2019/07/29 のログ
ご案内:「商店街」に史乃上咬八さんが現れました。
■史乃上咬八 > 夕暮れ時。ちょっとだけいつもより人が少ないのは、きっとこの暑さのせいだろう。
道行く人たちは、日が落ちてきても尚続くうだるような暑さに負けじと、この商店街の活気の中を進んでいる。
その一角。八百屋の前で、一匹の犬を連れた、半袖のジャケット姿の青年が居る。
『ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ……』
「……夏野菜、か。……ルースター、お前も喰いたいか?」
『ワ" フッ』
「……すいやせン、トマト、三つ包んでくだせェ。それから……」
『……ウ"ゥ?』
「……大根一本」
犬が鼻先を向けて唸った野菜をそれぞれ。
お犬様とばかりの様子だ。
ゴールデンレトリバーと青年、どちらも何処か、犬のようで人のようで。
「……ッたく。一番の大喰らいだろォに、野菜でダイエットするのァ遅ェぞ」
『ワ" ウッ』
まるで会話でもしているかのような息のぴったりさ。
■史乃上咬八 > ……ただまぁ、この犬と飼い主の凄いところは。
"飼い主が片腕無くして犬を連れている"ところであり、
また、"リード無くして犬が飼い主に付いていっている"ところだ。
少し青年が立ち止まれば、犬も止まって振り返る。
青年が歩き出せば、犬も後ろをついて歩いていく。
人にぶつかりそうになれば犬は避け、青年が避けると犬も倣う。
道行く人が微笑まし気に、一人と一匹を見つめて、暑さの中の癒しを得ている、そんな光景。
「…………」
『ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ……』
「……暑ィな、ルースター」
『……ウ" ゥ……』
ご案内:「商店街」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
「えーっと、あと買って帰るのは───」
すぐ側にいなければ聞こえないくらいの小さな声で言葉を零す
その視線はまっすぐに自分の手元、手にした小さなメモへと落ちている
学校帰りの制服姿、小さな買い物袋を片手に下げて…
メモに記されているのは、学校帰りに買ってきて欲しいものリスト
母親からお願いねと託されたお買い物の羅列である
夏季休暇でも部活をしている人は学園に来るし、風紀委員となれば他の学生が羽目を外しすぎないよう見回らないといけない
実家は山の奥にあるので、こうやって学園に出てきた時についでに買い物を済ますのだ
「おや?」
メモをポケットに仕舞い、さて…と進行方向を確認すると、見慣れた姿に聞き慣れた声…
■史乃上咬八 > 「……」
『……ウ" ゥ』
「……どうした、ルースター」
――道行く途中に、風鈴などを売っている、ちょっぴり古風なお店。
そのりんりんと静かな音に耳を傾け、涼んでいた。
そこの辺りでだろうか。
犬のほうが何かに気づいたように鼻を鳴らし、唸って振り返った。
飼い主がそれに釣られてそちらを。
つまり、凛霞の方を見る。
声に気づいたそちらが見るのは、
犬と、見慣れた青年。
一人と一匹が全く同じ仕草で、風鈴の鳴るお店の前からそっちを見ている光景だ。
■史乃上咬八 > りいん。
涼しい音がしている。道行く人々の雑踏の中で。
……とても、そう。
シュールなのだ。
■伊都波 凛霞 >
同じ仕草でこちらを見る一人と一匹に思わず頬が綻ぶ
一歩、そちらへと踏み出して
「こんにちわカミヤくん。お買い物?」
