2019/07/07 のログ
ご案内:「商店街」に竹村浩二さんが現れました。
ご案内:「商店街」にメイジーさんが現れました。
■竹村浩二 >
浴衣姿で商店街を歩いている。
俺たちは、異世界でのちょっとした冒険を経て元の世界に帰ってきていた。
あの時、メイジーを連れ帰ると言った時の周囲から向けられた視線は忘れられない。
それでも根気強く説得(時に泣かされ)して現在に至るわけで。
あの時、清潔な水と医薬品を山ほど持っていったのも割と良い判断だった。
そのことは後にじっくり話すとして。
今日は七夕なのだ。二人でのんびり歩いても、罰は当たらないはずだ。
「あー……晴れてよかったな、今日」
そんなことを言いながら夕暮れの商店街を歩く。
■メイジー > 「こちら側」の世界を訪れることは、もう二度とないと決めていたはずだった。
今こうして隣り合って歩いているのは、ひとえに彼の熱意の賜物だった。
かつての主がすべての事情を汲み、この身の幸せを願ってWを説得して下さったことが決め手になった。
夜になっても明るい商店街から星々が見えることはないものの、澄んだ空には皓々と光る月がかかっている。
防塵マスクなど不要で、大気の毒性を気にする必要もない。
袖つきのガウンを硬い帯で留めた衣装―――こちらの言葉でいう「浴衣」は通気性に優れ、夜の風も心地よかった。
「………ええ」
ときどき、何を話していいのかよくわからなくなる。
あの日を境に、それまでの関係性が何か決定的に変わったことは理解している。
それをいかなる態度で示せばよいのか、それは使用人の仕事より優先されるものなのか。
わからない。よそよそしく思われてはいないだろうか、と心配になって彼の顔をさりげなく窺う。
■竹村浩二 >
ガリガリと首の辺りを掻いて頷く。
「……ん」
メイジーの態度がおかしいのはわかっている。
多分、初めての色恋と仕事を計量にかけているのだろう。
どういう態度を取るべきか、決めかねている。そういうことだ。
深く追求はしない。大人だからだ。
「七夕って知ってるか?」
「七月七日に晴れてると、織姫と彦星っつー空の向こうのカップルが会えるんだぜ」
「それでほら、あちこちにある笹に短冊に書いた願いを書くとだな…願いが叶うとかそういうのだ」
すごい適当に七夕を解説する。
梅雨時だから本当に晴れてる七夕というのは珍しい。
「……やってみるか?」
■メイジー > 「…………ええ、はい。我が主」
距離感がうまく掴めない。
仕事着に身を包んでいるあいだは、自分自身をたやすく定義できるのに。
使用人の姿ではなくなった、ただのメイジー・フェアバンクスがここにいる。
役割に徹しているあいだは全てが自動的で、何も考えなくてよかった。
この身に語るべき言葉などなく、自らの意志さえ置き忘れたまま、今に至ってしまったのではないか。
そんな怠慢に甘んじてきたのではなかったか。恐るべき報いを受けている感覚があった。
「七夕………故あって二つの世界に分かたれた者たちの、悲恋の伝説であるとか」
「このメイジーにも願いがございます。参りましょうか」
夕暮れ時を過ぎても繁華な商店街には、祝祭の雰囲気が漂っている。
控えめな笑みを向け、斜めに半歩後ろを歩く。
■竹村浩二 >
「そのさ、我が主っての。なんかカタくねーかな?」
苦笑いして歩きながらその話を切り出してみる。
ずっと気になっていた。これからの関係を決める上でも大事なことだ。
「メイジーらしくていいけどさ、もっとこう…別の呼び方ねーかな」
商店街を歩くと、街の企画でやってる笹が見えた。
これだよこれ、こういうのがいい。
でもちょっと女連れで書くのは恥ずかしい。
「あー……その、なんだ。メイジー」
ごほんと咳払いをして、言い忘れないように早めに言っておく。
「浴衣、似合ってる」
そう言って短冊を取りに行き、戻ってきてペンと一緒に渡した。
「俺も書くのかー……ひと笑いできるネタあったっけな」
ジョークで誤魔化しながら自分もペンを取る。真剣な表情。
■メイジー > 「主は主にございましょう。ホールドハースト卿にも正式にお暇を頂いたことですし」
辺りを見回せば、同じような浴衣姿の学生たちが何組も行き交っている。
気安く呼びあっては他愛もない話で笑いさんざめくさまが羨ましくも見えてしまって。
代案が思い浮かばない。それならいっそ、真似をしてみるのもいいかもしれない。
「ですが、ええ。………………」
とくん、と胸が高鳴って鼓動が早まる。奇妙な緊張感に身を固くして、咳払いをひとつ。
口を開いても声が出ず、自分の臆病さに信じられない思いがして。
「…………ありがとうございます。『こうくん』」
言ってしまった。背徳感と顔から火が出そうな羞恥を感じ、頬が熱くなっていく。
全身から嫌な汗が滲み出ていくようで、笑顔が引きつっている自覚があった。
「…………………ああ、このメイジーとしたことがなんということを」
両手で顔を覆いながら消え入りそうな声で呟く。
■竹村浩二 >
「そりゃそうなんだが……」
確かに、メイジーらしくていいか。
そういうところも魅力的だしな。
そんなことを考えながら短冊に書く願い事を考えていると。
「こ………」
こうくん!? そんな呼び方されたの親もカウントしてでも初めてだけど!!
