2022/03/11 のログ
ご案内:「学生通り」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
ご案内:「学生通り」に神樹椎苗さんが現れました。
芥子風 菖蒲 >  
何気ない学生通りの昼下がり。
ちょっと遅めのお昼ご飯や昼休憩をとる生徒がちらほらいる。
この少年も例に漏れず、そのうちの一人だ。
暦的には春らしく、確かに日差しは暖かくなってきた今日この頃。
ただまだ、吹き抜けるそよ風には冬の気配を感じさせる。

「ん……」

特に寒暖にうだうだいうほどの性格はしていないが
肌寒さには軽く身震い。ベンチの上で携帯端末を確認し
時折傍らに置いたペットボトルを口に運ぶ。オレンジフレーバーのお水が美味しい。
今日の風紀の哨戒日報も異常なし、といきそうだ。

「…………」

それくらい今日の昼が穏やかだった。
今頃美奈穂とかはお昼寝タイムでもしてるんだろうか。
足元に立てかけた自分の愛刀を一瞥して考えていたそんな昼下がり。

神樹椎苗 >  
 学生通りを歩く学生たち。
 その中でも少々個性的な服装の娘が視界に入るだろう。
 そしてその娘は、なにを思ってか、まっすぐに少年の座るベンチへと向かっていく。

「――お前、暇そうですね」

 目の前まで来て、開口一番これである。
 123cmから放たれる、理不尽オブ上から目線だ。

「暇なら、少ししぃの話に付き合ってもらいますが、かまわねーですね?」

 一応、問いかける形ではあるが。
 なにも答えなくても、勝手に初めてしまいそうな雰囲気だ。
 

芥子風 菖蒲 >  
ここは学生通り、人通りも多い。
老若男女所か人間問わずより取り見取り。
この時代に生まれた少年には珍しい光景ではないが
旧時代を知る人間には未だ不思議な光景らしい。

「……ん」

そんな中、自分に近づいてきた少女がいた。
初めて見る顔だ。小さな体に大きな態度。
絶妙な上から下から目線。自分の身長より遥かに小さい。
特にこれといった態度の大きさを気にすることはない少年だが
見知らぬ顔に付き合え、と言われたら不思議そうに首を傾ける。

「アンタ誰?知り合いだっけ?
 別に休憩中だからいいけど、何の話?」

ベンチの隣は空いている。
ちょっと隣ずれてどうぞ、の姿勢。

神樹椎苗 >  
 不思議そうな顔をされてもなんのその。
 隣を空けられても、特に座ることなく、少年の前に立ったままだ。

「しいはしぃです。
 お前とは初対面ですね。
 まあ、お前の事はほどほどに知ってはいますが」

 それこそ一方的にだが。
 少年の事はあらかた、調べてあるのだった。

「話と言っても、大したことじゃねーです。
 いくつか質問があるくれーですから」

 そう前置きして、さて、なにから訊ねるか――。

「お前の持ってる、その『鋏』。
 使い心地はどうでしたか」

 

芥子風 菖蒲 >  
隣には座らない。
相変わらず見上げたままの下から目線。

「しぃ?やっぱり初対面だったんだ。
 オレは芥子風 菖蒲(けしかぜ あやめ)。……、……」

やはり見知らぬ少女だった。
ついでに向こうはこっちのことを知ってるらしい。
例の怪盗事件のせいだろうか。変に有名になった気もする。
別にそれ位気にしないが、いまいち目的が見えない。
ぱちくりと青空を瞬きしながらじっと彼女を見下ろしてる。

「そっか、知ってるんだ。
 なんだか似たようなこと最近言われたけど」

あの資料室の先輩は元気だろうか。
それはさておき、聞かれたのは予想外のことだった。
ちょっとだけ目を丸くするもはっとする。

「……もしかして、博物館の人?
 使い心地、って言われても考えたことないや」

思い当たるとすれば、それ位だ。

神樹椎苗 >  
 ふむ、と答えを聞いて首を傾げた。

「使ったのは二回。
 一回は博物館でやんちゃして、二回目は佐藤四季人を送った――まあそれだけですと、未だ何とも言いづらいかもしれませんね」

 左手を顎に添えて、少し考える。
 少年の様子に、特別妙なものは感じない。
 悪影響は然程出ていないようだが。

「博物館の人、ではねーです。
 言うなれば――そうですね、元持ち主と管理人、と言った所でしょうか」

 嘘はついていない。
 管理なんて、毛ほどもしていないが。
 

芥子風 菖蒲 >  
「…………」

"送った"。
結果的にはそうなっただろう。
結果に悔いはあっても手段に後悔は無い。
今更眉を顰めることもない。

「滅多に使うものじゃないとオレは思ってるよ」

どういう理由で選ばれたかは知らない。
ただ、これは今でも"奥の手"だ。
これでしか打開できない相手にしか抜くことはない。
その危険性は持っている自分が嫌というほど知っている。

