2020/06/13 のログ
ご案内:「商店街」にディカル・Grdさんが現れました。
ディカル・Grd > 先日、ゴッドの御前でJesus(失敗)したのは記憶に新しい。
故に彼は恥ずかしさから今日は島の中心部へと足を運ぶことにする。
この街の特徴としてはやはり、専門の業者だけではなく学生が営む店がある事だ。
自由な発想で自由な商店を開いてもいいのか、とStanding Ovation(企業)しそうになるが彼にとっての幸いなことは、祖国からの支援金をそんな事に使えない事である。

「こうした密集した商店は、故郷では都市部にしかありませんでしたね」

あらゆるところに建物が立ち並び都市部から離れても民家の間に店もあったりする。祖国では都市部から離れれば隣の家まで十数キロメートルが普通だったが、これも小さな島国ゆえかと考えが至った。
飲食店の隣に衣服店だとか対面の店がよくわからない機会部品の中古販売だったりいい感じでジャンクな通りだと好感を抱く。

今日の観光……もとい撮影スポットはここにしようと決めた。

ディカル・Grd > ちゃんと店の体裁をした場所、ほぼほぼ露天商(マーケット)な構えの店、移動販売車を利用した店舗。
景観を意識するより働く側が楽な店構え。

「OK(わかった)。利益というよりは趣味だな、これは」

というのは、企業が背後にある店舗のことではなく、学生が経営する店舗を軽く観察して思ったことだ。
中には利益になるように努力している学生店舗もあるかも知れないが、部活動などの延長である商店が目立つのでそのように大雑把な判断になる。

ディカル・Grd > この通りで見つけてありがたかったのは業務用販売店だ。
食材から調味料やら多くのものが多く買える。これは便利だ。
祖国ではこのザイズが一般的な家庭サイズだ。

「それにここに来て思い出したよ、私はこれを飲みたかったんだ」

GreenTea(緑茶)。
2000年初頭に発行された米国の観光誌あったToKyoには観光向けに滅茶苦茶デリシャスな販売店があったと記録にはあった。
残念なことに国復興は進んでいても観光産業の回復にはどの国でも遅れている。故に、一歩先にいるこの常世学園に来てこの《体験》が出来ている自分は恵まれていると思う。
五百ミリリットルの容器に入った黄緑色の液体を口へと含む。

「……Ah、Umm(あー、うん)。苦いね」

ディカル・Grd > Tea(お茶)、と言えば紅茶だ。
英国紳士は紅茶がお好きだ。香りよし、砂糖よし、ミルクティーもいいし、チャイだって彼は好きだ。
時にはストレートで飲むもいいけれど、そこはアルコールと一緒で酔いたい時はストレートでもいいけど楽しみたい時は何かを混ぜたいのだ。

故に、追加で買うのはスティックシュガー。
店頭で緑茶のペットボトルに砂糖を入れて飲む。

「Yes(そうだ)!この甘さでいい」

苦味の中に甘み(砂糖)を感じるのがいいのだ。
イエス、イエス、と年甲斐もなく物珍しい色のお茶に感動した。

ディカル・Grd > 人通りのあるところで目立つアロハシャツの一九五センチほどの男がそんな事をすれば奇異な目で見られることは必至であった。

今日のアロハシャツは彼の想定とは別の方向性で目立った。
この日はそれからいくつかの店を見て回って帰った。

しかし、彼は後日この日の納得を取り消すことになる。
未だ彼は出会っていなかった。

緑茶と共に観光誌に掲載されたその存在のことを忘れていたのだ。
二つ揃ってこそ至高へと至るとされた――和菓子。

ディカルが和菓子と邂逅するのは、そう遠くない未来の物語となる。

ご案内:「商店街」からディカル・Grdさんが去りました。
ご案内:「商店街」にシュルヴェステルさんが現れました。
シュルヴェステル > 「……牛めし、だと?」

商店街の一角、安値のチェーン店の立ち並ぶ区画。
学生たちの懐事情の強い味方であるそこには、
本土でも見たことのあるような店名がいくつか並んでいる。
フードを被って、その下にキャップまで被った白髪の異邦人はその中の一つ。
ただ、牛丼チェーン店の券売機の前で立ち尽くしていた。

「牛丼なら食堂にもあったが、牛めしとはなんだ?
 ……牛丼と何が違う? 牛丼屋だと看板にあったのに、牛めししか置いていない」

時折やってくる学生に「すまない」と先を譲りながら。
ただ、呆然と券売機の前で未知との遭遇を果たしていた。

シュルヴェステル > どうやら少し会話に意識を集中させてみれば。
牛丼と牛めしはおおよそ中身に違いがないということがわかる。

「なるほど」

目つきの鋭い青年がじっと他の学生の前に運ばれてくる牛めしを見る。
炊きたての白米の上に、醤油を中心に味付けされた玉ねぎと牛肉を乗せる。
これは異邦人の青年にも十分わかる。
牛丼≒牛めしなのだ。だから、牛丼を食べたいのなら牛めしで正しい。