そして言った本人めっちゃ照れてる!! かわいい!!
「かわいい」
それだけ言うのが限界だった。
俺のメイド兼彼女が可愛すぎる件について。
「だがそうなるとメイちゃんと呼ばなきゃいけないからな…」
短冊にたった今、思いついた願い事を書いて。
■メイジー > 「出すぎたことを申しました。この罰はいかようにも……」
立っていられないほどの羞恥に襲われ、思わずしゃがみこんでしまいそうになる。
かといって往来のさなかでそんな振舞いをすれば彼に恥をかかせることにもなり、両の膝に手をつき踏みとどまった。
「み、身共のことは! どうかメイジーとだけ、お呼び、下されば!」
蒸気都市でも、上流階級の貴婦人は事あるごとに卒倒していた。
人は自身のキャパシティを越えるものに直面したとき、そんな風にして白旗をあげるのだろう。
残念ながら、意識は嫌というほどはっきりしている。まだまだ卒倒しそうな気配はない。
「あまり苛めないで下さいませ、竹村さま」
「それとも、こうお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「…………ぁ……」
「………」
「………っ…………っ……!」
自爆した。もはや自分自身が何を口走っているのかよくわからない。
蒸気機関のように頭から白い煙が立ちのぼっていくのが目に見えるみたいで。
「………『あなた』…と……」
顔を背けて、彼だけにしか聞こえないほど小さく呼んでみる。
「あ、ああそうでした身共も短冊を書かなくては」
すこし離れた台で色紙をひとつ取り、横書きの母国語で走り書きする。
■竹村浩二 >
「いや罰とかそういう制度ウチにはないからな」
ツッコミを入れる手の動き。
やめなさい、他の人が聞いたら家庭環境に疑問を持たれるようなことを言うのは。
「わかってるってメイジー、今のは冗談でだな……」
顔を背ける彼女に近づいたとき、聞いてしまった。
あなた、と。確かに。言った。
「あ……あはは…………」
今度はこっちが真っ赤になる番だ。
クソッ、年頃の女性とロクすっぽ話してないコミュ力が災いしたッ!!
短冊には、『いつまでもメイジーと一緒にいられますように』と書いた。
もうヤケだ。ここまできたら恥ずかしさも上限突破だ。
笹に吊るしていると、メイジーの短冊を横目で見て。
「なんて書いたんだよ、ちょっと教えてくれよ」
と、意地悪に笑って聞いてみる。
■メイジー > 「そうですか。お気に召しましたか……」
「では、『御身』とお呼びする代わりに『あなた』とお呼びいたしましょう」
意味は同じですので。何もおかしいことはありませんとも。
「身共はこれまで………特定の男性をお慕いすることがございませんでした」
「ですので、何と申しましょうか」
浴衣の袖をつまみ、まだ履きなれない履物のつま先に目を落として。
顔を上げる。生身の方の青い瞳を向ける。
「至らぬことも多いかと思います。不束者ではございますが……」
「どうか末永く、このメイジーをお側に置いて下さいませ」
彼の吊るした短冊の隣に結わえて吊るす。
まだ耳の先まで熱いけれど、いつまでも醜態を晒しているわけにもいかない。
「そのような意味合いのことを書きました」
■竹村浩二 >
「ぐ……」
せ、攻め込まれている。領地陥落の危機である。
ここまで押し押しのメイジーかぁ……アリだな。
そんな思考が白紙の脳内を練り歩いていった。
そして。
「な、お、その……」
突然の告白。その言葉にどう返したら大人のメンツを保てるかと考えていると。
「って短冊の願い事の話か……」
と、ほっと胸を撫で下ろす。
ん? 待て? おかしくないか?
「ってそれ本心じゃね?」
こっちも耳まで赤くなりながら、短冊を吊るし終えた。
「俺も……その、なんだ…」
彼女にだけ聞こえるように、声を小さくして。
「メイジーと一緒にいたいって書いたから」
気がつくと、空には星が瞬いていた。
いつまでも、この空の下に二人でいたいと思った。
■メイジー > 「はい。このメイジー、本心でないことは申しません」
あえて口にしないこともあるにはありますが、それはそれこれはこれということで。
「身共の故郷では、星に願いをかける風習はございませんでした」
「天体の呪力を頼むというより……おそらくこれは、願いを明らかにすることに意味があるのでしょう」
「願いを明らかにした以上、叶えるための努力を怠るわけには参りませんので」
同じく浴衣に身を包んだ彼の腕をとり、抱いて寄り添う。
仕事着でなければこんな振る舞いも許される。といいのですけれど。
「小さなことからはじめましょう。身共がお供いたします」
空を見上げれば、天の川の両岸に一対の星が明るく瞬いていた。
今度は自然に笑えた気がする。祝祭の夜はまだ始まったばかりで。