無難な挨拶の言葉をかけながら、それも見慣れただろう人懐っこい笑みを浮かべて、小さくその手を挙げていた
■史乃上咬八 > 「……」
ぽかん。こちらへ一歩近づくそちら。
――急にしゃきっと背を伸ばす。犬まで倣ってぴしっとお座りの姿勢。
「伊都波先輩、御無沙汰ス。……はい、犬達と、居候先の晩飯の買い物中で」
隣にお座り中のわんこ。ゴールデンレトリバー。
視線を合わせてアイコンタクト。
「……今は、家で一番夏太りした、こいつの散歩も兼ねてるところ、スから」
『……ウ" ゥ……』
恨めし気に犬が顔を上げる。へ、と、顔を歪ませて笑う青年。
犬、ほんのちょっぴりお腹周りがぶっとい。
「伊都波先輩も買い物中……スね。献立に何か足すなら、今は夏野菜が、あっちの八百屋で買い得でスンで、是非」
■伊都波 凛霞 > 緩い挨拶を向けたこちらに対して、背筋を伸ばしたしっかりとした挨拶
最近の若いやつはーなんて言うような人でも感心するような立ち振舞ではなかろうか
商店街では、ちょっと浮いてるかもしれないけど
「学校もおやすみだし久しぶりだね。ふふ、お利口さんかな?」
多分、隣でおすわりしている犬に向けての言葉だろう
大きな犬に物怖じする様子は見せず、撫でようとその手を差し向けていた
「ほんと?ちょうど次は八百屋さんに用があったんだぁ。教えてくれてありがとう」
お買い得情報を告げる咬八へと視線を戻しつつそう答える
…手はまだわんこを撫でているかもしれないけれど
■史乃上咬八 > ……目立つ格好、目立つ挨拶。
のはずなのだが、何でかはとかく。
周囲の、ちょっぴり懐かしい雰囲気のあるお店の店主など、そのうち数人なんかは微笑ましそうにしていた。
「……夏休みと言えど、風紀の仕事は油断ならねェスから。
とはいえ、お久しぶりなのは、変わらず。
……何で、スかね。伊都波先輩。少し、元気そうに見えまスよ」
安堵。その笑顔や雰囲気を、何処か優しく緩めて見つめる赤眼。
『ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ……クゥン』
撫でられれば、小さく鳴いて頭をすりすり。
荒い息だが、尻尾はバタバタと喜びを表している。
"そしてそれを心なしか鋭い眼の青年が見下ろしている"。
「……えェ。それから、向かいの肉屋さンの揚げ物が、良いじゃがいもを分けて貰ったっつゥことで、何時もより美味いと。
それから、あっちの"いさばや"なども……あぁ、魚屋のことスけど」
――彼、なんでか凄く商店街事情に詳しくなっている。
犬がごろごろ撫でられているのにちょっと嫉妬するような眼をしているが、
次々出てくる本日のお買い得・美味しい情報。
■史乃上咬八 > 『おォい史乃上の坊主ーっ、なんでェよ別嬪な女の子と楽しそーによーォ!』
「あァ、蕎麦屋の旦那、前見てねェと一昨日みてェにコケますよ」
道行く蕎麦屋の自転車に乗ったおっさんが気さくに話しかけていった。
『あぁ、カミヤくん。先週はどうもねえ。また、うちにおいでぇな、美味しい果物が採れたからねえ』
「どうも、果屋のお嬢。……えェ、今度、是非」
通り掛けの老婆が、お礼を述べつつそんな話をしていく。
――なんでだろう。とても、とてもあちこちから話しかけられているし。
■伊都波 凛霞 > 「そうだね。夏休みなんかだとみんなつい羽目を外しちゃったりするから」
元気があるのはいいんだけどね、と笑い返しつつ
まだわんこをもふっていた
頭を優しく撫でたり、顎周りをわしゃわしゃしたり
割と見た目通り、動物は好きなようだ
「私はいつも元気だよ?