正しいのだが。

「牛皿……?」

牛丼の上の部分だけが皿に分けられている。
なぜ。白米はどこに行ったんだ。どうして分けようと思ったんだ。
探している白米は、券売機の少し下に視線を向ければ見つかった。

「……ライスがなぜ別で準備されているんだ?
 ぎゅ、牛めしじゃあ、いけないのか……?」

ご案内:「商店街」にツェツィーリヤさんが現れました。
シュルヴェステル > 「……牛皿とライスを組み合わせれば牛めしになる、な」

牛皿+ライス=牛めし。牛めし≒牛丼。
完璧な数式。これが恐らくこの世界の真理であり答えだ。

「では」

券売機に紙幣を食わせる。苦しそうな音がしてから、全てのランプが点灯し。
指先を券売機のもとに持っていって、一度だけ硬直する。

「いや待て。牛皿とライスは牛めしよりも20円高い。
 同じもののはずなのにこの20円はどこに消えたんだ?
 ……20円分は、一体これはどこの何なんだ? ……ああ、すまない。
 私はもう少しだけ悩む。お先に、はい。どうぞ」

どこか殊勝な様子で、後ろに並んでいた人影に先を譲る。
携帯式の端末の画面には、電卓が浮かぶ。電卓には、計算結果である20が表示されていた。

ツェツィーリヤ > 「Жарко……(あっちぃ)」

そんな呟きとともに自動ドアを通る長身の女。
太陽に照らされたからか額にうっすらと汗が浮かびいかにも暑さにへきえきしたというような表情。
店内の冷えた空気にほっと一息をつき周囲に目を向けて券売機を探すものの

『日本人やべーよ……正気じゃねーよ。
 こんな暑すぎんのにスーツと制服ばっかじゃねーか狂ってやがる』

往来とあまり変わらない客層にもう見るだけで暑苦しいわと母国語でぼやきながら肩をすくめる。
暦上はギリギリまだ夏ではないらしいがこの国の夏は北国出身の自分にはあまりにも暑すぎる。

「……」

まあいってもしょうがないかと内心切り替え、券売機へと向かう。
午前中が思いのほか忙しく昼を食べる時間が少し遅くなってしまった。
この暑さの中で自分で作るどころか片づけすらしたくないので帰り道のついでに食べて帰ろうと思ったのだが……
そこには何やら鬼気迫る雰囲気を醸し出しながら券売機を見比べる少年が一人いた。
待てど暮らせど券を購入する気配を見せない少年。
何か面白いものが居るなぁと眺めているとこちらに気が付いたのか横によけて先に購入しろという意思表示を示す。

「……ァー……、ではお言葉に甘えて先に利用させてもらってもら……ん?」

言葉通り先に券を購入しようとツナギのポケットから財布を取り出しつつ横を通り抜け……ようとして券売機の表示に気が付く。
全てのボタンに赤い丸のランプが付き、電子表示板には1000の文字

「……千円入ってるが」

普段は身分証の手前、丁寧な言葉遣いを心掛けているつもりだが思わず普通に突っ込んだ。

シュルヴェステル > 冷えた空気と一緒に視界に入るのは暑苦しい青年。
制服のズボンの上にワイシャツ、その上に長袖のパーカー。
そして、その長袖のパーカーもフードを被ってその下にはキャップまで。
ちらりと長身の女性に視線を向けてから、体を反らしたはずだった。

「…………」

視線にようやく気付いたのだろう。どこか居た堪れなさそうな様子で。
そして、その口から言葉が選び出されては首を傾げる。

「ああ、千円入れたからな」

厨房の奥では心配そうにアルバイトの学生がこちらを伺っている。
が、青年は特に気にすることなく、ツェツィーリヤの後ろへと並んだ。

「どうぞ。
 ああ、それとも、券売機の使い方を存じていないだろうか。
 これは、金銭を入れてから交換用チケットを買う。そして、そのチケットと交換するシステムだ」

至って真面目な表情で小さく頷く。
券売機の使い方はもうマスターしている。余裕だ。
学食で苦しんで以降、もう既に券売機マスターであると言っても過言ではない。

青年は、ドヤ顔でツェツィーリヤを見る。

ツェツィーリヤ > 「あー……」

見るからに直前まで困っていたのになぜか誇らしげな表情に僅かに困惑する。
ものすごい親切に券売機について説明された。
この空気でまさか何度か利用していますとは言い出しにくいが……

「えっと、ありがとう。
 その……あ」

ここは不慣れを装うべきだろうと判断しそう振る舞おうと決意するも
とっさに話題が出てこない。苦悶しかけた脳内に何時か悩んだ問いが思い出される。そうだこれでいこう。

「……あー、えっと、そのメニューが多くて困りますね。
 この、牛丼と牛めし?の違いって……わかります?
 なじみが無くて違いが分からないので教えて頂けたら嬉しいんですが」

ここまで自信たっぷりなのだから多分詳しいのだろう。
大方メニューのコスパあたりを考えて苦悶していたのではないかと辺りを付ける。
それを踏まえ困った表情を装いつつ知らない感が微妙に出そうなこの質問なら多分大丈夫だろうと。
まさか眼前の少年がまさにそれらの問題について悩んでいたとはつゆ知らず……

