2020/11/28 のログ
ご案内:「商店街」に白い少女さんが現れました。
■白い少女 >
「なに―――してるんですか?」
きょろ、っとあやめくんの目のまえにかおをだしたのは、小さくて、しろい、女の子でした。
ふしぎそうにふくろとあやめくんを見て言うその声は、ちゃんと聞こえます。
「こんにちは、あやめくん。
にもつ、たくさん…ですね!」
■芥子風 菖蒲 >
ずっしり。両腕に下げた紙袋。合計6つ。
これら全て、お菓子である。お菓子とかジュース。
身体強化異能の影響か、これ位は見た目の割に軽々持てる。
だが、無駄に多い。ぎっしりだ。
さっきからずーっとアッチコッチ回った結果これである。
流石の少年も、何とも言えない表情だ。
「……エルザ達、太るぞ。」
頭を使うと言っても、これはカロリーオーバーでは無いだろうか。
さて、次は……とメモ帳に目を向けた矢先、視界がぼやけた気もした。
「……?……あれ。」
人込みの中、それでもくっきり見えたのは白い少女の姿。
ぱちくり、青い双眸を瞬かせた。
「クロエだ。何してるの?こんな所で。……ああ、オレのこれは買い出し。
買い物を頼まれてさ。そう言うクロエは……喋り方が変わった?」
あの時出会った時よりも、声がハッキリと聞こえた。
何となく、ほんの少し胸の奥が温かくなった気はした。
■白い少女 >
「おねえさん!」
クロエ、とよばれてふくれっつらであやめくんにおこります。
ぷんすかとしていて、ごりっぷくなようです。
「…?
かいだし、ですか?
たくさん……はっ
だいさくせん、です?」
だいさくせん。
色んなさくせんの時のじゅんびで、ものいりになる…なんて、本でよんだことがあったとか。
おしごとなのかな?と女の子は、首をかしげます。
「しゃべりかた……なにか、へん、でした?
あー、あー――――
……???」
変わった、といわれて。
女の子はなにかちがうのかな?とこえをだします。
そのこえは、前よりもはっきり、しっかり、きこえます。
ぷつぷつとはりが外れる、レコードみたいじゃありません。
■芥子風 菖蒲 >
「ん……ああ、うん。ごめんごめん、姉さん。」
前会った時そうだと決めていた。
これはうっかり。とはいえ、何方かと言えば感覚的に"妹"なので
少年にとってついうっかり呼び捨てが出るのも仕方ない。
ぷんすこ、ふくれっ面に対して実に涼しい顔で平謝りだ。
「うーん、大作戦と言えばそうかな。文化祭。
常世祭……だったかな?その為の補給、かな……?」
実際大掛かりなイベントだ。
式典委員会の面々も頭を使う。
多分、この袋も一瞬で無くなるかもしれない。
「クロエ姉さんも欲しいの?お菓子。」
……まさか、食い意地這ってるように見えたらしい。
「…………」
彼女自身に、自覚はないらしい。
だったらあの時の妙なノイズと言うか、"間"は何だったのだろう。
理由はよくわからない。けど、気にはしなかった。
彼女が楽しそうなら、それでいいし、何より…。
「ううん、別に。変じゃないけど、可愛い声なんだなって思っただけ。」
素直に思ったことは口に出すタイプ。
■白い少女 >
「ふふふ。
それでいいです、あやめくん。」
まんぞくそうに女の子はほほえみます。
ねえさん、という言葉がとてもうれしいようで、にっこりとわらっています。
でも、女の子は、ぜんぜんあやめくんのおとうとには見えません。
あやめくんのがずっと大きいので、とうぜんです。
「ぶんかさい、ですか?
さい…あっ、おまつり…ですね!
おかし、ですか?」
ほあ、とみるふくろには、たくさんのおかし。
とてもおいしそうで、少し女の子の目がひっぱられます。
おかしは女の子も、とてもすきでした。
「…?