心配事が少し減った、っていうのはあるかもしれないけど」
レトリバーを撫でながら、他愛のない会話
その間にも目の前の少年、史乃上咬八は商店街の面々と親しげに言葉を交わしていた
「すっかり商店街のお得意様みたいだね」
学園内ではその風貌や目つきから、不良のようなイメージをもたれている彼だったが、多少なり話してみればすぐにその人の良さが伝わってくるのだろう
体が大きい犬は近寄るのが怖いけど、実は温厚、みたいなものかもしれない
■史乃上咬八 > 「……羽目を外し過ぎて、気ィ抜かした奴には、それなりの灸を据えてやらねェといけませンが」
声をやや低めた。それだけで今撫でられて絶賛ご機嫌の犬も、ぞわっと毛並みを逆立てながら、顔を若干真顔にするのだから。
それでも、その後の言葉を聞けば、ふわ、と柔らかくなるのだが。
「……そう、スか。それは、本当に何より。……ン」
お得意様。と言われれば、ひょこ、と、首を傾げるのだ。
「……俺はただ、商店街のパトロールのがてら、店の人方の手伝いをしてただけスけども。
商店街の皆さンは、本当に気概のあって善い人ばかりスから、義の尽くし甲斐もありまスから」
楽しいンスよ。と、――前じゃ絶対出来なかっただろう、くしゃっと無邪気に笑う顔で述べるのだ。
『……クゥン』
そんな飼い主の顔を、一鳴きしながら見上げた犬。
見つめるのは首の横辺りだ。
次には凛霞の顔を見て。
『ワウッ』
ここほれわんわん。などと申す如く。
■伊都波 凛霞 > 「どうしようもない場面以外は暴力はダメだからね?」
灸を据える、という言葉とそれを発した少年の雰囲気の変わり方に、釘を刺すような言葉を向ける
ちょっと過激なところもあるのが玉に瑕。彼が怖がられることも誤解だけというわけではないのだ
「よしよーし。おっきい犬って大人しいよね。全然暴れない。ねね、なんていうの?この子」
すっかりかがみ込んでわしゃわしゃと撫でくりながら、犬と同じように少年の顔を見上げる
そういう笑い方もちゃんとできるようになったんだなー、と感心しつつ、
なんだか促されるような一鳴きに、ここがいいのかな?とか言いつつ首の周りの毛をくしゅくしゅと愉しげに撫でていた
■史乃上咬八 > 『ウゥ……クゥン、ワウゥ……』
何が言いたげだったが、くしゃくしゃわしゃわしゃ撫でられるまんま。
しかし視線は"飼い主の"首元を見ている。
「……うス。その、えェ……なるべく」
なるべく。と言いながら視線を逸らし、気まずそうにする。
こうやって怒られると、視線を逸らしていくのは、
犬っぽく、そして彼の決まって怒られた時の反応だ。
「……あァ、そいつはルースターって言います。ゴールデンレトリバーのオス。まだ一年と半年、スよ。一番大喰いだもンで、腹回りの肉がちょっと目立つように。……ほら、そのあたり」
と、ちょうどお腹の辺り。何とも言えないむにむに犬肉の感触。
まだあばら骨の数はギリギリ数えられるといえ、そのうち分からなくなるのも時間の問題なでっぷりわんこだ。
「……育ちざかりだからと、俺が甘やかしたばかりスから、そこは俺も反省、スけど」
■伊都波 凛霞 > 「ルースターちゃんって言うんだね。カミヤくんの首のあたり気にしてるけど、どうしたのかなー?」
わしゃわしゃとしつつ、視線を同様に向けて
「大丈夫だいじょぶ。ちゃんと散歩とかしてあげればすぐにスマートになるよ。
でも夏場は熱中症になっちゃうことも多いから気をつけてあげてね?」
最後にぽふぽふ、とその大きな頭を撫でて、立ち上がる
■史乃上咬八 > 「……ッ、ルースター、お前」
ぱっ、と、自分の首元を押さえて、犬を睨んだ。
へっへーんとばかりに、
『ワウッ』
怒られろ。とばっかりにっこりな一鳴きをする。
立ち上がるそちらの足元でお座りをして、尻尾をぱたぱたしている。
「……そう、スね。犬用の水ボトルは常に持ち歩いてるンで」
……す、と手を降ろす。腕に掛けたトートバッグ。
色々入ってるそれを片腕だけで出して色々準備するのは大変そうだが、
しゃがみこんだ時、"ジャケットの襟下のほうに真新しい湿布が見えていたりする"。
「……」
底の高いお皿に水を注げば、がぷがぷ、と待ってましたとばかりにがぶ飲みする犬。
ぽふぽふ、と、その頭を優しく撫でている。
■伊都波 凛霞 >