シュルヴェステル > 「ああ。わからないことがあればなんでも聞い――……」

聞いてくれ。そう言おうとしたはずだった。
『券売機』についてはそこそこ何でも知っているつもりだった。
つもりだったのだが、聞かれたことはおっと危ないクリーンヒット二歩手間。
当たっていないと言い張っているだけでこれはもうど真ん中ストライクだ。
ツーアウト満塁。

「…………。」

これは経験者を装うべきだろうと判断し、そう振る舞おうと決意するも。
とっさに答えが出てこない。想像以上に自分が自信満々な表情をしているのもわかる。
然らば、これはわかる部分を切り取ってそれらしく振る舞うしかなかろう。

「ああ、そうだな。この店はメニューが多い。
 カレーライスも食べられる。牛丼屋なのにな。牛丼屋のカレーライスは美味らしい。
 私はまだ食したことこそないが、おすすめだと店員が先程言っていた」

「……牛丼と牛めしは。
 9割5分5厘で同じものといえるだろう。違いがあればその5厘だ。
 その5厘に何があるかと言われると非常に言葉に悩むが、同じでよいだろう。
 ……ただ、その牛皿はおすすめしない。おすすめしかねる。
 20円がどこかへ消えてしまうからな。選ぶのであれば、この牛めしの列から選ぶといい」

そう言って券売機を指差して、小さく頷く。
これはマスターっぽい振る舞いができたのではないか。できている気がする。
目の前の女性も困った顔をしているのだ。解としては十分以上であろう。
青年は、根拠のない自信に満ちた表情のまま、ツェツィーリヤに視線を向ける。

……千円は、未だ吐き出されていない。

ツェツィーリヤ > 「……なるほど」

さも理解したというようにうなずき笑みを浮かべる。
なにがなるほどというのだろう。伝わってきたのは20円が消えるという謎だけだ。むしろ謎が増えた。この国にたまにある謎のやつだ。
何一つ解決していない。いやまぁたぶんチップ込なのだろうけれどそこは今問題ではない。

「なら……うん、そうね」

これは勧められた牛めしの列から選ぶのが無難だろう。
幸いにも別にこだわりがあるわけでもない。食べる物を決めているわけでもないしそれ自体には特に抵抗はないので問題ないのだが……

「(お金出てこねーんだけど)」

おつりレバーを出来れば押してくれないかなぁと内心すがるような思いで一瞥するも誇らしげな表情でこちらを見つめる少年がそれに気が付く様子はない。ああこれ駄目な奴だ。まあいいか。

「ありがとう。助かります。」

そんな逡巡は一瞬で抑え込み、自分も財布からお札を一枚と500円玉を取り出し取り込み口へ。牛めし並みとトッピングの卵とチーズ、そしてビールのボタンを手早く押す。そのまま券売機の前からすっと横にのけ

「教えて頂いた縁もありますし、ご一緒しましょう。おつりと発券の受け取りお願いできますか。先に席とお冷の用意をしておきますので」

そう会釈しながら告げると身をひるがえし、グラスの方へ。
多分返事を待つと遠慮されてしまうはずなのでまるで決定事項のように告げる。
こういう時いかにも外国人然とした容姿は役に立つ。

「あ、少し離席しますね」

畳みかけるように席を離れる。勿論感染症予防というのもあるが断られる前に若干離れるのがこういう場合は良い。
若干強引に押し切ったがどうやらコスパに悩んでいたようなのでおつりの余剰分も含めで考えれば悩みは多少は軽減されるだろう。たぶん。

シュルヴェステル > 「ああ」

頷く。力強く。
新たな消える20円という謎へチップという解が静かに示されたものの、
それをシュルヴェステルは知ることはない。ウィーン、と安っぽい音がして、券が落ちる。
彼女が頼んだ(どうやら慣れているらしい。トッピングにも手を伸ばしていた)牛めしを見る。

自分も諦めた様子でおつりが落ちないまま牛めしのボタンを押す。
そして。

「なるほど。……一つしか頼んではいけないというわけではないのか。
 であらば、やることなど決まっている。臆することなどなかったわけだな」

牛めしの並。そして、牛皿。そして別添えのライス。
20円の真実をいま、ここで探ることもマナー的には問題がないというわけだ。
ウィーン。トスッ。安っぽい音と一緒に、三枚の食券が落ちる。
おつりをじゃらじゃらいわせながら(自分の分とツェツィーリヤの分がごっちゃになっている)、
シュルヴェステルがツェツィーリヤのところへとやっと追いつく。
店員の学生さんから「ああずっと立ってたのは待ち合わせだったんですね~!」
「次からは外で待ち合わせしてくださいね~!」と皮肉を言われながら同じテーブルに押し込められる。

「……ああ、釣り銭はこっちだ。
 して、慣れたものとお見受けする。先に選んで貰えて助かった。
 シュルヴェステルという。常世学園の1年生だ。貴殿も学生のうちの一か?」