こえ、きこえるんですか?」
こてん、と首をかしげます。
女の子は、声がちゃんと聞こえるのに気づいていないようでした。
■芥子風 菖蒲 >
「はいはい、姉さん。」
微笑みに釣られて、ほんのり口元が緩んだ。
少年も大人と言うには程遠いけど
その背伸びをするような感じがかわいらしくて、つい。
「うん、お祭り。島中皆でワイワイする……のかな?
オレは風紀委員だから、主に警備だけどね。こういう時に、"ハメ"を外す奴が多いから。」
皆で楽しく騒ぐことは少年は好きだ。
正確には、その光景を眺めるのが好きだ。
それを守る事に充実感を感じる。
だからこそ、そう言う時でも"やりすぎ"は良くない。
風紀委員は、ある意味天職だった。
さて、そんな少年の袋の中はそれこそ宝の山。
これでもかとお菓子が詰め込まれていて
見ているだけでお菓子が誘惑してくるように見えるくらいだ。
「食べる?いいよ、少し位。」
どうせ、後で買えばいいし。
お好きなのを袋からどうぞ、と腕を差し出す。
「……?聞こえてなきゃ、喋れないでしょ?
姉さん、どうしたの?……まさか、"自分の声が聞こえない"の?」
実に不思議なことをいう。
聞こえてなければ、会話だってままならないのに。
前回の事と言い、彼女は確かに不思議な存在だと思ったけど
何か、"ズレ"と言うべきか。
そのハッキリとした声音に合わせて、"違和感"さえ明確化してきた気がする。
「……この前、オレに何を話したかは覚えてる?」
■白い少女 >
「ほぁ‥‥‥」
たくさんのおかし。
あんなにいっぱいのおかしは、女の子もみたことありません。
食べる?といわれると、すこしゆうわくに負けそうです。
「‥‥あ、あやめくんもたべるなら……いっしょにたべても…いいですよ?」
あやめくんの方を見て、それなら、しかたないですと言いたいように言います。
おねえさんなので、おとうとよりも先にたべたりはしません。
でも、あやめくんもたべるなら、いっしょにたべても、いいかなー…なんて。
「と、うん…?
あ、わたし……こえ、あんまり、人にきこえない、らしいので……
あやめくん、あんまりきこえない、ないみたい、なので?
きこえるようになった、のかなぁ…?って。
……ふふふ、それだったら、すこしうれしいなぁって」
女の子は、そのこえがきこえることも、女の子がいることも、わかってくれる人はあんまり、いませんでした。
もしも、あやめくんが女の子のことが見えて。
それで、こえもちゃんときこえるなら。
それは、はじめてのことでした。
それは、とてもうれしいことでした。
■芥子風 菖蒲 >
「…………」
あ、これダシに使われてるな。
流石の少年も理解してしまった。
正直、どうでもいいことだが、親愛なる姉が食べたそうにしている手前
"いらない"と突っぱねるのはちょっと可哀想だ。
「いいよ。一緒に食べよう?そこ、座れるから。」
なんて、珍しくはにかみ笑顔を浮かべて頷いた。
姉さんには敵わないな。と、顎で付近のベンチを指した。
レディーファースト、だ。
「……ああ、うん。そっか……そう、なんだ。」
少しばかり心配が過ぎた。
よくは無いけど、そう言う事なら少し安心した。
そう言えば、未だ自分以外見えている様子は無い。
……あの時と何も変わりない。
やはり、"ズレ"とも言うべきなのか。
彼女の正体も、未だつかめないけど……。
「まぁ、いいか。」
気にしなかった。
「そう言えば皆、姉さんの事を無視してるみたいだしね。
オレは聞こえるよ。皆が無視しても、クロエ姉さんは姉さんだって、オレは認識出来るよ。」
彼女が彼女のままである限りは、自分は彼女の弟でも、友人でもあり続ける。
それだけで、十分だ。彼女が何者かなんて、どうでもいい。
クロエは、クロエだ。
「ほら、食べよう。姉さん。どんなお菓子が好き?」
■白い少女 >
「あんまり、ふつうの人はみえないみたいです。
だから、あやめくんは、とくべつ…です」
女の子は、いつも、そうでした。
ひとがいるところにいても、みんな女の子の事がみえてないみたいで。
だから、はなせるひとはだいじです。
たくさんはなせるひとは、女の子にとってとてもだいじなひとです。
そんなことを想いながら、あやめくんにさそわれてベンチにすわります。
男の子にせきをゆずられるなんて、女の人みたいで、すこしうれしくて。
ぽんぽん、ととなりにきてくださいと、せきをたたきます。
「んふふ……
どんなおかし……
あ、わたし、マシュマロ…っていうのがきになります!