「…なるほど。ルースターちゃんは何か私にカミヤくんに言い聞かせて欲しいことがあるのかな?」
ふぅ、と胸の下で腕を軽く組みつつ、少年を見据える
大体想像はつくというか…彼の性格もよく知っていると思っているから
きっとそれは彼にとって間違ったことではなく、必然をこなすうちに起こってしまうこと
"なにかのために無茶をする"
「で、どうしたの?首のところ。
私はそこまで鼻は効かないけど、君は別だもんね。キミのこと心配なのかも」
がぷがぷ水を飲んでいるルースターへと視線を一度移して、再び罰が悪そうな少年へと
■史乃上咬八 > 「……」
犬から自分へ注目が向く。
腕組みをしたそちらに、それはもう解り易く縮こまる。
お母さんに怒られる子供のようにも。
「…………商店街に、夜に屯す馬鹿共が居たもンで。
近隣の迷惑の話題もあったもンスから、注意を」
それで、その。と続いて、黙り込む。
――要するにいつものことらしい。注意をした、ということは恐らく、彼は最初言葉で説得を試みたようだが、むろんそんな輩が耳を傾けるはずもないだろう。
首の湿布、そして彼の気まずそうな顔。さっきの反応。
喧嘩になって負傷した。というのは、火を見るよりも明らかな結果だ。
「……ッたく。犬は、鼻が利く。ルースターが真っ先に気づいてる顔してたンで、黙っていろっつったンスが……」
犬に、怪我を押し隠すなんていう文化は無い。当たり前だが、
怪我をしている"仲間"のことを、他の誰かに伝えるのは本能のようなものだろう。
■伊都波 凛霞 >
「うん、まぁそんなとこだろうと思った」
彼は何をするにも必ず自分の正義観に准ずる
気性は荒いほうだと思うけれど、我先に突っかかっていくタイプでもない
だから、多分最初に手を出したのは相手のほうなのだろう
それによる負傷、ということかもしれない
「パトロールもいいけど、そういうこともあるんだからなるべくなら二人以上でしなきゃ。
風紀委員でも、相手が一人だと思うと素直に言うこと聞かない生徒も…まぁ、結構いると思う」
多分が自分が同じ立場で注意をしても同じことだっただろうと思う
相手が一人というのは、それだけ集団の気を大きくしてしまうのだ
暴力沙汰に及んだ事自体は咎めない
全ての不当な暴力を回避するには逃げるしかないのだから
自身の正義に背を向けられない性格であろうこと、迷惑をかけている連中を野放しにできないであろうこと
そしてそれら全てを風紀委員に任せるということもできないのであろうこと
それらはちゃんと理解しているつもりで
「大丈夫なの?病院はいった?」
■史乃上咬八 > 「お見通し、スか」
伊都波さンにバレずにいるのは無理スけど、と添えて、眼を細めた。
彼なりの頑張りも空しくそうなってはいたが。
結局拳は振るわれたし、その結果どうなったかと言えば、一応"解決"したのだろう。
それでも、彼は結局身を省みなかった。それは献身というが、同時に愚行だ。
「……二人以上は、なるべくスけど、それでも」
俺以外の誰かが怪我をするのなら、と、細く呟いて。
巻き込まれ、誰かが怪我をすることは避けたかったということだろうが……。
「……診てもらいました、"パイプで殴られた"だけスから、痣になっただけで、大した事は無ェンで」
そんなもので殴られたと言う事は、まぁ、相手も余程時代錯誤だと呆れるようなレベルの輩だったらしい。
それにしても、それで殴られて大したこともないとのたまう彼も彼だが。
「物騒な奴が多いのが、この場所ス。伊都波先輩こそ、単独で、は避けてくだせェ。いざとなりゃ、俺が動きまスから」
――そんな目に遭って尚、彼は。
■伊都波 凛霞 >
パイプで殴られた
頑丈な彼でなければ大怪我をしていたところだろう
このあたりも日が沈んでからはやはり治安が良いとは言えないのかもしれない
「うん、カミヤくんらしい言葉だと思う。
自分以外の誰かが怪我をするの、ヤダよね。多分それが気持ちいい人なんて一握り
でもカミヤくん自身だって、他の人から見たら"自分以外の誰か"なんだってことは覚えておこうよ」
一応医者にいったらしい、ということで怪我のことはそれ以上追求せず、
緩やかに組んだ手を解くとさっきまでルースターにしていたように軽くその頭をぽふ、と撫でようとする
「頼りがいのあること言ってくれるのは嬉しいけど…前も言ったかな?無茶だけはしないように。