フードはさすがに脱いだ。黒いキャップは被ったまま、僅かにつばを持ち上げる。
ぼさぼさ気味の白髪を首元で結った青年の赤い瞳が、前髪の隙間から彼女を見た。

ツェツィーリヤ > 「……ふぅ」

お手洗いで軽く安堵の息をこぼす。
一応思春期の少年を傷つけず切り抜けたはずだ。
何か仕事中より汗をかいた気がする。心因性の。
何でこんなことになっているんだろうとどこかで思うがそこは深く追及してはいけないような気がしたので手に就いた汚れと汗と一緒に水で流してしまおう。何処でも綺麗な水が流れるこの世界に感謝だ。

「……?」

なぜか店員さんからじっとりとした非難のような如何ともしがたい視線を感じる気がするが心当たりがないのでとりあえずこれもスルーすることにして改めて席に着く。どうやら少年も席に落ち着いたようだ。

「慣れている?……いえいえ。
 教えて頂いて勝手がわかったので
 知っている物を適当に押しただけです。
 おつりはそのまま受け取って下さい。
 不躾ではありますが教えて頂いたお礼の一環とでも。
 あ、ビールはこちらで」

助かりました。と再度礼を口にしつつ席に着く。
勿論ビールを受け取るのは忘れない。お酒は大事。

「ライカ、です。
 ふふ、私はただの滞在者ですよ。
 異能と魔術研究の最先端のこの島に
 社会見学にと父に言われまして」

島に来る際に作られた身分証明書通りの理由(シナリオ)を口にしながら笑みを浮かべる。
こんな身なりではあるが一応お嬢様とのことなのでそれなりに気を使わないといけないのが面倒だが実は地味に気に入っていたりもする。

シュルヴェステル > 「それなら遠慮なく。
 ミズ・ライカ。……そうか、そういうのもあるのか。
 学生ばかりかと思っていたが、そういうわけじゃない人間もいるんだな。
 異能と魔術研究……話には聞き及んでいたが、ここの『外』から見ても奇異なのか」

意外そうにそう呟いてから、差し出されたお冷に口をつける。
ようやくここにたどり着いた。あとは出されたものを食べて帰るのみ。

「見るにただの観光客というわけでもあるまい。
 ただの観光客ならばもっといい店に入るだろうからな。
 ……ああ、だがとりわけ牛めしが好きという可能性もある、な」

軽く小首を下げてみせて、小さく謝罪のジェスチャをする。
そんなことを言っていれば、店員の学生が注文の品を全てテーブルに並べる。
ツェツィーリヤの前には牛めしを。そして、シュルヴェステルの前には。

「牛めし、牛皿、ライス……。
 何が……違うんだ? 分けてあるようにしか見えない」

牛皿を持ち上げて、ライスにそっと上から乗せていく。

「牛めしが……二つに増えた。
 20円はやっぱりどこに消えたんだ……? 何だったんだ……?」

二つに増えた牛めしを前に、シュルヴェステルは深刻そうに呟いた。

ツェツィーリヤ > 「そうですね。学園都市と謳ってはいますが実際はそれを支える人の割合の方が多いようです。
 興味深いですね。本当に」

こればかりは本音が混じる。
実際生まれ自体は恐らくこの世界(であっているはず)だが
彼女が渡り歩いてきた、もしくは覗き見た複数の世界でも
ここまで未知が交わりつつも均衡を保っている場所は他に例を見ない。
異なる文化同士が交われば往々にして起こるのは衝突と吸収だ。

「いえいえ、今のところは本当に物見遊山ですよ。
 長期滞在を視野に入れているのもありますが
 上や外から見るより同じ場所で見る方が分かることも多いかなと。
 ”父”の仕送りに頼る生活も何かと癪ですし。
 ……それに疲れるんですよね。堅苦しいのは肌に合わなくて」

軽い謝罪に手を振って気にしていないと示す。
これらがそれほど好き、という訳ではないが逆に言えばあまり触れてこなかったため
まだ好きになっていないというだけでこういった手軽さとそれに反比例するクオリティには常々感心している。

「早くて安くておいしい。
 これだけで足しげく?通いたくなりますね。」

若干日本語に言いよどみながらもいい店だと思っていますよとこちらに視線を向けている店員に会釈を向ける。
それに実際に安くて速いこういった系列の店というのは便利だ。
単純に利用しやすいし、火力発電のように食べても誰にも文句は言われない。
そして何より誰かと”すれ違ったとしても”誰も不思議に思わない。
こういった店ですれ違っただけの客、ましてやその時他にいた客等店員さえも気にかけたりはしないだろう。
……最も自分の容姿が色々な意味で目立つことも理解はしているがそれを加味してもこういった店は利用しやすいのが実情だ。

「なかなか悩ましい問題ですね……」

そうこう話しているうちに食事が運ばれてくる。
何やら肉の分配が色々と思春期少年のラインナップの注文に少し戸惑ったように笑みを向けるが
それよりも大事なものに今は意識を持っていかれつつある。そう、ビールだ。

「では今日の善き日に。」

プルを引き、軽くビールを掲げると一気に半分ほどを傾ける。
暑い日差しに熱された体を癒すような冷たい感触に思わず満足げな吐息を漏らした。
そう、暑い日にはこれだ。これに限る。