ふわふわして、甘い…んですよね?」
マシュマロは、女の子は食べたことがありませんでした。
おかしというのがそもそも、あまり食べたことがなくて。
どのおかしとまよっていたら、ふと思い出したのが、それでした。
「…こうやっておかしをたべるの、はじめてかもしれません。
あやめくんは、どうですか?
人とおかしをたべたこと、ありますか?」
女の子は、あんまりありません。
女の子を育ててくれたしゅうどういんで、すこしあっただけで。
おとうとと、おかしをいっしょに食べるのも……したことがありませんでした。
だから、はじめてです。
おとうとと、おかしを分け合うのは。
■芥子風 菖蒲 >
「……特別、か。」
──────"お前は特別何ですよ、菖蒲"。
少し前まで、そんなことを身近な女性に言われていた。
自分は"特別"だって、ずっと囃し立てられていた。
少年にとっての"特別"は、嫌な思い出しかなかった。
でも、彼女に言われるのは嫌な感じがしなかった。
胸の奥のぬくもりが、更に温度を上げた気がした。
「でも、オレは皆に姉さんの事を知って欲しいかな。
皆に気づいてもらえないのは、なんか寂しいし。」
一重にそれは、彼女のために。
彼女が少しでも笑っていられるようにいて欲しいから。
彼女の事を、もっと多くの人に知ってもらいたかった。
「マシュマロ?あると思うよ。結構色々買ったし。
ん、うん。結構あるかな。風紀委員の仲間と一緒にさ。」
書類仕事最中に、それこそ雑多にだ。
よ、と示された少女の隣へと座り込み、どさっと足元に袋を置いた。
ごそごそと適当に袋をあされば、マシュマロが詰まったお菓子袋。
何処にでも売っているような、市販のマシュマロ。
そう、何の変哲もないお菓子だ。
無造作に袋を開けて、はい、と少女へと口を向けた。
「どうぞ、姉さん。」
■白い少女 >
「ほぁ…これがマシュマロ、ですか?
ふかふかのまくらみたい…ですね!」
マシュマロは、はじめて見ました。
もちもちしてて、わらさらしてて、おかしとはとても思えませんでした。
ふわふわ‥…
なんだか不思議なかんしょくでした。
少しだけむにむにして、いをけっして口に、ぱくり。
ふんわりとして、あまい味。
むにむに、ふわふわ。
あまくて、やわらかくて。
いままで食べたことのない味がしました、
「!
おいしい、です!
