ。
その少しレトロな店の一角にて、一人の女が手を合わせた。
陶磁のような白い肌に流れる清流の如き新緑の髪。
黒縁の眼鏡に縁取られたその瞳は、細く閉じられて色を窺い知ることは出来ない。
そして、その目の前に広がるのは……
「うふふ、この時期には入ると思ってましたよぉ。
期間限定、スパゲティ・ネーロ。大盛りで食べないと初夏って感じがしませんからぁ。」
……まるでインクに塗り潰されたようなスパゲティ。
それが、海底火山の如くに山となり、皿の上に鎮座していた。
ご案内:「学生通り」に織機セラフィナさんが現れました。
■織機セラフィナ >
期間限定スパゲティ・ネーロ。
そんな言葉が聞こえてきて振り返る。
隣の席で、テーブルに大量の料理を並べていたむしゃむしゃやっていたら、まさかの見逃していたメニューを今更発見。
漆黒の暗黒火山、と言った様子の皿を見て。
「――すみません、私にも同じものを特盛りで」
えっまだ食べるの?
店員さんがそんな顔をする。
■イヴェット > くるりと銀のフォークが漆黒の中で渦を巻き、抉り取るようにその一角を球として取り出す。
柔らかい灯を受け艶めく黒色は、黒曜石の如し、あるいは雷鳴孕む黒雲の如し……といったところか。
「あむ。………………。」
頬張れば、美味が迸る。
それ以上に言うことはなく、如何な言葉も無粋である。
しかし野暮を承知であえて言うなら、濃縮された旨味を口に流し込まれている。
臭みもエグみも全く無く、墨の孕んだ芳醇な風味と肝の濃厚な旨味だけが
口内を押し流すように注ぎ込まれていく。
「………。」
ちら、と織機へ目を配る。
知る人ぞ知る店の、知る人ぞ知る品を見る目がある人物だ。
それに勘付いたか……優しく微笑みを向け、また一口頬張った。
■織機セラフィナ >
むしゃむしゃ。
もぐもぐ。
テーブルの上のパスタやらグラタンやら、とにかく店の人気メニューばかりをひたすら食べる。
食べ方は下品ではないが、とにかく早い。
次から次へと胃袋に消えていく。
「……?」
イカスミパスタを食べる女性に笑いかけられた。
知り合いだっただろうか。
よくわからないが、とりあえずこちらもにこっと笑ってみる。
■イヴェット > 「…………。」
それ以上は何も言わない。ただのそれだけ。
『来る幸福を噛みしめればいい』と、その意図だけを残す。
気付くか気付くまいか、そんなことはどうでもいいし、重要ではない。
こちらも、それ以上に伝える事柄はないのだ。
後はただ、互いが食べ終わるまで……
「………っ、はぁ……ぁむ、むぐ……
……もぐ、ごく……。……むぐ。」
……只々、珠玉たる食に没頭するのみである。
■織機セラフィナ >
何か心の中で通じ合った気がした。
何を通じ合ったのかわからないけれど。
「あむ……んぐ、もぐ――んくっ、はぐ……」
とりあえず食べる。
パスタを、グラタンを、ピザを、とにかく食べる。
美味しさを文字通り噛み締めて。
「あぐ、んぐんぐ……ん、はくっ、もっもっ……」
新たに参戦したスパゲティ・ネーロも食べる。
あぁ、これは至福。
■イヴェット > ……それから、しばらくして。
「……ふぅ。ご馳走様でしたぁ……
相変わらず美味でしたよぉ、マスター。食後のコーヒーを。」
あれだけ山になった火山の如きスパゲティ・ネーロは、もはやその影も形もなく、
今はただただ、平原の如き純白の皿の上に黒い点としてその面影を残すのみである。
食事とは、満たされなければならない。それは腹だけでなく、心も同様。
「……如何ですかぁ、ここのネーロ。素晴らしいでしょう。」
故に、満ちた心から気が少し緩んで話しかけることも……無きにしもあらず。
■織機セラフィナ >
「ふぅー……」
大満足である。
机の上の大量の料理をすべて平らげ、幸せでいっぱい。
「あ、すいません、こちらにも紅茶とケーキを」
まだ食べるつもりである。
「え? あ、はい。とても美味しかったです」
話しかけられてちょっとびっくりしたが、確かに彼女の言う通り絶品であった。
幸せそうなふにゃりとした笑顔で答える。
■イヴェット > 「ふふふ、それは良かったですぅ。
私としても、ここの味が分かる方は貴重ですからぁ。」
くすくすと笑い、届いたコーヒーをブラックのまま一口。
「良ければまた来て下さいねぇ?お店が潰れたら食べる楽しみがなくなりますからぁ。
ここ、立地が悪いのか案外お客の入りが……おっと。」
おほん、と後ろから店長の咳払いが聞こえた。
それを聞いて慌てて繕うように、再びコーヒーを一口啜る。
■織機セラフィナ >
「はい、是非。とても美味しいごはんでしたので、ご贔屓にさせて頂こうと思ってます」
にっこり笑う。
これだけ美味しい喫茶店が埋もれているのはちょっと信じられない。
咳払いに思わず苦笑。
「――ん、紅茶もケーキも美味しいですね」
料理がこれだけ美味しいのだから当然と言えば当然だが。
これからもちょくちょく利用することにしよう。