こうしている間にも気を抜けば、切られるのは自分かもしれない。

そういう心持で少年は死神と付き合っている。

「……元の、持ち主?あの鋏って、しぃが持ってたの?」

成る程、その話を聞いて合点がいく。
どういう経緯かは知らないが、元持ち主というのなら
現在の持ち主が多少気になったというところだろう。
ただ、それはそれでいろいろと疑問が出てくる。

ペットボトルの水を口に流し込んだ。
あと半分程度中身は残っていた。

「返してほしい……って、感じじゃないよね。
 なんかオレが見た時すごい錆びてたし」

「オレに何の用?本当に返してほしいなら何とかするけど。
 オレも正直返し方とかわかんないよ?しぃはできるの?」

「そもそも、コレの元の持ち主っていうけど……"こんなもの"持ってるなんて、何者?」

神樹椎苗 >  
「――佐藤四季人は、救われました。
 お前があの鋏で送ったのなら、佐藤四季人は、安寧の揺り籠で微睡む事でしょう。
 お前はすべきことをしました――無自覚ではあるようですが」

 あの『怪盗』に生きて救われる未来はなかった。
 であれば――安らかな眠りこそが救いである。

「そう勿体ぶるようなもんでもねーですが――ああ、でも扱い方は心得ねーと危ないかもしれねーですね」

 さて――何者かという問いには、なんて答えた物だろうか。

「返されても困りますし、まあお前が手放したいなら話は別ですが。
 一応お前よりは、これらの扱いには慣れてますからね。
 しかし、何者か、ですか」

 少し考えて、

「――しぃは、かみきしいな。
 研究区408研究室所有、学園の備品です。
 ですが、お前に名乗るなら――」

 椎苗の左手に黒い霧が集まる。
 その一瞬の後、その手には血のように紅い小剣が握られていた。

「『黒き神の使徒』――死神の使いですよ」

 椎苗の持つ紅い剣からは、少年が鋏から感じたものと、同種の気配が感じ取れるだろう。
 

芥子風 菖蒲 >  
「揺り……何?」

いまいち言ってることがよくわからない。
なんだか妙に難しいことをいう。
ただ一つだけ言えることがあるとすれば……。

「"救われた"ようには見えないよ。
 死んじゃったら、それで終わりだから」

あれは救いでも何でもない。
アイツは最後に"生きたい"と願った。
自分はその手をつかめなかった。力不足の結末だ。
だからこそ、こう言える。

「悪いけど、しぃが気軽に言えることじゃないと思うよ」

"お前の言ってることは、間違っている"。

「……かみき、しいな。……?備品?ロボットってこと?」

このご時世アンドロイドも珍しくない。
備品っていうからにはそういうことなんだろうかという単純思考。
どうにも彼女は難しいことをいう。
そういえばロボットも難しい言い回しを好む(※諸説有)傾向がある。
もしかして、本当にそうなのか。
少年は訝しげな表情のまま椎苗を見やった。

「…………」

握られな紅の小剣。
おどろおどろしい気配は間違いなく自分の持ってる死神と同じものだ。
それに感化されるように、自分の背筋を撫でる嫌な気配。
振り返れば意識を"持っていかれる"感じさえするが……。
少年は、おもむろに手を伸ばし……。

「黒き……何それ?」

そこを動かなければほっぺをつねられる。むにむに。
ロボかどうかボディチェックだ。
あいにく少年は感覚派。説明書は目につかなければ読まないタイプ。
これは危険な代物だということ以上の取り扱いはしていない。
実際、彼女の感じる危うさはある意味間違いではないだろう。