私のことも気遣ってくれるのは嬉しいけど、同じぐらい自分のことも大事にしようねー」
■史乃上咬八 > 「……俺は、誰かにとって、自分以外、スか。……そういってくれる人の数は、俺の片腕の手の、指の数より、多いンスかね」
自分の手を見下ろす。その拳で、執行してきた"仁"がある。
けれど、それを振るうのを目撃する誰かなどいないし、居なかった。
あの場に限ってはきっと自分もあれらも大差はない。
そんな憂いは、頭の上に乗った優しい掌の、その暖かい一撫でに掻き消されて。
ふ、と細まった眼の、少しだけ安らぐような様子が、先程まで撫でられていたルースターの顔と重なる。
「……うス」
ちいさな返事。けれど、大事にしなさいと"言われた"なら、
その言葉に、"彼は尽くす"、のだろう。
「……」
――左手を動かす。握っていた手の力を緩める。
少し背伸びをしようとするが、恐らく手はそちらの頭に届くまい。
「……ッ、はぁ。…………気遣い、有難く。
でスが、伊都波先輩も、ご自愛を」
ふ、と上げた顔。
「……この史乃上空真咬八。与えられた恩義には、全霊にて応える所存。
伊都波先輩、何か御力が必要とあらば、どうか」
■伊都波 凛霞 > 「ここの商店街の人達だけでも、君がもし両手ともあったって足りないよ?」
言いつつ柔らかい笑みを浮かべる
彼にそれが理解できない筈はないと信じ切った、そんな笑み
「私は風紀委員だから、状況によっては少しの無茶くらいはしなきゃいけない立場。
でも極力無茶はしないようにするよ、だから大丈夫!私、強いしね」
安心させるように、強く言い切って
「気にしないで、カミヤくんは十分私に色んなものを返してくれてるよ。
彼のことだって、君がいなかったら多分もっともっと大変だっただろうから…」
■史乃上咬八 > 「……」
その一言で、ふ、と、眼を微かに見開いた。
――きっと、何か必死に、尽くそうとしたもので気づかずにいた身近なことを今気づいたように、ふい、と周りを見渡す。
「……そう、スね」
何で気づかなかったか、と、自分に呆れるように苦く笑う。
……が。
「……俺も、端くれなれど風紀委員が一隅。
えェ、しないに限らず。必要な無茶には、俺を引き連れてくだせェ」
御身、隻腕にて御守り致しやスから。と、伸ばしていた手を引き戻すと、
それを胸の前で、グンッ、と、幾らか前より強くなっただろう力で握り締め、示した。
「……彼の」
僅かに、細まった眼。
「――――伊都波先輩、もしや、"槍担(やりもち)"について、スか」
■伊都波 凛霞 >
「カミヤくんはまっすぐな人だから、真正面しか見えてない時があるのかもしれない。
ふと立ち止まった時にでいいから、自分の周りのことも見渡してあげて。
きっと、キミのこと心配してくれてる人が、君の通ってきた道にたくさんいるから」
わかってくれたかな、とゆっくりその手を戻す
少しだけ大げさな彼の一挙手一投足を微笑ましげに眺めていた
けれど、続く言葉には少しだけ罰を悪そうにして…
「うん。人間一人を匿うのって、一人じゃとても手が届かないものだから…」
■史乃上咬八 > 「……」
振り返る。彼は、何というか、
"何処までも荒原を疾駆する痩躯の狗のように"。
きっと振り返ることなど無かったのだろう。
だから、その言葉が尚も彼には、とても大きな事だったのだろう。
「――――は」
けれど、そのばつの悪そうな笑みを見た時、言葉の代わりに、一笑した。
「……気に為さらず。"手のかかる家族"は、既に多いスから」
左手が、がし、と、自分の肩元を押さえながら。
「……それに、とても、何というンスか。"晴れ晴れとした心地"、スよ。
――ぶつけたかった拳が、ようやくぶつけられた。
そして今や、俺が"アレ"の、教育係スから」
思い出したように視線を浮かせて。
「……次は漢字の教えこみに、簡単な算数でも。
あァ、それとももう少し平仮名を叩き込んでやるか……ッたく。言葉を教える事になるたァ思いませンでしたが」
……真っ直ぐに顔を見返し。
「御安心を。大した負担じゃありやせン。ちィと手ェ掛かりやスが、
えェ、むしろ、日常生活に支障のない程度、きっちり、"シツケ"はしといておきまスンで、何かあれば、連れ出しても問題もなく出来る様に」
■伊都波 凛霞 >
「……ん」
本当に頼りになる
そう思える言葉が返ってくる