シュルヴェステル > 「それは知らなかった。いいことを教わった。感謝する」

青年は短くそう言ってから、目の前の牛めし(×2)に手をつける。
青年――シュルヴェステルは、複数の世界こそ知ることはないが、少しだけ。
ほんの少しだけ、ここにいてわかったことはある。
干渉と不干渉を繰り返しながら、均衡を崩さない程度の距離感を保つ。

だからこそ、余計に異邦人という存在が「馴染む」必要が少しばかり出てくる。
それは当然のことではあるのだ。うまいバランスを保つためにはそうである必要がある。
だからこうして、青年は人間のような生活を見様見真似で繰り返す。

「上……」 上を見上げ。
「外……」 チェーン店の外をちらりと見てから、「失礼」と咳払いをする。

「長期滞在するにも悪くなかろう。
 いい場所であるのは事実だ。些かわざとらしくはあるが、よくできている。
 そうか。貴殿は自ら日銭を稼いでいるのか。それは、それは……善いことだ。
 私も何かしらを考えねばなるまいな」

そう相槌を打ってから、短く息を吐き。
「値も張らないしな。通うにはいい場所であるのは事実だ」と頷く。
ビールを気持ちよさそうに飲むツェツィーリヤを見れば少しだけ目を細めて、口元を緩める。

「……ああ、善き日に」

軽くお冷のグラスだけ持ち上げるジェスチャをして、再び牛めしに手をつけはじめる。
両方半分ほど食べたところで、完全に手が止まる。
どちらかを食べ進めるのではなく、検証のために食べていたが故に。
丁度牛めし1杯分ほどの食事量で、完全に青年の手が止まる。

「……人間は、食事量が多いんだな」

ぼそりと呟いた。

ツェツィーリヤ > 「どういたしまして。お礼の代わりにでもなれば」

自分がこの世界においてどのような立ち位置なのかは正直まだ測りかねる。
自分はこの世界で生まれたはずの、けれど異邦人でもある。
故郷はこの世界のはずだが見知った世界はここではない。
そうどこか矛盾するような立ち位置だからこそ……

「興味深いです。本当に」

噛みしめるように繰り返すと一つ柔らかな笑みを浮かべ思考を切り替える。
日々を装う事も大事だが、今目の前に湯気を立てる温かい食事がある。
何とミソスープと和風のピクルスもセットでついてくる。
これはサービスが行き届いているといってもいいと思う。この値段だぞ……。

「んーっ。美味しい」

ビールでのどを潤した後温泉卵とチーズを混ぜて牛めしに載せ頬張る。
カロリーの塊で減量中の方々には見せるのも気の毒な代物だが
バイトで使ったカロリー、そして何より彼女は一般に比べ一日の必要カロリーが図抜けて多い。
最もそれを知らない”友人”には胸にばかりカロリーが行っていると詰られたが
人より多く食べなければならない以上例え恨み言を並べられようとも食の楽しみというのは他と代えがたい。
携帯糧食のあのまずさと言ったら!そしてそれしか口に出来ない日々と来たら……

「……ん?」

とろけるような笑みを浮かべはた目から見ていかにもおいしいといった様子で食べ進める傍ら
年齢的にはバイクっ頼食べてもおかしくないと思っていた少年の手が止まっていく事に気が付き
少し怪訝な表情を浮かべた後合点がいったというように目を瞬かせた。
どうやらいつも頼んでいるという訳ではなく食べ比べをしていたようで
……食べきるには些か量が多かったようだ。

「あはは、少し量が多かったようですね。
 空腹時には多く頼んでしまうというのはよくあるミスですが……
 無理して食べるくらいなら」

残せるというのもまたこの島で味わえる贅沢な選択肢のうちの一つ。
約一人前が残っている前でなんだか無常を感じているような表情をしているのは哀れを誘うが。
……こう見えて二人前くらいの量を平気でぺろりと平らげるため
残すという選択肢について詳しくなかったりもする。

シュルヴェステル > 「あれこれと乗せるのは初めて見た。次は私も試みよう」

さながらグルメ漫画の1コマのよう。
楽しげに食事を進めるツェツィーリヤを暫く眺める。
美人の食事風景というのは実に眼福で、本来であれば白米も食えたのだろうが。
現状、白米の上に乗っかっている具すらも持て余している。
大層な言葉遣いをしているものの、目の前の牛めしと牛皿だったものは変わらず残り。

「…………」

ごくり、と喉を鳴らす。
覚悟を決めるほかない。ツェツィーリヤと同じく、青年にも残すという選択肢はない。
調理した誰かに失礼極まりないこともわかっている。1杯いくらの牛めしだとしても。
そして、もっと言うならばもうこれは食べ物で遊んだあとだ。
いくら実験とはいえ、食べ物で遊んだ直後に残すという選択肢はありやしない。

「いいや、無理はしていない。
 無理は自分の限界をそこだと定めるから生まれてしまうものだ。
 故、限界を更に高く設定してこそやれば、問題などありやしない。
 ……問題ない」

