2020/08/16 のログ
ご案内:「商店街」に月ヶ杜 遍さんが現れました。
月ヶ杜 遍 >  
「う~~~ん、ありませんわねぇ。
 もしかしてもう取り扱い終了してしまったのかしら。」

ブティックやアクセサリー店を覗いては小さく唸る女。
何かを探しているようだが、独り言を聞く限り見つかっていないようだ。
それにしても独り言がうるさい。

ご案内:「商店街」に時任時図さんが現れました。
時任時図 >  
「なんか探してんすか、おねーさん」

軽く声を掛けたのは、黒い髪の少年。
だが、瞳の色は紅で、左目には眼帯を付けている。
そのへんで貰った団扇を仰ぎながら、少年は首を傾げる。

「あ、すいません、僕、店員とかじゃないんで完全に興味本位で聞いてます」

月ヶ杜 遍 >  
「? ……あら、こんにちはお兄さん。
 いえ、お恥ずかしい事ですが香水を切らしてしまいまして。
 それで探していたのですが……随分買い溜めして使っていたせいか、気付いたら店頭から
 無くなってしまっているのですわよ。…あーあ、あの香り気に入っていたのですけど。」

少しだけ眉根を寄せて辺りのショーウインドーを見つめる。
前までは空の小瓶がそこらの店頭にあったはずだが……中に入って物色というのも面倒だ。

「この辺のブティック、異邦人の増加でそっち向けの需要にも手を出し始めたのですわ。
 『渋谷』の方ならあるかも知れませんが、あそこの香水使いたくないですしぃ。」

時任時図 >  
「ちわす。あー、香水って買い溜めしちゃうと中々なくなりませんもんねー。
 長く使ってる間に廃盤になったりとかはよくあるってききますねー。
 僕も昔気に入ってた奴あったんですけど、マイナーブランドだったんでソッコーでなくなりましたよ」

馴れ馴れしく隣に並んで、一緒のショーウィンドウを見つめる。
左右非対称の黒髪。その横髪が軽く揺れた。

「異邦人向けの商売も増えましたよねぇ。
 香水とかも確かに需要超ありそうですし。
 あれ? おねぇさん渋谷は何か嫌な思い出でも?」

軽く尋ねる。

月ヶ杜 遍 >  
「そうなんですのよ~、こんなことなら拡散して需要作っておけばよかったですわねぇ。
 売れてれば文句なく入荷してくれたでしょうに。あーあー、勿体ないことしましたわぁ……」

むー、と口を尖らせながら肩を竦める。実に残念そうだ。
おそらくその香水を付けているのだろうが、爽やかでスパイシーながら仄かに甘い香りが漂う。
長い三編みがゆらりと揺れるたび、その軌跡に涼やかな清流の流れるが如し、である。

「ええ、ただでさえ異邦人の皆様は常識が異なる世界からの来訪者なわけですし、
 香水が超高級品かも知れませんし、香りというものに乏しい場所出身かも知れませんし……
 そう考えると迂闊に買い占めもしたくないのですわよ。」

目撃されて変な軋轢生みたくないし、とは言わなかった。

「嫌な思い出?嫌な思い出というより嫌な思いと言いましょうか……
 基本的にあの『渋谷』の街は信用してないのですわ。何がどう変わるか解らないし、
 そもそもその香水の原料に何が使われてても文句は言えませんわよ。」

時任時図 >  
「ああ、認可貰ってるかどうかわかんない店ばっかりですもんね」

『こっち側』の店はどこもかしこも一応は認可されているのだろうが、『あっち側』にそんな常識は勿論通用しない。
物珍しさや値段より信頼性を重視する客なら、確かにあまり『あっちの店』には用がないだろう。

「買占めはまぁそれ自体がノーマナーですしねー。
 それより、その香水いい匂いじゃないっすか。
 僕もちょっと欲しいし、その辺一緒に探しません?
 こんだけ店あるんですし、ぶらついたらちょっとくらい売れ残ってるかもしれませんよ」

月ヶ杜 遍 >  
「9割方認可は貰ってないと思いますわねぇ、きっと。
 そもそも今日行って明日残ってるかもわからないような店ばかりですし。
 そんなんじゃクレームも返品も出来たもんじゃありませんわよ~。」