あやめくんも、どうですか?」
ふんわりしたおいしいおかし。
おとうとにも、食べてもらいたくて。
いっしょに食べたら、とてもおいしそうでした。
だから、手にとった二つのうち一つを、あやめくんにもさしだして。
いっしょに食べませんか?と提案を。
「いいんです。
あやめくんや……レニーおおかみさん、あかねおねえさん。
とこよしまにきてから、いろんな人とおはなしできて、とてもたのしいです。
やっぱり、このしまにきてよかったなーって。
―――と、おとうとと、よくはなしてました。
わたしたちみたいなひとのいる、ふしぎなしまがあるって。
いってみたいねって、はなしてました。
そこなら、しあわせになれるねって。
……あやめくんとはなしてると、しあわせなかんじ…します」
女の子はにこりと、わらいました。
こんなにたくさんのひとに見つけてもらったのは、はじめてのことでした。
二回もおはなしができるのは、はじめてのことでした。
■芥子風 菖蒲 >
「ふにふにしてるよね。女の子が食べてるのはよく見るよ。」
女の子はやっぱり共通して、そう言うのが好きらしい。
その辺りは彼女も変わりないらしい。
ふにふに感触を楽しむ彼女を横目で見やっている。じー。
因みに少年はどちらかと言えばせんべいやポテチの塩っ気が好き。
「ん、気に入った?なら、よかった。……オレ?
……じゃぁ、せっかくだし頂こうかな。」
彼女がそう言うなら、頂こう。
差し出されたマシュマロを取って、軽くふにふに。
ちょっと癖になりそうだな、と思いつつそのままパクリ。
独自の軽い歯ざわり。ふんわり蕩けるほのかな甘みが美味しい。
「悪くないかな。」
たまに食べる分には、せんべいよりいいかも。
「…………姉さん。本当にそれでいいの?」
彼女自身が幸せだというのなら、そこに口を挟むべきではない。
だけど、幸せと言う少女の姿は、とても白くて、何だか儚く見えてしまって。
口に残る甘さより、少年にとってきっと初めての苦みが妙に残る気がした。
無意識に下げた眉。心配そうに、少女を見ていた。
「クロエ姉さんが望むなら、オレはいつでも話し相手になるよ。
姉さんが望むなら、何でもする。次はどうすればいい?」
だから、そんな"幸せ"を続けたかった。
少年はいつだって、誰かのために、を行動原理にしていた。
だから、ふと、脳裏に過る。
「……そう言えば、"弟"には会えた?」
自分ではない、本来の弟の事。
一緒にいたと言っていた、"弟"の事。
■白い少女 >
「……」
女の子は、男の子にいわれたことばにすこしほほえみました。
マシュマロをわるくないというのも、女の子を心配してくれるのも、とてもうれしくて。
「……いろんな人より、すこしの人にとてもだいじにしてくれるほうが、すてきだとおもいます」
それは、ほんとうのきもちでした。
たくさんの人に見てもらえなくても、だいじな人がすこしいてくれるなら、とてもうれしくて。
さみしいことはないと、女の子は思います。
その中の一人は、あやめくんです。
「それに、一人は、けっこうなれてるんです。
だから、だいじょうぶです。
でも、あやめくんがたまにお話してくれたら……すごくうれしいです」
それでも、一人より、だれかといるほうがたのしくて。
あやめくんといっしょの時は、とても……たのしくて。
そんなことを思っていたら、おとうとのことをきかれて。
おとうと……
「まだ、あえてません。
‥‥でも、このしまにいるから。
あえなくても…だいじょうぶです」
にこり、とわらいました。
会えなくても、だいじょうぶ。
まつのは、なれてます。
■芥子風 菖蒲 >
「……そう、かな。オレ、よくわかんないけど。
大事にしてくれてる人がいる、って言うのは、確かにいい事だと思う。」
多くの人間より、真心を込めて大事にしてくれる人のが大事。
少年には今一つ、理解する事は出来なかった。
大勢に知ってもらった方が、きっと楽だと思うのに。
けど、それが"大事"だと言う事だけはわかった。
「オレなんかで良ければ話し相手位出来るよ。