そう言って、適度に正しい食事をするツェツィーリヤの前で、
暫し黙々と食事が厳粛に執り行われる。さも儀式かなにかのように。
その無言が続いていくらか経ったあと、やや顔色の悪い青年が空っぽの器と一緒に立ち上がる。

「……勝った」

拳を強く握る。ぐっと握りしめた拳はガッツポーズに。
そして、対面の席に座るツェツィーリヤへと視線と声を向けてから。

「世話になった。通うことにならばまた会うことになるだろう。
 そのときは、20円は確実にどこかへと消える。やはり、牛めしをお勧めする」

そう言って、自分の分のトレイを持ってから踵を返そうとして、半身翻す。
食べ比べをしていたつもりがほぼ同一の概念に遭遇したことを告げてから。

「では、また」

ほんの少しだけ口元を緩めて、またパーカーのフードを被った。

ご案内:「商店街」からシュルヴェステルさんが去りました。
ツェツィーリヤ > 「ええ、是非。この国の食に対する追及は素晴らしいです。
 あと、そう。チーズを考え出した人類に永久の繁栄あれ、です。
 そのうち生卵も挑戦してみたいものです……。」

いまだこの国の生卵を食べる文化にはなれない。タコには早々に慣れたというのに。
ええ、おつまみにしてもらえれば多分数日で慣れますとも。下手すれば数時間かもしれない。
そしてその点この牛めしとピクルス、お酒に合う。ならもう嫌う理由がない。
しっかり味わいながらも早々に食べ終わると感謝の意を込めて両手を合わせる。
ああ、ごちそうさまという言葉は偉大だ。

「いや、そこまで思いつめなくとも……」

一方絶壁を見上げるかのような表情で眼前の料理を眺める少年。
明らかに限界を迎えているであろう表情をしながら
覚悟とともにつぶやかれた言葉に思わずツッコミを入れそうになるがぐっと飲みこむ。
そう、男の子には戦わなければいけない時があるのだ。
飲み屋の主人も酒瓶を酔漢の頭にたたきつけながらそういっていた。
彼にとって今、この時は避けられぬ戦場なのだ。

「……男の子ですね。」

そうして数分後、そこには空の器と勝利をかみしめる少年の姿があった
そう、彼は粛々と食べきった。苦しみながらも。
いっそ感動的ですらある。彼は己が限界とひるむ己自身に挑み、そして打ち勝ったのだ。
……食べ物の大食いというしまらない内容ではあるけれども。
そうして勝者は悠然と立ち上がり、その戦いを最初から最後まで見届けた者は
その背中にたたえるように盃を掲げる。ビールの缶だけれど。

「……次これを食べる時は20円のお得とこの健闘を思い出しますね。」

厳かに告げられた20円何処消えた問題に同様に神妙に答えると去っていく勇者の背中を見送る。
顔色は悪いが少年の瞳には誇らしげな輝きに満ちており……

「ええ、ではまた」

……正直ちょっとかわいいと思ってしまったのはここだけの話にしておこう。

ご案内:「商店街」からツェツィーリヤさんが去りました。
ご案内:「商店街」にヨキさんが現れました。
ヨキ > よく晴れた休日の昼下がり。
夏の到来を思わせる日差しの中、徒歩で商店街を巡って買い物をする美術教師の姿がある。
学内の派手なコート姿とは異なるシンプルな装いで、書店へ、菓子屋へ、雑貨屋へ。

細々とした買い物は、肩に提げたメッセンジャーバッグへ入れて。
菓子店のロゴが入った小さな紙袋を片手に提げた格好で、賑やかな往来をゆく。

歩きながらも、視線は街中のあちらこちらへ。

騒動がないことを確かめるように。
楽しみの切欠を探すように。
知った顔が歩いてはいないかと。
知らない顔が困っていやしないかと。

ご案内:「商店街」に城戸 良式さんが現れました。
城戸 良式 > 「あれ。
 ……ヨキ先生」

人違いだったら申し訳ないなと思いながら、
あの身長と体躯で間違えるはずはないなと声をかける。
黒いコートのツンツンヘアの男が、
頭一つ分小さい視線を上に向けて話しかけてきた。

「どうも。
 二年の、ええと、公安の城戸です。
 何回か授業見てもらったンすけど、覚えてないっスよね」

卑屈に、へらっと笑いながら一礼した。

ヨキ > 「おや」

話し掛けてきた顔に、ぱちくりと瞬き。

「城戸君、もちろん覚えているとも。
大勢の中でも、教え子の顔と名前くらいはきちんと残るさ。

それに君は、座学も演習も真面目に受けてくれていたからね。
より印象に残っていたよ」

笑って会釈を返す。それに、と付け加えて。

「休憩時間に、そのコートを羨んだのも覚えておるぞ。
風紀の腕章だとか、公安の上着だとか。
自分では身に着ける機会がないからな」

城戸 良式 > 「ああ、よかった。
 特徴ねーせいか、大体顔とか覚えらんねー性質なんで、
 すげーっスね教師って。
 ああ、いやすげーのは先生がか?」

真面目にと先生は言うが、
自分でも全く才能のない美術造形の授業が難しすぎて、
何から手を付けていいかわからず首を傾げていただけだったように思える。
それを真面目と評価してもらえるのはありがたい。