■イヴェット > 「それはもう。このケーキのためだけに寄ってくる方もいらっしゃいますしぃ。
うふふ、冬季なんかは南瓜のグラタンも美味しいんですよぉ……」
悪魔の囁きだ。
ただでさえ肥えやすい冬場にそんなものに病みつきにされてしまったら……
「……あぁ、申し遅れましたぁ。
私、イヴェット・N・現川と申しますぅ。一応、公安所属の平職員ですよぉ。」
ぺこん、と頭を下げる。長身の割には物腰が低く、柔和だ。
■織機セラフィナ >
「まぁ、南瓜の……」
とても美味しそう。
その味を想像してうっとり。
「公安の方、ですか。私は織機セラフィナ、事務員をやっています」
こちらもぺこり。
そしてばるん。
■イヴェット > 「あらぁ、事務員の方でしたかぁ。
それはそれは、学生の身分で随分と馴れ馴れしくしてしまいましてぇ…
申し訳ございませんでしたぁ。」
おっとりとした口調で謝罪の意を示す。
公安に属する以上、法と規はきっちりと線引し、守らねばならない。
「……ところでぇ、随分お食べになってらっしゃったようですがぁ。
もしかして沢山行ける方なんでしょうかぁ。」
■織機セラフィナ >
「あら、良いんですよ。そんな大層な立場でもないですし」
所詮ヒラの雇われ事務員である。
自身もどちらかと言えばフレンドリーな方が好きだし。
「あ、あはは、恥ずかしい……」
そう言えばしっかり見られていた。
顔を両手で隠すように頬を抑える。
■イヴェット > 「いえいえ、それでも社会人と学生という立場ですからぁ。
こういった事は、徹底しないとどうにも落ち着かないんですよぉ。」
あはは、と少しだけ居心地悪そうに笑いながらコーヒーを啜る。
まぁ、あまり気にしないようなタイプであればこちらも固くなりすぎずに済む。
「うふふ、分かりますぅ。私もそうなのでぇ。
如何ですかぁ、まだここらには穴場が沢山ありますのでぇ……
一つ、腹ごなしの散歩も兼ねて食べ歩き、というのはぁ。」
腹をこなして飯を食いながら歩くのでは本末転倒かもしれないが。
それはそれとして、仕草がいちいちかわいいなぁとも思っている。
■織機セラフィナ >
「確かになんというかこう、ずうずうしい、と言うのは困りますけれど、ある程度フレンドリーな方が学生らしいとも思いますし」
社会人になればそう言ういい意味での馴れ馴れしさにはなかなか出会えない。
なので学生のそう言うところは自分が若くなったような感じがして割と好きなのである。
「あら、そうなんですか? 穴場……良いですね、是非ご一緒させていただけると」
穴場が沢山、と言う言葉に目が輝く。
美味しいごはんが食べられる店はたくさん知っていて損はない。
得しかない。
■イヴェット > 「ふふっ、そう言って下さると随分と気持ちが楽ですねぇ。
まぁ、この腰の低さは性分のようなものですのでぇ……あまりお気になさらず。」
そう、ずうずうしくなってはいけない。学生という立場でも、公安という立場でも。
学生としての自分は、ただ教育を享受する者である。
公安としての自分は、ただ責務を執行する刃である。
そう自分を規定しているがゆえに謙虚であり、ともすれば少し慇懃無礼なほどに腰が低くなるのだ。
「うふふ、それでは行きましょうかぁ~。
マスター、お勘定~。」
先程まで咳払いを放っていた姿はどこへやら、よく食べてくれた二人に快く会計を行う。
……この会計の瞬間も、少し好きだ。自分が如何に満たされたかが数値で見られるのは、愉快だ。
■織機セラフィナ >
「いつか敬語なしに話してくれることを楽しみにしますね」
ふふ、と笑う。
それくらい仲良くなれたらいいな、と。
「はい。――こちらもお勘定、お願いします。」
財布を取り出し、お会計。
彼女の数倍以上の値段をポンと出す。
いつものことである。
■イヴェット > 「うふふ、その時はきっと何かを食べているときでしょうねぇ~?」
予感ではなく、ほぼ確信だ。
自分も相手も大食いで、親しくなれるタイミングと言えばそれはもう……
そういうことである。
「……本当に沢山食べましたねぇ~。
羨ましいですねぇ~、健啖家で素晴らしいと思いますぅ。」
……マスターから、『お前も大概だろう』という目線が跳んできたが、
特に気にもせずに扉の向こうへ去っていく。
■織機セラフィナ >
「ごはん食べてる時は緩んじゃうタイプですか?」
かわいらしいタイプだ。
自分もそんな感じだけれど。
ふふ、と楽しそうに。
「やだもう、ホント恥ずかしい……食費ばっかりかかって大変です」
そんなに高くはないお給料のほとんどが食事代に消えてしまう。
なにかアルバイトでもしようかな、なんて考えてはいるが時間がないのでどうしたものか。
「それでは、ごちそうさまでした」
マスターにぺこり、とお辞儀をして、彼女に続いて店を後に――。
ご案内:「学生通り」からイヴェットさんが去りました。
ご案内:「学生通り」から織機セラフィナさんが去りました。