口には出さないが、何より以前知り合いが手に入れた『躁を引き起こすネックレス』。
ああいった物がある以上、どの店であれ信用できたものではない。

「あら、そうですか?嬉しいこと言ってくれますわねぇ。
 それなら適当にぶらつくとしましょうか。多分ないんでしょうけどぉ。
 ……まぁ、これを気に新しい香水を開拓するのも良いかもしれませんわね。
 名残惜しいですが、一期一会と考えることにしますわよ。」

そう言って、カツカツとヒールを鳴らして歩き出す。
姿勢は美しく、足運びに体幹のブレもない。ある者が見れば美しい姿勢、
あるいはある者が見れば、場馴れしたスキのない歩法に見える。

時任時図 >  
「まぁ、見つかったら見つかったでめっけもんってくらいで」

アテもなく歩き出す。
実際、本当に何のアテもない。
日を軽く避けながら、団扇を片手にぶらつく。

「おねぇさんでも、この手の香水付けるって事は硬い仕事とか教室じゃないですよね多分。
 ヤバめな人?」

硬い仕事や教室とは、無論普通の生徒を指す。
普通の校舎で普通の学生をしている生徒達だ。
教室や部活によっては香水や化粧は勿論、派手な格好も禁止していたりする。
だが、ヒールでツカツカ歩く彼女にそう言った気配はない。

月ヶ杜 遍 >  
「ま、そうですわねぇ。期待せずに歩きましょう。」

時折ギラリと目に突き刺さる日光を恨めしげに睨みながら、可能な限り屋根の下を歩く。
白い肌にちらと光る汗の筋が、否応なく燃える大気の熱を感じさせる。

「……ふふ。それを聞いてどうなさるんですの?」

言外に『そうだ』と語る。半分嘘で、半分本当。
ある程度の分別はあるし、ギリギリ目を付けられない程度の場所に立っている。
少なくとも学業に励む「学生」ではある。
しかし、「普通の学生」とはまた一つ異なる位置にあることは確か。

時任時図 >  
「タダの興味本位っすよ。
 僕、好奇心に殺される方なんで」

言外の肯定に笑みを浮かべて、少年も肩を竦める。
強い夏の日差しが、路上に陽炎を浮かべている。

「それに面白いじゃないっすか。
 いかにも『そっち側』の匂いをさせているのに、『そっち側』の町は嫌いと口を尖らせる女。
 いかにも意味ありげとなると、ついつい詮索したくもなるじゃあないですか」

楽しそうに、少年は人差し指を揺らす。
合わせて、横髪が微かに揺れた。

月ヶ杜 遍 >  
「猫を殺すとはよく言ったものですが、猫に九生ありとも申します。
 その手のことに首を突っ込んでくる方って、だいたいしぶとくてしつこいんですわよね。
 ……訳知り顔で突っ込んでくる殿方は特に。」

口元を抑え、くすくすと笑う。
……目は全く笑っていない。

「単純な話ですわよ、有り気な意味も詮索する深さもありません。
 私、『便利屋』をやっておりますので。それ以上でも以下でもありませんわ?
 硬い秩序は疎ましくあれど、無秩序の混沌を奉ずる程の無法者ではありませんの。」

『便利屋』。
落第外に点在する「裏」の話は、噂程度には世に流れている。
風紀にも公安にも頼れないはみ出し者たちが手を伸ばす落第街の『受け皿』。
その評判はピンからキリで、その存在も嘘か真か。目の前の女は、そんな職を担うと事も無げに語った。

時任時図 >  
「ああ、橋渡しっつーか、まさにその橋の上にいるってことっすね」

黒でもなければ白でもない。
灰色。いや、灰にしても少し黒に近い。
落第街で商売できていると暗にいっているのだから、闇の住民に違いはない。

「裏世界の水先案内人って奴っすか。
 いやぁ、美味しいところ吸えそうっすけど、それ以上にどっちの苦い場所も押し付けられそうで大変そうっすね。
 それが務まるんだから、お姉さんやり手ってわけだ」

表裏どちらにも顔か腕のいずれかが通用しなければ、少なくとも食えるほどの収入にはなるまい。
逆説、そのどちらか、その両方をこの女は持っているということの証左ともいえる。

月ヶ杜 遍 >  
「そういった所ですわよ。いつ切れるとも知れない吊橋ですけれど。
 ですが、こちらのほうが何かと都合が良いのですわ。」

……目的は別にある。
そう語る女の目は、相変わらず笑顔には歪まないが……
獲物を狙う豹のように、きらりと輝いていた。

「案内させるならガイド料取りますわよ、勿論。
 美味しい所も危ない橋も全部押し付けられて、乗り切るだけの実力がなければ
 生きていくのは無理な世界ですもの。
 やり手かと言われれば、慢心する気はありませんがYESと答えさせて頂きますわ。
 貴方ももし落第街落ちしたらどうぞご贔屓に。顔見知りとして5%くらいは割引致しますわよ?」