公安のコートについて指摘されると苦笑し。

「ああ、それで覚えて貰えてたってんなら、
 四六時中公安コート着てた甲斐あったな……。
 あー、そっか、ヨキ先生って風紀とも公安とも関係ない人でしたね。
 ……あの、先生って。
 生徒のために、休日まで『先生』してくれるっスか?
 ちょっと悩んでて……。
 あ、歩きながらでも聞いてくれると嬉しいんスけど」

その、公安委員のことで悩んでるんスよ、と進行方向を変え、
ヨキに追従するように横に並びながら苦い顔をする。

ヨキ > 「これだけの規模の学園では、人数は途方もないがね。
人気のある大きな授業よりも、覚えるべき人数がまだ少ないのが救いだな。

それに、覚えていてもらうのはほっとするだろう?
街中でヨキ先生、と呼ばれるのは、自分が嬉しいからな。
出来るだけ返せるように努めている」

投げ出さずに課題と向き合う者には、才能の有無にかかわらず評価する。
それがヨキの授業方針だった。
だから良式も、ヨキからすればプラス評価の教え子なのだった。

続けて尋ねられると、にこりと笑みを深めて。

「勿論、悩みなら今でも相談に乗るよ。
君が話したいと思ったその時に、ヨキはいつでも付き合う」

街路樹の影が落ちる商店街の歩道を歩くと、日陰の冷えた空気が心地よい。
良式の渋い表情を柔らかく受け止める眼差しで、続けて、と促した。

城戸 良式 > 「先生と生徒じゃ覚える数違いすぎる気しますけど!」

さも当たり前のように、よかれと思うようにと返され、
笑いが出てしまった。

悩みに付き合ってもらえると聞いて、
どう説明したものかと顎に手をやるとうーんと首を傾げ。

「実は……あの、正義について悩んでて。
 公安辞めようかと思ってるんスよね」

この言い方だと若干物々しいかなと思いながらも、
実際にそうなのだから仕方がない。
正義、大義、道徳。同い年の友人にするには鼻で笑われるような話だ。

「極端な話するっスけど。

 あるとこに一人、人を殺した"殺人犯A"がいたとするじゃないスか。
 そいつはまあ、俺らが追い詰める悪いやつなわけですけど。殺人は悪なんで。
 でも、その殺人犯Aが殺した一人が、実はそいつと同じような殺人犯Bで、
 Aが殺さなければBによって300人ほど死ぬかもしれなかったとき。
 俺らはAを捕まえるのが本当に正しいことなんですかね?
 とか考え始めて。……何が正しいんだろってなってきて。
 このまま公安って組織にいて、やること全部正しく居れるのかなって。

 すげー漠然とした話スけど、何に悩んでるか伝わります?」

口下手なところが出たなと苦笑いして、
いまいち伝わらないかもしれない例え話がヨキ先生に伝わっていることを祈った。

ヨキ > 良式の突っ込みに、ははは、と軽い調子で笑う。
けれど彼の悩みを打ち明ける調子には、真面目な顔で口を結んだ。

「正義について、か」

ふむ、と小さく応え、その内容に耳を傾ける。

「……なるほど。
“殺人犯A”を『必要悪』と呼ぶとして。

君はその『必要悪』の存在意義に、不健全さに――『正義』の答えのなさに、迷いが出始めたと。

確かに漠然としているが、大事な話だ。
それが仮に殺人犯の話でなかったとしても当て嵌まるくらいには、どこにでもあり、全員が同じ答えを出せる問いではないね」

城戸 良式 > そのヨキ先生の表現に大きく息を吐いた。

「へぇ、必要悪。
 めちゃくちゃ的を射てる表現あるんですね。
 必要な悪。『必要悪』……か」

世界が潤滑に回るための必要な悪。
正義だけでも、悪だけでも回らない歯車を回すためのパーツ。

「ええ。そうなんスよ。
 結局のところ、その線引きって人それぞれだし、
 じゃあ150人殺そうとしてる奴を殺す奴はその『必要悪』ってやつなのか?
 75人なら? 30人なら? 10人なら? 1人なら?
 そいつを殺さなければ死ぬ人間がどのくらいの数より上の『殺人』が、
 そいつは『処すべきじゃない人間』じゃないと許されるのか。とか。
 考えてると、自分らのやってることって、
 そんなに正しいもんじゃねーのかもとか思えてきて」

もしかして自分は、公安というものに、風紀というものに。
向いていないのではないかと思い始めていた。

「そいつに……『必要悪』に同情してしまうんスよ。
 そいつに、きっと銃口を向けないといけない立場なんですけど。
 ヨキ先生ならどうします。
 自分が手を下さないと300人死ぬ奴が目の前にいて、
 そいつは改善の見込みなく、止めなければ300人が死ぬってときに引き金を引いた相手を、
 捕まえるべきだと思います?」