うん、何時でも出来る。話が得意って訳じゃないけど、姉さんが望むならやるよ。」
別に口数は多い方ではない。
人と会話する事も別段得意とも思わない。
けど、自分を大事にしてくれている人が願うなら、何でもする。
一重に、それが純粋な願いでもあったかもしれない。
「…………」
会えなくてもいいって、彼女は言った。
白い少女は、笑っていた。
……なんだかそれは、とっても寂しそうに見えてしまった。
────……そんな事、無いはずなのに。
だから……。
「姉さん。」
無意識に、手を伸ばした。
少女の手へと伸ばした。構わないなら、ちょっとだけ強く握ってしまうかもしれない。
子どもが不安になって、母親の手を掴んでしまうように。
そんな、温かな手。
「寂しいんじゃないの?……オレだって、姉さんの"弟"なんだ。だから……。」
……"代わり"だなんて、口には出せなかった。
だから、此処から先は言わなかった。
おこがましい事を、姉さんの前で口には出せなかった。
■白い少女 >
「…」
女の子はすこし困ったように、わらいました。
さみしいのは、まちがいじゃありません。
会いたいのは、ほんとです。
でも、それができないのもわかってます。
にぎってもらえた手はとてもあたたかくて。
女の子の手より、ずっとあたたかかったです。
それくらい、女の子の手はつめたくて、そこにないようで。
「そう、ですね。
あやめくんは、わたしの”おとうと”ですから。
…だから、だいじょうぶです。
”おとうと”は、いっしょにいます。
だから…だいじょうぶですよ」
女の子は、すこしほほえみました。
さみしいけど、だいじょうぶ。
あやめくんと話しているときは、さみしさもすこし、すくなくなって。
「でも……そう、ですね。
あやめくんは、あやめくんです。
―――は、―――、です。
‥‥…だから」
かなしそうに、笑いました。
あやめくんと、―――。
どっちもちがうから。
どっちも、おとうとだけど、でも、ちがう。
だから。
■芥子風 菖蒲 >
握った手は、とても冷たい手だった。
かつて、自分の手を握ってくれた母親の手よりも冷たくて。
まるでそれは、この世のものでは無いように、冷たい。
「……だったらなんで、そんなに寂しそうなの?」
大丈夫だって、何度も。
それこそ自分に言い聞かせるみたいに言って。
そんなの、どう見たって大丈夫じゃない。
嘘を吐かれることは、どうでもいい。
ただ、彼女に"そんな顔"はしてほしくなかった。
だって、笑ってほしかったから。彼女も、皆も。
皆の笑顔を守るために、風紀委員になったのだから。
「姉さん……オレは"此処にいる"よ。姉さんが望む限り、隣にいれる。」
その寂しさを埋める為に、ずっといる。
"弟"だから。だから……──────。
「……、……オレは、そんな顔をして欲しくないな。」
悲しそうな笑顔より、暖かな笑顔が好きだから。
「お菓子。まだまだあるから。姉さん、マシュマロもまだ……。」
だから──────。
「オレ、他には何をすればいい?どうすれば、姉さんの寂しさを埋められる?」
だから、自分の意義を全うさせてほしかった。
そう、欲張りなんだ。少しじゃない。
空いた穴をもっと埋めたかった。
埋めれると、思っていたから。
無表情のままだけど、心は真。
それこそまさに、縋るような気持ちで彼女を見ていた。
■白い少女 >
「……」
かなしそうに、笑いました。
あやめくんがだいじにしてくれてるのが、とてもうれしくて。
でもかなしいのは、それではかわらなくて。
「あやめくんは、あやめくんでいてくれれば、だいじょうぶですよ。
――――、…あやめくんじゃないおとうとと、会えないのは……しかたないんです。
だから、あやめくんは気にしちゃ、だめですよ?」
おとうと……
――――と会うことは、できません。
たぶん、きっと……これはかわらなくて。
それはどうしようもないので、しかたないって、いわなきゃいけません。
「……でも、そうですね。
”おとうと”には、元気で…いてほしいです。