神樹椎苗 >  
 むに、と頬を摘ままれる。
 別に抵抗はしないが、残念ながらロボットっぽくはなさそうだ。

「む――死で救われる魂もあるのですよ。
 とはいえ、死んだら終わり、ですか。
 お前は死後の事を考えるタイプではなさそーですね」

 それはそれでいい。
 死生観は人それぞれであるべきなのだから。
 ただ、そうなると、何故『鋏』が少年を選んだのか気になるところだが。

「ロボットではねーですが、備品です。
 まあ一応は学籍もありますが、人権は認められてねーですね」

 外見もあって露骨に道具扱いはされないものの。
 法的に、学園の規則的にも、椎苗は備品として以上の保護は受けられないのだ。

「『黒き神の使徒』です。
 死神の使いだと言ったじゃねーですか。
 なんですか、お前、馬鹿ですか。
 二文字以上は覚えられない、残念な脳細胞でもしてるんですか」

 容赦のない罵倒だった。
 

芥子風 菖蒲 >  
むにむに。
普通の感触っぽい。
どうやらアンドロイドではなく体は人間っぽい。

「そう?でも、アイツは多分そうじゃないよ。
 アイツはきっと生きたかった」

何かの拍子にああなったけど、根っこまではそうじゃなかった。
ある意味"救い"を求めていたけど、きっと死は"救い"じゃない。
その事実だけは揺るがせちゃいけないと思っている。

「さぁ、死んだことないからわかんないな……」

当然と言えば当然のことを口にした。
ただ、それ自体に"良い"感情を抱いてはいない。
死恐怖症<タナトフォビア>を抱えるのは生者であれば必然。
ただの少年自体も何処かずれている。
深く考えていないのも当たらずとも遠からずだ。

「人権が認められてないって、どういうこと?
 学籍があるなら普通の生徒なんじゃないの?」

今一言ってる意味が理解できない。
この学校に"ワケあり"がいるのは珍しくない。
ただ、そこまでなんというかマイナスな言葉を聞くのは初めてだ。
異能の関係上"やむを得ず"ということはあるが、どうにも違う。
この少女は、不思議なことだらけだ。

「頭はよくないけど、だって聞いたことないし……えっと。
 黒き……なんだっけ?まぁいいか。それがどうしたの?」

罵倒されても気にしない。
自分がバカな自覚はある。キキナガシ風潮である。

神樹椎苗 >  
 むにむに。
 もちっと柔らかいし、しっとりお肌。
 その分、全身至る所にある包帯やパッチが目立つが。

「――そうですね。
 生者は生きたいと願うのが自然です。
 死にたがる生者は、そうはいませんから」

 少年の言葉を特に否定する事はない。
 素直に頷いて、そういうものだろうと肯定する。

「言葉通り、人間としては扱われてないって事です。
 学籍は体裁を保つための、形だけのもんですよ」

 しかし、説明しても難しいかもしれない。
 『人権がない』と言葉でいうのは簡単だが、それがどういう意味か実感は出来ないものだろう。
 それにしても、まるで柳に風である。
 どうにも受け答えに手応えがない。

「はぁ――まあいいです。
 簡単に言えば、お前は『死神』を信じますかって話ですよ。
 ようは、宗教勧誘です」

 出るのは呆れたため息。
 どうやら、かなりシンプルで直球の言葉選びをしなくちゃいけないようだった。

「ですが、困りましたね。
 どうにもお前が『鋏』に選ばれた理由が掴めません。
 なんでお前は、その『鋏』を扱えるんですかね」

 左手で小剣を弄びながら、困ったように眉を顰めた。
 

芥子風 菖蒲 >  
「……難しいことはよくわかんないけど、困ってるなら手を貸すよ?」

少なくとも彼女は自分が知る限りの"ワケ有り"とは違うらしい。
人として扱われない人。どういう意図かはわからない。
ただ、それは自分の中ではいいこととは思えなかった。
彼女が困っているようにも見えはしない。
だから尋ねる。安易に手を貸すのは彼女ためじゃない。