男同士だからこそ遠慮の要らない部分だってきっとある
この少年、カミヤに任せて大丈夫なのだと確信めいたものを感じるには十分だった
「彼のこと、よろしくね」
とん、と彼の腕へと軽く触る
ぱさりと買い物袋が揺れて
「…と、随分立ち話しちゃった。ごめんね、散歩も兼ねてたのに」
退屈だったよねー、とおすわりしたままのわんこをもう一度撫でて、苦笑する
■史乃上咬八 > 「……お任せを。伊都波先輩からの頼みとあらば、十全に、完全に、無欠にて」
――"握力"。それだけで、まるで両手を叩き合わせたかのような"破裂音"。
胸の前で握りこんだ左手からの音が、空気を揺らす。
それは、彼の"無窮にして不屈の忠義"。
それを示す仕草。
開かれた隻眼は、これ以上無く、強い光を孕んで見据えていた。
……が。
「……はい」
触れられたときには、もう力を緩め、その顔へと柔らかく笑いかけていた。
「……いえ、お気に為さらず。善い時間でした」
『……ウゥ、ワ" ウッ』
ルースターが、空になったお皿の前で尻尾を振っていた。撫でられれば小さく吠え、笑顔で見上げてきている。
その笑顔に、く、と、小さく噴き出したのはカミヤの方で。
「……今度、うちに遊びに来てくだせェ。こいつ以外にも、やんちゃで手ェ掛かる可愛い家族が沢山居やスから。
――あと、"アレ"にも、たまに顔を見せてくれると」
後半、くしゃりと顔がゆがんだ。
「……あんまりに覚え悪いもンスから、叱りつける事が多いもンで。
ちィと気ィ減らしてるように見えます。
……あのガタイで中身があれっつゥのは、教える側としてはこれ以上無く複雑スよ」
■伊都波 凛霞 >
「そうだね、私も夏季休暇で時間はそれなりにあるし…」
足を遠ざけていたわけではないけれど、徒に刺激するのも…きっと身が入らなくなるだろう。そう思って
「ふふ、賑やかそう」
動物だってこの上なく大好きである
犬屋敷みたいなものを想像しつつ…
「…大丈夫。ほんとだったら、二度と帰ってこなかったはずなんだもん。
彼が戻ってくるチャンスは彼自身が記憶に繋ぎ止めておいたもの…ちゃんと、元に戻ってくれるよ」
■史乃上咬八 > 「……あいつ」
く、と、小さく笑った。
「……昔から伊都波先輩に教わってたンでしょう。覚え方が何つゥか、"今までピンチになっちゃ必死こいて教わるテスト前の餓鬼"みてェでスから」
教える過程で見抜いた感想を、ありのままに零して、心底おかしそうに笑っている。
「……えェ、今はまだ馬鹿でスが、そのうち"本物の馬鹿"に戻るまで、俺とて手ェ抜く事ァ無ェスから。
……飴と鞭の、鞭がちィと多すぎたンス。そろそろ飴をやっても、良い頃じゃねェかと」
よっぽどスパルタなことをやっているようだ。
眼に見えて浮かぶ。想像に易い。
「……それでは、伊都波先輩。買い物、頑張ってくだせェ。
――今日の、"俺"のおススメは、肉屋の合い挽き肉のコロッケッスよ。
間違いなく、最高の総菜スから」
往くぞ、と、ルースターに声を掛けて、お皿を拾い上げた。
ワゥッ、と、犬も凛霞へ一鳴きすれば、
飼い主共々揃って頭を下げれば、商店街の雑踏へと歩き出していった。
……これ以上無く、彼の歩く背中は、足取りは軽そうだ。
この場で諭された言葉はきっと、間違いなく彼を良い方向へと導けたことだろう。
ちょっとスパルタ過ぎる彼の教えに、"あれ"が悲鳴を上げて無ければ、というのは蛇足だ。
■伊都波 凛霞 >
「ふふ、喜んでくれるようにとびきり甘い飴をね」
想像すれば簡単に光景が浮かぶ
そこで笑うのは少し意地が悪いだろうか
ううん、この二人の間のことなら…笑い飛ばしてあげることがきっと正道だ
「コロッケかぁ。あんまりお惣菜って買わないけど…オススメされたからには試してみないとね」
少年が最高のお墨付きを与えるコロッケ
ちょっと楽しみになりつつ、頭を下げ歩き出す少年の背中を見送る
またね、とその背中に声をかけて、少年とは反対の方向へと歩きはじめる
すっかり陽も傾いて、赤い夕焼けに照らされながら買い物を終えて帰路につき、おうちについたなら
何か良いことでもあったの?と母親に問われる程度には、嬉しそうな表情を浮かべていたそうな
ご案内:「商店街」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「商店街」から史乃上咬八さんが去りました。