さらりと答える。その言葉通り、そこには慢心も欺瞞もない。
……胡散臭さも、企みもあまり感じない気がする。闇の住人の手を取る立場にあっては、実に『クリーン』だ。

時任時図 >  
「そりゃ嬉しいな。
 興味本位の元が取れるだけの名刺が貰えたってわけだ。
 落第街に落ち延びたくなったら、是非、その5%の好意に甘えさせてもらうよ」
 
雌豹の眼光に片目だけで応じて、少年も笑う。
夏の街並みに人気は余りない。
誰も彼もが涼を求めて屋内に退避している。
遠くの人影はどれも、陽炎に揺れて朧気。
どれもこれも、嘘か本当か判然としない。

「そう言う事なら名前くらい聞いとかなきゃな。
 僕は時任。トキトー・ジズ。おねぇさんは?」

月ヶ杜 遍 >  
「ま、貴方がクリーンな水辺にいるだけなら公安や風紀に駆け込めば済むだけですわ。
 彼らも鬼じゃなし、お天道様の見守る下なら縋る人の手を払うことはないでしょう。
 ……老婆心で忠告するなら、泥にまみれて生きるのが似合うのは腕白小僧だけですわよぉ?」

涼やかな青年との巡り合わせに鋭い眼光をふっと和らげ、辺りを見渡す。
気付けば随分と歩いたが、やはり目当ての香水はない。得たのは夏の粘着く暑気と、肌を伝う汗だけ。
それもまた巡り合わせ、致し方なし。

「遍。月ヶ杜 遍ですわよ。便利屋としての名は《月妖》。
 どうぞ今後とも宜しくお願いします。」

時任時図 >  
「こっちこそよろしく。腕白って程じゃ確かに僕はないな。
 忠告ありがたく受け取っておくよ、遍さん」

ジズはそう言いながら両手をあげて、「あーあ」と溜息をつく。
気付けば、商店街の隅までもう歩いていた。
ここから先は住宅街。
当然、洒落た香水を置く店などあろうはずもない。
僅かな逍遥の終わり。
それを告げるように置かれている無機質なコンビニの自動ドアを見ながら、ジズは肩を竦めた。

「一件くらいは探せばあると思ったんだけどな、『読み違えた』か。
 いやー、残念残念」

引き返す事なく、そのままジズは商店街の路地裏……最寄り駅への近道に向かって。

「今日は遍おねーさんの助けになれそうにもないし、僕はこの辺で失礼するよ。
 んじゃあ、遍さんも御元気で」

そのまま、ふらふらと路地裏に消えていく。
宛ら、夏の陽炎のように。

ご案内:「商店街」から時任時図さんが去りました。
月ヶ杜 遍 >  
「腕白でもいい、逞しく……とはよく言ったものですが、この世で生きるのに必要なのは
 逞しさではなく強かさと小狡さですから。」

……ふと、一瞬遠い目をした。
何かを見つめるような、それでいて何も見つめないような。
その視線の遙か先には何もなく、それを見つめる視線もすぐに消えて失せた。

「まぁ、それもまた運命ですわよ。帰りになにか新しい香水でも買うこととします。
 お付き合いありがとうございました、時任さん。お元気で。」

ふらりと消えていった男の背中を見送り……さて帰るか、と踵を返したところで。

「………はい、もしもし。
 ええ、《月妖》はいつでもお客様のご依頼を歓迎いたしますわ。
 ……報酬と内容次第ですがね?」

取り出した携帯端末ににこやかに囁き、すぐにそれを懐に仕舞う。
軽くため息を吐けば、その吐息は夏の熱に溶けたように消えて失せていった。
そして、近くの街灯に手を添え……

「……もう少し時間に余裕を持ってご連絡頂きたいですわねぇ。」


がんと地面を蹴って、背筋を伸ばした街灯の上に立つ。吸い付くかのように、ぴったりとブレることなく。
そのまま再び街灯の頭を踏み台に、商店街を飛び越え……路地裏の中へ消えていった。

ご案内:「商店街」から月ヶ杜 遍さんが去りました。