「…………」

そんな少年にも嫌なことはある。
宗教関係というのは、少年にとっての脛の傷だ。
思わず眉を顰めて、一思考。
感情の起伏が少ない少年は珍しく小さくため息を吐いた。

「……『死神』は信じる信じないって言っても、見たことないからよくわかんない。
 けど、それはあんまり。オレ、宗教にいいイメージないから……」

宗教勧誘はノーサンキュー。
梃子でも動かないつもり。

「なんでって、使えるから……?
 オレのほうからお願い、というか力を貸せとは言ったけど……」

「その『鋏』と宗教って関係あるの?」

神樹椎苗 >  
「今困ってるのは、お前の事ですが――まあいいです」

 人間性は悪くない。
 単純だが、純粋で悪意がない。
 椎苗が自分を備品だと言って、違和を覚えるあたりに人の良さが十分に伺えた。

「知ってますよ。
 お前がどう扱われていたか――しいも似たようなもんですしね」

 とりあえず断られるのは承知済み。
 ただ、多少興味は持たせられただろうか。

「いえ、だからなんで使えるのかが問題なのですが。
 ふむ――本来は『資格』がなくちゃ選ばれねえはずですが」

 少年の価値観は、資格を満たしているのだろうか。
 もう少し問う必要がありそうだ。

「――ええ、関係があります。
 というより、本来はしいが仕える神の、神事に用いる祭具です。
 この剣も、お前の鋏も」

 自分の紅い剣で、少年を示す。
 本来、これらは武器ではなく、祭具なのだ。

「んー――見たければ、見れますよ、『死神』。
 鋏を持つお前なら、見る方法はあります。
 なんなら、言葉を交わす事も出来ますよ」

 なんて、さらりと『神格』と対面できる事を示唆した。
 

芥子風 菖蒲 >  
「オレ?なんかごめんね」

どうやら自分のことでお困りの様子らしい。
だが思い当たる節が見当たらない。何なら初対面。
純一無雑、思うことは間違いではない。
眉を下げて、いったん平謝り。

「…………」

彼女は自分のことを知っているといった。
どういう仕打ちを受けたかも、だ。
その上で誘ってきたのだから、少し視線も冷ややかだ。
少年だって、嫌なことは嫌なのだ。

「『資格』はあるかは知らないけど、オレはコイツを受け入れた。
 ……つもり。事が終わったら、全部コイツに任せるって取引」

というのが少年が思う使える理由だと思っている。
もっとも、それが『資格』に当てはまるかは少年さえ知らない。
少なくとも少年は死神に魅入られた。
生者でありながら、死さえ受け入れる度量の広さか。
あるいは、死神が気に入る何かがあったのか。
見出すにはきっとふさわしい場所もあるだろう。

「祭具……そういえば真夜先輩が言ってたような……」

そういうものだって言ってた。
あの時の大方付で見たし説明も見た。
すっかり"武器"としてか見てなかったものだから、忘れていた。

そして、彼女の言葉は本当だろう。
わかるとも。きっと、コイツの囁きに耳を傾ければ
肩透かしを食らうほど会えるだろう。
どんな奴か興味がないわけじゃない。
けど。

「けど、今はいいや。それに、なんとなく言いたいことはわかるし」

何時でも会えるならその内会える。
会うこと自体に嫌悪感はない。
それが如何なる状況であれど、死神と出会うというのはきっとそういうことなんだ。
少年は既に、この『死神』を受け入れた。
だったらもう、自分の背負うものの一つだ。
何処までも、最後までそれと付き合う覚悟は出来ている。

「……それで、結局オレがその……黒き……なんだっけ?
 まぁいいや。その黒なんとかに入る必要とかあるの?」

神樹椎苗 >  
「そう嫌そうな顔しなくてもいいでしょう。
 似た者同士、宗教ってもんに思う所があるのはわかりますよ」

 悪気はないのだ。
 ただ、少年に伝わる言い方を選ぶと、こうなってしまうのである。
 実際は宗教とは言え、信者が欲しい訳ではないのだ。

「取引、ですか。
 とすると、ますます不思議ですね。
 もう少し、お前の精神に影響が出ていてもおかしくなさそうですが」

 ただ、『黒き神』が少年を気に入っているらしいことは間違いではない。
 その死生観はともかく――その純粋さは好ましいのだろう。
 そしてふと出て来た女生徒の名前。

「ああ、あの『陰気巫女』ですか。
 あいつにも近々、礼をしないといけませんね。
 あいつには間違いなく『資格』がありますし」

 それも『使徒』と『巫女』どちらにも成りえる資格が。
 椎苗としては、放っておく理由がないところだ。
 少年が「今はいい」と言っても、構いはしない。
 そもそも無理強いするつもりもないのだ。

「そうですか――いえ、勧誘とは言いましたが、入る入らないの話じゃねーんです。
 お前がその『絶縁の大鋏』を手にした時点で、お前は『黒き神の使徒』として、使命を背負った事になります。
 しいは、お前にそれを自覚してもらうために来ただけですから」

 特別、なにをしに来たわけでもないのだ。
 椎苗に少年をどうこうするつもりも、なにをしてもらうつもりもない。
 ただ――使命を自覚しなければ、いずれは『神器』の意思に心を喰われかねないのだ。
 それも、少年のように純粋であればなおさら、悪影響が出た時のリスクは大きい。
 