ヨキ > 「そう、必要悪。
明確であろうと、陰に隠れた不文律であろうと、それは至るところに在る。
様々なかたちで、とても自然にね」

指先で顎を軽く撫でて、少し考える。

「ヨキが思うに……まず、大前提として『悪は悪だ』。

この国ないし、常世島にはルールがある。
人を傷つけてはならない。殺してはならない。
それを行った人間には、然るべき処罰が下されると。

だからヨキの考えは――

Bは300人を殺すかも知れない。
だが現に、Bという一人はAによって殺された。

一人だろうと300人だろうと、現に殺人が発生しているね。
だからそこでAを捕らえなければ――それは『公安委員会としての職務の放棄』に当たる。

それはそれで、紛れもない悪だ」

だが、と続ける。

「机上の空論とは異なり、社会にはもっと複雑なシステムがある。
それはAを捕らえる裏でBを追う公安の別動隊だったり、Bによって死ぬ人数を可能な限り減らそうとする、風紀委員会であったりする。

ヨキのような『一般の教師』からすれば――君らひとりひとりまで含めた、委員会全員の働きを信じる他にないんだ」

城戸 良式 > 『必要悪』もまた、紛れもない『悪』であると。
そうヨキ先生は自分に告げた。
必要でありながら悪、というその在り方は、
最初から矛盾に満ちている。

「300人殺そうが、一人を殺した悪だからこそ、
 それが必要悪であったとしても
 風紀や公安が裁くべきであると、そういうことスか」

それは。
なんだかとても辛いことだなと、そう思った。

「そう、ですね。
 一番極端な例で話してたんで、
 実際のところ風紀や公安だって一枚岩の一辺倒ってわけじゃないんで、
 その辺はも少し上手く動くかなって思うんスけどね、俺も。
 なるほど……んじゃ、そんな『一般の教師』に期待されてるってわけスか、
 公安委員として自分たちも……」

そりゃ、ちょっと頑張りたくなってきたな、と笑いを零した。

「すいませんお休みに変な話して。
 色々すっきり整理ついた気がします。
 ああ、それと、ついでじゃないですけどもう一個だけ聞かせてもらっていいですか?
 俺、無異能者なんですけど、
 この島で、他に異能を持っていない生徒とかって、ヨキ先生知ってます?
 ええと、この際生徒じゃなくて先生とかでもいいですけど」

ヨキ > 「…………、」

良式に念を押され、少し黙る。

「『表向き』は、な。ヨキは『教師として』、そう答えざるを得ないんだ。

だがね――もし君が己の中で、これまでの公安や風紀のやり方でない、『こうすべきなのではないか』という正義の種を見つけたとき……ヨキは、その背中を押してやりたいとも思っている」

そこで一旦言葉を切り、目を細める。

「……何年か前。

同じように、教え子と正義の話をしたことがあった。
法によって裁けぬ悪を――『裁き切ることの出来ない悪』を、どう捌いてゆくべきかとね。
彼は彼で――『己のやり方』を見出し、その道を進んでゆくと決めた。

君もまた、『己にとっての正義』を見つけたのなら――公安という集団と袂を分かつことも、ヨキは反対はしない」

笑う。

「……済まぬ。君の知らぬ人間の話をしたな。

何にせよ、迷いや惑いのある心で決断を急ぐべきではないよ。
それまでヨキは、何度だって君の話を聴くから」

そうして、ついでという彼の話に。ほう、と頷いて。

「それなら、ヨキも異能は持っていないよ。
他にも付き合いのある中で、何人か心当たりはあるが……何故だね?」

城戸 良式 > 「………?」

何かを懐かしむような、誰かを懐かしむような視線と言い方。
恐らく、言う通り自分の知らない誰かの話なのだろうけれど、
どこか触れてはいけないような重厚なものを感じた。

「『己にとっての正義』スか。
 ……難しいな、それって正義なんスかね……?
 ちょっと、持ち帰って考えてもみます。
 今ンとこ、すぐにどうこうしなきゃならねーわけでもないんで……。
 まあ、でも、そんなこんなで急に目の前に、
 300人殺せる殺人鬼とか、そいつを殺したやつとかが出てきたら、
 判断しねーといけないのが公安のきついとこスけど」

少々バツが悪そうに頭の後ろを掻く。

「そりゃありがたい!
 ああ、しかも先生異能ないんスか。
 俺もなんスよ。んで、異能ないなりに色々頑張ってるんスけど、
 ちょっとそっちにも行き詰まり見えてきたっていうか。
 みんなどうやって折り合いつけてんのか知りたくなって。
 んじゃ尚更、また色々ごちゃごちゃ考えたくなったら、
 先生に声かけますね!」

ありがとうございました!と残して、その場を辞した。

ご案内:「商店街」から城戸 良式さんが去りました。
ヨキ > 「全く難しいものさ。
――ゆっくり考えてくれたまえ。
ヨキもまた、君の言葉をゆっくり反芻させてもらうよ。

他の委員たちとも、建設的な対話が出来るとよいな」

困ったように笑って。

「ふむ、そちらでも――か。
なるほど、悩みが多くては大変だな。
ああ、いつでも話を聞こう。話し合うことは大歓迎だ」

良式の挨拶に、軽く手を振って見送る。
その場で何事か考えるように少し立ち止まってから――また歩き出していった。

ご案内:「商店街」からヨキさんが去りました。