だから…」
あやめくんのほっぺたを、にゅいっとして、むりやりえがおにします。
つめたくて、ひんやりとした手がほっぺたに、さわります。
「えがお、えがお。
あやめくんも、えがおになってください。
そうしたら…わたしも、えがおになります、よ?」
くすり、とわらう女の子は、少しだけしっかりと、おねえさんであろうとしています。
かなしそうなおとうとを、すこしでもえがおにしたくて。
■芥子風 菖蒲 >
いつもで少年は誰かの為を思っていた。
最初は親の為。今度は島の為。そして、今は姉さんの為に。
自分の事は大事にしてたけど、人の言う"大事"とは違う。
自分の価値を実行するために、"大事"にしていただけに過ぎない。
「むぇ」
むにー。
ほっぺが引っ張られた。
何とも不器用な笑顔が作られた。
頬を通して、冷たい感触が伝わってくる。
本当に冷たいのだけれど、それ以上に彼女の心が、暖かかった。
「…………」
笑顔でいてくれればいい。
あれ、笑うってどうやるんだっけな。
不思議そうに小首を傾げるけど、彼女の笑顔に釣られるように自然と、笑った。
ちょっとぎこちない、はにかみ笑顔。
「姉さんが言うなら、笑うよ。
だから、オレも姉さんを笑わせるし、悲しませない為に頑張るよ。」
その為に、体を張っているんだ。
自分には、それしかできない。
会えないなら、代わりとは言わなくても"弟"なら、自分なりに悲しませないようにしたいから。
向かい合ったお互いの笑顔に、白と黒。
対照的に向かい合った、二人の姉弟。
■白い少女 >
「‥‥」
にこり、とわらって。
わらうとあやめくんは、とてもかわいくて、ほっとします。
「みんな、わらっててほしいです。
……そうしたら、わたしも、うれしいから。
…あやめくん。
わたしは、いっしょにいますよ。
いっしょにいるから……
生きて、ね?」
がんばる、というあやめくんが、すこししんぱいで。
がんばって、つかれてほしくないから。
がんばることを、むりにやってほしくないから。
「……あやめくんも、たくさんわらってくださいね。
たくさんのものが、あるんだから。
いろんなもの、みてくださいね?
わたしは、いっしょにみますから」
あの子とおなじみたいに、いっしょに。
あやめくんがみるものも、いっしょにみたいなって。
あなたがみるものを、わたしもみるから。
「……やくそく、ですよ?」
にこり、とほほえんで……そして女の子は、ふぅっと……いなくなってしまいました。
まるで、さいしょからそこにいなかったみたいに、
ご案内:「商店街」から白い少女さんが去りました。
■芥子風 菖蒲 >
「オレもそう、皆に笑ってほしいから……オレは止まらない。
オレに出来る事は、精々誰かの代わりに体を張る事くらいだから。」
自分が体を張れば、その分誰かが楽をできる。
異能として見ても、少年は戦う事しかできなかった。
自分に出来る事を知っている。
だから、止まらない。皆の為に、常に走り続ける。
少女の心配さえよそに、止まる事は知らない。
「死なないよ。オレは、皆の為にまだ死ねない…、…姉さん?」
だから、そう。"違和感"が無意識に確信へと変わり始めていた。
そう、その口ぶりはまるで───────……。
「……!姉さん!」
思わず、声を張り上げてしまった。
手を、伸ばしてしまった。
もうそこに、少女はいない。
初めからそこにいなかったように、掴んだ手は何も掴めない。
「……クロエ、姉さん……。」
自分と一緒に見ているといった。
色んなものを見てくれと言った。
まるで、遠い所にいるように言った。
それは、多分───────……。
ぐ、と拳を握り、首を振るった。
きっと、この握ったものは虚無なんかじゃない。
「オレは、大丈夫だよ。行こう、姉さん。」
持っていた袋を持って、人込みへと歩き出す。
今はまだ、やるべきことをやらないと。
もし、叶うなら……。
「姉さんとも、回りたいな。」
そんな夢見る、常世祭。
ご案内:「商店街」から芥子風 菖蒲さんが去りました。