芥子風 菖蒲 >  
「よくわかんないけど、特に不調とかはないけどなぁ」

今のところ何かが影響されたこともない。
死神の囁きも今はそれ以上の精神力ではねのけている。
正直言って、宗教勧誘と言いながら入れというわけではない。
どちらかというと忠告めいた何かを感じる。
要するに、『気を使われている』と少年は思った。

「正直オレは、『資格』とかその神様とかどうでもいいし興味ない」

「オレはオレに出来る事を、皆を守るだけ。
 コイツも今はその為に力を貸してくれるし、それでいいよ」

「いざって時は自分でどうにかするし、大丈夫」

それがどういう目的なのか、何を意味するのか。
大それた話のようにも聞こえたけど、少年は気に掛ける事はない。
周りの事情とか将来的なこととか複雑だしよくわからない。
思考停止、と言われてしまうとそれまでだが
そうならないように自分の出来る事を精一杯やっている。

この手の届く範囲なら何処までも守るし
どんな力でもこの手に握って見せる。
『死神』とやらが背中で囁き続けても、少年は変わらないし
その『黒き神の使徒』とやらもどうでもいい。
使命とやらが必要なら果たすだろうし、そうじゃないなら何も起きない。
それがどんな結果を招くかは知らないけど、今更立ち止まることも
自らの進む道を"たかが"神とやら如きで帰ることもない。

「もしかして、心配してくれた?
 それならありがとう。けど、オレは大丈夫だよ」

要するにマイペースなんだ。
広がる青空のように何でも受け入れて、肯定して包み込む。
軽く手のひらを振った後に漆塗りの鞘を蹴り上げ、肩に担いだ。

「よ、と。オレそろそろ行くけど椎苗はどうする?
 何か行きたいところとかあれば付き合うよ」

神樹椎苗 >  
 少年の答えを聞いて、椎苗はただ頷く。
 特にこれと云って不満はない。
 問題ないならそれでいいし――何かあれば、自分が後始末をするだけなのだから。

「――なるほど、『■■■■■■■』が気に入った理由が少しわかりました。
 お前は正しく、『生』を全うしています。
 とても好く、『生きて』いますね」

 恐らく名詞だろうソレは、異界の発音だった。
 しかし、その発音から感じ取れるものは、少年にもそれが『黒き神』の事だと直感で理解させるだろう。
 そして好い、と言った通り、表情が微笑むように緩むだろう。

「心配――ええまあ、心配みてーなもんですね。
 まあ無用なお節介だとわかったんで、問題ねーです。
 ただ少し――」

 不器用が過ぎると思ったが――この少年には余計な事を言わない方が、事が好く運ぶだろう。
 椎苗のすべきことは、先達として――少年が迷った時、行き詰まった時に手を貸す程度の事でいい。

「――いえ、なんでもありません。
 ただ、そうですね。
 お前が今のままで『足りない』と思った時は、しぃを使うといいです。
 その『神器』の使い方、正しく教えてやりますよ」

 そう言うと、手元の剣は黒い霧になって散った。
 好ましい青色は、どこか清々しい。

「昼休憩のところ、邪魔して悪かったですね。
 しいも、ここで失礼しますよ。
 お前の人となりも、わかりましたしね」

 少年が立ち上がれば、ますます高さの差が広がる。
 それに一度だけ、むすっとした不満げな表情を浮かべるが、ふ、と息を吐いてひらりと背を向けるだろう。

「それでは、またいずれ会いましょう。
 期待してますよ、『単細胞』」

 そう言って、少年を置いて、立ち去ってしまう。
 立ち去る小さな背中の隣に、一瞬、霧のように黒く大きな影が浮かび上がって見えたかもしれない。
 

芥子風 菖蒲 >  
「…………」

彼女が"ナニか"の名前を呼んだ。
それが何なのかは直感的に理解できた。
だからと言って、畏れるわけでもない。
それが何であっても、自分のやることには変わりないのだから。

「正しく全うできてるかはわからないけど、精一杯のつもりはあるよ」

自分に出来る事を、自分のやれることをやる。
この手が伸び続ける限り、青空はどこまでも広がるって信じてる。

「いいよ、気にしてない。そういう時が来たらね」

今はまだその時じゃない。
あの力は自分でも危険なものだとわかっているから。
これをこれ以上使う時というのは、きっと──────。

去っていく少女をしり目に、自らも哨戒へと戻っていった。

「……『単細胞』……ってなんだろうなぁ」

一つの疑問が生まれたがそれはまぁいつかわかることだ。

ご案内:「学生通り」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から芥子風 菖蒲さんが去りました。